Webだけど、空中戦ではなく地上戦。地域のリアルな課題を学生と一緒に解決へ導く、長野県塩尻市×信州大学・地域ブランド実践ゼミの「SMOUT」活用

年に100名以上の学生インターンを受け入れるという長野県塩尻市は、県内の学生ともさまざまな形でインターンシップを進めています。

2018年10月から6カ月間行われた信州大学「地域ブランド実践ゼミ」とのシティプロモーション共同研究もそのひとつ。ただ他の地域と大きく違うのは、移住スカウトサービス「SMOUT」にチームごとのプロジェクトをつくり、調査研究の過程をフォロワーに伝えて意見をもらいながら進めた点です。

塩尻市や信州大学はもちろんのこと、SMOUTとしても初の試み。そこで信州大学准教授の林靖人先生、塩尻市職員の山田崇さん、ようび代表大の島正幸さん、カヤックLiving担当の名取良樹に、共同研究が終了し3カ月が経った今だから話せる想い、SMOUTを活用した感想などを語っていただきました。

(写真左から3番目)信州大学 学術研究・産学官連携推進機構 准教授 林靖人さん
1978年愛知県生まれ。信州大学大学院総合工学系研究科修了(学術博士)。地域ブランドを中心に大学の地域貢献活動推進や信州型水マネジメントモデルの研究を行う一方、多地域で地方創生総合戦略策定や地域活性化活動に関わる。「地域ブランド実践ゼミ」の担当教授として、また2007年から塩尻市との共同研究を実施。

(写真左から2番目)塩尻市役所企画政策部 地方創生推進課地方創生推進係長 山田崇さん
1975年塩尻市生まれ。千葉大学工学部卒業。空き家プロジェクトnanoda代表。学生インターンを年に100人以上受け入れる元ナンパ師公務員として全国に知られる。2016年1月から首都圏のプロ人材との協働による官民連携プロジェクトとして「MICHIKARA〜地方創生協働リーダーシッププログラム」をスタート。同5月、内閣府より地域活性化伝道師に任命。著書に「日本一おかしな公務員(日本経済新聞出版社)」

(写真左から4番目)ようび代表取締役 大島正幸さん
金沢工科大学建築学部卒業。家具職人として修行後、2009年岡山県西粟倉村に、ようび創業。「やがて風景になるものづくり」を理念に、工房にて国産針葉樹の家具のデザイン、制作、販売までを一括して行う。またチームマネジメント技術などを活用したマーケティングやプロジェクトデザインで、国内の木材と地域の可能性を切り拓いてきた。信州大学ローカルイノベーター養成コースで講師を務め、シティプロモーション共同研究には特別講師として参加。

(写真一番左)カヤックLiving マーケティング 名取良樹
今回の「地域ブランド実践ゼミ」プロジェクトにカヤックLivingの担当として参加。カヤックLivingではマーケティング担当として、多くの自治体との接点を持つ。

塩尻市&信州大学がSMOUTを導入した理由

塩尻市は2003(平成15年)ごろから地域ブランド研究を始め、2007年(平成19年)に長野県内で初めて「地域ブランド戦略」を策定するなど先進的な取り組みを常に行ってきた地域です。その後、地域ブランド戦略の実行等を通じて塩尻のワイン等は地域を代表するプロダクトとして着実に成長してきています。

現在は、地域外に塩尻市全体の情報を発信するとともに地域内でも浸透させ、塩尻市というブランドの育成に関われる内外の人の育成・交流を加速させる実践的な試みを行っています。その意味では、今回のSMOUTを活用した信州大学との共同研究は、シティプロモーションと移住定住促進を兼ねたテーマにしています。2015年度から9年間の市の行動指針である「第五次塩尻市総合計画」のプロジェクト9「地域ブランド・プロモーション」の一つに位置づけられて取り組みが行われています。

