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北海道全体でグッドサイクルを回す。移住施策を底上げして、幸福な移住を増やす広域連携「移住のススメ」

作成者: SMOUT 移住研究所|2024.6.28

北海道は、2023年のふるさと回帰支援センターの移住希望地ランキングでも第7位と上位に位置しています。他方で、実は北海道の179市町村の家65%を超える117市町村が消滅可能性自治体に該当するのだとか(全国では約40%)。

そんな北海道の未来に危機感を抱いた3人の移住コーディネーター、下川町の立花祐美子さん、喜茂別町の加藤朝彦さん、ニセコ町の奥田啓太さんは、移住にまつわる課題を解決するための一般社団法人「移住のススメ」を立ち上げました。

なぜ今回、3人で法人を立ち上げることにしたのか、そして目指す未来とはどんなものかを聞きました。

移住者を増やすことで、消滅可能性自治体から脱却する

3人の出会いは、移住スカウトサービス「SMOUT」にありました。北海道内で移住をし、移住コーディネーターとなった3人はSMOUTで出会い、2021年に「北海道移住のすゝめ」というイベントを立ち上げます。

下川町の立花祐美子さん

立花さん「最初のきっかけは加藤さんからもらったのですが、SMOUTに参加している北海道の人たちで集まってランチミーティングしようかみたいな提案があって。」

喜茂別町の加藤朝彦さん

加藤さん「SMOUTに『どすこい!地域部屋』という地域ユーザーのslackコミュニティがあって、そこに参加してる北海道の移住コーディネーターのみなさんで、ご飯でも食べながら交流しましょうか、と2020年の後半に企画しました。そこで盛り上がったのが、素敵な移住者さんがいたとしても、自分のまちではいろいろな条件で受け入れることが難しいケースがある。その時に、他のまちを紹介したいよねという話だったんです。それができるように、横の連携をとることはできないかと。

立花さん「ざっくばらんに話す中で、自分たちで納得感のあるイベントをつくればいんじゃないかという話になって。本気でやろう!と考えるメンバーが多く、2021年の3月に16自治体で最初のイベントをオンラインで開催しました。」

この「北海道移住のすゝめ」は、北海道の19自治体の移住コーディネーターからなるチームで、複数の自治体が合同でイベントを行うことでより多くの移住希望者を拾い上げ、実際の移住につなげてきたといいます。

立花さん「『北海道移住のすゝめ』に参加した自治体で、移住に繋がる事例があるだけでなく、消滅可能性自治体の数値を分析してみると、参加自治体の8割で改善していて、7自治体については消滅可能性自治体から脱却するという成果も上がっています。そのため、他にもいろいろな理由があるとは思うものの、自分たちがやってきたことに手応えを感じています。

下川町の風景

下川町で月に1度開催されるタノシモカフェ

成果が上がってきたなかで、見えてきた課題

「北海道移住のすゝめ」は目に見えた成果を上げてきましたが、まだまだ課題は多くあるといいます。3年あまりの経験を経て、3人が感じた課題とはどのようなものだったのでしょうか。

立花さん「継続的に19自治体で連携しながらイベントをやるなかで、いろいろと話し合って見えてきたのは、自治体側の受け皿の体制整備という課題でした。うまくPRして移住を検討している人が来てくれたとしても、その人がやりたい暮らしを支える体制が地域にないと、実際の移住にはつながりません。移住の施策を担う人が、その部分までしっかり考えてつくり込んでいかないと、希望者と地域でミスマッチが起きるんです。そういったミスマッチをなくすためには、受け皿側の体制整備が重要だと感じています。」

加藤さん「僕が活動している喜茂別町は、人口が約1,900人と少ないので、地域に山積している課題を地域の中の人だけで解決するにはもう限界がきていて、地域の外にいる人たちの力を借りなければいけない状況です。なので、地域の外にいる人が中に入り、そこで面白いことをしていくことが絶対に必要なんです。そういう人の流れができているまちもありますが、たまたまだったり、なぜうまくいっているのか分析できていなかったりして、再現性があまり高くないんですよね。だから、その知見を積み重ねて方法を改善し、他のまちにも適用できるようにすることが課題だと感じています。」

