福島県中通りの東部、阿武隈高地のなだらかな山々に囲まれた田村市。郡山市から車でおよそ30分の距離にあり、都市へのアクセスと豊かな自然環境の両方を兼ね備えたまちだ。人口は約3万2千人。全国の地方都市と同様に人口減少という課題を抱えながらも、近年は移住支援制度の整備などを背景に、新たにこの地で暮らし始める人たちも少しずつ増えている。
市の移住支援制度などを活用して移り住んだ人は、令和3年以降〜令和7年12月でおよそ168人にのぼるという。市の行政や商業の中心となっている船引町の中心部を歩くと、商店や公共施設がコンパクトにまとまり、その先にはのどかな田畑や美しい山並みが広がっている。静かな通りに流れる穏やかな時間の中に、ここでの暮らしの風景が見えてくる。
今回話を聞いたのは、このまちに移住してきた人や子育て世代の家族、そして実際に田村市で暮らす子どもたち。移住者の視点と、地域の日常を楽しむ子どもたちの声を通して、このまちの魅力を探ってみた。
「余計なものがないからこそ、魅力が見えるしチャレンジもできる」
地域おこし協力隊・谷口さんが感じた田村市の暮らし

2025年に田村市へ移住した地域おこし協力隊の谷口恭平さん。直前まで暮らしていたのは大阪市だった。移住のきっかけは、愛娘の誕生だったという。
「都会より田舎で暮らしたい気持ちはあったのですが、子どもが生まれた時、どんな環境で育てたいかを考えたんです。都会は大人になってからでも行けるからこそ、幼少期に自然の中で過ごす経験をさせたいと思って。それで、妻の地元である福島県に移住をすることに決めました」
田村市に決めた理由は、郡山市まで車で30分という利便性の高さと、山々に囲まれた環境だったという。実際に暮らしてみて感じたのは、自然の豊かさと子育てのしやすさ。窓を開けると山々が広がり、広い公園や川もある。子どもが体を思い切り動かして遊べる環境が身近にある。
また、地域の人との距離の近さも印象的だったという。
「移住者に対しても温かく迎えてくださる方が多くて、受け入れてもらえる環境です。普段から仕事を通じて都路町(みやこじまち)というエリアに行くことが多いのですが、こちらにある『よりあい処 華』というお店の店主である今泉さんには、市内に住むいろいろな人を紹介してもらっています。いつも温かく気にかけてもらうなかで、採れたての野菜をお裾分けしていただくことも。まさに“まちのお母さん”的な存在に、都会では味わえない心の距離感の近さを感じてとても嬉しくなります」
田村市は「何もない」と言われることもある。しかし谷口さんは、その言葉を別の意味で捉えている。
「僕は“余計なものがない”という意味だと思っています。だからこそ、自然の景色や人とのつながりがより感じられるし、新しいことを始める余白もあると感じています」
たとえば、仕事終わりにふと空を見上げると、街の明かりに邪魔されることなく満天の星が広がっている。初めて天の川を肉眼で見たときは、思わず立ち止まってしまったという。

また、車を走らせている途中で「この景色いいな」と感じた場所に立ち寄って写真を撮ることも。特別な観光地でなくても、何気ない風景に心が動く瞬間がある。そうした体験の積み重ねが、「余計なものがない」環境の価値を実感させてくれる。
現在は、地域おこし協力隊の一員として移住コーディネーターの業務に従事するかたわら、趣味のカメラを生かしたコミュニティづくりや、以前働いていたブライダル業界の経験を生かしたイベントなども構想中だという。このまちの風景と人をつなぐ活動を少しずつ形にしていきたいと考えている。

「子どもがのびのび遊べる場所を探して」
及川花子さん一家の移住ストーリー

東京から田村市に移住した及川花子さん一家。移住のきっかけは、夫からの提案だった。
花子さんの母親が福島市で一人暮らしをしていることもあり、「近くに住んだほうがいいのではないか」と考えたのがはじまりだったという。
移住先を決める際には、福島県内のさまざまな地域を調べ、実際にいくつかの町を訪れた。伊達市や桑折町、泉崎村などを見て回るなかで、郡山市まで車で30分の距離にある田村市は「田舎に暮らしながらも、生活に必要なものがすぐに揃えられる」と感じた。
決め手のひとつは、公園で遊ぶ子どもの姿だった。
「広い公園で楽しそうに走り回っていて、“ここなら子育てしやすそうだな”と思ったんです」
2025年4月に移住した当時、上の子は3歳、下の子は生後2か月。保育所に入るまでの期間は「おひさまドーム」という子どもの遊び場をよく利用していたという。スタッフの方が子どもと一緒に遊んでくれるため、赤ちゃんを抱っこしている花子さんにとっては大きな助けになった。

また、地域の人との交流も印象的だった。近所の方から夏野菜を箱いっぱいにもらったり、子どもが芋掘り体験をさせてもらったりと、都会ではなかなか経験できない出来事も多かったという。
「人が本当に優しくて、気にかけてくれる方が多いんです」
地域で開催される子ども食堂や、子供服の交換会などにも参加しながら、少しずつ地域とのつながりを広げている。
花子さんは、自然の風景もまちの魅力のひとつだと語る。
「移住してすぐに満開に咲く桜や菜の花の景色を見て、ここにしてよかったなぁと思いました。それに、夜は星もよく見えるんです。天の川がばーっと広がっている夜空なんて、東京では味わえない景色ですよね」
子どもの成長に合わせて自分の生活も変えていける柔軟な雰囲気が田村市にはあると感じている花子さん。将来は畑を始めたり、星がよく見える家に住んでみたいという夢もある。子どもたちが自然の中でのびのび育ち、自分自身も楽しみ続ける暮らしを、このまちで描いている。

