【体験レポ】1ヶ月の滞在って長い?短い? ワーキングママ+娘3人が1ヶ月間、長野県飯綱町に移住!

ノマド生活やLiving Anywhereという言葉はあれ、子ども連れではなかなかハードルが高いもの。でも「1ヶ月ならなんとかなるかも」と新たな移住の形に挑戦した人がいます。千葉県在住のプロジェクトマネージャー小松紫穗里さん。2018年10月に、パパと離れて長野県飯綱町で母娘4人の「1ヶ月間ショートステイ型二拠点生活」を行いました。「いろんな地方に行って働いたり学んだりする、という考え方もあると伝えたかった」と語る小松さんに、実現に至った背景や実際に過ごしての感想を伺いました。

自ら提案した「1ヶ月間ショートステイ型二拠点生活」

ショートステイまでの具体的な準備スケジュール。家族との意見のすり合わせに一番時間をかけたとか。(クリックで画像を拡大して見ることができます)

そもそものきっかけは、2018年2月に長野県飯綱町で行われた親子ワークショップ。そこに小松さんが、千葉県流山市で所属する、Tristという働くママの地域コミュニティの呼びかけで参加したことでした(飯綱町の女性たちとTristは姉妹コミュニティの関係)。二拠点居住やワーケーション(※1)に興味を持ってイベントなどには参加していたものの、飯綱町はそれまで縁もゆかりもなかった場所。不安と興味半々での参加ながら「飯綱町の魅力を掘り起こす」というワークショップを通じて飯綱町のママたちと仲良くなり、土地の魅力を実感したのでした。

※1 ワーケーションとは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語で、リゾートなどで、休暇を兼ねてリモートワークを行う労働形態を指すことが多い。

それぞれのグループに分かれて発表。この時に小松さんは「1ヶ月間ショートステイ」を提案した。

小松さん「その時のアウトプットが「飯綱町に都会の人が来て楽しめる滞在プランを一緒につくる」だったので、1ヶ月の長期プランを提案してみたんです。過去のワーケーションに参加した経験から、親が仕事や暮らしを十分に楽しみ、子が地元の教育になじんでいくには1泊2日では足りない、ある程度の期間が必要だと感じたのです」。

当日、町役場の担当に提案し、自ら立候補すると「やれると思いますよ!」と快い返事があり、逆に驚いたと語る小松さん。流山に戻ってから飯綱町の地域創生に関わる凸版印刷(※2)の担当者に実施の確認や要望の相談をしたところ、各所の協力もあって受け入れ体制がほぼ実現できてしまったのです。

※2 凸版印刷は、飯綱町の地方創生活動に関わっており、現在飯綱町の活性化を目指した5カ年の地方創生プロジェクトが進行している。初年度は、さまざまな仕事をしている飯綱町在住・出身の100人を取材してネットワーク化した冊子『IIZUNA 100 PROFESSIONAL PEOPLE』を町内全戸に配布。現在は、子どものキャリア教育プログラムや、大人の起業のためのワークショップを実施したり、廃校をリノベーションした新しいしごとづくりの活動拠点を建設中。

小松さん「要望としてお伝えしたのは、子どもを現地の小学校と保育園に通わせたいこと、私も現地の仕事を体験させてもらいたいこと、それから住む場所の相談もしました。やはり住居と教育と現地での交流の3つが大事ですから」。

必要なものは、意志と入念な準備!?

その一方で、小松さん自身は勤務する会社や仕事の調整をどのように行ったのでしょう。そしてご家族にはいつ、どんな風に説明されたのでしょうか。ひとつめの質問については「問題なく送り出してもらえました」とにっこり。ステイ期間がフルタイム勤務に移行したばかりで不安はあったものの、正社員とフリーランス活動を並行でき、出社義務もない働き方の自由度が高い企業だったため、柔軟に対応してもらうことができたようです。そしてもう一つの家族への説明について。

2018年7月の下見。滞在する住居と小学校を訪れたことで、子どもたちの気持ちもだんだん飯綱へ。

小松さん「私がやりたいという前提で進めたので、確かに子どもたちも最初は「どうして行くの?」という感じでした。その頃、長女は少し学校の行き渋りがあったこともあり、環境を変えてみないかと誘う形で説明を進めていきました。7月に行った現地の下見で学校見学をし、広々とした学校施設を実際に見たり、ワークショップのお友達と再会したりしたことが大きかったようですね。最終的に自発的に行きたいと言ってくれましたが、子どもが嫌がればやめる選択肢は常に持っておきました」。

説明にはゆるやかに半年ほどかけたとのこと。営業職の旦那さんは直接お客さんと接する必要があるため参加は叶いませんでしたが、小松さんと子どもたちの思いを尊重し、納得してもらえたそうです。

小松さん「家族や友達と一時期離れても行く価値があるかと考える時間は本当に大事でした。ショートステイなどの活動は、よくよく家族とすりあわせ、家族全員が意義や意味を見い出して初めて、気持ちよく実行できるものだと思います」。