山田さん「この共同研究には、ふたつの意味があります。まずは地域ブランド・プロモーションでの“注目してもらう”という役割。塩尻という場所があることを知らなければ塩尻に行く、暮らす、働くといった選択肢にも入れてもらえないので、まずは外部とのコミュニケーションからコンタクトしていこうという試みです。県外から信州大学に入学した大学生にとっても、指定された4つの研究テーマ(地域課題)に触れることで、塩尻という地域を知っていく効果があります」。

たとえば『空き家活用』というテーマでは中山道(木曽路)を代表する宿場町である奈良井宿、『スポーツでのまちづくり』というテーマなら松本山雅FCのホームタウンである塩尻市の、県外にいた時は知らなかったまちの存在や地域特性、そして特産。学生たちはそういった知識を、テーマを考えながら自然に身につけていくのです。

山田さん「次が『塩尻ブランドの確立』で、これは2018年4月から第2次中期戦略に付加された項目です。現在は既存の特産や産業を伝える段階から、塩尻がめざすイメージに沿って地域ブランドを創造する段階に来ていて、企画開発の工程も含めた新たな挑戦をしている最中なのです。今回の共同研究の検討中に新たな施策として決まったので、ワインや漆器、宿場町のプロモーションと併せて両輪で考える形にしました」。

2007年に信州大学と行った共同研究では、「知の交流と創造」をアイデンティティとした「地域ブランド戦略」を策定。それは、第五次塩尻市総合計画と同じ9年間のシティプロモーション戦略にも継承されています。そこで今回の研究ではそれらを具体的な形にし、社会に定着させたいとの思いがありました。そんな背景の中で、SMOUTの存在を知って導入を決めたという山田さん。

山田さん「総合計画にはKPI(※)が設定されているのですが、地域ブランド創造事業や移住定住促進のは効果が見えづらく、明確な仮説検証が難しい分野です。ですが、SMOUTを導入することで明確な指標が出せれば市の強みにもなり、地域ブランド戦略や挑戦の新たな結果指標になるのではと。また指標基準には市のホームページのビュー数も含まれるのですが、地域ブランド戦略に特化されていないため、行政サービスページの閲覧数も混ざってしまうんです。行政側では地域ブランドに特化したページの制作は難しい状況ですが、SMOUTなら関係者の閲覧や行動の数値がより明確になる。そうした点も導入を決めた理由です。テーマごとにプロジェクトをつくれば、閲覧数はもちろんスカウトの形で人が動く段階までも可視化できますよね。行政の指標としても適切ですし、学生には自分の行動の結果が見えて評価され、他の自治体の活動と比較できるので、大きな意味があると判断しました」。

※ KPIとはKey Performance Indicators(重要業績評価指標)の略称で、業績管理評価のための重要な指標をさす。

SMOUTでのフィールドワークが生んだ想定外の結果

さて、林先生の「地域ブランド実践ゼミ」で扱われるのは、想定課題ではなく地域の“リアル・プロブレム”。基本は今まさに市町村が直面している課題です。2018年度の4つのテーマ、「教育・子育て」、「ものづくり」、「空き家活用」、「松本山雅FC」も、前述のように塩尻市の総合計画から導き出したもの。たとえば、「松本山雅FC」を担当した学生は、富士ゼロックスの井戸聞多さんや松本山雅FCの神田文之社長を始めとする特別講師の講義を受けるなど、地域や産業の学びを深めながら各テーマの調査や企画、提案とプロジェクトを進めていきました。

教育に興味のある大学生、集まれ!小学生の教科の概念の枠にとらわれない、あたらしい学びを」 塩尻市の“地域と学校と子どもをつなぐ仕組み”をより有意義なものにする提案。市主催の教育イベント「tent」と学校主導の教育活動「コミュニティースクール(コミスク)」に着目、大学生を中心に幅広い立場や視点の人々が持つ経験・技術を用いたオリジナルな学びの開発をめざす。春休み中の子どもたちの宿題支援やコミスクの「学校と地域の協働」を通じ、新たな交流の場とプログラムづくりを行った。