ニセコ町の奥田啓太さん

奥田さん「ニセコ町は人口も子どもの数も増えていて、ポジティブな要素が多いんですが、北海道全体で見ると人はどんどん流出しています。地方の自治体は生活圏がその中で完結しておらず、隣のまちと共存していることが多いんです。ニセコでも買い物は隣の倶知安(くっちゃん)に行く人が多かったりとか。なので、自分の暮らすまちが人口を維持していたとしても、周りのまちで人口減少が進んで廃れていくと、自分のまちにもダメージが及ぶことになります。だから、北海道全体として人口減少の加速を止める取り組みをしていかないと、公共交通や公共施設に投資もできなくなってきますし、どんどん人が住みづらくなっていってしまいます。北海道は関係人口は多いものの、人口はどんどん流出して、経済も厳しい状況が続いています。その中で、「北海道移住のすゝめ」で連携した19自治体の多くでは改善傾向の数字が出ているので、このノウハウを広く共有することで、北海道全体が改善していって、その結果、自然と自分たちのまちにも恩恵が返ってくるのではないでしょうか。」

ニセコ町のパウダースノーは、世界じゅうの人を惹きつけている

ニセコ町の風景。奥に見えるのが羊蹄山

「失敗の積み重ね」がこれからの移住施策の役に立つ

これまで移住者へのPR方法が注目されてきたけれど、実際に移住につなげるためには、地域の体制づくりが課題である、ということのようです。そしてそれが、今回の「移住のススメ」の団体設立につながります。

立花さん「去年の夏、札幌で起業型地域おこし協力隊の募集イベントを下川町、喜茂別町、ニセコ町の3自治体でやることになり、イベントに向けて話し合いを重ねる中で、受け皿となる自治体側の体制づくりが本当に大事だという思いが一致していることがわかりました。私は3年くらい前から移住コーディネーターの養成講座をやりたいと思っていて、2人にその話をしたら、じゃあやろうということになって。せっかくやるなら、地域の移住施策をサポートする人材を育てること全般に取り組むために会社をつくろうという流れになりました。『北海道移住のすゝめ』も継続しながら、さらにそういった事業をやることで、地域の力をつけるサポートをさらにできるのではないかと思ったんです。」

加藤さん「移住コーディネーターの仕事はその地域のことを知らないとできない仕事で、例えば僕らが他の地域にいってやろうと思ってもできないんです。だから、地域の人が携わる内製化が絶対に必要で、その意味で養成講座はいいアイデアだと思いました。そして、その人を活かす施策も必要なので、自治体向けの施策支援も推進する必要があると感じました。喜茂別でいうと、まちを知ってもらい、来てもらうための施策にまだとどまっていて、その先、継続的なアクションにつながる施策が課題になっています。そうした課題について、失敗も含めた知見を蓄積していけば集合知になり、北海道全体でグッドサイクルを回すことができるのではないかと考えています。」

奥田さん「私も移住コーディネーターとして、何をしたらいいのか常に手探りで、手詰まり感を感じていた時期がありました。その時に、『北海道移住のすゝめ』のコミュニティに入ったことで、他の自治体はこんなことをやってうまくいったとか失敗したという情報共有ができて、それを効率的に自分のまちに還元できました。同じように移住コーディネーターがいたり、移住窓口があっても、どうしていいかわからなくて悩んでいる人も結構いると思うんです。そういった人に対して集合知を共有することで、自治体のサポートができるのではないかと思いました。」

自治体が移住施策においてどの段階なのかによって様々なメニューを提供できるのも、「移住のススメ」の特徴のひとつだといいます。これには3人のこれまでの経験が生かされているそう。

