日本全国で5,000人以上が活躍している地域おこし協力隊。そのひとりひとりがさまざまな思いや夢を持って地域と向き合っています。
地域おこし協力隊になる理由には様々なものがありますが、その一つが自分の「やりたいこと」を実現するためというものです。何かやりたいことがあって、それを実現するためのステップとして地域おこし協力隊になる。もちろんその「やりたいこと」と地域の課題やニーズが合致する必要はありますが、合致すれば地域のためにも理想的な活動がそこに生まれるのです。
最初に紹介する原七海華さんは、生まれ故郷を盛り上げるために大学卒業後すぐに地域おこし協力隊としてUターンしました。次に紹介する下條真輝さんは、子どもに関わる仕事をするためにいわき市の中でも田舎だという田人地区に移住しました。そして最後に紹介する塚本あずささんは、リラクゼーションサロンを開くために起業型の地域おこし協力隊の制度で北海道下川町に東京から移り住みました。
それぞれの着任までの思いや着任してからのこと、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
\地元にUターンして地域おこし協力隊に!/
#04 原七海華さん(福岡県八女市)
八女の魅力を発信するYoutuberとして
メインの業務は、八女のロマンの運営です。八女のロマンはWebサイトやSNS、YouTubeで八女の魅力を発信しているのですが、そのYouTubeに出演しています。八女市の協力隊メンバーはSNSなどで発信している人が多くて、その人たちと一緒に八女を盛り上げたいと思っています。
他にも、コミュニティライブラリーを併設した「つながるバス停」の運営や移住スカウトサービス「SMOUT」に掲載したプロジェクトの移住相談などもやっています。
都市ではなく、家族の近くでまちづくりを
高校生まで八女市の黒木地区という田舎まちに住んでいたので、一回は外に出たいなと思っていました。大学は京都で4年間過ごして、卒業するにあたって「この会社で働きたい」とか「これが勉強したい」と明確な意思があればそこに行く決断をしたと思うんですが、私にはそれがなくて。家族が好きで、家族の近くに住みたいという思いもあったし、特に都市に対しての強い思いがないまま都市集中に加担したくないっていう考えもあって、八女に戻ろうと思いました。
大学ではまちづくりの勉強もしていたので、地域おこし協力隊ならまちづくりに関われると思って応募しました。
同級生たちは、職がないから八女に戻れないと言うんですが、そんなことはないと思っていて。私自身が、八女という田舎まちでもやりたいことができることを証明したい気持ちもあります。
社会人になって気づいた地元の面白さ
地域おこし協力隊になって八女に戻って「こんなに面白いまちなんだ」と思いました。自然が身近にありリラックスできるし、文化や伝統が強く残っていて地域らしさがあって。最近はおしゃれなお店が増えてきているし、食べ物は何でも美味しい。「次は八女が来る」という声も聞きます。とても魅力的なまちであることを再認識しています。
地域の魅力を発信する「力」と「人」が集まる場所
地域の魅力を発信するのにデザインの力を借りられたら、とデザインの勉強をしたいと考えています。ポスターとかチラシのデザインでも発信力を高めたいですね。
退任したあとは、拠点をつくりたいと考えています。黒木地区で地域の若い人とお年寄りが交流できるような、みんなが集まれる居場所であり、観光客の人が来たときにも、とりあえずふらっと入る場所としての拠点がつくれたらいいですね。それがカフェなのかスナックなのか、駄菓子屋なのかはまだ分かりません。黒木地区の隣に星野村という地区があるんですが、そこは最近若い観光客に人気なんです。黒木地区にもそんな拠点をつくりたいです。
とにかく人生を楽しもう!
私は生まれ育った土地で協力隊になったわけですが、その土地のことって本当に行ってみないとわからないので、協力隊になるなら一度行ってみたほうがいいと思います。同僚の協力隊にも、実際に訪れて出会った人たちに惹かれて協力隊になろうと決めた人もいます。
協力隊は、自分が企画して行動しないと何も始まらないのが大変ですが、私はとても楽しく過ごしています。何より楽しい人生を送ることが大事だと思うので、とにかく楽しんでほしいですね。
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着任した年月:2020年5月1日
着任前の居住地:京都府伏見区
出身地:福岡県八女市
着任前のお仕事:大学生
\地域で子どもに関わる仕事を探して/
#05 下條真輝さん(福島県いわき市)
田人町地区でコミュニティの拠点をつくる
いわき市の田人町地区で、カフェと学童を行うコミュニティハウスHITO-TABIを協力隊2名で運営しながら、田人町の自然体験活動を始めとするイベントの企画運営や、福島県主催のいわきチャレンジライフのインストラクターなどをしています。それと並行して、“田人里山再生委員会”の活動拠点であり、地域おこし協力隊の任期後に自分がキッズキャンプなどを行う活動拠点にもなる「田人ワークキャンプ・ビレッジ」を建設中です。
田舎で子どもに関わる仕事をしたい
子どもに関わる仕事をしたいと東京で習い事教室を運営していたんですが、教育のあり方に悩む中、福島県鮫川村のキッズキャンプにボランティアで参加しました。そこで子どもたちの姿を見て「自分自身もキッズキャンプや自然体験活動を行うインストラクターになりたい。そんな場をつくろう!」と思うようになりました。
以前から、田舎で暮らしたいと妻に言われていたので、地域で子どもに関わる仕事がないかと、有楽町のふるさと回帰支援センターのセミナーに行き、そこで地域おこし協力隊のことを知り、働きながら自分の道を切り開けたらいいなと思うようになりました。
子どもに関わる募集があったら教えて下さいと伝えておいたら、2週間後に学童の募集の知らせがあって、それがいわき市の田人町だったんです。
