2011年3月11日に起こった東日本大震災と福島第一原発事故で、大きな被害を受けた福島12市町村(※)。現在もなお、帰還困難区域の指定解除がなされていないエリアが残っているものの、解除がなされたエリアには多くの地元住民が帰還し、この地で暮らしていこうと移住してくる人々も加わって、新たな賑わいを生み出しています。
フェーズは少しずつ、復興からその先へ。未来を見据え始めた福島12市町村では今、いったい何が起こっているのでしょうか。最新の取り組みや活動をご紹介します!
※福島第一原発事故に伴う避難指示などの対象となった田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の12市町村のこと
最先端技術の開発と研究が進む
世界に冠たるイノベーションの先進地に
福島イノベーション・コースト構想
「福島イノベーション・コースト構想」は、福島12市町村にいわき市、相馬市、新地町を加えた15市町村を「イノベ地域」とし、東日本大震災および原発事故によって失われた浜通り地域などの産業を回復するため、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトです。最先端技術の研究や実用化によって地域の復興を推し進めようと始まったこの取り組みは、現在は復興という目的にとどまらず、世界のイノベーションの中枢にまで食い込むほどの成果を挙げています。
具体的には「廃炉」「ロボット・ドローン」「エネルギー・環境・リサイクル」「農林水産業」「医療関連」「航空宇宙」の6つの重点分野を掲げ、研究を進めています。その中からいくつかご紹介しましょう。
# 01「ロボット・ドローン」
2020年に南相馬市の復興工業団地に全面オープンしたのが、陸・海・空のフィールドロボットの開発実証拠点「福島ロボットテストフィールド」です。ここは、飛行から衝突回避、不時着、落下、長距離飛行まで、多彩なテストが実施できる国内最大規模の「無人航空機エリア」、ロボットによるインフラ点検と災害対応の実証試験のために整備された試験場「インフラ点検・災害対応エリア」、ダム、河川、水没市街地、港湾など、水中で発生する状況を再現する「水中・水上ロボットエリア」、全国から17の大学や企業などが入居し、さまざまな研究を進める「開発基盤エリア」という4つのエリアで構成されています。この施設を中核とし、ロボット産業の集積を図っています。
「福島ロボットテストフィールド」では、東西約1000m、南北約500mの広大な敷地でさまざまな実証実験や研究が行なわれている(画像提供:公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構)
例えば、テトラ・アビエーション株式会社が開発中の空飛ぶクルマ、一人乗りeVTOL「teTra Mk-3」の飛行試験を計44回実施。試験で得られたデータをもとに、さらに飛行性能や安全性の向上を目指していくのだそう。現在は、二人乗りの空飛ぶクルマ「Mk-7」の開発にも着手しているとのこと。実用化が楽しみですね!
# 02 「エネルギー・環境・リサイクル」
福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)(福島県浪江町発表資料より)
浪江町にある「福島水素エネルギー研究フィールド」では、天候による変動が大きい太陽光発電の電力を、貯蔵可能な水素に変えることで、再生可能エネルギーを有効活用していこうという、大規模な実証実験が行なわれています。浪江町を実証エリアとして、1万kW級の水素製造装置を備えた水素エネルギーシステムを構築。世界最大級の施設となり、実はここで製造された水素は東京オリンピック・パラリンピックでも活用されていました。これが実現すれば、日本における電力のあり方が大きく変わっていくはず。今後はさまざまな場面での活用や実用化が期待されています。
福島国際研究教育機構(F-REI/エフレイ)
福島国際研究教育機構(F-REI/エフレイ)Webサイト トップページ
F-REIは、福島をはじめとする東北の復興を実現し夢や希望を与えるとともに、日本の科学技術力や産業競争力を世界最高の水準まで引き上げ、経済成長や国民生活の向上に貢献する「創造的復興の中核拠点」を目指して、2023年に国が設立した特殊法人です。例えば、前出の「福島イノベーション・コースト構想」によって整備された重点分野の拠点間の連携を促進するなど、構想をさらに発展させる役割を担います。司令塔として「世界でここにしかない多様な研究・実証・社会実装の場」の構築に邁進するF-REIからどんな広がりが生まれるのか、期待に胸が膨らみます。
アートで色づく、福島の魅力
浜通り映像・芸術文化プロジェクト(ハマカル)
2022年7月に、映像や文化芸術を通じて福島の新たな魅力を創出しようと、経済産業省の若手職員有志によって始まった「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト(通称ハマカル)」。同年8月には、映画づくりワークショップ「福島浜通りシネマプロジェクト」が開催されました。2022年度は小中学生、2023年度は18〜25歳までの若者を対象に、福島県双葉郡双葉町に4日間滞在し、映画界の第一線で活躍するプロの映画監督やスタッフのサポートを受けながら、短編映画を完成させました。
