地域のことを知り、「好き」が地域おこしにつながっていく。兵庫県豊岡市・コンハジメさん/長野県伊那市・宮川沙加さん/北海道壮瞥町・今井亮輔さん【地域おこし協力隊図鑑 #10-12】

地域のことを知り、「好き」が地域おこしにつながっていく。兵庫県豊岡市・コンハジメさん/長野県伊那市・宮川沙加さん/北海道壮瞥町・今井亮輔さん【地域おこし協力隊図鑑 #10-12】

日本全国で5,000人以上が活躍している地域おこし協力隊。そのひとりひとりがさまざまな思いや夢を持って地域と向き合っています。

「田舎で暮らしたことはないけれど、いつか移住したい」と考える人にとって、移住先で地域おこし協力隊として働けることは大きな後押しになります。今回は、移住先を決めるなかで、自然の持つ美しさや住人たちの雰囲気など、その地域の魅力を見つけたという3人にお話を聞きました。

1人目のコンハジメさんは、兵庫県豊岡市のきれいな海のある景色を見て即移住を決意。2人目の宮川沙加さんは、程良い人の距離感が心地良かったという長野県伊那市へ。3人目の今井亮輔さんは、北海道壮瞥町の洞爺湖の景色に圧倒されて移住を決め、今は自身が移住コンシェルジュをしています。

地域のどんなところに魅力を感じるかは人それぞれ。自分に合う地域を考えるときの参考にしてみてはいかがでしょうか。

 \ここで生きていく、と決めた場所が豊岡だった/
#10  コンハジメさん(兵庫県豊岡市)

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マーケットで地域を元気にする!

関西で一番きれいだと言われている海のある、豊岡市の竹野という地域で開催しているマーケット「海町マーケット」の運営管理をしています。

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地域の事業者を応援するようなマーケットにしたいと考えているんです。たとえば、豊岡で新たに飲食店を開業しようとしている方が、自分たちの開発商品が売れるかどうかを試したり、既存の事業者の生業にとってプラスになる場にしようと、お客さんたちを呼び込んでいます。

新型コロナウイルスの影響で、2年間開催できませんでしたが、今年の4月に3年ぶりに再開しました。「海町マーケット」は、以前は来場者が平均350人くらいでしたが、今年は18店舗の出店者が集まり、4月は500人、5月は700人ほどの来場者がありました。竹野だけでなく但馬地域にまでエリアを広げて出店者さんを募り、広告も広い範囲に出しました。市内で月1回のペースで開催し、これだけの人数を集めるマーケットは他にないと思います。

内輪で完結せず、兵庫県全域、鳥取や京都など他県からも来ていただけるような魅力のあるマーケットにしたい。目標は出店者を50店舗、来場者を3,000人くらいにしたいと、実行委員会のメンバーと話しているところです。目標は大きく持っていきたいです。

美しい海の景色に惚れ込んで

韓国生まれ、大阪育ちなのですが、大学を卒業した2017年に映像制作の会社を立ち上げ、東京と大阪に活動拠点を持ち、テレビCMの制作に携わったり、お客様から依頼されたコンテンツ制作をしてきました。

移住を決意したのは、東京でCMを撮っていてすごく忙しかったとき。妊娠中の妻がパート勤めをしながら子どもたち二人を保育園に通わせていましたが、僕は忙しすぎて家族に会うことができないほどでした。

そんなさなか、長女の耳の中にバイ菌がたまって、すごく腫れてしまったんです。そんな状況なのに、手術するまでのほぼ1ヵ月間、1回も会えず、電話すらもできませんでした。

「何のために家族をもったんだろう。こんな生活をしていてはだめだ」と思いました。

以前から「田舎に住みたいね」と妻と話していて、移住先をいろいろ調べているときに、「SMOUT」の記事で竹野の海の写真を見つけて、二人で「すごくいいね」と話しました。でも、そのときはそこが豊岡市内だということを知りませんでした。さらに、大阪で開かれた移住相談会で「竹野に来てみてください」と言われましたが、「あの写真の竹野のことだ」とピンと来ていなかったんです。

その後出ていた、豊岡市の地域おこし協力隊の募集に応募し、面接に行ったついでに竹野に実際に行ってみて初めて「あの写真の景色じゃないか」と気が付いて驚きました。実際に竹野を見て、僕たちが憧れていた海、浜、きれいな街並み、理想のイメージとぴったり合っていたので、その時点で「竹野に住もう」と決意していました。

