カヤックLivingとBusiness Insider Japanが、三重県・奈良県・和歌山県3県合同で行ってきたワーケーションプロジェクト「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」。ゲストハウスで滞在しつつ、コワーキングスペースでリモートワークができ、さらにあいた時間で地元ならではの様々なアクティビティが体験できるという実証実験で、和歌山県でもさまざまなイベントが行われました。
田辺市でのプログラム内容に加え、白浜町のコワーキングスペースInnovation Springsで開催されたトークセッション「東京を離れたら、何が見えるか」をレポートします。
田辺市でワーケーションを体験する
紀伊半島の南西、和歌山県の紀南地域に属する田辺市は、田辺市、龍神村、中辺路町、大塔村、本宮町が2002年に合併してできた市です。人口は、2019年時点で約73,000人。旧田辺市の海岸寄りは市街地となっていますが、それ以外は、日高川、富田川、日置川、熊野川の4水系を抱える広大な森林地帯にあります。黒潮による海産物や山の湧水などの資源ももちろん豊富。こうした自然と資源を背景とした観光や第一次産業などに高いポテンシャルを見出す人々が全国から集まっており、今では地域資源を活用した新たな取り組みが続々と生まれている面白い場所なのです。
また、陸路移動だと若干の大変さはありますが、羽田空港から南紀白浜空港までは飛行機で約1時間。空港から市街地までバスや車で約10分という便利さもポイント。そして、古くから多くの観光客を受け入れてきた土地柄もあってか、新しいものや人に対して柔軟に接してくれる地域の人々の温和さは、日常の張り詰めた気持ちを緩めてくれるところがあります。つまり、ワーケーション視点で見てもかなり魅力的な場所と言えるのです。
ちなみにこの都心からの交通の便のよさは、筆者自身もかなり驚いた点でした。今回の田辺市のプロジェクトには、他地域と同様に全国から参加がありましたが、都心の人ほどその利便性に驚いていた様子。
白浜の絶景を見渡せる御船足湯で足湯を楽しみながら仕事をしたり、常連さんに混ざりながら町の喫茶店でブランチを取ったり、漁港でのしらす丼のおいしさを実感したり、この土地ならではの「みかん交流会」で身近なみかんの奥深さを知ったり。片道1時間もあれば日常とは全然違う景色(そして仕事も滞りなくできてしまう)に気軽に飛び込める。そんな田辺市の魅力と面白さを、それぞれに発見していたようでした。
そして、今回のワーケーションプログラムの舞台の一つとなったのがこちら。コミュニティスペース「シリコンバー(知理混場)」です。田辺市で注文住宅の建築や施工を行う高垣工務店が、さまざまな地域の課題を解決できる場をつくりたいと2018年4月にオープンしたそうです。
倉庫をリノベーションした空間は広々としていて、入社式や研修会などの社内イベントのみならず、社外の人もカフェやセミナー、ワークショップなどのイベントまたコワーキングスペースとして自由に利用することができます。自由度の高い空間ならではの、テーブルセッティングから全員で行う作業もまた楽し。いろいろと用意されたコーヒーやお菓子なども楽しみながら、参加者は思い思いに仕事に取り組んでいました。
また田辺市のプログラムでは、JR紀伊田辺駅前の味光路(あじこうじ)にある築80年の古民家をリノベーションしたカフェバー・ゲストハウスThe CUEでの「築80年の古民家を再生したカフェバーで、地域のキーマンと交流会!」や、歴史や文化などに詳しい語り部さんの話を聞きつつ熊野古道を歩く「蘇りの道、世界遺産を語り部さんと歩く熊野古道ウォーク」、標高500mの自然豊かな山間地域で活動するアーティストと制作体験ができる「自然豊かな山深いアーティスト村「龍神村」で1泊2日仕事体験」などが行われました。
トークセッション「東京を離れたら、何が見えるか」
最後は、プロジェクトの一つとして開催されたトークセッション「東京を離れたら、何が見えるか」のレポートです。登壇者は、Business Insider Japan統括編集長の浜田敬子さんとユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社取締役人事総務本部長の島田由香さん、東京から田辺市に移住したTETAU有限責任事業組合理事・森脇碌(ろく)さんです。
