ナンパで人を呼び込め! 学生インターンを毎年100人以上引き寄せる塩尻市職員・山田崇さんの「ナンパ術」

ナンパで人を呼び込め! 学生インターンを毎年100人以上引き寄せる塩尻市職員・山田崇さんの「ナンパ術」

地域に行きたい、応援したい人と、人を呼び込みたい人をマッチングするSMOUTですが、そのノウハウを伝えていくことも役割の一つ。そのために、やはりすでに実践している方の話を聞くのが一番!ということで、ナンパ師公務員として知られている塩尻市職員の山田崇さんをお招きしてお話いただきました。

長野県塩尻市では、学生インターンを年に100人以上受け入れていて、若者を呼び込もうと頑張っている他の自治体の垂涎の的になっているのだとか。どうして塩尻ではそれが可能だったのでしょうか。

来場者は自治体の方はもちろん、公務員になりたい学生も。聞き手は、株式会社カヤックLiving代表の松原佳代さん。山田さんの話が面白かったので、なるべく余すところなくお伝えしたいと思います。

山田 崇(やまだ・たかし)さん
1975年塩尻市生まれ。千葉大学工学部卒業。塩尻市役所企画政策部、地方創生推進課シティプロモーション係長。空き家プロジェクトnanoda代表。2014年「地域に飛び出す公務員アウォード2013」大賞を受賞。2016年1月から首都圏のプロ人材との協働による官民連携プロジェクトとして「MICHIKARA〜地方創生協働リーダーシッププログラム」をスタート。2016年5月から内閣府 地域活性化伝道師。

まずやってみること

最初に、山田さんはペンを手にとってこう投げかけました。

山田さん「この机の上のペンにこの手に持っているペンを投げつけたらどうなると思いますか?」

会場からの答えは「当たる」「当たらない」「転がる」など。山田さんはペンを投げます。

山田さん「投げてみると、机ではねて床に転がって、それを前列の彼が拾ってくれた。こうなることは投げる前にはわからない。なのに、ペンを手に握ったまま考えたり話したりしてしまう、その時間が長すぎるんです。とにかくやってみないとわからない。これは、”スーパーイノベーター”沼田尚志くん(ヤフー株式会社)もよく言っていることです」。

続けてこんな事を言います。

山田さん「みなさんにまずやってほしいのは、今日終わるまでにSMOUTに登録することです(笑)。いま、塩尻市と信州大学で共同研究をやっていて大体40人ぐらいの学生が45分かけて塩尻に来ています。その学生がSMOUTに記事(https://smout.jp/plans/252)を上げているので、登録してみてみてください。登録する前と後では自分が変わると思います。それがすごく大切なんです」。

そんな前置きがあって、いよいよ本題に。

山田さん「山田崇、43歳、公務員21年目、講演回数年に210回。私は実は35歳までどこにでもいる普通の公務員でした。私が変わったのは「やってみた」からなんです。それは”nanoda(なのだ)”というプロジェクトなんですが、商店街に30軒の空き家があって対策を打ってもうまくいかない。じゃあ自分たちでお金出して借りてみたらどうかと思ったんです。空き家問題を、自分が当事者になって考えようと。

それでホームページをつくって、ワインなのだとか、居酒屋なのだとかとにかくいろいろイベントを開催してみました。仕事だとなんのためにやるのか、目的を聞かれますが、仕事じゃないのでとりあえずやれるんですね、目的が明確になくても。それが、続けていくうちに何かになっていく。最初は変なことやり始めたやつだったけど、6年半もたつと、よくわからないけど、やり続けてるやつになる。

いま、借りてる空き家は4軒に増えて、それでも合計の家賃は18,000円。5軒目はなんともらいました。

みなさんに今日言いたいのは、聞いて関心があったら調べて、登録してみたり、足を運んでみたりすること。やってみることです。お金もそんなにかからないし」。

 

nanodaのWebサイト

 

元ナンパ師だから言えること

と、ここまで「やってみる」という話をしてきた山田さんですが、いきなりナンパの話を始めます。じつは、山田さんは「元ナンパ師公務員」として有名で、いまでも「元ナンパ師」で検索すると、こちらの記事がトップに出てくるそう。

 

「元ナンパ師」で検索すると一番上に表示される、39歳・元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな「地域活性化」の取り組み

 

考えてみればナンパって「やってみる」ことの最たるもの。見ず知らずの人にいきなり声をかけてみるわけですから。山田さんはナンパから「やってみる」ことの大事さを学んだということなのでしょうか。

山田さん「講演でナンパの話をすると、必ず「成功率どのくらいですか」って質問をされるんですが、わかりません。目の前の女の子に声をかけてつかまるかどうかなんてわかるワケがないんですよ。だいたい断られるんですが。でもじつは、断れれば断れるほど、残りの女の子は少なくなるから、成功する確率は上がっていくわけです。

