「シェアリング」が関係人口にもたらす効果とは? 「ADDress」の事例から、関係人口を生むシェアリングソサイエティの在り方を考える

「シェアリング」が関係人口にもたらす効果とは? 「ADDress」の事例から、関係人口を生むシェアリングソサイエティの在り方を考える

過去にも、「『関係人口』の先にあるのは、にぎやかな過疎がつくる都市農村共生社会。明治大学・小田切徳美先生に聞く、関係人口と未来の地域のありかた」や「必要なのは「観光」案内所ではなく、「関係」案内所。ソトコト編集長・指出一正さんに聞く「関係人口」のゆくえ」などの記事で関係人口の在り方を取り上げてきたSMOUT移住研究所。

国土交通省では、2019年7月から「ライフスタイルの多様化等に関する懇談会 〜地域の活動力への活かし方〜」を開催しており、有識者からなる委員数名が、地域づくりの担い手を確保するための関係人口の定義や関係人口を増やすための施策、またライフスタイルの多様化が関係人口に及ぼす影響などを検討しています。そこで「シェアリングが人口の「対流」に与える影響」の発表が行われた、第3回を傍聴してきました。

シェアリングが関係人口にもたらす効果

明治大学農学部教授の小田切徳美さんを座長に、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長の石山アンジュさん、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授の岡部明子さん、ソトコト編集長の指出一正さん、じゃらんリサーチセンター研究員の三田愛さん、NPO法人地域おこし事務局長の多田朋孔さん、筑波大学大学院システム情報工学研究科教授の谷口守さん、カヤックLiving代表の松原佳代さんが同会の委員として参加。また毎回テーマごとに委員とゲストスピーカーの発表があり、今回は石山アンジュさんと株式会社アドレス代表取締役社長の佐別当隆志さんによるシェアリングエコノミーに関する発表です。

まず冒頭には、シェアリングの定義や日本に定着させるための課題、関係人口を拡大する上での課題とシェアリングの効果などが説明されました。

シェアリングとは、「個人や企業が持つ資産やスキル、時間などをインターネットやマッチングプラットフォームを通じて必要とする人にシェアする行動」です。公的機関や民間企業がボランタリーで提供するものの共同所有や利用もその一部。下記のような利点を持っており、ライフスタイルの多様化と相まって人の「対流」を起こし、関係人口を増やす大きな力となると考えられています。

【シェアリングの利点とは(国交省の資料より)
1.既存ストックの有効活用
2.施設・サービスを安価に提供(利用)できる
3.人と人の結びつきを生む

関係人口づくりの阻害要因には、交通費といった経済的な負担が挙げられますが、その負担の中心である滞在場所や移動手段の確保に対してシェアリングは効果があると言えそうです。地域での経済面や生活面を支援し、人や地域とのつながりをつくり、新たなコミュニティを生む社会的機能を持っていると考えられるからです。しかし、国土交通省アンケートによると関係人口内でのシェアリングサービス利用はごく少数。そこで、関係人口づくりにもっと活かすための取り組みや工夫の検討が行われました。

【関係人口にシェアリングを活用してもらうための検討項目】
・シェアリング活用の利点及び運用上の課題
・人の移動の観点から見てシェアリングが持つ機能
・シェアリングの機能を活用し、関係人口の拡大、深化を進める上で必要な取組

そこでまず、ゲストスピーカーの佐別当隆志さんから、多拠点生活者向け定額制サブスクリプションサービス「ADDress」の事例から、宿泊場所のシェアリングサービスの現状と関係人口との親和性などが説明されました。

佐別当さん「多拠点居住と関係人口は密接な繋がりがあります。定期的に多拠点で暮らすことは濃い関係性を生み、新たな社会をつくるはず。テクノロジーの進化が中央集権主義的な社会から分散的な社会に変化させつつありますが、シェアリングはテクノロジー、住まい、地域コミュニティを融合して分散型共同体の仕組みをつくると考えています」。

