地域ならではの暮らしは、こんなに楽しい。滋賀県長浜市・船崎桜さん/長野県塩尻市・上田直子さん/宮崎県椎葉村・小宮山剛さん【地域おこし協力隊図鑑 #07-09】

地域ならではの暮らしは、こんなに楽しい。滋賀県長浜市・船崎桜さん/長野県塩尻市・上田直子さん/宮崎県椎葉村・小宮山剛さん【地域おこし協力隊図鑑 #07-09】

日本全国で5,000人以上が活躍している地域おこし協力隊。そのひとりひとりがさまざまな思いや夢を持って地域と向き合っています。

地域おこし協力隊になることは、今までの暮らしを離れ新しい環境に飛び込むことでもあります。仕事を変えるだけでなく、気候も風土も文化も変わります。今回は都市部から地域へと移り住んだ3人にお話を聞きました。

一人目の船崎桜さんは、東京都新宿区から滋賀県長浜市の田舎へ。今まで味わったことのない地域の人たちとの昔ながらの交流が楽しいと話します。二人目の上田直子さんは大阪市から長野県塩尻市の山の近くへ。空気が美味しいことが生活のクオリティを上げるといいます。3人目の小宮山剛さんは東京都世田谷区から日本三大秘境の宮崎県椎葉村へ。でも「意外と普通」だと感じたそう。田舎に馴染めるか不安に思っている方は、参考になるのではないでしょうか。

 \移住者仲間と雑誌をつくる!
#07 船崎桜さん(滋賀県長浜市)

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移住者仲間と雑誌をつくる

私のミッションをざっくり言うと、移住者や関係人口を増やすことです。大学卒業後の6年間、新聞記者をしていたので、そのスキルを活かして情報発信を中心に活動しています。具体的には移住検討者向けのパンフレットの制作や、移住支援サイトのリニューアル、勉強を兼ねて空き家バンクの運営のお手伝いをしています。

加えて、移住者仲間たちと“イカハッチンプロダクション”という編集プロダクションを立ち上げ、雑誌の制作を進めています。メンバーはライターやイラストレーター、写真家などバラバラな本業を持つ女性8人です。自分たちで何かに取り組んで、長浜での楽しい暮らしを実現する基盤にできれば、と思ってつくりました。

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大都会を離れ人の縁がある場所へ

新聞記者としての初任地が滋賀県で、その頃から長浜市を含む湖北がいいところだと聞いていました。その後、退職して広報やフリーランスのライターや編集者をしていたころ、私より先に記者を辞めて長浜市へ移住した、滋賀で働いていた当時の先輩と話す機会がありました。

私は大都会の暮らしにそれほどメリットを感じていませんでした。先輩に「東京に住み続ける気はあまりない」と話したら、「長浜市においで」と誘われて。そこから移住を考え始めました。田舎のスローライフへの憧れはなかったのですが、これから40年、50年と生きていくことを考えたときに、いつも人混みに揉まれながら歩かなければいけないような環境から離れる選択肢もあるなと思って。

それで仕事を探す中で、地域おこし協力隊の情報をもらい、決心しました。意外と合理的に考えた結果の選択だったと思います。

田舎ならではの暮らしが楽しい

長浜市は多様なエリアがありますが、私が暮らしているのは、市内の人にも驚かれるような山あいの集落にある古民家です。それでも車で15分ほどの場所にはスーパーもコンビニもあるし、40分ほどの場所にはスターバックスもあるし、生活の不便さは感じないですね。逆に、朝起きて、外を見たらすごくきれいな川が流れていて、今は雪で真っ白になったきれいな山々が見えて、それが当たり前の毎日というのはとても贅沢な暮らしだなと思っています。

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いちばん東京と違うと感じるのは、集落の人たちとの交流が濃密なことです。野菜をたくさんいただいたり、神社などで古くからの行事が季節ごとにあって、そうした行事に呼んでもらったり、どれも初めての経験なので楽しくて。

聞いてはいたけど、本当に実際にこういう文化が残っているのを体感して、どうしたら残していけるかを考えるようになりました。

雑誌『サバイブユートピア』に「好き」や「長浜への愛」を詰めて

現在は、イカハッチンプロダクションで創刊する雑誌『サバイブユートピア』の制作にみんなで一生懸命取り組んでいます。雑誌のタイトルには、自分なりに理想の場所だろうと思って田舎を選んで移住してきた私たちが、楽しくて素敵なこともあるけど、大変なこともあって、でもその中でサバイブしていくんだ、という決意を込めました。個性豊かなメンバーの「好き」や「長浜への愛」が詰まっています。3月3日の発売に向けて、取り組んでいるところです。全国から購入できるので、詳しくは、私たちのインスタグラムをご覧ください。

移住して4ヶ月ほどたち生活も落ち着いてきたので、長浜市の情報発信やPRについてもより本格的に力を入れてやっていきたいと思っています。

自分はどんな課題に挑戦できるか

自治体によって協力隊の位置づけや地域との関わり方、行政の方のスタンスなどはまったく違うと聞きます。なので、できるだけ協力隊経験者やすでに移住している方に直に話を聞く機会を持つと、自分がそこで協力隊としてどのように動けそうかイメージが湧くのではないかと思います。

