地域との関わりしろは、“美味しい” と “楽しい” から生まれる。奈良県下北山村に学ぶ、関係人口のつくりかた

2019年11月11日から12月6日まで、カヤックLivingとBusiness Insider Japan(以下、BI)が三重・奈良・和歌山3県で構成される紀伊半島移住プロモーション事業実行委員会と行った「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」。参加者が各地で仕事をしながら地元の人との交流や文化を体験し、新しい働き方や暮らしを考え直すという実証実験です。

奈良県では11月21日から24日の4日間、県南部にある下北山村にて5つのイベントを行いました。そのイベントの一つ「【村人と交流会】ありのままの「人」と触れ合う愉快な夜」を中心に、下北山村の様子もご紹介します。

村のお母さんの料理と会話を楽しみ、文化と人を知る

下北山村は人口約800人、奈良県の南部に位置する山間の村です。「前鬼ブルー」と呼ばれる川や熊野古道を含む豊かな自然、観光地には「下北山スポーツ公園」やダム湖百選に選ばれた巨大アーチ式ダム「池原ダム」などがあります。そして特産品は、冬にしか獲れない野菜「下北春まな」や「南朝みそ」。食も人柄も空気感も、県の北部とはまた異なる文化を持っています。

その下北山村で22日に行われた交流イベントが、「【村人と交流会】ありのままの「人」と触れ合う愉快な夜」です。下北山村で取れた食材や奈良の伝統料理や飲み物を楽しみ、村の人たちと楽しもうという企画です。

会場となった、SHIMOKITAYAMA BIYORI

会場は、SHIMOKITAYAMA BIYORI(以下、BIYORI)。緑から赤のグラデーションをつくる山や里山ならではの棚田、美しく詰まれた石垣といった美しい自然の中にある施設です。かつては、地域の保育所だった場所でした。閉鎖後は山村留学者のための「山びこ寮」として長年使われてきましたが、募集の中止後は5年ほど遊休状態に。そこで2016年に奈良県と下北山村が共同でリノベーションし、コワーキング・シェアオフィス兼イベントスペースとしてオープン。定期イベントやワークショップを通じ、コーヒーを飲みに来る人や仕事に来る人も増加。シェアオフィスにはUターン移住者が事務所を構えるなど、村の内外から人が集まる拠点になりつつあります。

当日も大半の参加者がコワーキングスペースで交流や作業をしていただけでなく、すぐ横のオープンキッチンでは「下北山村ならではの料理」を調理する様子が手に取るようにわかる状態。おいしそうな匂いの力も手伝ってか、開始までの時間すらもプレイベント的に楽しめる空気感がありました。

奈良県庁地域振興部 堀内亮介さん

そして18時。奈良県庁地域振興部の堀内亮介さんの「プロジェクトは来週まで続きます。地元のたくさんの方がご参加くださっているので、この機会に仲良くなって残りの日程もぜひ楽しんでください」という挨拶で、イベントがスタートしました。

BIYORI管理人 仲 奈央子さん

このイベントの企画担当者でありBIYORI管理人の仲 奈央子さんからは、料理の紹介が行われました。下北山村の食生活推進委員会でボランティアとして活動する田ノ下(たのした)洋子さんが腕によりをかけた数品と、地元のお母さんたちが持ち寄ってくれたお手製の料理を中心に約10種類。メインからお菓子までバリエーション豊かな郷土料理に加え、村の梅を使った2年モノの梅酒や柿酒、奈良の日本酒やクラフトビール、じゃばらリキュールとお酒もたくさん。地元で親しまれている番茶もあり、飲める人も飲めない人もたっぷりとおいしさを楽しめるようになっていました。ちなみにお箸は、村にある箸メーカー「はし吉」の吉野杉箸です。

乾杯は、下北山村役場地域創生推進室の和田英樹さん。その合図で参加者は銘々に料理と会話を楽しみました。

洋子さんの「自家製さんま寿司とあじ寿司」は、生のさんまやあじを一枚ずつ開いて酢締めした完全自家製。

東為雄さんは「村で採れた子鹿と鮎の唐揚げ」(写真)と紫いも・紅はるか・安寧いも(土栽培/砂栽培)の「干しいも」を。またその隣には、伸子さんの「下北春まなのパウンドケーキ」も。