その一方で、飯綱町での生活や教育の準備も独自に進めてきました。子どもがいる場合、ショートステイとは言えども、暮らしや教育環境の変化はなるべく小さく抑えなくてはいけません。例えば、子どもと一緒に遊ぶ場所やおすすめのスーパーなど、事前に行ってきた暮らしの情報収集もその一つです。現地のママコミュニティに助言をもらう中で、家電の無料レンタルをしてくれた工務店さんとの出会いもありました。

小松さん「なぜこんなによくしてくれるんだろうと思うぐらい、みなさん優しくしてくださいましたね。地元の方の協力なしに、この準備は成り立たなかったです。そう考えると、2月のワークショップでいろいろな方との繋がりを事前につくれていたことが本当に大きかったのだと思います」。

子どもの転校先の準備については、就学校の変更や区域外就学の制度(※3)を利用できると知ったことが何より大きかったそう。徳島県のデュアルスクール制度(※4)や山村留学の仕組みなども参考に、おもに流山の小学校の教頭先生に助言や協力をしてもらいながら進めました。

※3 就学すべき学校の指定の変更や区域外就学について(文部科学省Webサイトより)

※4 徳島県では独自に、地方と都市の双方(デュアル)の立場から見た多面的な考え方のできる人材を育成するために、地方と都市の二つの学校の行き来を容易にし、双方での教育を展開している。

小松さん「いろいろと手探りな部分は多くありましたが、両方の小学校の先生方にご協力いただくことで、手づくりでデュアルスクール制度に近い対応ができたとは思います。具体的には、流山の先生には1ヶ月空くことで心配がある部分をまとめていただき、それらを飯綱町の先生に内容を伝えることをしました。その段階を踏むことで、先生方にも事前に対策を考えていただくことができました」。

親子で目指したことと、できたこと

このショートステイをするにあたり、小松さんは親子それぞれに目標を掲げました。親は、地方の関係人口として仕事をするきっかけづくりとして「仕事のキャリアの選択肢を広げる」ことと子どもと過ごす時間を取ること、子どもには「世界にはいろいろな場所や人や価値観があり、今いる場所が絶対ではないこと。好きな場所や学びたいことを選択できることを感じてもらう」こと。1ヶ月のステイ後、この2つの結果はどのようになったでしょうか。

小松さん1ヶ月って思った以上に短いんですね。もっと子どもたちと飯綱でしかできない色々な遊びをしたかった、もっと子どもたちが地元にじっくり慣れるには時間が必要だった、もっと現地の方々と交流したかった……と、発見したことがたくさんありました。子どもはスムーズに現地の生活には慣れてくれましたが、お友達ができたと思ったらすぐに帰る日になってしまい、現地の子どもたちにとっても一瞬のことだったんじゃないかと思います。ただ子どもたちはそれぞれに、今いるその場所だけが絶対ではないことを、なんとなく感じてくれたような印象があります。明確にこれを得た、変わったというものはないようですが、それくらい「いろいろな場所で学び遊ぶこと、自由にその場所は自分で選べること」が当たり前だと思ってもらえたのかなと」。

また年齢の違う娘さんが3人いたことで、保育所や小学校の手続きの違いも学んだ小松さん。そこで流山市の保育園は1ヶ月の長期休暇扱いにし、飯綱町では一時保育とワークセンター1階の託児所を併用することを考えました。

里山自然教育をしている幼児教室「大地」

小松さん「飯綱町の保育所に転園してしまうと、元の流山の保育所には戻れず、一時保育だと週2、3回しか預けられないので、何か別の方法がないかなと。そこで、長野にはせっかく自然保育の認定園(※5)があるのだからと、田園や果樹園、雑木林などがあって、里山自然教育をしている幼児教室「大地」にお願いすることにしました。その期間は流山にいる時ほど多くの時間を仕事に割くことはできませんでしたが、子どもの時間に合わせて過ごすことができ、長野の自然もたっぷり味わえたのでその点はよかったです。フルタイムの保育ではなかったので、子どもへの負担も少なくできたことも、結果的によかったなと思います」。

※5 長野県では、2015年より「信州型自然保育認定制度」をスタートし、自然環境や地域資源を積極的に活用している保育事業者を認定しています。

飯綱町での一日のスケジュール(クリックで画像を拡大して見ることができます)

長女とりんご農家の仕事を手伝ったり、友人の畑で芋掘りをしたり。親子でさまざまな自然にも触れる一方、小松さんも地元ママたちに向けた新たなキャリア開拓に関する講座や、相談できるコミュニティなどの応援体制づくりに挑戦しました。

地元ママたちにキャリアアップセミナーを開く。

りんご農家でのお手伝い

小松さん「地元のママたちに、キャリア開拓についてのセミナーと、地域活動や子育てを元に仕事で活かせる長所や技術をまとめたポートフォリオサイトの制作講座を行いました。これまでテープ起こしなどの仕事が中心だった皆さんも、話してみるとさまざまな表現スキルや経験をお持ちなんです。制作中に自然と横の繋がりも生まれていましたし、皆さんの今後の活動のベースがつくれたのでよかったです」。

スキルアップに繋がれば、将来的には東京と飯綱の間にビジネスの交流も生まれるはず。飯綱のりんご農家とTristによる「りんごチップスパッケージリニューアルプロジェクト」も実験的に始まっていて、これからの発展に期待が寄せられます。