佐別当さんは、人口減少で機能が難しくなってきた町内会と地域活動に参加しない一時観光客の融合が、こうした分散型共同体や関係人口への可能性を秘めているのではないかと説明。また、二拠点居住に興味を持つ三大都市圏の20代の増加データを挙げ、3.11以降のライフスタイルの意識変化やインターネットの発達による場所や雇用形態などに囚われない働き方の多様化、MaaSなど移動手段の整備が進み、シェアリングが重要な時代になるとも予想しました。

さらに、「観光の終焉」を宣言したデンマークのコペンハーゲンの例から「観光と住まいの融合」の傾向も指摘。地域での日常作業のような「人と人との繋がり」がリピーターを増やす事例を含め、地域の住まいと観光のあり方を考える必要性を提示しました。

こうした背景から立ち上げられた「ADDress」は、少子・高齢者問題で増える地域の空き家問題と都心から地域に向かう若者単身者の滞在施設不足を補完する意義があるとのこと。4月に募集したテストユーザーは約半年で3,300人の申し込みが集まるなど注目が集まりつつあり、関係人口づくりの工夫もあると説明されました。

佐別当さん「関係人口を生む上で必要な“偶然を必然にする”ため、各施設には“家守”という地域住民による管理者を置いています。いわゆるコミュニティマネージャー的な存在です。地域に暮らしたいというユーザーに対して家守がハブとなり、友達や店の紹介をして地域との繋がりをつくります。地域はネットに出ない情報も多く、人の繋がりが重要なのです」。

加えて、宮崎県日南市の油津商店街と共同運営するレコードカフェなど、空き施設を活用しつつ地域全体に価値を与える運営の仕組みの重要性も提示。

佐別当さん「地域連携を行うのは、自分たちやユーザーさんのメリットを超えて地域の公共的役割を担うことが全体としてのメリットになると考えるからです。行政では後回しになっている地域活動を代わりに進め、活動拠点をつくることで地域住民の信頼や理解が得られます。そこでは、ホテルや宿のような労働生産性だけでなく、地域全体のエリア価値を高める有機的なつながりや生産性を高める視点で運営を行うべきです」。

まち全体を一つの宿として捉え、その地域にしかない資産や機能を活用し新たな価値をつくる「まちやど」の可能性や、教育や医療の分野などで移動生活や多拠点生活が与えつつある社会インフラの形や地域のあり方の変化を説明。地域に人を定着させるために必要なことを示唆しました。

佐別当さん「地域に帰属意識が持てると、その地域を大事に考えられるようになります。都会にはなかった才能が発揮できたり仲間ができたりするように、信頼によるコミュニティの帰属ができる機会づくりが必要だと思います。都市も地方の双方を有効活用して全国を活性化し、両方で暮らす人を増やす取り組みがいいと考えています」。

最後には、移動手段と宿泊をセット提供する試みを始め、地域への帰属や生活の回遊を促進して全国での関係人口増加を加速させる予定と発表を締めくくりました。

シェアリングを関係人口創出に活用するために

一方、委員の石山さんは、シェアリングエコノミーによる関係人口づくりを拡大する上での課題を提示。まず、シェアリング運用上の課題として下記3点を挙げました。

【シェアリング運用と定着のための課題】
1.信頼関係の構築と安全性の確保
2.企業と地域をつなぐ中間支援組織の必要性
3.シェアリング文化・価値観をどう醸成するか

シェアリングのマッチングプラットフォームの利用率は、海外の8割以上に対し日本では約3割に留まっています。アンケート調査によると「事故やトラブル時の対応への不安」や「行政による規制やルールが未整備」が圧倒的な理由であることから、内閣官房でのガイドライン発行やシェアリングエコノミー協会の認定サービス、プラットフォームと大手保険会社による保険提供など、安心安全を担保する環境整備の必要性を提起しました。

次にシェアリング推進にも人と人や企業、都心と地域、情報や世代格差を埋める存在が必要であること、またシェアリングの仕組みの基礎であるCtoC促進のためには地域で貸し手になる人を発掘し、育てる中間支援組織も必要だと指摘。地域にシェアリングプラットフォームを定着させる試みとして、佐賀県多久市の「シェアで就業機会の創出」や徳島県徳島市の「イベント民泊」などの公共事業を紹介しました。