1300年前から親しまれる牛乳鍋の元祖「飛鳥鍋」(写真)は豆乳でアレンジし、奈良の食材を広めているグループ「あおにめし」から取り寄せた食材を利用。ほかに、吉野酒造の「酒粕漬け豚肉グリル」と「下北春まなのニョッキ」、南朝みその「野菜のみそ汁」、“最強の粘り気がある”いちょういも(大和いも)の「とろろ」も並ぶ。

宇陀郡のクラフトビールメーカー「奥大和ビール」と「曽爾高原ビール」。

御所市や奈良市など県内の酒蔵による日本酒など。

調理をほぼ1人で担当していた田ノ下洋子さん。

数種のメニュー、しかも約20人分ずつの調理をほぼ1人で担当していた田ノ下さん。かつては山びこ寮で寮母を勤めていた方と聞き、その手際よさにも納得です。今では、村のイベントがあると毎回調理のお手伝いをしているそう。「食べるのが大好き」というご自身の言葉からもわかるように、誰もが笑顔になるおいしい料理でした。

このイベントのもう一つの目玉が、仲ナナ美さんが教えてくれる「春まなのめはり寿司 握って食べよう♪」体験。21日に定植体験が行われた下北春まなは、冬にしか取れない貴重な葉野菜であり、その下北春まなを使った「めはり寿司」は下北山村の暮らしには欠かせない料理です。

ナナ美さん「この辺は林業が盛んだったでしょう。めはり寿司は、その山に働きに行くお父さんのお弁当としてよくつくっていたんです。春まなは、細かく刻んでお漬物にしたり、おひたしにして酢味噌和えにしたり、いろいろな食べ方ができます。お肉と一緒にすき焼きにしてもおいしいですよ」。

ナナ美さんに教えてもらいながら、塩をした下北春まなを手のひらに一枚置き、その上に寿司飯、漬物の順に乗せてぐるりと包めば完成。一口食べると、ほうれん草や春菊、青菜などのいい所取りをしたかのような、柔らかな噛み応えと少しのほろ苦さのある味が広がります。柔らかいのにパリッとした弾力ある食感、漬物のさっぱり感とも相まって「おいしい!」という言葉が思わず出てしまいました。手軽なのに保存性はもちろん酸味も滋味もあってお腹もいっぱいになる。土地の食材と料理が、日々の暮らしによく根ざしたものであることを感じさせられる一品でした。

村の交流拠点「BIYORI」から広がるコミュニティ

イベント中、BIYORIに関わる人たちにお話を伺ってみました。まずは企画から当日の準備など大活躍の仲さん。実はこの6月に東京から移住したばかりでした。

仲さん「前職は、日本遺産のPR動画をつくる会社でディレクターをしていました。下北山村のことは仕事で関わるまで全然知らなかったんですが、何度か訪れるうちに興味がわいてきまして。ちょうどBIYORIでも企画・運営ができる管理人を探しておられた時で、お声がけいただいたことから地域おこし協力隊として移住しました」。

音楽教室の先生やラジオパーソナリティー、司会など、過去に経験したさまざまな経歴を活かしたいと考えていた中でぴったりの依頼だったと語ります。今では下北山村の方とご結婚され、管理人としてさまざまなイベントの企画や運営、時には下北山村のPRイベントにも参加するほどに。ちなみに、仲さんのお姑さんに当たるのが、めはり寿司の作り方を教えてくれたナナ美さん。村の行事ごと(イベント)を家族ぐるみで手伝ってもらう関係性が、どこか懐かしい日本の文化を思い出させました。

もう一人がBIYORIの運営メンバーの1人、地域創生推進室の上平(かみだいら)俊さん。下北山村出身で川崎市に11年暮らし、2年前にUターンしてきたという職員さんです。

上平さん「戻る時期は決めていなかったものの、以前から村に戻るつもりではいました。村で林業活性化などの新しい取り組みを始めると聞いて、地元の力になりたい、帰るなら今だ、と思ったのがUターンしたきっかけです。役場職員として働いていますが20代や30代の職員が増えていますし、いろんなことに挑戦させてくれる村だと感じています」。

