「都道府県幸福度ランキング」で4回連続、総合1位。福井県に“都会が嫉妬する”理由とは?

「都道府県幸福度ランキング」で4回連続、総合1位。福井県に“都会が嫉妬する”理由とは?

 

東京駅から新幹線や在来線を乗り継ぎ、およそ3時間半。日本海に面した福井県は新鮮な海産物に恵まれ、全国で唯一皇室へ献上されているという越前ガニが有名です。そのほか、子どもたちに絶大な人気を誇る恐竜の化石がたくさん出土していることから、駅前やビルの壁面など至るところに恐竜がいたり、メガネフレームの製造シェアが日本随一となるなど製造業が盛んだったり、漆器や和紙、焼き物などの数々の伝統工芸品も有名です。

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そこで、福井県に移住した人のリアルな声を聞くべく、SMOUT編集部が現地でインタビューを行いました。
今回お話を聞いたのは福井県池田町(いけだちょう)在住の笠原理紗(かさはらりさ)さんと、福井市殿下(でんが)地区にお住まいの松平裕子(まつだいらゆうこ)さん。おふたりとも以前は東京都で暮らし、福井県に移住されました。

手厚い子育て支援と大自然のフィールド!自分に合う暮らしは池田町で見つけた

最初にお話を伺ったのは、笠原理紗さん。福井市から車で40分ほどの池田町で旦那さんと6歳、4歳、1歳の3姉妹の5人家族で暮らしています。もともとは東京で会社員をしていた笠原さんが池田町に移住をしたのは、2015年3月のことでした。
 
笠原さん「最初から福井県や池田町がよかったというわけではなくて。むしろ福井県には来たことがなかったし、池田町の”い”の字も知らない状態でした。」
 
001_220207母方の実家が福島県で、幼いときから自然の多い地域で過ごすことが大好きだったという笠原さん。地域活性や環境保全にも興味を持ち、学生時代にはスイスに農業留学をしたこともあるという
 

笠原さん「社会人になって東京で2年くらい働いていたのですが、満員電車の中でぎゅうぎゅう詰めになりながら出勤する生活で。都会の生活に合わないという意識はずっとありました。大きなシステムに組み込まれて働くよりも、個人にしっかりスポットライトがあたるような、小さい単位の地域で暮らしたいという気持ちが強くなって。今の旦那さんには結婚する前から『私は田舎に行く、一人でも行くから』と断言してました(笑)。」


最終的に移住の後押しとなったのは、一人目のお子さんの妊娠。各地の地域おこし協力隊の募集や、農業分野の求人サイトで住み込みで働けるような場所を探し、ふと目に止まったのが池田町のお隣の越前市武生(たけふ)地域の農家さんの求人情報でした。


笠原さん「何となく直感でビビッときて。旦那さんにも『ここ行ってみない?』みたいな感じで、履歴書を書いて電話して、面接の日程もぽんぽんと決まって。」


しかし、住み込みで使える寮は単身者用。お子さんが生まれたあとは住居を探す必要があることから、ハードルがあるかもしれないと思った農家さんは、越前市ではなく池田町への移住を提案してくれたといいます。


笠原さん「もしかしたらその農家さんは最初から池田町の方が合うんじゃないかなって思っていたのかもしれないですけど、『気持ちも分からないのに勝手に決めちゃうのも微妙だから』と、私たちの状況を聞いてくれて。池田町は子育て支援施策も厚いだろうからと、農家さんが丹南農林総合事務所へ連れて行ってくれて、さらにそこの鯖江市・池田町担当の方があたたかく迎えてくださって。翌朝10時に武生駅に集合となり、そこから車で池田町まで連れて行ってくれることになって。1日かけて町を案内してくれる運びになったんです。周りの方がどんどん動いてくれて、池田町に辿り着いて。何だか本当に導かれた感じでした。」