『0〜3才』のお子さんを持つ塩尻市のお母さんへ。夕方の2時間でリフレッシュをしませんか?」 塩尻市がめざす「子育てしやすいまち」を実現する方法として、「子育て中のママが活躍できる」支援サービスを提案。具体的には、子育て支援施設閉館後の16:00から18:00までの2時間を活用した、塩尻市市民交流センター(えんぱーく)での0〜3才児ママ向け談話室の開設に取り組んだ。

長野県塩尻市・奈良井宿に新しい体験を!」 塩尻市の名所「奈良井宿」と名産の認知度アップを狙った若者向けプランの開発を行った。最終的に、奈良井宿の名品「曲げ物」弁当に、塩尻で採れた野菜で作った料理を好きに詰めてハイキングし、空気の澄んだ、景色のきれいな場所でごはんを食べる、鳥居峠での「漆の曲げ物弁当&ハイキングツアー」を提案。

しかし、当初の想定と変わったり、形にしきれなかったりしたプロジェクトも。たとえば「ものづくり」は、地元企業の従業員を巻き込んだまちづくりをゴールに、その第一段階としてコミュニティスクールを活用する想定でしたが、最終的にコミュニティスクールの活性化が中心になりました。また「松本山雅FC」では、クラブチーム側の広報課題をクリアできず、で残念ながらSMOUTへの掲載は保留に。とはいえ、これも“リアル・プロブレム”を扱った研究ならではの結果なのでしょう。

林先生「こんなふうに学生との相互作用でテーマが変動することを、塩尻市さんがある程度許容してくださっているのがありがたいですね。だからこそ学生も行政の方と自由に頭を悩ませ、ブランドを一緒につくっていくことができます。そこがこのゼミのメリットだと思っています」。 

名取「松本山雅FCプロジェクトは、掲載できなかったことが逆に興味深いですよね。SMOUTはWeb版のフィールドワークであり、距離が近くて何でも扱える実地のフィールドワークと違うはず。実地より遠くにあるはずなのに、権利問題という想定外の問題が影響して今回の結果が生まれたわけで、学生さんにはなかなかない経験だったと思います」。

取材に同席していた経法学部 応用経済学科2年の浅川雄介さんは、この「松本山雅FCプロジェクト」のメンバーだったそう。

浅川さん「通常の事業とは異なる、本当に貴重な経験をさせてもらいました。松本山雅FCの神田社長にお話を伺った時、とても熱い想いが伝わってきて、ぼくらも山雅のために何かしたいと思いました。それだけに、今までにないほどの事前調査とフィールドワークをし、頭を使って自分たちなりに最高の提案をしたつもりだったんですけどね。でも今回の体験は僕にとって新鮮で、これが現場だ、だから大人も困っているんだと実感できました。自分ごととして課題を捉える視点も持てた気がします」。

林先生「他の自治体や団体の方は社会人として自らの責任でプロジェクトを自由に立てられますが、学生は第3の当事者として、地域や講師のみなさんと一緒に企画する形で関わりました。SMOUTさんの想定とは異なる使い方になったかと思いますが、新しい学びの機会となったのはすごいことです。導入してよかったと思っています」 。

道具でもWebサービスでも、ユーザーが思いがけない活用方法を生み出すことは、ままあること。SMOUTとしては想定外の利用方法ではありましたが、サービスの可能性を感じる機会となったことは間違いありません。

SMOUTを活用する意義と学生の関わり方

信州大学のローカルイノベーター養成コースの特別講師として教鞭を執る大島さんは、実践を伝える特別講師として毎週学生と関わってきました。6カ月間の指導を通じ、いちユーザーとして、また学生たちにwebサービスを活用させる指導者として、SMOUTの機能や効果をさまざまな目線で分析した結果を共有してくれました。