加えて、シェアリング推進のための消費者の価値観を転換させる必要性や、他人に頼れない世代への“わかちあい”文化の醸成の重要性を説明。今の物事の信頼感は高度経済成長期にできた行政がお墨付きを与えた企業基準(第三者的指標)が根底にあるとして、関係人口を拡大させるシェアリング推進にもこの信頼の基礎をどう変えていくかが重要であると語りました。

石山さん「テクノロジーが進めば分散化された信頼が生まれるでしょう。テクノロジーの活用やレビューの評価が、地域との関係やシェアリングサービスの活用を進める指標となり、新しい信頼の基準を生むはず。“わかちあい”を支える文化をいかに根づかせていくかを議論する必要があると思います」。

石山さんは今後の議論の必要性を提示して発表をまとめ、佐別当さんが近年の多拠点居住を行う医師の活動事例と旧来の社会制度との関連も補足しました。

佐別当さん「戦後の社会福祉は、住居が一定の前提で学校や仕事の仕組みがつくられています。二拠点生活者や関係人口を経た次の世代には、移動し生産できる人が基本の社会となるはず。テクノロジーを活用した供給者、生産者として、企業が撤退した地域サービスを個人が担い、企業や法人が取りまとめて提供する。そんな社会への第一歩が住まいと移動にあるので、関わる分野が今後もっと広がっていけばと思います」。

シェアリングの可能性とシェアリングソサイエティの在り方

その後は、各委員からの発表に対する意見や質疑応答が行われました。一部を挙げると、三田さんは、関係人口に関することは、ライフスタイル全体の事業や産業に広がる裾野の広い話として「横断的なプロジェクトなので広い視野での検討が大切」と提言。先端層の行動を「エクストリームユーザーだから」で終わらせずに参考とし、一般層の躊躇や不安など阻害要因の排除とともに、新たな企業制度や文化の醸成が重要だと提案しました。

指出さんからは、佐別当さんの発表に対し「関係人口を全国創生の仕組みに融合させる上で価値観と裾野を広げる試みを教えてほしい」との質問があり、地域選びとキーパーソンとの関係づくりの状況が回答されました。特に「IターンやUターンで地方移住した30〜40代が地域活性化に関わる場所は、受け入れ態勢が整っている場合が多い。地方と都会、役所の三つの言語を持って地域住民や、僕らのような都会の人間と話し、関係性も理解してくれるのでそうした区域で進めることが多い。一方で、地域住民に反対された場合は地域の老舗企業などキーパーソンの協力が得られると進むことが多い」という地域の事例は、各委員の参考となっている様子でした。

岡部さんも、シェアリングエコノミーの日本における将来性やSDGs的な「誰も取り残さないようにする」ためのシェアリングの役割について質問。佐別当さんは、都市と地方ではシェアリングの可能性の捉えられ方が異なる現状や、地域内で完結するカーシェアやシェアハウスの運営の難しさを説明。一方で、供給不足を補完する自治体主導のシェアリングや、災害をきっかけとした社団法人が提供する高齢者向けコミュニティカーシェアリングが広がる傾向もあり、地方のシェアリングは社会的機能を担う存在となる可能性があると回答しました。

また、国土交通省国土政策局長の坂根工博さんからは、アドレスホッパーが増加した場合の住民税やサービス享受に係る行政との関連、シェアリング運用のための企業と地域をつなぐ中間支援組織づくりをどう考えるべきかとの質問があり、具体的に政策にも関わる回答がなされました。

佐別当さん「二拠点居住先の地域に税金を払いたいと考える関係人口は一定数いるので、ふるさと納税のような住民税とは違う受け皿があるとよいのでは。例えば、第一居住地の住民税が軽減される仕組みがあれば、各地域が好きで活動に関わるような多拠点居住者にマッチすると思います。また、弊社では地域の空き家対策を行うNPOや地方自治体の方に今は中間支援組織的な役割を担っていただいているので、各地にそうしたパートナーができるといいと思います」。