農家さんが仰っていた「子育て支援が厚い」というのは、本当だったのでしょうか。

002_220207移住を切り口に発信することが増えたという笠原さんは、地域の方から魅力を見つけてくれてありがとうと感謝されることもあるという
 

笠原さん「まず、池田町は子どもが生まれて0歳から2歳の3年間、池田町で使える応援商品券を毎月2万円分もらえます。それとは別に現金1万円が給付されて毎月計3万円。さらに、池田町で第一子を出産する場合は、出産お祝い金として20万円。生まれてからも、小学校、中学校入学時は5万円、高校入学時は10万円のお祝い金がもらえたり。」

子育て支援だけでなく、お母さんたちの妊娠中や産後1年間の医療費も無料。確かになかなかの手厚さです。

笠原さん「やっぱり東京と比べたら収入が多少少ないかもしれませんが、こういった補助もありますし、普段そんなにお金を使わないんですよね。家庭菜園をしている方も多いので、近所の方から野菜をいただいたり。なので、路頭に迷うことはないんじゃないかなっていう。もちろん、地域との相性があると思うのですが、自分らしく暮らせる場所や暮らしの選択肢を増やして、こういうふうに生きている人もいるよって、私たちを通して知ってもらえたらいいなと思っています。」

移住者だからこそ発見できる魅力もあれば、地域のお困りごとに対して解決策を提案できることもあります。特に、冬は雪深い池田町。地域の人と身体を温めるために、移住前に出会った古典ヨガの先生を池田町にお呼びしてヨガイベントを企画したり、冬場でもできる手仕事として、手縫いの”もんぺ”をつくるワークショップを開催したり。等身大の自分で気がついたお困りごとに対して、草の根的に活動をしてきました。

その活動が認知され、2018年には仲間3人とともに、池田町の自然を舞台とする育児コミュニティ『いけだのそら』を発足。2019年には県庁職員の声がけで立ち上がった福井に住む県外女子チーム『ZUK(ズック)』のメンバーとして抜擢され、福井県の他のエリアの方々とも連携しながら活動しています。

003_220207プロジェクトの仲間から「口説き上手でアイデアマン」と形容される笠原さん。その理由をご本人に伺うと「人が好きだからかもしれない」と返ってきた
 
笠原さん「​​春からは、『いけだのそら』のメンバーと池田町で”森のようちえん”を始めるんです。自然遊びをさせたい人や、池田町に住んでいなくても自然の中で保育をしたい人に届いてほしい。池田町の自然のよさを伝えたり、福井県で子育てをするときの選択肢を増やしたいと思っています。」
 
森のようちえんは、森林や里山、海や川といった、地域にある自然をフィールドに展開される保育のこと。笠原さんはどんな保育を具体的に考えているのでしょうか。
 
笠原さん「雨の日も雪の日も基本的には外で遊びます。雨合羽を着たり長靴をはいて。屋根などから滴ってくる雨に滝行みたいに打たれたり、たらいに水を溜めてバッシャンとか。都会だと空き地がなかったり、ご近所さんの目を気にしたりで、子どもが子どもらしく育つことのできない環境になってしまっているかもしれませんが、ここでは大自然の中で子どもたちも伸び伸びと育つことができると思います。」
 
身近な自然を遊び場に変えたり、自ら遊びを考えたりする子どもたちを想像すると、とても楽しそう。ご自身でも、冒頭の広告のとおり「畑がデフォルト」という笠原さんは、夏に収穫したトマトについて、こんなふうに話してくれました。
 
 
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お子さんがトマトを口に頬張っているところ
 
笠原さん「車で出かけて家に到着すると乗っていた子どもがいないんです。気づいたらポケットいっぱいにトマトを収穫していたみたいで。本当はもうちょっと待った方がおいしいんですけど、実がなったらすぐに食べたいみたい。『今日はポケットがあるからいっぱい入れられたよ』と言って喜んでいました。」
 
自分たちが育てたトマトは、本当に甘くておいしい。夢中になってトマトを頬張るお子さんたちの姿が想像できてしまいました。

 