大島さん「SMOUTにプロジェクトを立てる意義の半分は、『その課題について自分たちが何を思い、どうしたいと考えているか』の自己内省が進むことじゃないでしょうか。行政の担当でも、自分が何万時間もかけて扱ってきた問題だと思考が堂々巡りになりがちですが、それを整理する上でのよいテンプレートだと思いました。

特に学生だと、感情的に熱くなっても文章にすると弱い、淡々としていても文章は熱いというふうに考えと表現のずれが可視化される点、ユーザーに刺さるか否かが反応で可視化される点が非常に大きな経験となったと思います。今回は他と比較する段階には到達できませんでしたが、自己の生成物が大人や同世代に晒され、比較されると各世代に面白い人がたくさんいるという視点も育てられます。とても有力なツールだと感じました」。

名取「一般社会と大学生という異なるレイヤーで晒されるのは、また違う結果も生みそうですよね。大学内での、普段の自分の学びを同世代に晒す経験は普段あまりないと思いますが、そんな一面を出すことでまた意見が出て、新たなコミュニケーションが生まれる可能性もある。同世代ならではのシビアな意見も出るかもしれませんし」。

大島さん「予想外の意見や現象が起こりやすくなるだけに、不都合なことが起こった時に対応しようとして学生に成長が見られるわけですね。そういうやり取りを通じて『同世代に面白いヤツがたくさんいてヤバい!』と思えたら、SMOUTのようなプラットフォームを使う意味もありますよね」。

一方で、こうしたWeb上のプラットフォームを活用する時は、目標設定を正しく行うべきと注意を促します。プラットフォームは外部へのアピール前提に考えられているため、始めることだけは誰でもできてしまうから、とのこと。さらに「SMOUTを使う上でのスキルレベルも重要」と語る大島さん。

大島さん「プロジェクトをいろいろ読んでみると、想いや熱はものすごく伝わるのだけど、記事のつくりが甘いものもありそうです。でもSMOUTのような場だと、ある種の伝える力やテクニックも必要。そこで表現を練るからこそ、自己内省も進むのだと思いますけどね」。

プロジェクト用のテキスト制作段階で、具体化の速いプロジェクト、遅いプロジェクトとバラツキがあった一方で、メッセージの処理速度やSNSによるコミュニケーション力の高さなど、デジタルネイティブ世代ならではの親和性も感じられたという報告も。新しい技術を活用する学生の試行錯誤の様子が見て取れます。

大島さん「大学一年だと、発表用の文章を書いたことはあっても、自分の話を聞いてもらうための文章を書いたことがない人がまだ多いんです。レポートは先生が絶対見てくれるという前提ですが、インターネットの文章は興味がなければ2秒で閉じられてしまう。そこに残酷さを感じないからネットサーフィンができるわけですが、今の大学生に合った、面白さも感じられる空間だと思います」。

また別件でのインターン生との対話を通じ、ネットコミュニケーションがシティプロモーション活動をスピードアップさせたと実感したと語る山田さん。SMOUTもそうしたツールのひとつだと力を込めます。

山田さん「リンク、コピー、ペーストで伝達できる情報先を4種類いただけた感じがありましたね。たとえばコミュニティスクールへのお誘いも、SMOUTへのリンクをLINEなどに貼るだけなので、『こんな感じだけど来ない?』という最初のアクションが気軽に打てました。リンク先で学生の様子も簡単に見えますしね。ただ情報は掲載や送信しただけではダメで、その後でちゃんと一押しすることが重要だということは、学生もいいねの数の推移で学んだのではないかな」。