下北山村への2018年度の移住者は26名。役場の職員や地域おこし協力隊を含んでの人数ですが、人口800人の村として考えればかなりの割合です。都市部からの移住者とUターンが半数ずつ、前者には東京や大阪はもちろん海外からの移住も含まれています。紀伊半島の静かな場所で暮らしたいと帰国前に候補地を探されていた際、ご家族から下北山村を紹介されたという方もいるのだとか。

上平さん「地域おこし協力隊の情報も頻繁に出しているので、インターネットなどで探される方には情報が届きやすいのかもしれません」。

高齢化率47%に達した山間の村ながら、外からの人に対する理解も受け入れる器もある暖かな人柄ですよ、と都会も知った目線で教えてくれる上平さん。

上平さん「県の最南端になるこの周辺を奥大和と呼びますが、昔から商圏がある三重に出る人も多かったので、奈良と三重を跨いだ文化になっているんです。その混在感が、今の自由な空気や風土をつくっているのかなと思います。じつは、移住者の方と地元の年輩の方との交流も生まれやすいんです。隣に若い人が越してきたら気になり、お裾わけをせずにはいられない。そんな先輩方の人柄が大きいんでしょうね」。

下北山村では、何も人口対策を行わなかった場合、2045年に人口600人にまで減少するという予測が出ているのだとか。だからこそ、産業の維持施策だけでなく人を呼ぶイベントも増やして、それ以上減少値が増えないような活動をしていきたいと語っていました。

最後は、2年前に「BIYORI」を開設した立役者の和田さんです。山村留学の最後期に教育委員会に所属し山びこ寮を見てきたため、閉鎖後も何かと気にかけていたと言います。

和田さん「ほどなくして地域創生室に異動になり、今のような形のコワーキングスペースをつくろうということになりました。村の総合戦略だと移住施策のほうが重要ですから、当初は移住体験施設で考えていたんです。でも本当に人が集まるのかと。根づかず遊びで終わってしまう可能性もあるので、それならどこでも仕事ができる今の時代に合わせたコワーキングスペースがいいのではと提案して、途中で変更したんです。ですが、奈良県庁のご協力もあって無事実現できました」。

BIYORIのデザインは、東吉野村でコワーキングスペースやシェアハウスを運営する合同会社オフィスキャンプ代表でデザイナーの坂本大祐さん、ロゴはソーシャルマガジン『ソトコト』と下北山村が都内で実施する「下北山村むらコトアカデミー」1期生、デザイナーの岸崇将さんが手がけました。下北山村に3カ月滞在した経験から名前とロゴを作成。BIYORIは“日和”のことで、何をするにもちょうどいい空間という意味があるのだそうです。

和田さん「施設を開くだけではなかなか来ていただけないので、2018年の10月から『〜Dialogue Biyori〜紀伊半島の”なりわい”を考える対話型ゲストトーク』というイベントを定期的に行っています。これまで5回開催しましたが、この周辺ではコワーキングスペース自体が珍しいからか、新宮や熊野のほうから来て下さる方もいるんです。目標は、BIYORIを集まった人の掛け合わせで新しい何かが発見できる場にすることです。たとえば、シェアオフィスにおられるUターンされてきたデザイナーさんも、村外のクライアントを見つけてBIYORIからお仕事を広げられています。また、村では奈良のメディア制作会社さんと連携協定を結んでPR面を依頼しているので、ここからさらに紀伊半島での活動が何かできないかと考えているところです」。

下北山村では、BIYORIの運営に加えて関係人口を増やす取り組みや、地域産業を拡大させる試みなどが公共、民間を問わずさまざまに行われています。村が行う「森で育む学生拠点創造プロジェクト」では、BIYORIの隣の空家を大学生グループ「学生団体まとい」が村民と一緒に改修していたり、自伐型林業や森づくりに関わる有志によるグループ「下北山の森をつなぐ」が新しい林業の在り方を考える勉強会などを開いたりしています。ちなみに子どもの教育の面でも、保育所や小学校へのALT制度の導入など、人数の少なさを逆に強みとした独自の仕組みを行っているのだそうです。

この日は、都心からの移住者、Uターン住民、元からの住民と、下北山村にはさまざまな背景を持つ人たちが集まっていることがわかりました。でも、ここに来た背景は違うとはいえ、誰もが下北山村のよさをもっと知ってほしいと思い、毎日を暮らし、活動している人ばかりであると伝わってきました。