後日、不合格の知らせが来たのですが、合否に関わらず移住しようと決意していたので、もう物件を買っていました。でも、物件を買った直後に、今度は竹野の地域おこし協力隊の募集があったので「これだ」と思って応募したら、なんとか採用されました(笑)。

購入したのは元宿屋の建物で、今は協力隊の活動をしながら宿も営み、映像制作の仕事も続けながら暮らしています。

家族との時間と仕事を両立する暮らし

豊岡市の夏は暑いけれど、海は本当にきれい。冬は雪がたくさん降って、スキーやスノボができます。海にもスキー場にも、豊岡市街地から車で30分程度。1年通して遊べるレジャーがずっとあるというのは魅力的です。

日々忙しくはしていますが、家族が横にいての忙しさなので、以前とはまったく異なりますね。僕が映像編集の仕事をしているときに、子どもたちが僕の足もとにやってきておもちゃで遊んだりするのが当たり前の光景になり、「家族との時間を過ごしたい」という移住の目的がクリアできて満足しています。

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竹野の暮らしは誰よりも妻が一番気に入っていて、田舎に住みたいという希望を叶えて、子どもたちをのびのび育てています。以前は虫を全く触れないほどだった子どもたちは、竹野に来て一週間でミミズをわしづかみにするほど生き物に親しんでいます(笑)。僕自身も大満足ですが、家族が楽しそうにしているのを見ると、心から竹野に来てよかったなと思います。

たとえ遠回りなことがあっても、くじけない、あきらめない

移住するには、今までの仕事や人間関係全てをいったんおろして、新しい人間関係を一から築き上げないといけないので結構なストレスがかかります。

豊岡は協力隊員が45名もいるのですが、自分と同じ境遇の人間が活躍しているのだから僕もきっとできるだろうと思って、それも移住の決め手の一つになりました。

地域に合った仕事をするには、自分の仕事のスタイルを地域や行政に押し通すのではなく、自分を地域に合わせていく気持ちでやっていくのが大事だと思います。たとえ遠回りなことがあっても、くじけない、あきらめない。東京、大阪で働くのと同じスピード感を求めず、まず自分を地域に馴染ませることから始めて、やりたいことをその次に持ってくるべきなのかなって、一年暮らしながら感じています。

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着任した年月:2021年5月
着任前の居住地:大阪府大阪市住吉区
出身地:韓国、ソウル
着任前のお仕事:映像クリエイター

 \農産物加工を通じたコミュニティを守りたい/
#11  宮川沙加さん(長野県伊那市)

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地域おこし協力隊として、地域の農業を応援

数年前に伊那市に合併した人口1700人ほどの長谷という地域に住んでいます。私のミッションは「長谷農業再生応援隊」といって、地域の特産物を使った加工品づくりや、全校生徒30名ほどの長谷中学校がつくっているラー油「長谷の太陽」の絞りだねを使った甘辛だれ「元気だで」の商品化に関わったり、長谷の農業全般に関わる仕事です。

長谷の農産物加工施設では漬物とみそ、煮豆、梅漬けなど、さまざまな加工品を地域のおばあちゃんたちが手作業でつくっていて、名人たちがたくさんいるので、そういう人たちを囲んだ学びの会も企画しています。

移住の決め手は、人の距離感の心地良さ

2020年の春、神奈川県川崎市に住んでいた夫と一緒に移住して、伊那市で入籍しました。私はそれまで千葉県印西市の実家に住んでいました。

4歳から22歳までずっと新体操をやっていたので、大学卒業後は、東京で子どもに新体操を教えていました。でも仕事は、始発の電車に乗って終電で帰り、終電に乗れないときは漫画喫茶に泊まっていくような忙しさで。仕事自体は楽しかったけれど、体調を崩してしまったこともあり、3年勤めて退職しました。

その後は、アルバイトをしたり、旅をしたりと自由に過ごしていましたが、岡山県に災害ボランティアに行った際に、同じボランティアとして来ていた夫と出会いました。

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夫はいずれ農業をやろうと考えていました。どんなところで暮らしていくのがいいのかなとバイクであちこち旅をしていたときに伊那市を訪れ、長谷を通りながら「この辺に住めたらいいなあ」と思ったのだそうです。