加藤さん「僕と奥田さんは、移住窓口がなかった自治体に移住して自分で窓口をつくった経験があります。僕は地域おこし協力隊で喜茂別に来て、卒業してからシェアスペースを運営しているのですが、お客さんから移住の相談をされることがけっこうありました。そうした相談をまちに働きかけたことで、移住窓口を立ち上げることができました。だから立ち上げの苦労も知っているし、その段階にいる人にリアルなアドバイスもできます。」

奥田さん「私も地域おこし協力隊としてニセコに移住したんですが、協力隊として活動していると移住の相談を受けることが多くて。私が移住する時は役場に移住専用の窓口もなく、相談できることも知らなかったので、まちに民間の相談窓口をつくらせてくださいと話しました。自分の住んでないまちの役場に行くのはハードルが高いので、もう少しフランクに話せる場所があったらいいなと思ったんです。そういう外からの目線で見ることができるのも重要なポイントだと思います。」

そもそも移住コーディネーターには外からの目線も必要で、他のまちの人たちはこういうふうに思っているとか、都市部の人からするとこれはすごく貴重なものだみたいな話をする役割もあります。なので、外からの目線を内側に情報共有する重要性やその方法論も伝えていきたいです。

立花さん「私は8年前に下川町移住コーディネーターに着任しました。下川町は移住に関しては先駆的な部分が多かったので、トライアンドエラーをしながら、少しずつその時の流れに合わせて施策を変えてきました。たとえば、長い目で見て最終的に自分のまちに移住する人を増やすためには、まず関係人口に力を入れて、それから二拠点や多拠点の形で地域に軸足を置く人を増やしていくとか。そういう施策の変更も、さまざまな段階での失敗を経て来たものなので、『北海道移住のすゝめ』の経験もあわせて集合知として提供することができると思います。」

喜茂別町の夏の風景。

喜茂別町で開催される祭りの様子

「移住のススメ」のこれから

移住者として、そして移住コーディネーターとしてさまざまな苦労や失敗を重ねてきたことから得た知見をもとに、効率的な移住施策をサポートする法人を立ち上げたわけですが、「北海道移住のすゝめ」から北海道をとり「移住のススメ」としました。そこには先を見据えた考えがありました。

立花さん「『移住のススメ』には北海道を頭につけないことにしました。過疎地域には同じような課題があるので、北海道に限らず、地域に移住者がうまく入っていって、楽しく暮らしながら地域も幸せになる形を模索していきたいという思いです。」

加藤さん「全国に目を向けると、地域特有の課題もそれぞれあります。僕らがまず北海道で実績をつくって、道内の課題に対応できるようになれば、その中に他の地域にも転用できるものがあるはずなので、そこから全国に広げていければと思っています。

それ以前の話として、そもそも移住コーディネーターの存在自体もまだまだ知られていないし、どういう役割で何をしているのかほとんど認知されていないと思うので、こういう人がいて、こういう活動しているから地域に面白い人が入ってきているということを知ってもらいたいとも思っています。僕らの活動で移住コーディネーターの存在を知ってもらえれば、移住検討者や実際に移住して悩みを抱えた方がそれぞれの地域のコーディネーターに頼ってみようと思えるのではないでしょうか。」

立花さん「新しい仕事すぎて認知度はまだ猛烈に低いですが、地域の今後には絶対に欠かせない人材だと思うので、必要性も合わせてPRできたらいいなと思います。」

この「移住のススメ」の活動によって北海道に面白い人の流れが起き、北海道全体でグッドサイクルが回る未来が見えたような気がしました。同時に、「北海道移住のすゝめ」仕組みは他の地域の移住コーディネーターの連携にも応用できる可能性も感じました。全国で優れた移住コーディネーターが増え、認知度も上がっていけば、移住者も自治体も幸せな移住が増えていくに違いありません。

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文 石村研二