では、プロジェクト担当のもうひとつの役割であるメッセージ返信や対応は、どのような状況だったのでしょうか。

山田さん「SMOUTを一番よく表した単語って“出会い系サイト”だと思うんですよね。元ナンパ師的に言えば、シティプロモーションとしては、まずは現場に来てもらえなければ成功にはなりません。地域ブランドも同様で、認知度を上げるだけではなく塩尻に体験に来てもらったり、住みたいと思ってもらえたりしないといけない。ですから僕が担当したチームには『あなたの書いた記事で動いた人を最後まで追ってほしい』とお願いしました」。

担当の学生にいいねを押してくれたユーザーをリスト化し、リマインドとアクションをデータ化するような指導をしていたという山田さん。元ナンパ師ならではの細やかなフォロー術には、改めて感心させられます。

大島さん「ただ、こうしたリマインドやメッセージの一押しはできるけど、プラットフォームは進行中の失敗が見えづらい部分があるかもしれませんね。これは長所であり弱点なのですが、テンプレートで誰でもそれなりに見えてしまう分、逆に「いいね」が伸びない理由もわかりにくい。もうひとつ、松本山雅FCプロジェクトが掲載できなかった悔しさも大きな気づきなのに、そういった挫折経験は表に出せないので、ロールモデル化ができない。もしこうした経験が『ここを途中で失敗したからやめよう』という気づきに繋げられるとしたらいいですね。でも、SMOUTは想定外の使い方もできそうな仕組みなので、指導者としては今後、学生にいかに裏技的に使うかも促していくことが重要だと感じました」。

さらに、実際の提案プロジェクトに対するユーザーへの伝わり方と学生の表現に関する分析も。そうした大学や行政、講師が学生たちのがんばりに愛情を感じ、またSMOUTを教育に応用する可能性を見出すだけの効果もあったのに、なぜ圧倒的な結果には繋がらなかったのか、というなかなか刺激的な検証です。実際の「興味ある」は、「教育に興味のある大学生、集まれ!小学生の教科の概念の枠にとらわれない、あたらしい学びを」が67、「『0〜3才』のお子さんを持つ塩尻市のお母さんへ。夕方の2時間でリフレッシュをしませんか?」が55、「長野県塩尻市・奈良井宿に新しい体験を!」が60と、ネット関係人口スコア上位の市町村にも食い込む数値を獲得しているのです。

大島さん「まず、学生たちの文章が拙くて内容が伝わらず、応援に繋がりにくかったことがあると思います。もしサイト上でそういう表現の拙さ、そしてその成長過程が形にできるとしたら、みんな応援したくなるんじゃないかな。そこに、たとえばホームタウンのような地域が絡むと『うちの地域のために』という土着的な応援心も加わってきますしね」。

期間中は夜遅くまで居残りしたり、何日も調査を続けたりしたチームも多かったのだとか。大学に入学して半年ほどの学生が、現実の社会問題に取り組み、答えを出すのは並大抵ではなかったでしょう。基本のグループワークに加え、広く人々に伝えるためのプロジェクト用の文章をつくり、学外との関わりを続けていく難しさもある。そんなハードルを乗り越えた経験は大きな自信になったはず。その後の3年間の学生生活を変えてしまった可能性だってあります。 

浅川さん「そうかもしれません。ゼミ中に『これなら自分ができる』と思った課題は、じつは複数の課題が混ざったレベルも高いものでした。林先生はよく『山頂を目指すにはまず登山道を探し、一歩目を踏み出すことが大事』だと仰っていましたが、僕の場合は一歩目ではなくずっと先の課題だったんです。でも、その無謀さも1年だからこそできたのだと思いますし、今から始めれば、卒業までには最初に掲げた課題にも到達できる気がしています」。

SMOUTユーザー同士の連携をどう形にし、次年度へと繋げていくか

みなさんの分析によるさまざまな発見とともに、SMOUTに期待される要素や機能も見えてきました。たとえば、横の連携とそれによるノウハウ蓄積の機能。じつはSMOUTはユーザー同士の連携も可能なつくりになっているのですが、その点はまだ塩尻市では積極的に使いこなせているとは言えません。