結婚する際に、移住先の候補を絞って、最終的に伊那市に決めました。一番の理由は、出会った人たちの雰囲気がみんな良かったこと。移住担当の窓口の人も、地元の人たちも、よそ者扱いしないし、かといってぐいぐい押しがあるわけでもない。人の距離感が程よかったんです。

技術の継承だけでなく、コミュニティの継承を

農産物加工の仕事の休憩時間に、いろいろな家庭の味を持ち寄って、みんなで世間話をするんです。「うちの畑でこういうものがとれたよ」「あそこのじいちゃんの体調が最近悪そうだ」とか。そういうたわいもない話をする時間がすごくよくて。加工技術そのものだけでなく、こういう場をなくしたくないと思いました。この場をつなげていったらまた別の何か新しいアイデアが生まれるかもしれないし、私自身がすごく助けられているので、みんなも人のつながりに助けられることがあるかもしれない。人と人がつながっていけるこのコミュニティを大切にしたいと思いました。

長谷農業再生応援隊として、加工技術の継承をしてほしいとはじめに言われたのですが、ベテランのばあちゃんたちがやってきたことを、私一人で継承なんてできないと思っていました。でも、この婦人の会はずっとつなげていきたいなと、そのお手伝いなら私でもできるかもしれないと考えました。

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そこで、若い子育て世代のお母さんたちが、加工の名人たちに教わる郷土食を学ぶ会をはじめました。コロナ禍ということもありますが、若い子育て世代のお母さん同士は意外と交流の機会がなくて、お互いをよく知りません。でもせっかく同じ地域にいるんだから、集まる機会が欲しいという意見をあちこちから聞いていました。参加した人たちは、みんなで話ができて嬉しいと言ってくれています。ここから、技術の継承のための仲間集めにもつなげていけたらいいなと思っています。
まずは、地域を好きになること

夫は去年新規就農し、米と有機栽培の野菜を少量多品目で作っています。協力隊卒業後は二人で農業をやっていけたらと考えているんです。今は朝5時から畑に出て一緒に収穫作業をしています。去年の夏に第一子を出産して、子どもがまだ9ヵ月なのですが、外にいる時間が長いので日焼けして真っ黒です(笑)。

自然の恵みが身近にあり、お散歩で摘んだ野花を生けると、家の中も息をするように空気が流れる感覚になります。おかずが足りない時には、夕方の散歩で裏山へ行き、山菜を採ったりしています。シーズンを逃しちゃった!と思った山菜も、ご近所さんがおすそ分けで玄関先に届けてくださったり。食卓にも家の中にも、自然の恵みや、人のあたたかさを感じられる。長谷のそんなところが好きです。

今住んでいる団地もすごく居心地が良くて離れがたいのですが、仮住まいなので、今年3月末に長谷の古民家を買いました。古民家を自分たちでリノベーションして、私たちの農園に来てくれた人が泊まったり、地域の人が集まったりできるコミュニティスペースにしていきたいと思っています。

はじめは、地域おこし協力隊という名前が故に「私が地域を盛り上げなくては!」と勝手に思っていました。でも、よく知らない地に来た小娘が1人でできることなんて限られていて。協力してくれる地域の方がいなければ、何もできません。まずは地域を知って、好きになっていけたら、なお良いなと思うんです。今は、「定住して楽しく生き生きと暮らしていくことが、自分にとっても地域にとってもいいことだ」と感じています。移住したらまずは自分が地域を好きになれるような活動をしてほしいなと思います。

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着任した年月:2020年4月
着任前の居住地:千葉県印西市
出身地:千葉県酒々井町
着任前のお仕事:新体操の先生

\友人夫妻と一緒に、壮瞥町に移住!
#12  今井亮輔さん(北海道壮瞥町)

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「移住コンシェルジュ」として活動

壮瞥町に移住者を呼び込み、移住してきた人の定住を促進する「移住コンシェルジュ」をしています。移住者を迎え入れるための移住お試し住宅の運営に携わったり、移住相談に乗ったり、移住スカウトサービス「SMOUT」に参加する北海道各地の移住コーディネーターからなるチーム「北海道移住のすゝめ」のオンラインイベント開催に携わったりしています。