海も山も至近距離。人も食材も、地のものを編んで企画にする楽しさ

池田町をあとにして向かったのは、人口400人ほどの福井市殿下地区。福井市内と言えど、市の中心エリアからは車で約40分。この地域の元地域おこし協力隊で、2018年に移住してきたという松平裕子さんを訪ねます。
 
茨城県出身の松平さんは東京の大学を卒業後、新卒で入社したデザイン着物を展開する企業で社長兼デザイナーの秘書を担当。経営者の前に立ちはだかる壁にどう挑み、経営を支援できるかにやりがいを感じてきたという松平さん。旦那さんの成史(しげふみ)さんが仕事でシンガポールに赴任した際にも、現地の日本企業の社長秘書として働きました。
 
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持ち前の先回り力を活かしつつ、さまざまな企業で務めてきた秘書業務はご自身でも「天職」と語るほど大好きな仕事だ
 
そして帰国後に息子さんを妊娠、出産。その後も東京で外資系の人材育成企業の社長秘書として働きますが、忙しい毎日を送りながら都会で子育てすることの難しさをじわじわと感じていたといいます。まず苦労したというのが、保育園入園活動(= 保活)。
 
松平さん「私たちが住んでいた区では自宅のすぐ裏にも保育園があったし、徒歩圏内にもいくつかあったんですけど、全然入園できなくて。希望する園名はいくらでも書けるのですが、競争率が激しく、結局第10希望まで出しました。」
 
駅近な園は人気ですぐに埋まってしまい、入園が決まった保育園は駅と反対方向に自転車で15分。往復30分で、そこからさらに45分の電車通勤と、なかなか大変だったといいます。
 
松平さん「入園はできたのですが、夫婦で二人ともフルタイムで働いていたので、朝一番に息子を保育園に送って、お迎えは一番最後、というような毎日でした。仕事も忙しく常に追われる感じがあって『私、何やってるのかな。なんかちょっと違うかも』と、いつしか疑問を抱くようになって。ちょうどその頃、主人の実家がある福井市殿下地区で、地域おこし協力隊を募集しているという話を聞いて。」
 
協力隊のミッションは、殿下地区の郷土料理である「葉ずし(※)」の継承。新卒入社した着物業界では、どんなに素晴らしい技術でも、担い手がいなくなると途端になくなってしまうことを目の当たりにしていたといいます。大切に受け継がれてきた伝統を次の世代に伝えることをライフワークの一つとしたいと考えていた松平さんは、協力隊に応募することに。
 

※ 福井市殿下地区、丹南地区に伝わる郷土料理。金時豆などの甘い煮豆や、ひじき、干ししいたけ、薄あげ、人参など体に優しい食材が入ったすしを、落葉高木であるアブラギリの葉で一つずつ丁寧に包んだもので、桜祭りなど祭事に合わせて食べられる。

 

松平さん「移住前は不安でしたが、協力隊のお仕事があったので決心することができました。それまで海外も都市部も住んだことがあったので、田舎の生活ってどうなんだろうという興味や好奇心もありました。」

 

東京ではお酒の輸出の仕事をしていた成史さんは、福井の日本酒メーカーで輸出のアドバイザーとして働くことが決定。その傍らで林業を始めました。東京で第10希望まで出していた保活に比べ、福井では保活ゼロで入園先が決定。2018年の10月、一家で殿下地区に移住しました。

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成史さんのお祖父さまの代から管理している山は合計100ha(ヘクタール)ほど。間伐材はテントサウナの燃料としても活用される

松平さん「地域おこし協力隊として地域に入っていくことができたのは大きかったですね。人口が少ないのでさまざまな業務を兼任しないといけなかったり、会議が多かったりと大変なこともありますが、人が少ないので、みんな顔見知りで家族みたいな感じで。適度な距離は必要だと思いますが、地域で子どもが一人で歩いてれば、『送っていこうか?』と声をかけてくれたり。地域の方々に、本当に見守られている感じがありますね。」
 