3人についてご説明すると、浜田さんは「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」の発起人の一人。そもそも、日常業務の忙しさから「普段とは違う場所で仕事をしたい」と、2018年に初めて面白法人カヤックの鎌倉本社内に第2編集部を設置。働く場所を変えることで作業効率の向上や開放感を経験し、2019年5月には再び長崎県・五島列島に「最も遠い編集部」を設置し読者参加型のワーケーション実験を行いました。本プロジェクトは、浜田さんにとって、その“場所を変える力”を実感する3回目の実験に当たります。
ゲストの島田さんは、社員が幸せを感じられ能力を発揮できる勤務環境づくりに長年取り組んできました。現職のユニリーバ・ジャパンでも2016年に勤務時間や場所を問わない勤務制度「WAA(ワー)」を導入。2019年からはWAAを地域活性に応用した「地域 de WAA」を展開しています。
地元、田辺市から参加の森脇さんは福井県出身で、東京都から移住。子育てを始めとする家庭の事情や在宅勤務の必要からデザイナーに転身。クラウドソーシングを中心に業務を始め、クライアントのいた田辺市への出張をきっかけに和歌山県との交流が始まりました。数回の往来を経て、2年前に家族と移住。現在は県のワーケーション推進に携わり、受け入れプログラムの作成などを行っています。
浜田さん「まず、島田さんの「WAA」と地域での活動を教えていただきたいのですが」。
島田さん「WAAはWork from Anytime Anywhereの略で、結果を出せば5時から22時の間でいつどこで働いてもいいという仕組みです。WAAをスタートして1年ほどたった頃に、地域創生と親和性が高いことに気づいて「地域 de WAA」を始めました。働く場所の選択肢を地域にも広げることで、社員は普段と違う環境で働き、脳科学的にもいい影響を受けることができます。実際に、地域だと集中できるので、普段の半分の時間で作業ができるとの結果もあります。言葉や企画を考える時に使う前頭葉をそれだけ活性化させる力があるんです」。
また、社員が業務以外の時間を使って地域に貢献できる可能性もあります。例えば、商品PRやマーケティングのスキルを活かして特産品を売り出すお手伝いをするといったことです。現地でお手伝いや作業をすると、自分の力が役立つと気づいて気持ちが高揚し「ポジティブな感情」が得られるとも。また人の幸福感にも影響し、やる気やパフォーマンス向上にも繋がるのだそう。「地域 de WAA」は現在、6自治体で推進中。またプロジェクトを進めている場所には、自治体や企業、住民の中に周囲を巻き込む力を持つ「いい意味での“変態”」、つまりキーパーソンがいると語ります。
浜田さん「田辺にはそういう方がいますか?」
森脇さん「いますね。県内にもたくさんいると思うんですが、そういう方ほど自覚症状がないので表にはあまり出てこない気がします」。
浜田さん「森脇さんは移住2年目と思えないほど地元に詳しく、人脈もあります。それほどの行動力や人脈の広がりはどうやってつくられたんですか?」
森脇さん「和歌山って「こうすればいいのに」と思ったことを発信していると、取り組ませてくださる場や余裕があるんです。現在は自営型テレワーカー育成とワーケーション推進に取り組んでいますが、事業にできたのは人との繋がりがやはり大きいです。地域には意見を言う場が少ないし、元々主張をよしとしない空気もありますが、そういう場所に都会から来た“いい意味で空気を読まない人”が発言することで空気が変わり、何かをしたいと思っていた地元の人が繋がることはあるでしょうね」。
最初の一歩を踏みだす際に賛否両論の意見が出るのは、どんな活動でも同じです。浜田さんも五島列島のワーケーション実験を提案した際は周りに不思議がられ、半ば引っ張る形で進めたと言います。
浜田さん「東京だけでは日本を知っていることにならないので、若い世代にも地域を見てほしかったんです。これからのビジネスは社会課題の解決が不可欠ですが、そうした課題は地域に比較的多いですから。ただ、新しいことをやろうとすると負荷がかかるんですよね」。
島田さん「「WAA」の導入当時は、売上に直結しないのになぜ時間を割くのかと言われたこともあります。でも、信念があってやっているんです。名目上の時短や残業減よりも、人生の自己表現の一つである仕事に社員が夢中になれて、豊かさを感じられる環境にするほうが大事。だからこそ、働く場所も時間も自分の一番を知る社員に任せたのです。"シンパイ"から"シンライ"にマインドに変えることが大事だということです。一字違いですが大違いですよね。「地域 de WAA」も同じ。なぜ地域かと言われましたが、我々が東京で得てきたビジネスの慣習や知識は、社会のほんの一部。新規事業の開発や価値の向上を求められる今、知らない土地を訪れ、新しい人々出会ったり、自然に触れたり、地域に貢献したりすることが重要であり、社員の幸せやパフォーマンス、ひいては結果として会社の利益にも繋がると訴えたのです」。