夫で地域おこし協力隊の諒さんと。お二人の朗らかな雰囲気は田村市の自然に囲まれた暮らしそのものを映しているようだった
子どもたちに聞いた田村市のお気に入りスポット
廃校となった旧石森小学校を活用した複合型テレワークセンター『terrace ishimori』のコワーキングスペースで、田村市在住の小学生と待ち合わせた。千葉県から福島県田村市へ移住してきた橋本姉弟は小学5年生のお姉ちゃんと、小学3年生の弟くんの二人組。両親とともに祖父母の家でのびのびと暮らしはじめて3年になる。船引小学校までの道のりを毎日歩いて通うのも、今ではすっかり日常だ。自然に囲まれた暮らしの中で育っている二人の“好き”を通して、このまちの魅力に触れてみた。

『terrace ishimori』のコワーキングスペースで宿題をする橋本姉弟。大きな窓から山々をのぞむ空間は自由な発想を養ってくれそう
充実の駄菓子コーナー。スーパーとさわ


ヤッターメンが好き!と教えてくれた後、真剣にお菓子と向き合う二人
最初に向かったのは、地元で親しまれている「スーパーとさわ」。駄菓子コーナーの前に立つと、真剣なまなざしでお菓子を選びはじめる。店主の戸澤さんが見守る中、どれにしようかと悩む時間もまた楽しいひとときだ。「子どもたちがキラキラした笑顔でお菓子めがけて来てくれる。そんな日常が、私のかけがえのない時間でもあるんです」と戸澤さん。
何気ないまちの風景が最高の遊び場。大滝根川沿いの道

力いっぱい石を投げる純粋さについ顔がほころぶ。石はポチャンと音を立てて川に落ちた

お菓子を手に、大滝根川沿いの道へ。二人はいつもここで石を川に投げて遊んでいる。特に競い合うわけでもなく、ただ石を川に投げ入れる。それだけでただ楽しいと思える。彼らの純粋さは田村市の自然によって育まれているのだろう。「ここ、カモとかサギがいるんだよ」と教えてくれた。春には桜が咲き、さらに美しい景色が広がるという。
揚げたてポテトならここ!ふねひきパーク


そのまま足をのばして、ふねひきパークへ。スーパーマーケット、100円ショップ、フィットネス、衣類など、さまざまなものが揃うこちら。この場所で、二人の一番のお目当ては入口近くの売店のポテト。一袋200円のポテトを仲良く分け合い「ふねパのポテト、マジでおいしい!」とご満悦。
子どものカラダと自主性が育つ。APスポーツ


友達と格闘ごっこをする二人。無我夢中で遊ぶ子どもたちを先生はにこやかに見守っていた
最後に訪れたのは、習い事で通う運動神経を育てる塾「APスポーツ」。広い室内で思いきり体を動かし、友だちと笑い合う二人の表情はとてもいきいきとしている。「跳び箱がやりたい!」と言う子どもたちに、先生は跳び箱を用意する。次々に跳び箱めがけて走ってくる子どもたちを、しっかりと付き添って安全に遊べるよう手助けしていた。ここは運動をするだけのスポーツクラブではなく、彼らの交流スポットであり、預かり保育のような場としての役割も担っているという。
日常の中にある豊かさが見えた田村市の暮らし
田村市には、都市のような便利さがあるわけではない。けれども、自然の風景や地域の人とのつながり、子どもたちが自由に遊べる環境など、日常の中にある豊かさがある。
移住者の視点と、子どもたちの日常。その両方をたどることで、ここでの暮らしの姿が少しずつ見えてきた。
便利なものや刺激に囲まれていると、つい見落としてしまうものがある。ここで感じる「余計なものがない」という感覚は、暮らしの中にある小さな豊かさに気づくための余白なのかもしれない。削ぎ落とされた環境の中でこそ、自分にとって本当に必要なものが、ゆっくりと見えてくるのだろう。
おまけ・田村市で出会った、ちょっと特別なおやつ
田村市を訪れたらぜひ立ち寄りたいのが、かりんとう饅頭発祥の店「あくつ屋」。大正12年創業の老舗菓子屋だ。
船引町特産のエゴマを使って作られたかりんとう饅頭は、外はカリッと香ばしく、中はしっとりとしたこしあん。ひと口食べると、かりんとうのほろ苦い甘さとあんこのやさしい甘みが広がる。
特別に華やかなお菓子ではないけれど、どこか懐かしくて、もう一度食べたくなる味。そんな“ちょうどよさ”も、このまちの魅力にどこか似ている気がした。
散策の合間に立ち寄って、ひと息つく。そんな時間も、田村市での楽しみのひとつだ。


田村市のことを、もう少し知ってみませんか。
今回の記事を読んで田村市での暮らしが少し気になった方は、ぜひ「たむら暮らし」で、住まいや仕事、子育て環境、支援制度などもあわせてご覧ください。
田村市での暮らし方や移住者の声を知ることで、自分に合う暮らしのイメージが少しずつ見えてくるかもしれません。
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