原点は、「子どもの視野を広げる役目をしたい」ということ
中学校のときに不登校だった友人が、学校に行かなくてもいい道を自分で見つけたんです。彼がそこで新しい関わりと夢を見つけていったのを見て、自分もきっかけをつくる人になりたいと思いました。子どもの視野を広げる役目をしたいと。
それで、デザインによって子どもたちがいろいろな世界を発見できるきっかけをつくれるのではと考えてデザイナーになったんですが、もっと直接的に子どもと関わる仕事がしたくなり、習い事教室の講師をして、それでも悩んで今の仕事にたどり着きました。
よそ者も暖かく迎え入れてくれるまち
田人町では、いろいろな人と深く関われるのが思った以上に楽しいです。地域の人と全員知り合いのような関係性を築くことができています。野菜の育て方、咲いている花の種類や、木の実を使った美味しいジャムのつくり方を教えてもらって、身近にたくさんのすごい人達がいることに気づきました。
いわき市は炭鉱町だったこともあってか、よそ者でも暖かく迎えてくれて、人懐っこい田舎なんです。そうした環境なので、馴染むのは早かったかもしれません。
ただ、交通の便はあまりよくなく、移動手段は車のみ。一番近くのコンビニまで車で8分、子どもだけでは移動できないので、高校生は学校への送迎が必須です。その点は、田舎ならではですね。
「やりたいこと」がブレないように
地域おこし協力隊を卒業する来年度以降は、キッズキャンプを通して、子どもたちが生きる力や考える力、自己肯定感、自然の大切さを知る機会をつくっていきたいですし、社会的弱者の子どもたちが集まれるフリースクールのような場にもしていきたいと思っています。
自分は子どもたちを、妻はボランティアを地域外から呼んで、定期的に通ってきてくれる関係人口を増やしていけたらと思っています。
地域おこし協力隊をやるのであれば、これをやりたいっていう気持ち、心にあるものはできる限りブレないようにしたほうがいい。地域住民にも、これをやってほしいあれをやってほしいという思いがありますが、自身の目的のためにはそれを断る勇気も必要で、そうしながら地域の人の思いと自分自身の目的をうまく掛け合わせることができる道を見つけていってほしいです。
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着任した年月:2019年8月
着任前の居住地:東京都世田谷区
出身地:神奈川県相模原市
着任前のお仕事:子どもの習い事教室運営・講師
\地域おこし協力隊で「起業」する/
#06 塚本あずささん(北海道下川町)
起業のための準備が協力隊の活動
私が着任したのは「起業型」の地域おこし協力隊なので、ミッションなどはなく、自分の起業のための準備をするというのが活動内容です。リラクゼーションサロンをひらく予定で、開業届も提出し、店舗オープンに向けて準備を進めています。地域おこし協力隊の活動と自分の仕事を並行してやっていますが、お試しで施術を行ったり、イベントを企画して運営したりしています。ミッションがない分、まちの人たちと話して自分でやるべきことを探して動いています。
独立起業のためにベストな場所と仕組み
もともと東京のリラクゼーションサロンで働いていて、独立したいと考えていました。せっかく独立するなら自然が多い所がいいし、地方はサロンが少ないので疲れている人もいるだろうと思って、地方で移住先の候補になる場所を探し始めました。
ただ、ベーシックインカムが少ないと、店舗運営をするのはリスクも高いし不安でした。そんな中、下川町に起業型の地域おこし協力隊があることを知って、暮らしごとツアーでまちを見て、ここがベストだと判断して応募しました。
起業型の地域おこし協力隊って?
起業型の地域おこし協力隊は、協力隊の給料をもらいながら、全部の時間を自分の起業のために使えて、活動費もそれに当てることができます。活動費の使い方は役場の人と相談しながら進めています。
これをやってくださいと決まっていることは何もないので、最初はただまちの人に会いに行くとか、自分の施術の需要があるか探るためのイベントを開催しました。SNSで発信してお客さんを集めたり、元同僚のつてをたどってハーブを使ったお茶を店舗に卸させてもらったり。独立までの準備期間を、まちの中で展開する、まちへ還元するというイメージです。
自然と人に恵まれた暮らし良い場所
同世代の移住者の方も多くて気にかけてくれし、現地の人も含めて向こうから話しかけてくれるので、すごく助かりました。起業に対しても応援してくれる方が多くて、何かやるとなるとDIYなども手伝ってくれたり、空き物件の情報を知らせてくれたり。本当にオープンであたたかい地域ですね。
まちの雰囲気を残しながらコワーキングスペースなどの新しい産業を生み出していこうと考える若い方も結構いるんです。そういう方たちと、まちを盛り上げられたらいいなと思っています。
気楽に、でも自分から動くこと
「こういう暮らしに憧れる」といった理想が大きすぎると、「こうじゃなかった」ということになりがちなので、今の生活のまま行こう、くらいの気楽な気持ちで移住したほうがうまくいくと思います。ただ、自分から能動的に動かないと地域に入り込むことは難しいと思うので、自分から聞いて、自分から動くことを心掛けるといいかなと思います。
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着任した年月:2019年12月
着任前の居住地:東京都墨田区
出身地:埼玉県蓮田市
着任前のお仕事:リラクゼーションサロンスタッフ
地域おこし協力隊としての活動は、地域に入り、そこの人たちと関わり合うことが中心です。その中で、自分のやりたいことを実現するのは難しい事のようにも見えます。でも、自分に軸を持っていれば、地域の人たちとの関わり合いの中で、自分のやりたいことへの道が見えてくることが3人の話を聞いてわかってきました。そして、自分がやりたいことをやる場所を見つける意味でも、地域おこし協力隊は実現への近道になるのかもしれません。
文 石村研二