また、小田切座長からシェアリングエコノミーから繋がる存在としてシェアリングソサイエティの在り方を問われた石山委員は、「シェアリングエコノミーは手段であり、その活動を重ねたまちがシェアリングソサイエティです。それは日本型シェアリングが根づき、大企業やプラットフォームが手を組んで相乗的に市場をつくる社会と言えます。安心、安全を担保するには保険会社との協力が、また過疎地域での子育てや防災面では官民の協力があることでようやく実現できるものだと思います」と回答。本パートで語られたシェアリングの今後をまとめました。

「関係人口の実態把握」に見る、地域と人のより強い関係づくりの可能性

「関係人口の実態把握」のパートでは、関係人口におけるインターネット調査に基づいた結果と分析項目、区分と定義など、今後の指標設定に係る検討が行われました。議論のポイントは以下の2点です。

1.関係人口の外枠をどう定めるか
2.アンケートの複数回答者をどう扱うか

主に、地縁・血縁型や余暇型など、地域との関わりが薄い層の活動内容や影響についての意見が出されました。石山さんのように「余暇型にも単なる観光と違って意思のある人がいます。余暇型に趣味・活動型、多拠点居住型などをつくり名称を見直しては」など分類にまつわる意見の一方、三田さんからは「余暇のつもりが人に誘われて地域活動に参加し始めた人もいる。関わり方にはグラデーションがあるので、区分をどうするかよりも関係性の質を上げるための議論が重要だと思います。余暇型を直接寄与型や参加型に変え、地域と外をつなぎ深い関係をつくる人や組織の検討も必要です。その質が担保される仕組みを類型化し、人や組織の傾向を見つければ制度化の可能性もあるはずです」との意見もありました。

指出さんは、関係人口における余暇型の潜在的可能性と悩ましさを説明し、地域と関わるチャンスを確実に掬い取ることの必要性を提起。また地縁・血縁型では帰省する若い家族に着目したしくみなど、関係人口予備軍の質を高める具体的な提案を行いました。

佐別当さんは、特定の地域と関わりはないが居住地以外に関わりを持ちたいとする層が多く存在する現状や、家守募集に全国から200人以上の応募があったことを挙げ、「関わる機会を持ちたいが機会がない」とする人に向けた機会づくりと、余暇型に終わらせない試みを行う各地域のプレーヤーとの関係づくりの重要性を提案しました。

その他、「人が1カ所に定住する発想は近代的であり、かつてはいろんな場所に移動していた。その意味で関係人口の地縁・血縁型は根源的なのでポテンシャルを感じている」、「関係人口は新しい生き方だけに挑戦であり躊躇もある。人が行きたくなる内発的動機をいかに引き出し、不安や躊躇を減らすかが大事。いいつながりができれば、地域側も関係人口側も出会えてよかったと思えるのでは」といった意見など、各委員が持論を展開させました。

懇談会の最後は、小田切座長が第3回を総括。4つのポイントを次のようにまとめました。1点目は、多方面で起こるライフスタイルの変化は多方向のベクトルを持つので予断や予見を持って対峙してはいけないこと、2点目は、関係人口もシェアリングエコノミーも裾野を広げていくこと、そのための住民や国民の意識を変える気づきの必要性、3点目は、中間支援組織も含めた新しい担い手をつくる必要性。また4点目は、シェアリングはI・Uターンが活発で若者やお年寄りが一体化した地域に定着させやすいが、その地域格差は拡大しているため各省庁が連携して格差解消を議論し対策することが必要。

第4回は、2020年3月10日に開催。テーマは「つながりサポート」で、カヤックLiving代表の松原佳代が登壇し、今回に引き続き、関係人口を増やすための意見交換がさまざまな視点から行われる予定です。地域を活性化する上で大きな可能性を秘めているとされる関係人口への議論について、今後もSMOUT移住研究所では注目していきたいと思います。

また、2020年1月10日には、「関係人口とつくる地域の未来」と題したシンポジウムが開催されます。基調講演として「ソトコト」編集長の指出一正さん、明治大学 農学部教授の小田切徳美先生、特別講演としてstudio-L代表の山崎亮さんが登壇。参加無料なので、この機会にぜひ足を運んでみてくださいね。

 

文 木村 早苗
写真 池田 礼