関係人口の立場だからこそ見えたこと

小松さん「飯綱町は、決して都会ではないけれど辺鄙(へんぴ)でもない、ほどよい小さな田舎町。ですが、県外からの移住者も増えているようですね。飯綱町がつくったユニークな人を紹介するPR冊子『IIZUNA 100 Professional PEOPLE』にも、移住してきた面白い人がたくさん掲載されています。ワークショップでお会いしたママにも移住者の方がいらっしゃいました」。

いいをみつける飯綱町のWebマガジン「いいいいいいづな」でも、飯綱町に携わり、プロフェッショナルな仕事を手掛ける100人が紹介されている。

今回の交流を通じ、飯綱を取り巻く人それぞれの立ち位置や意識の違いも感じるようになったと語る小松さん。比較的保守的で現状維持志向の強い地元育ちのママたちも多いことや、お祭りなどを通じ地方独特の文化が残っていることなども少しずつ見えてきました。

小松さん「まちのお祭りも近年やっと女性がお手伝いで参加できるようになったくらい、男性中心の文化が残っていたりもするんです。「日本一女性が住みたくなる町」というスローガンを掲げている飯綱町でもそうなのですから、まだまだ変化の途中ではあるのだな、とは感じました」。

地元育ち組と暮らす移住組が見つけた課題に対し、都心にいる人間として客観的な視点で、必要に応じて手助けする。そんな繋がり方をしていきたいと語る小松さん。今までの地方創生は都市からの押しつけになりやすいものもありましたが、飯綱町との関係はもっと新しいものになるはずと熱を込めます。

「芋掘り」や「さをり織」などを楽しむ子どもたち。

小松さん「今回の滞在や第二の故郷のような環境ができたことで、親子ともども飯綱町からはたくさん与えてもらいました。いわばwin-winの関係です。地方と関わる時は、片方だけが支援されるような一方的な関係ではない形にしたいよね、と仲間で話し合っています」。

子ども連れでも、二拠点の暮らしはできる

初の滞在で「もっとこうすれば」がいろいろ見えてきました。先にも出てきたような、滞在期間や子ども時間を重視する上での適切な仕事量、子どもが地方のよさを最も実感できる時期などです。また小さい頃は自然の中で遊ばせたい、でも小学校中学年以上になると勉強も気になる、と教育への思いも尽きません。

小松さん「そういう意味でも、地方もいろいろな行き先を選べるといいのかもしれません。飯綱町にはこの事例を元に制度の検討や住居の整備を行い、ショートステイしやすい制度づくりを進めようとの流れができています。私はさらに違う地方に赴き、選択肢づくりや参加者を増やす活動をしたいと思っています。どこから取り掛かっていくのがいいかと考えている最中です」。

りんご畑で楽しそうな子どもたち。

小松さんのお話から見えてきた、子ども連れでも成功できるショートステイの条件。そこで改めて、最低限整えておくべき要素をまとめていただきました。

小松さんまずは子どもと家族の理解、そして会社と仕事仲間の理解です。いくら受け入れ側の制度が整っても、人に関わることは繊細な部分だけに、自分の思いが相手に届かなくてはなりません。丁寧に擦り合わせるためには焦らないこと。モチベーションを保ちながら長期計画で進めれば、よい結果に繋がる気がします。常に子どもが嫌がったら行かないという選択肢を必ず持ち、一度だめになっても次があるというくらいでいるといいかと思います。また準備の際は自分だけでと気負わず、いろいろな人に協力をお願いできるとベストですね」。

調べても解決できない困りごとにぶつかった時は、誰かに聞くのが一番。そのための、同じような取り組みに関心のある人で成り立つコミュニティもこれからつくっていく予定です。

小松さん「いろいろありましたが、私自身は正社員となってもショートステイが実現できるということは、とても大きな発見でした」。

市区町村からすれば、親子ショートステイ後のベストな結末は移住してもらえることかもしれません。でも、そこまで行かずとも、関係人口の増加は県外からの視点の増加につながり、地元民には新しい刺激が与えられる。そんな意義のあることと言えそうです。小松さんも、一つの地方への移住というよりは、普段の生活をいろいろな地方で実現することや仕組みづくりに興味があるタイプ。次は秋田県の教育や教育を中心に町おこしをしている地域事業などに触れてみたい、と地方への興味は尽きることがありません。最後は、そんな活動のすべてのきっかけにもなった飯綱町の魅力を語ってもらいました。

小松さん「人が魅力的で面白いことですね。目がキラキラと輝く積極的な人が多くて可能性を感じますし、一緒に何かやりたいと思える人ばかりで楽しいです。豊かな自然と長野市まで約20分の住みやすさも魅力です」。

一度は参加して、言葉では表せない空気感や人の魅力に触れてほしいとも。縁もゆかりもなかった長野の小さな町に、千葉から新しい風を吹き込んだ小松さん。関係人口としても新しい立ち位置をつくるため、また次の土地へと動き出す準備をしているのかもしれません。

文 木村早苗

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