場所を移すことと人の能力を引き出す力
「地域 de WAA」は、交通費を社員が負担して参加しますが、これは地域に向かってもらうための意図的な仕組み。その地域の課題とアクティビティ、宿泊費の補助がある情報だけを伝えます。地域の滞在中もビジネスツールで業務チェックできることも含め、「これなら行ってもいい」と思ってもらえる仕掛けになっています。
島田さん「私も、4年前に初めて地域を訪れたのは人に誘われたからでした。自然の豊かさや食べ物のおいしさに「日本はこんなに美しかったのか」と驚き、「地域の人はこんなに熱くて優しく、すごいものをもっている」と衝撃を受けたんです。ですから社員にも、知らない土地を知るきっかけにしてほしいと考えています」。
浜田さん「五島でも、Wi-Fiと電源があればかなり普通に働けると感じました。場所を動かせば仕事も休暇も両方手に入るんですよね。その土地の自然や食べ物を楽しみつつも、休んで仕事が滞るストレスも抑えられる。そのことで、自分の人生をコントロールしていると感じられたのが大きくて」。
島田さん「それはまさに、幸せを感じるポイントの一つ「センスオブコントロール」(自分でコントロールしている感覚)です。ポジティブ心理学でも、自分で決めて実現することには重要な意味があるんです」。
浜田さん「島田さんは地域資産に自然と人と食べ物を挙げておられましたが、東京から地域に来られた森脇さんは何だと思いますか?」
森脇さん「モノとヒトとコトと場があるんですが、それが融合した時の力でしょうか。こちらでは人にとの繋がりが強くて、同じ会社や学校でもないのに何かを一緒に取り組む機会が多いんです。東京でのチームの感覚とはまったく違うことに不思議な魅力を感じています。じつは田辺に来た時にも、そのエネルギーがイノベーションを起こす種になる予感があったんです。この周辺に移住されてきた方はみなさんそう言いますね」。
森脇さんは、和歌山に移住するまではデザイナーとして活動。移住のきっかけもグラフィックデザインの仕事だったにも関わらず、なぜワーケーション事業に関わることになったのでしょう。そこには、広義の意味でのデザインに繋がる一つの体験があったそうです。
森脇さん「最初に来た頃は、じつはゆっくりしているなぁと感じたんです。仕事は無駄を減らして生産性を上げることが当たり前だという認識があったので、「早く仕事したい」と思いました。それが、みかん農家さんに伺って取材をした時、みかんの木やジュースのおいしさを知って衝撃を受け、認識が大きく変わったんです。みかんのジュースを農園で飲んだり、みかんの木が意外に小さいことを体験して、「社会」というのを自分の見えている部分だけと勘違いしていたと感じました。そして「どうせデザインするなら、こういうもののデザインをしたい」と。他の人にも体験してもらいたいと東京から友人を呼ぶうちに、ワーケーションを通じて自身が移住したのち、ワーケーションは他の人の学びの機会にもなると思い、事業化しました。最初は、現場の経験をデザインに活かすようなクリエーター育成をしていたのですが、そこからワーケーションプログラムの作成へと広がった感じです」。
浜田さん「生産性や効率とは何かって話ですよね。東京だと時間的な無駄をなくすことだけど、地域だと東京では無駄だと感じる行動が効果を上げるのだから、生産性の考え方が変わりますね。ワーケーションの認識も少し変わりました。農家での経験が仕事に繋がるように、暮らしと仕事がシームレスになるのだとわかりました」。
森脇さん「そうですね。職業による所はありますが、そのエッセンスを幅広い職業の方に感じていただきたいんです。地域には価値観を変える学びが多いですし、それを体験することで生産性も上がるはずですから」。
島田さん「すばらしいですね。そういう変化はどの地域でも起こせるし、そのためのキーマンがいると思います。刺激を受ける機会が与えられるのは、東京と地域の人の出会いにある。こうした働き方を通じて刺激を受け、変化していく人たちが未来の可能性を秘めていると思うとワクワクしますね。じつは私は、結果しか表さない生産性という言葉が好きではないんです。それをやるのは自分たちであり、そこには体調や気分など身体や心にあるものが影響しています。だからこそ経営者にはアウトプットの裏に何があるのかを考えるべきだと思います。みかん農家での経験は、まさに自分の身体や心で受け止めたものですよね。完成物の価値をそれをつくった人やその人の経験に置いていることに共感します」。
