いま、地域に必要な“シビックプライド”って何? どう育てる?

いま、地域に必要な“シビックプライド”って何? どう育てる?

2020年3月に突如世界を襲ったコロナ・ショック。感染拡大を防ぐために移動を自粛する習慣が根付き、各々の家や地域で過ごす人が増えました。

地域コミュニティで過ごす時間が増えると、それまで見落としていたものが見えてきます。地元の商店街で「こんなお店があったんだ!」と発見したり、いつもは通らない道を散歩して思わぬ史跡を見つけたり。小さな発見をした人は意外と多いはず。

地域に目が向きやすい昨今は、その魅力に気づく良い機会になるでしょう。魅力に気づけば愛着が湧き、次第に「地域づくりに参加したい」と考える人も現れるかもしれません。

「地元に対して貢献したい」と思う気持ちを「シビックプライド」と呼び、地域づくりに良い影響を与えてくれます。今回はこの言葉の意味を掘り下げ、各地で起こった育成事例を紹介していきます。

Photo by Matt Rubens

シビックプライドって、どんな意味?

そもそもシビックプライドとは、どのような概念なのでしょうか?

これは「地域をより良い場所にするために、自分自身が関わっている」という、当事者意識や自負心を指します。

ここで「郷土愛とはどう違うの?」と考えた人もいるでしょう。「自身が生まれ育った場所」に愛着を抱く郷土愛と異なり、シビックプライドの対象は「移住した街」にも向けられます。つまり、後天的な要素が含まれた言葉なのです。

さらにシビックプライドには「地域を育くみ、そのために行動する」意味も含まれています。より主体的な態度や行動を指すものなのです。

地域住民のシビックプライドが育まれれば、ゴミ拾いや地域おこし、市政への参加など、市民が地域づくりに積極的に参加してくれるようになるでしょう。いずれは少子高齢化や治安の維持、過疎化や経済発展など、自治体が抱える様々な課題を住民自らが解決してくれるかもしれません。

もちろん、当事者意識や自負心を育くむためには長い時間が必要です。短期的な成果は求められませんが、シビックプライドを育めば中長期的に地域へ良い影響をもたらしてくれるでしょう。

ところでシビックプライドはいつどこで生まれたのでしょうか? その答えは19世紀イギリス。18世紀中期から19世紀初頭には産業革命が起こり、各地に大都市が生まれました。このなかでイギリスの市民は「新たな都市づくりこそが社会的なミッションであり、誇りである」と考えるようになります。そして、公園や図書館、学校などの公共施設を中心に、市民による市民のための街づくりが行われるようになったのです。

時は流れ、20世期になってからもシビックプライドの意義は変わっていません。コロナ・ショックにより、自治体や地域は分断されてしまいました。自治体の地力が問われるいまだからこそ、地域を育くむ意識が必要なのではないでしょうか。

 

シビックプライドをどう育くむ? 4つの具体例

それでは、シビックプライドをどのように育めば良いのでしょうか?

いくつかの例を知りながら、そのヒントを見つけましょう。

 

◎キャンペーンを打つ

はじめに取り上げたいのは、オランダのアムステルダムで行われた「I amsterdam」キャンペーン。これは、代表的なシビックプライドの成功例で、2003年にアムステルダム市が開始したもの。

キャンペーンでは、市民を撮影したフォトブックの出版や、ロゴ入りグッズの販売、国内外での展覧会が行われ、市民や企業に「I amsterdam」のロゴが無料で配布されました。

さらに、市の中心地にあるアムステルダム国立博物館の近くには幅23.5mの「I amsterdam」オブジェを設置。観光客の撮影スポットとして人気を集め、SNSには記念写真が頻繁に投稿されています。

ポップなキャンペーンはロゴと市内外に広まり、市民はアムステルダムの盛り上げに積極的に参加しているそうです。

 