地域には課題が山積みというマイナスイメージもありますが、それは最先端の課題に挑戦しやすい場所だということでもあり、都市部とは違って、そこで暮らしている人に直接向き合う働きかたができる場所でもあります。田舎暮らしも楽しいので、そんな働き方に興味がある人は、ぜひ挑戦してください。

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着任した年月:2021年9月
着任前の居住地:東京都新宿区
出身地:埼玉県本庄市
着任前のお仕事:新聞記者(6年)→ITベンチャー企業広報(1年4ヶ月)

 \山に近くて地域に入るきっかけがある場所を探して
#08 上田直子さん(長野県塩尻市)

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地域の人と関係人口の関わりを深める

塩尻市では、以前から官民連携プロジェクトが盛んですが、都市部のスキルを持った人たちに副業で関わってもらいながら地域課題を解決する“MEGURUプロジェクト”を展開しています。私はそのお手伝いをしながら、外部の人と地域との接点をつくって、関係を深めていくコーディネート業務をしています。

具体的には課題を探すところから始まって、それをわかりやすい形にして関わってくれる外部の方を募集して採用し、解決していきます。加えて、関係人口のオンラインコミュニティ「塩尻CxO Lab」の運営のお手伝いをしつつ、そこに参加している方々との関係性を構築しています。

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山に近くて地域に入るきっかけがある場所を探したら、塩尻だった

山登りやスキーが夫婦の共通の趣味で、ライフステージの変化とともに、夫婦で山の見える自然豊かな場所で生活したいという想いが強くなりました。3年ほど前から移住候補地を探していて、親しみのあった長野県に加えて岐阜県の高山市や京都府の丹波篠山などに滞在してみたんですが、その中で、仕事を得るなどなにかきっかけがあってそこで人との関係性をつくって地域に入っていけるような引っ越し方をしないと、そこで何かを始めるのは難しいと思うようになりました。

私も夫もフリーランスになったので、何かきっかけがみつけられないかと探した中で出会ったのが、塩尻市の地域おこし協力隊の募集でした。

塩尻市は山に近いけれど、積雪量も少なく晴天率が高いし、都会ではないものの田舎すぎない程よい規模のまちであることも気に入りました。実際に、面接を受けてすでに地域おこし協力隊として活動している方たちにあってみたら、本当に元気でイキイキされている方が多くて。塩尻市は協力隊のミッションに使わなければいけない時間は週のうち一定の時間と定められていて、他の時間は好きに使っていいんですが、みなさんその時間を使って自分のビジネスや興味の範囲でやりがいを見つけて、本当に好きにやってらっしゃるなと。

おいしい空気や山に近いことで生活のクオリティが上がる

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塩尻市に移住してよかったのは、まず空気と野菜が本当に美味しいことです。正月に大阪に帰ったんですけど、吸う空気のクオリティが全然違って、空気がこんなにQOLを高めるものなんだと感じました。山が近いので、休日の朝起きて、天気を見てすぐ山に行けるのもよかったことですね。デメリットとしては、そこまで都会的な生活を求めないだろうと思って移住を決めたんですが、気軽にご飯を食べに行ったり飲みに行ったりできない生活が続くと、都会への恋しさを感じることはあります。私たちは二拠点生活をしていて、たまに都会に行ったりすることが息抜きになっている部分もあると感じます。一気に移住を決めてしまうよりは、自分の中で余裕とか余白を設ける意味でも、可能であれば、二拠点生活から入ってもいいのかなと感じています。

関係人口に力を入れながら農業にも携わっていきたい

今後の目標は、プライベートでは薪ストーブのある家に住むことですが、仕事の部分では、塩尻の魅力をPRするとともに、地域の人たちにも副業人材と協働・共創することのメリットを伝えていきたいということです。

ここ一年くらいは、PRの強化や関係人口の関わりしろをつくるためのイベントの企画などを行いながら、自分のやりたいこととつなげられたらと考えています。

有機農業に興味があって学校に通っていたこともあるので、農家のお手伝いをしながら、その課題解決に携わる活動ができないかなとも考えています。塩尻市はぶどうの産地でワインにも興味があるので、その部分でできることがないか探してみたいなと。

家族やパートナーとの関係を大事に

地域おこし協力隊って何をするのか定まっていないところもあるので、自分だからこそできることってなんだろうって考えて、自分で提案するような姿勢でのぞんだほうがいいと感じます。できることを持っていければもちろんいいですが、そうでなくても自分がやれること、やりたいことを見つけようという姿勢でのぞむことで、有意義に過ごせるのではないでしょうか。

移住という意味合いでいうと、憧れのみでは動かないこと。パートナーや家族と考えを共有して、理想と現実のギャップが生じないように、じっくり話し合って納得して移住することが大事だと思います。

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着任した年月:2021年7月
着任前の居住地:大阪府大阪市
出身地:兵庫県明石市
着任前のお仕事:会計事務所勤務

どこにもない図書館をつくる!
#09  小宮山剛さん(宮崎県椎葉村)

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秘境に日本のどこにもない図書館をつくる!