また、特に思い出深かったのは、BIYORIに来てすぐは一定の距離感を保っていた参加者さんが、地元の人と料理を食べ、杯を酌み交わし、時間を経るごとに楽しそうな表情へと変わっていたことでした。「お客さんではなく村人の1人として」とはイベントの説明ページに書かれていた言葉ですが、その様子を目の当たりにし、地域の料理や人との会話がもたらす力のすごさを実感させられました。

下北山村の風景と日常を知る

下北山村ならではの場所やお店にもまわってみました。日曜は朝イチで、村のおじいさんが趣味で始めたというパン屋さん「たもとパン店」へ。揚げパンのような甘いパンからサンドウィッチなどの惣菜パンまでいろいろな種類が揃っています。じつはまだ準備中の時間だったにも関わらず、早めに来た私たちや地元の人にも開店後と同じように対応してくれる。そんなやさしさやゆるさが感じられるのも、村ならではなのかも知れません。

ボリュームたっぷりの朝食後は、週一回、土曜にのみ開かれるという市場に向かいました。“村民が全員集まるバーゲン的にぎわい”、“始まる9時30分に絶対遅れないように”と言われていたのですが、会場の朝市広場の入口は開場前から長蛇の列。下北春まなやマコモダケなど地の野菜やみかんなどの果物、お寿司や雑貨まで所狭しと食材が並んでいました。が、その売れる早さといったら!一回りして外に出て、二度目に入った時にはもうほぼ完売。みなさんのパワフルさにびっくりです。

両手にたくさんの食材を抱え、外のストーブで焼いている野菜を味見しながら、顔見知りの人と話をしていく。そんな週一回の場を楽しめる豊かさもあるのだなと感じながら、朝市を後にしました。

池原ダム

明神池

最後は「池原貯水池」とも呼ばれるダム湖百選に選ばれた巨大アーチ式ダム「池原ダム」やパワースポットだという明神池を訪れました。池原ダムは、眼下のキャンプ場とアーチの迫力に圧倒されっぱなし。一方の明神池は同じ水辺でも森に囲まれた神秘的な空気にパワースポットと呼ばれる所以も実感していました。

また21日には、発酵食品づくりや菌を意識した自然な暮らしを広めている愛菌家みなみちゃんとの「味噌づくり体験」、野菜づくりに興味がある初心者向けの「【シェア畑体験】希少な大和の伝統野菜「下北春まな」収穫」、24日には、林業が盛んな下北山村ならではの「登山ガイドと巡る不動峠ウォーク」、下北山村の木材で箸づくりやオブジェづくりを楽しむ「下北山村の木材アート-木に触れて、感じて、つくる-」などのイベントが開催されました。

「愛菌家」みなみちゃんによる味噌作りワークショップ。同じ大豆を使っても仕込む人によって味噌の味が変わってくるそう。(撮影:木曽高康)

ゲストハウスを運営する西岡夫妻が営む「シェア畑」で、希少な大和の伝統野菜「下北春まな」を植えるお手伝い。収穫時期になったら自宅に届けてくれます。(撮影:木曽高康)

下北山村近くの川やダムに流れ着いた流木を使っての木工アート体験。木の形や参加者の想像力次第で、表札や小物入れ、証明飾りなど、様々な作品ができました。(撮影:木曽高康)

ザルを使って手作業で麦の脱穀をしています。手間と時間がかかりますが、参加者の皆さんも「普段体験する機会がない」と言いながら楽しそうに挑戦していました。(撮影:木曽高康)

イベントの前後では、コワーキングスペースでの個人作業はもちろん、シスコシステムズのビデオ会議システムを活用した遠隔での打ち合わせや、居合わせた別の参加者と情報交換を行う様子も。参加者はシステムさえ整備されていれば支障なく仕事ができることを体感していたようです。

東京から電車で約6時間、さらに熊野市駅から車で30分。それだけの時間と距離をかけるからこそわかることもたくさんある。下北山村は、これからの働き方や生き方を考える中で、ある意味まったく新しい可能性を見出せる場所と言えるのかもしれません。

※この記事は、奈良県のご協力により制作しています。

文  木村 早苗
写真 池田 礼

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