映画づくりワークショップ「福島浜通りシネマプロジェクト」Webサイト トップページ
さらにハマカルでは、2023年度から新たな映像・芸術文化支援事業として「福島県12市町村アーティスト・イン・レジデンス」を実施しています。避難指示の対象となった福島12市町村の持続的な発展に向け、国内外の芸術家やクリエイターが一定期間、12市町村に滞在し、作品制作などを行ないます。映画、演劇、現代アートのみならず、多様な芸術的表現やカルチャーを反映した多岐にわたる分野の14のプロジェクトが選ばれ、活動しました。来年度はどんなアーティストがやってくるのか、楽しみですね。
福島で育む、子どもたちの未来
震災で多くの住民が避難した地域では、学校の統廃合を経て、先進的な教育プログラムに取り組んでいます。
福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校(広野町)
福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校 Webサイト トップページ
双葉郡にあった5校の県立高校を統合するという位置付けで、2015年4月に創設されたのが中高一貫校となる「福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校」です。ふたば未来学園は、福島県内で唯一、文部科学省から「地域との協働による高等学校改革推進事業(グローカル型)」及び「スーパーグローバルハイスクール(SGH)ネットワーク校」に指定され、先進的なカリキュラムによる人材育成を展開しています。
カリキュラムの中心となるのが「未来創造探究」と呼ばれる地域課題解決型のプロジェクト学習です。生徒たちは「原子力防災」「再生可能エネルギー」「メディア・コミュニケーション」など、テーマごとに6つの班に分かれ、地域が直面している課題やその背景を探り、持続可能な地域社会の実現に向けたさまざまな活動を行ないます。こうしたプロジェクトのテーマは教員が提供するのではなく、生徒たちが自ら設定したもの。自分自身で課題を見つけ、地域の大人たちと連携しながら実践学習を進めていくのです。ここには最先端の学びがあると話題を呼び、県内だけでなく、全国各地から生徒が集まっています。
大熊町立 学び舎 ゆめの森(大熊町)
「大熊町立 学び舎 ゆめの森」のグリーン留学Webサイト。校舎の中心にある図書ひろばの様子もわかる
2023年4月に認定こども園と義務教育学校、預かり保育や学童保育が一体となった「大熊町立 学び舎 ゆめの森」が開校しました。全国でも珍しい0歳から15歳までのシームレス教育で、子ども一人ひとりに芽生えたゆめのたね(好奇心)を見守り、じっくり根を張って探究できる時間を大事にしていくという教育方針を掲げています。校舎の中心には吹抜けの開放的な図書ひろばを設け、形も大きさもバラバラの各部屋を曖昧につないでいくことで、子どもたちの活動が混じり合い、一人ひとりが好奇心をもって探求できる、多様な学びの場をつくっています。
ゆめの森の理念を体感できる体験入学・入園プログラム(グリーン留学)も実施しています。興味のある方はぜひ問い合わせてくださいね。
福島県12市町村の復興と再生に自身のスキルを活かす
福島県 副業人材マッチングサイト
福島県 副業人材マッチングWebサイト トップページ
福島の復興の力になりたいと心を寄せてくれる方々は今なお数多く存在します。そこで、福島の事業課題・地域課題の解決をともに進めてくれるプロ人材を募っているのが「福島県 副業人材マッチングサイト」です。広告デザインから集客、人材育成まで、さまざまな職種の「副業&パラレルキャリア人材」の求人が掲載されているので、あなたのスキルに合った求人を探してみてください。いきなり移住するのはハードルが高くても、まずは副業として福島の地域活性の一端を担ってみませんか。
福島ではじめる、君の副業→起業計画「フクシマックス(FUKUSHIMAX)」
福島ではじめる、君の副業→起業計画「フクシマックス(FUKUSHIMAX)」Webサイト
「公益財団法人 福島相双復興推進機構」が主催する「フクシマックス」は、副業という形で地域企業のプロジェクトを手伝いながら、地域への理解を深め、信頼関係を築き、自分自身のやりたいことやビジネスアイデアを形にしていく実践型プログラムです。プログラム終了後は会社を立ち上げるもよし、出会った人々と一緒に事業の立ち上げを計画するもよし、企業のお手伝いを続けるという選択も可能です。残念ながら今年度はすでに終了していますが、福島でビジネスを始めたいという方にはぜひ注目していただきたいプログラムです。
福島でひろがる移住の輪
このように、最先端技術の研究からアート、教育、関係人口創出や起業支援まで、福島12市町村では、まちの発展を見据えたさまざまな取り組みが始まっています。また、革新的な取り組みの数々や各種サポートの手厚さに、移住者の数も増え続け、ここから新しいことが始まるのだという希望と活気も生まれています。
福島12市町村移住ポータルサイト「未来ワークふくしま」では、12市町村の魅力を発信しているほか、最大200万円の支給がある福島県12市町村移住支援金制度をはじめとする各種支援制度や先端産業における求人情報なども配信しています。ぜひ参考にしてみてください。
福島12市町村の新たな挑戦に、今後もご注目ください!
福島県のSMOUT 地域ページはこちら >>
文 平川友紀