林先生「SMOUTのプロジェクトを活発に動かすための工夫として、各チームのLINEグループをつくり、他チームの考え方や行動が全員に見られるようにしました。こうすると他のチームの進捗に焦り、触発されるんですね。この仕組みはSMOUTの横の交流とも近い構造でしょうから、プロジェクトの企画段階でも交流ができるとより面白くなる気がします」。

大島さん「SMOUTさんでは、SMOUTさん、塩尻市さん、地域ブランド実践ゼミ、各プロジェクトそれぞれを動的なページとして見た場合、抱合関係か相互関係かどちらになるのでしょう」。

名取「プロジェクトは自治体の枠内に含まれますが、全体としては相互関係を想定して開発しています。今回のプロジェクトもそうで、もし松本山雅FCプロジェクトが成功したとして、足りない要素が出てくれば他のプロジェクトの知見を活かすことになったはずです。サービスとしては、そういう世界観を提供できたらと考えています」。

林先生「自治体のユーザーさんは役場職員のみならず、地域のイノベーターなども多いでしょうから、交流事例というか、広域事例も出てくるといいですね。観光資源に頼った地域だと施策が頭打ちになりやすい。でも今の自治体ベースに加え、複数の自治体に跨がるテーマベースでもプロジェクトがつくれたら、地域を超えた案件も扱えると思うんです。たとえば、松本山雅FCのホームタウンは7の自治体に跨がっていますが、松本市より生坂村や山形村を先に訪れようという県外の方はレアでも『松本山雅FCのホームタウン』と括れば、各地域への間口は広がります。これができれば、資源ベースの考え方もできますからね」。 

名取「フィールドワーク的な使い方もプロジェクトひとつが掲載できない結果も、当初は想定外でしたが興味深い経験となりました。具体的な内容であるほどWebサービスにも公共性が介在すること、本来ならWebサービスは空中戦のはずなのに今回はかなり地上戦に近かったということ。これらがあったことで新たな展開に広げられたと思うと、非常に有意義な取り組みだったと思います」。

2019年度の実施が決まった地域ブランド実践ゼミ。やはりテーマは4つです。まず7月1日オープンの北部コミュニティ交流拠点「えんてらす」の運営課題やニーズ調査に基づくアクション提案、次に「松本山雅FC」観戦客の各ホームタウン誘導と滞在型観光提案、そして地域おこし協力隊と連携した地元企業への採用活動に係る「移住定住促進」提案、最後は森林資源を事例に身近に感じてもらイベント等を実施して「地域資源活用」に繋げるための提案です。

山田さん「今年度はまずお話を伺うオーナーさんを決め、事前に我々が地域の課題解決に取り組む人や地域ブランドを担う人にヒアリングして、学生が最初の一歩目を踏み出せそうなテーマや学生に知ってもらうことで利益になるような課題や規模感の設定をしています」。

林先生「といっても登山口を定めただけで、それ以降のやり方は今年度とほぼ同じです。ただ、以前は市長報告会が最終で客観的な評価面が弱かったのですが、SMOUTの導入で地域を越えた多くの人々に見ていただける機会が広がったと感じています」。

地域ブランド実践ゼミへの協力は、SMOUTとしても大きな学びと発見を得たプロジェクトでした。

ユーザーの柔軟な発想がサービス提供側には思いつかない活用方法を生み、新たな広がりをもたらしてくれる。こうした相互関係がつくる進歩は、さまざまなものの歴史をみても明らかです。今後もSMOUTでは、教育機関や自治体の方々とのプロジェクトを通じてWebサービスと教育の可能性を追求できればと考えています。そして、地域活性や移住定住の研究ツールとして「SMOUTをハックする」ことがいつかトレンドになるかもしれない。そんな未来への微かな期待も感じさせてくれる鼎談でした。

文 木村早苗
写真 池田礼

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