私は5年ほど前、長野県諏訪郡富士見町で、人から譲り受けたものや廃材で空間づくりやリノベーションを手がける、空間製作ユニット「グランドライン」を取材しました。
特急あずさで新宿から約2時間。降り立つと、そこに広がるのは富士山と南アルプス。振り向けば八ヶ岳がそびえていて、古くから結核病患者の療養地として知られるほど空気が澄み、ペンションや別荘も多いエリアです。
私は凛とした空気、八ヶ岳の伏流水が涌き出でるこの地域に惚れ込むとともに、グランドラインの彼らが実践する、力強いリアルな生き方に惚れ込みました。
大量生産、大量消費社会に対するカウンターカルチャーとしての「生きるためのリテラシー」が、目の前にある。そんな感覚を覚えて、自分自身もつくる側にまわりたいと考えるようになったのです。
移住をしたのは、グランドラインを取材してからたった2ヶ月後のこと。知人宅を渡り歩いて、すぐに賃貸のトレーラーハウスでの暮らしが始まりました。
みなさんは、暮らしてみたい場所はありますか?
いま住んでいる場所は、何かしらの縁があってたどり着いた場所なのだと思います。
でも、いろいろな制約を取り払って、好きな場所を選びなおせるとしたら、どうでしょう。
いま、働くことが、あまりに起点になりすぎているような気がします。
職場からの距離感、沿線や乗り換えの少なさで住まいを選んだり、
どこかに移り住みたいとしても、仕事が理由で、なかなか動けなかったりする。
働くことを起点として、その周りに暮らしがつくられていくのではなく、
暮らすことのなかに、無理なく自然に、働くことが入っている。
そんなニュートラルな生き方を、選択しやすい時代になってきているのではないでしょうか。
私の願いはただひとつ。
自分が暮らしたい場所で、自分が見つけた価値基準を持って生きていく人が増えることです。
その選択肢に気づき、可能性に身をゆだね、友人や知人、隣人を大切にして、
もう一度、暮らしを起点に働くこともつくりなおす。
他の誰でもない、自分にしかつくれない生き方があるはずです。
どこかに移り住みたい人も、移り住んでほしい地域の人も。
「SMOUT移住研究所」は、最近の移住にまつわるデータから読みとる移住トレンドや、移住に関するエピソード、地域活性化の仕掛けといった情報提供を通じて、これからの生きかたを考えます。
SMOUT移住研究所 編集長 増村 江利子