ワーケーションを拡大させるために必要な取り組み
トークセッション中、リクルートのアンケート調査における「首都圏の20代の4割が地方の就職を望んでいる」データが取り上げられました。地域への注目が高まる一方、首都圏と圧倒的な違いがある給料面と、車に必要性を感じない世代ならではの交通手段に不安を感じているという結果です。また、子どもが小さいうちに二拠点居住をして田舎を経験させたいと考えるワーキングマザーも増えていますが、教育制度にはまだまだハードルがある状況。彼らがワーケーションに踏みだせる環境をつくるには、これからどんな工夫が必要なのでしょうか。
浜田さん「私が五島の人を巻き込んだ理由でもありますが、給料や交通に不安を持つ層を始め、さまざまな不安を持つ彼らがワーケーションに踏み出すには、何が必要だと思いますか?」
森脇さん「私がなぜ移住できたかというと、和歌山に呼んでくれた人がいたからです。もしすばらしいみかん農家さんを雑誌の記事で読んだとして、自分から連絡したりアポイントを取ったりするのはやっぱりハードルが高いです。なので、そこを繋いでくれる存在が重要なのかなと。物理的な不安も人との繋がりさえあればほぼ超えられます。私が家を探す時もすべて人づてでしたし、免許を取るまでは友人にずいぶん送り迎えをお願いしていましたよ」。
浜田さん「森脇さんのように繋りがなくても、興味がある人は交流会などに参加するのがいいんでしょうか。」
森脇さん「そうですね。一人でも相性のいい人が見つけられれば。私もそうした方をサポートしつつ偶然性もあるような誰にでも開かれたプログラムづくりを意識しています。バランスがなかなか難しいんですが……」。
浜田さん「もう一つの問題が子どもの教育だと思います。五島では子連れのワーキングマザー参加者が多かったのですが、これは地元の小学校の校長先生が積極的で、保育園や小学校が一時入園や入学を受け入れていただけたからです。今回はできませんでしたが、そういった仕組みがあると経験できる層も増えますよね」。
森脇さん「子どもの通う小学校が全校で14名なのですが、校長先生に受け入れを相談している段階なんです。年に一人来るかどうかの移住者に頼るよりも、一定期間でも外から人が入るほうが存続の可能性も高まりますから」。
島田さん「秋田や徳島で行われている、地方と都市2つの学校で学べるデュアルスクールのように、日本全国どこの小学校にも行けるようにすればいいんですよね」。
浜田さん「自然を体験させたいという親御さんも多いですし」。
島田さん「自然との繋がりはすごく大きいんですよ。環境問題にしても、温暖化が生きる上でリスクだという感覚が東京の人はとても薄いでしょう。それは物理的に自然に触れる機会が少ないからだと思うんです。子どもを自然の中で育てたいという考えは、その大事さをみなさん知っているからじゃないかと。それなら夏休みの間だけでも循環できるといいですよね。Team WAA!では3年前から福岡県うきは市と共同でワーケーションの加速と町おこし事業に取り組んでいるんですが、今年行った親子イングリッシュサマーキャンプが好評で、来年から定期開催になるんです。こういう形での機会も増やしていければと思います」。
浜田さん「日常と場所を移したいというニーズの表れですよね。ちなみに移住者として、一定期間だけ訪れる層に感じることはありますか?」
森脇さん「すごくうれしいです。ただ気をつけないと、地域のみなさんは県外から来てくださることが嬉しいから、もてなしすぎて疲弊してしまうんですよね。アイデアがもらえるとしても、すぐ自分のものにはならないし、長期的な活動になりがちです。ですから和歌山の場合は、中間にいる私たちが受け入れ先のキャパを把握し、無理なく振り分けられるようにしています。また地域側でも、来られた方々から受け取ったアイデアや知見を事業などに変える姿勢が必要だと思います。単なるワーケーションブームで終わらせないためにも、東京に学びに行くのと同じ熱量で学ばなければいけないと思います。単純なこと、些細なことからでいいので、とにかく東京人と温度感を揃えようとの意識が大事なんです」。
選択肢を広げる活動としてのワーケーション