◎施政方針で後押しする

シビックプライドの育成は、自治体が主導することがほとんどです。そのため、意識の育成をねらって自治体の議会で施政方針が掲げられることがあります。

たとえば、兵庫県広養父市市長の広瀬栄氏は2018年施政方針で「まちづくりの基礎となる農業を守ることは、地域の伝統を守り、地域への愛着と誇り(シビックプライド)を守ることとなり、地域の安らぎと安定感を醸し出すことにつながり、そして、移住・定住、企業進出を促すこととなります」と述べています。

ほかにも、東京都多摩市市長の阿部裕行氏は2018年の施政方針で「住み続けたいまち。子育てしたいまち。老いを迎えても幸せを実感できるまち。いつまでも自分らしく、いきいきと暮らしていける多摩市を全国に発信し、市民の皆さんの『まちを愛する心=シビックプライド』を大切にしたまちづくりを進めます」と述べました。

自治体自らがシビックプライドを育くむことを宣言すれば、条例や施策もそれを意識したものに変わり、地域全体の意識が育成されていくでしょう。

 

◎住民参加型のイベントや施策を行う

住民参加型のイベントや施策を行うこともシビックプライドの育成に効果的です。たとえば、地域の魅力を見つけるワークショップを行えば、住民が見落としていたものを発見するきっかけになります。

ここで例を挙げてみましょう。まずは埼玉県熊谷市の「住民参加型ガイドブックの制作」から。主催したのは同市の観光協会で、志望した熊谷市民に向け、制作会社の指導のもと複数回のワークショップが行われました。住民はワークショップのなかで地域の魅力や個性を見つめ直し、取材や執筆にも参加。完成したガイドブックはなんと熊谷市の全戸に配布されたそうです。

もうひとつの事例は、長野県小布施町の「小布施町並み修景事業」。この街には宿場町の景観が残され、町並みの中には個人宅や商店、造り酒屋の庭先をつなぐ回遊路が敷かれています。この回遊路に地域全体で修繕を行い、観光に活かすことで、シビックプライドを育成しています。

地域の魅力は地元住民から見れば「当たり前」になりがちですが、外部の視点を取り入れれば他にはない魅力を発見することができるはず。イベントや施策には地域の外から有識者を招いてみると良いでしょう。

 

◎義務教育のなかでシビックプライドを育む

スタンダードなシビックプライドの育成法としては、小中学校での地域学習があります。社会科の授業で地元を扱うことで、学生は地域の歴史や特色を学ぶことができます。

たとえば、授業のなかで資料館に出かける。歴史研究の宿題を出して、ご両親に地域の歴史を聞いてもらう。特色ある地元企業で働く人を招き、仕事の内容を話してもらうなどさまざまな方法が考えられます。

シビックプライドを育む方法は今回紹介したものだけではありません。フェスティバルの開催やグッズの制作、ご当地グルメの発掘やPR、情報センターの設置など様々な方法が考えられます。地域住民の協力を得ながら、誇りと自発性を育んでいきましょう。

 

シビックプライドが高いまちって? 関東・関西のランキング

最後に、シビックプライドの育成に成功した街を紹介して、記事の締め括りにします。

紹介するのは、読売広告社ひとまちみらい研究センター・R&D局が行った調査結果。関東1都6県と関西2府4県において、人口10万人以上の自治体住民約8000名を対象にアンケートをとり、ランキングにまとめています。その結果がこちらです。

<シビックプライド 総合ランキング>

1位 港区(東京都)

2位 文京区(東京都)

3位 中央区(東京都)

4位 藤沢市(神奈川県)

5位 鎌倉市(神奈川県)

※調査結果の詳細はこちら

総合ランキングでは東京の港区・文京区・中央区と神奈川の藤沢市・鎌倉市が上位に。いずれも住みたい街として人気が高い地域で、ランキング上位もうなずけます。

また、この調査では指標として「愛着」「誇り」「共感」「継続居住意向(住み続けたいか)」「他者推奨意向(移住を勧められるか)」が取り上げられました。いずれもシビックプライドを構成する要素なので、施策を行う際はこれらの指標を参考にしてみると良いでしょう。

シビックプライドの育成は時間がかかる作業ですが、しっかりと育くむことができれば地域づくりの味方は徐々に増えていくはず。長い目で着々と続けていきたいものですね。

文 鈴木雅矩

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