車を5分ほど走らせれば海というロケーションの殿下地区は、越前海岸地域との交流も盛ん。松平さんは、福井市沿岸部を盛り上げたい地域の事業者で構成された「越前海岸盛り上げ隊」のメンバーでもあります。人をつないだり、企画を立ち上げる際のコーディネーターとして動く際にも秘書業務で培った先回り力が活かされています。
 
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越前海岸盛り上げ隊では、地域に長期的な関わりを持ってくれるファンとの交流拠点を整備する『人の駅』プロジェクトの一環として、古民家「はりいしゃ」の改修を進めている。写真は、古民家「はりいしゃ」の前にて

企画するコンテンツは、地域資源を活かした山のおしごと体験から、竹細工、醤油搾り、塩づくりなど多種多様。移住してからピラティスのインストラクターの資格を取ったという松平さんは、自然の中でピラティスを体験できる「里山ピラティス」も開催しています。また、松平さんのご自宅や隣に新設した『ライダーハウス106』は、自然体験に参加する学生たちや福井市内外から訪れる旅行客の滞在拠点にもなっています。
 
山も海も、自然に囲まれた殿下地区は四季折々で変化に富み、まさに「生活そのものがアクティビティ」。

松平さん「ここにいると本当に”旬”を感じることができるというか。今は冬で、足跡からもわかるようにジビエなどが捕れたり、海では岩のりのシーズン。春先になれば冬に耐えたご褒美みたいに山菜がたくさんとれます。夏は野菜。自分が見つけるのではなくて自然が教えてくれるんです。豊かな自然と寄り添う生活が、今はとても心地いいなと感じています。」
 
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冬季限定。殿下福亥のししラーメン『福亥軒』という屋号のもと、4シーズン目に入ったラーメン店は、今や県外からも噂を聞いて駆けつけるお客さんもいるほどだ

たくさんお話いただいたあと、帰りがけにご馳走になったのが、成史さんがつくる鹿ラーメン。もともとは、地元の猟師さんから捕獲後に廃棄せざるを得ない大量の猪の骨をどうにかできないかというお困りごとを相談されたことを皮切りにスタートしたプロジェクトです。
 
今年は、原料となる猪の捕獲量を鹿が上回ってしまったことから、鹿ラーメンに初挑戦。鹿肉は福井県初となる殿下地区ジビエ処理場で丁寧に処理することから、一切臭みがありませんでした。独自の調理法でしっとりと仕上げた鹿肉チャーシューを、濃厚醤油のスープで麺と絡ませて、冬の寒さで冷えていた身体も一気にポカポカと温まりました。
 
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一年を通して、新鮮な魚介類が楽しめる福井県。国定公園に指定されている越前海岸は、隆起海岸による雄々しい奇岩断崖が特徴
 
 
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福井県には、恐竜を中心とする地質古生物学専門の博物館があり、全国から子どもたちが集まる。写真はJR福井駅前

福井県が打ち出す5つのコピーの真相を掴むために、今回は池田町と福井市殿下地区、お二人の移住者にインタビューをしました。もちろん、どの地域に住んだとしても、その土地に合うか合わないかは、自分次第なところもあります。地域への入り方、暮らす中で出てきたアイデアをどんどん実践することを通して、心地よいと思える生き方を模索してきたお二人は、5つの広告コピーが標榜するような暮らしの実践者ともいえます。
 
ちなみに、お二人とも普段から車移動。電車を使うことがないということで、「満員電車、なし」。また、松平さん行きつけのスーパーは3,000坪超とのことで、日用品のみならず豊富な生鮮食品が並べられ、地元民に愛される「スーパーなスーパー」とのこと。聞けば聞くほど、行ってみたくなる、暮らしてみたくなる福井県。少なくとも、SMOUT編集部は嫉妬してしまいました。みなさんも一度足を運んで、ご自身の目でその真相を確かめてみてはいかがでしょうか。
 
 
 
文 岩井美咲
写真 五味貴志