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移住の決め手は、北海道の「食」の豊かさ

移住前はIT系の会社でシステムエンジニアをしていました。もともと田舎が好きで、田舎を助けるために何が必要か、まちづくりに必要なものは何かと考え、ITという手段が一番有効だと考えて就職しました。

昔から食べることがすごく好きで、美味しいものを探したりするのが趣味。40歳になり、今後を考えたときにずっと都会で暮らしていくことを選ぶべきかどうか、移住という選択肢もあるのかなと考え始めました。じゃあどこに移住しようかと考えたときに、やっぱり食が豊かなところがいいので北海道がいいかなと漠然と考え始めたんです。

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北海道のなかでもいろいろ見て回り、洞爺湖の景色に圧倒されて「ここに住もう」と決め、妻と子どもたち、家族4人で神奈川県川崎市から移住しました。現在は地域おこし協力隊の活動をしながら、前職のツテで、複業的にIT系のコンサルテーションの仕事もしています。

実は、私たち家族と一緒に、横浜市に住んでいた飲み仲間の友人夫妻も壮瞥町に移住してきました。将来やりたいことが似ていたこともあって、以前から一緒に移住しようと話していたんです。友人の奥さんの方が同じく地域おこし協力隊に応募して、今は観光プロデューサーをしています。

川崎にいたときは、私の妻がチーズ屋を経営していました。私は自然派ワインに明るくて、友人の奥さんはコーヒーを淹れることができるので、一緒にチーズとワインとコーヒーの店をやりたいと思っています。今はまだ店舗がないのでイベント出店が中心ですが、壮瞥町には、よその人が来た時に気軽に立ち寄れるカフェのような場所がないので、いずれ洞爺湖が見える場所で、人が集えて食を楽しめる場をつくりたいです。

季節の移ろいを感じられること

壮瞥町はものすごく田舎。都会に比べたら、目の前にコンビニがあるという世界ではありませんが、車でだいたい15分くらい行けば大きなスーパーがあるので、それほど不便は感じていません。

自然の豊かさを一番実感したのは、流れるような季節の移ろいを感じられるところです。都会に住んでいたときは、春は桜を見ておしまい、秋は紅葉を見ておしまいというイメージでした。壮瞥町に住んでいると、日常的に山が目に入ってきます。たとえば、秋は上の方から紅葉が始まっていって、紅葉が終わると上の方からだんだん黒くなっていく。季節といっても、ただ「秋」というだけでなく何段階か流れがあるのを経験できて、すごく良いなと思っています。

最近山登りも始めました。壮瞥町は、有珠山という火山の周辺一帯がジオパークになっているんです。有珠山や昭和新山などの山があって、たまたま登山体験会に参加して、味を占めたので周りの山も登り始めようかなと(笑)。先日、壮瞥町の隣の伊達市の伊達紋別岳という山に登りましたが、景色がすごくいいですし、風が通り抜けてすごく気持ちいいんですよね。高山植物もきれいで、山に登るとさらに深い自然を味わえます。

多くの人から生の情報を集めるのが大事

移住するにあたり、自分とのマッチングをしっかり考えて入っていくべきだなと思います。まちによって地域おこし協力隊の扱いも違うので、その辺もしっかり情報収集しながら、自分に合うまちを見つけられるといいですね。

たとえば、委託型なのか、期間限定の任用職員なのか、勤務時間の縛りがあるかどうか。退任後に向けた自分の活動を自由にできるのかできないのか。

人と話さないと出てこない情報があるので、周辺のまちの協力隊員にアクセスして話を聞いてみるとか、なるべく多くの人に情報収集しながら決めていってほしいと思いますね。とりあえず給料がもらえるし良いかと考える人、ちゃんとやりたいことがあってくる人、いろいろいるのでみんなには当てはまらないかもしれませんが、なるべく自分が大事にしていることに寄り添ってくれるまちであることが重要だと思います。

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着任した年月:2021年11月
着任前の居住地:神奈川県川崎市
出身地:神奈川県横浜市
着任前のお仕事:システムエンジニア
地域で暮らすためには、ときに不便さもわずらわしさもひっくるめて受け入れる覚悟が必要になります。でも、地域に深く関わることで、表面的な理解にとどまらず、自然、文化、歴史、人を知り、好きになっていく。地域おこし協力隊としての活動は、そんな「好き」を引き寄せるきっかけも得られそうです。

文 松井明子

 

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