日本三大秘境と呼ばれる宮崎県・椎葉村にて公共図書館(椎葉村図書館「ぶん文Bun」)の立ち上げプロデュースを行い、現在は運営に携わっています。日本のどこにもない図書館をコンセプトレベルから考えた結果、多数の新聞・テレビ・ラジオ・Webメディアに取材していただけるようなユニークで新しい感覚の図書館ができ上がりました。

通常図書館では本がズラッと番号順に並んでいますが、本ってもっと有機的なつながりあいがあるものだと思うので、図書館のルールをいったん忘れて椎葉村独自でルールをつくって三次元的な、縦にも横にもつながるよう本棚にしたんです。

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セレンディピティを生む図書館ってよく言っているんですが、神保町の古本屋街を巡っていると、どうでもいい本におって思ったりする感覚が椎葉村でも体験できるような、見て回るだけでも楽しい図書館ができたと思います。

それに図書館ができたら完成ではなく、本棚を置く場所を簡単に変えられるようにしています。情報は動いているし、人の気持ちも毎日動いているので、本をそれにあわせるという気持ちで、今日入れ替えようと思ったらすぐに入れ替えるということを続けています。

「クリエイティブ司書」と「日本三大秘境」の“怪しさ”に惹かれて

もともと福岡出身で、「九州のどこか魅力的な地域」で移住先を探していたときに、移住するなら地域おこし協力隊がいいと聞いて、ちょうどSMOUTで椎葉村が「クリエイティブ司書」というミッションで募集しているのを見て。図書館に縁はなかったんですが、何か惹かれるところがあって、これだ!って応募しました。

日本三大秘境というのもいいなと。そんなレベルが違う田舎に行ってみたら自分はどうなっちゃうんだろうという不安と期待がありました。今でも「日本三大秘境」という言葉を見た時の僕の中での化学反応があまり理解できていないんですが、すごい惹かれちゃったんです。

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秘境ならではの空気と、「意外と普通」な暮らし

初めて椎葉村に行ったのがクリスマスの日で、都会と比べるとイルミネーションもないし、すごい静かな場所だなと思いました。都会と比べたときの、雑踏のなさ、雑音のなさ、冬の澄んだ空気の清涼感や清明さを感じて、ここで暮らしたら自分は変われるんだろうなって期待度がバク上がりしました(笑)。

実際、住んでみると都会が恋しくなることはありますが、実は椎葉村は九州のほとんど真ん中にあって、今は道路交通網も発達していて、福岡にも3時間くらいで行けるので、行こうと思えばすぐ行けるんです。秘境暮らしというと腰が引けてしまうかもしれませんが、「意外と普通なんだな」ということのほうが多いですね。

10年かけて図書館を根付かせ椎葉村の魅力を全国に発信したい

この3月で地域おこし協力隊の任期を終えるのですが、ここで図書館を手放しては、村の子どもたちへの責任を全うできないので、終わったあとも椎葉村役場の職員として図書館に関わり続けることにしました。

図書館がしっかり使われるようになって子どもたちの文化力が上がって、大人も文化的になるには5年、10年という時間がかかることは、コンセプトを立て始めた段階からうすうす感じていたんです。着任当初は協力隊が終わったら起業して好きなことをやるっていうのも頭にあったんですけど、今は迷いなく図書館を続けることを選びました。

「ぶん文Bun」のコンテンツを全国的に知られたものにし、「椎葉村ってすごいね」と椎葉出身の人が言われるような時代をつくることで、Uターン創出のきっかけになったらいいなと考えています。

大切なのは「自分で決める」こと

他の地域の地域おこし協力隊募集も面接を受けたりもしたんですが、最終的には、椎葉村の「クリエイティブ司書」が勝ちました。でも、複数検討することは大事だと感じましたね。協力隊としての移住は、やはり活動内容が大切。ミッションに惹かれるかどうかは大きな要素です。

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私は直感で決めたところがありますが、前もって体験するのも大切なように思います。自分で考えて決めたことは後悔がないので、自分で情報を探して自分で選択することが重要だと思います。

協力隊の活動にしても、人の考えを待つのではなく、自分の足で探して、自発的な行動をしていかないとうまく行かないので、「自分で決める」ことを大切にしてほしいです。そうしたひとつひとつの決定こそが、自分で自分の人生をコントロールしている感覚につながり、大きな満足感を生んでくれると思います。

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着任した年月:2019年4月1日
着任前の居住地:東京都世田谷区
出身地:福岡県福岡市
着任前のお仕事:都市ガス会社、石油業界新聞記者
地域おこし協力隊としての活動は、新たな地域に入り、そこで暮らしていくということでもあります。地域の人とともに、自分のやりたいことを実現するために、自発的に動くことが必要になりそうです。そして、自分がしたい暮らしを見つける意味でも、地域おこし協力隊は実現への近道になるのかもしれません。

文 石村研二