後半では、県庁担当者や南紀白浜空港やアドベンチャーワールドなど地元企業のキーパーソンも含めた参加者とのディスカッションが行われました。和歌山の可能性を感じさせる発言や和歌山愛に溢れた意見など、さまざまな視点からの発言がありました。また終盤には「地域 de WAA」の今後も明らかに。
島田さん「私自身は次は東北だと思っていて、2018年11月頃から東北の女性に自らの能力や才能に気付いてもらい、そんな女性たちを繋げる活動を続けています。そこから女性全体の活動に広がることを狙っていて、さらに九州と東北の女性を繋げられたら日本全体をカバーできそうだなとも。日本が世界で担う役割は大きいので、女性たちの活動がそのきっかけになればと思います」。
さらに、本セッションの内容を若い世代にも積極的に話してほしいという意見から、森脇さんが展開する中高生向けワーケーションプログラムや、ユニリーバの高校生向けインターン制度へと話が広がりました。
森脇さん「社会のイメージや視点が地元から東京に広がると、日本全体を知ることになると思うんです。ワーケーションは逆に言えば、地元を見つめることでもあります。自分がアイデンティティを持っていないと東京では通用しません。質問されても地元を知らなければ答えられないから、興味を持って調べるようになったと答える高校生もいましたしね。私は移住者ですが、今も発想や視野が狭くならないよう定期的に県外に出るようにしています。そう考えると、東京の人のためのワーケーションというだけでなく、どの地域の人も違う場所にワーケーションに出るといいのではと思うんです」。
島田さん「ユニリーバでも子どもの教育は重要だと考え、さまざまなプログラムをつくっています。高校生インターンシップでは、若手社員を中心に、弊社の業務や意義の説明、SDGsの理解などを通じ、仕事や働くことを考えてもらうのです。今後はユニリーバチームで地域に出張し、東京以外で体験してもらう仕組みも展開するつもりです。また「地域 de WAA」を始めてからはワーケーションに加え、次世代の役員候補に1年間のセルフリーダーシップ開発の一環として、地域とのプロジェクトに関わってもらっていますが、その中でも地元の小学生に働く意義を伝える機会もあります。場所が違っても、私たちができることはあると伝えていきたいですね」。
浜田さん「私は山口の地方出身なので、若者が東京に出たいという気持ちがよくわかります。世界は広いし、見ないとわからないことも多いです。東京には地元にない物があると気づけますし、その逆もあるでしょう。地方の学生が東京へワーケーションに行くことで、大変さに気づく子もいれば都会で勝負したいと奮い立つ子もいる。森脇さんが言うように、人は場所を変え、動くことで気づける機会が増えると思うんです」。
森脇さん「IT時代だから情報格差はないと思っていましたが、未だに確実にあります。そんな中だからこそ、私たちはきっかけをつくることが大事で、それがワーケーションだと思っています。知るきっかけがあれば地域のよさも東京もよさもわかるし選べますが、片方だけでは選べませんよね。ですからまず、知ってもらうためにもワーケーションを経験してほしいと思います。子どもたちならなおさらです」。
浜田さん「自分で人生を選んだという感覚、それと、選択肢を広げてあげることが大事ですよね」。
島田さん「まさに。WAAをやってよかったのは、社員の選択肢を広げたことだと思っています。内容は何でも、自分で決めることがとにかく大事。自分で決めたと認識すると、これをやろうという達成意欲が出ます。そして決めたことができると「できた」と自己効力感が出て喜びに繋がり、感情記憶となってリラックスホルモンが出るんです。脳はこのサイクルが好きなので、自分の行動を一度決めるだけで、自分の考え方を少しずつ変化させることができるわけです。自分で人生をコントロールできる達成感は、肯定感にも繋がる大事な要素だと思います」。
ワーケーションの効能と地域の親和性は、徐々に知られるようになってきました。今回は田辺町や南紀白浜を中心にした和歌山県の例でしたが、トークセッションで“どんな地域でも実現できる”、“どんな地域にもキーマンはいる”との言葉にもあったように、今回のワーケーションの仕組みや効能は、どの地域にも当てはめられることです。これからの地域がどんな可能性を見出せるかについて、改めて考えさせられるトークセッションでした。
東京ほか関東圏はもとより、関西や西日本と全国からの参加があったワーケーションプログラム。“場を移すこと”は、きっと彼らにも大きな影響をもたらしたに違いありません。
※この記事は、和歌山県のご協力により制作しています。
文 木村 早苗