それに、何百回も断られると、断られそうだなとかわかってくるんですね。それでも心折れずに声をかけるために、『女性に断る権利を与えているんだ』と思うようになったんです。成功しなくても、女性に断る権利を与えたんだからそれでミッションコンプリートだと。そこでもう一つ気をつけるようになったのは、誘われて悪い気のしない男子になること。悪い気はしないけど断る、女性にその権利を与えることをルールにしたんです」。

山田さんの話を聞いて思ったのは、山田さんはナンパをすることによって何かを得ようとしているのではなく、相手に何かを与えようとしているのではないかということ。相手に話しかけること自体が、相手にとって何か利益がないといけないと思っているように感じたのです。

相手のことを考える

さて、このナンパの話がどう学生インターンの話につながるのか。山田さんは話題を変えて、塩尻市に学生インターンが年間何人来ているか、話を始めます。

山田さん「1年で何人学生が来ているのか調べてみたら、昨年は156人でした。先程話した信州大学との共同研究プロジェクトの他に、看護学生に保健師の業務が自治体でどんな位置づけなのかを知ってもらうというプロジェクトもあります。また、個人で論文を書くために来てくれる人がいたり、大学の授業や実習として来てくれる場合もあります。

156人のうち65人は企業やNPOと連携して行うプログラムです。最初に学生を受け入れたのも「地域ベンチャー留学」というETIC.主催のプログラムでした。2013年からスタートして今も続いているんですが、塩尻市内の中小企業にインターンシップとして入ってもらうというものです。

中小企業の社長の頭の中にはアイデアがたくさんあるけど、自分でする時間の余裕はないし、従業員にやらせると失敗したら給料で評価することになってしまう。だからインターンの学生にやってもらうといいんです。成功したらそのまま採用しちゃえばいいし、失敗したら大学に戻ればいい。帰る場所があり、給料ももらっていない学生だからできることがあると、その時気づいたんです」。

これは、学生インターンが学生にとっても受け入れ先の企業にとってもいいという話です。山田さんはそのことをかなり重視しています。

山田さん学生にはまずゴール設定を立ててもらいます。1週間後にどういう自分になっていたいか。それをもとに、地方創生推進課の7人と地域おこし協力隊の5人のどの仕事についていったらいいか一緒に考えます。だからいきなり初日に東京に連れていかれたりすることもある。塩尻市役所の地方創生推進課に来るインターンは、名前をつけるとすれば「自由意志尊重型インターン」。自分で考えて、何をするかを決めてもらいます。

私がやっていることは揺らしてみることです。ナンパで声をかけるのと同じ。それで向こうが一歩踏み出すのを待つ。踏み出したらなぜ踏み出したのかを聞く、それが大切なことなんです」。

学生の気持ちを揺さぶって、埋もれていた「やりたいこと」を掘り起こし、それを「やってみる」ところまで導く。それが山田さんがやっていることなのだと思いました。でも、それは地域がやってほしいことと一致するのでしょうか。

山田さん「一週間インターンに来るとして、その間は同じ時間が流れるし、一つのことしか起こりません。学生でも、私でも、中小企業の社長でも。だけど私が感じることと学生が感じることは違うんです。なぜなら生まれた年代も経験も違うから。最後に報告会をするんですが、聞いてはっとすることがあるんです。同じ時間しか流れてないのに。その違いが、私たちや社長にとってどれだけ価値があるか。

それと、一週間でやることを決めた後に「それ、俺にとって何がいいの」って聞くんですよ。これは意地悪でもあるんですが、「群盲(ぐんもう)象を評す(※)」ということわざにあるように、自分が触っているのが一部だってことを常に知ってるって事が大切だと伝えたいんです」。

※ 「群盲象を評す」とは、断片的な情報で全てを理解したと間違った考えを持ってしまう、という意味。

一方が何かを得ようとするだけでなく、お互い与えようとする、あるいは自分が与えられるものは何かを考えさせる。これさえあればうまくいくという信念が山田さんにはあると感じました。これはまさにナンパの話と同じで、山田さんは学生をナンパしながら「俺をナンパしろ」と言っているのです。

塩尻市第五次総合計画

さて、ここで少し真面目な話を。山田さんは広義のナンパの話をしてきたわけですが、学生インターンを受け入れることは、山田崇だからやっているのではなく、塩尻市の政策としてやっていること。つまり、他の自治体でもやろうと思えばできるという話です。

山田さん第五次塩尻市総合計画を見てもらうと、長期戦略のプロジェクト10というところに、「地域課題を自ら解決できる「人」と「場」の基盤づくり」と書いてあります。今やっているのはこの政策にもとづくものです。さらに、9年間の計画を3年ずつ中期戦略としてやっていて、今はその2期目ですが、10-3に「新たな課題解決の仕組みの創造」とある。ここに、大学、民間との包括連結協定に基づく共創事業展開をしていくことを目指していくと書いてあるんです。KPIも設定していて、オープンイノベーションの取り組みによって生み出された新規事業を0から3年間で10に、住民や企業などと行政が協力したまちづくりが行われていると感じる市民の割合を29.9%から35%にするという目標を定めています。

この目標を達成するために、学生を呼んで、学生がやりたいと思ったプロジェクトを市民と一緒にやっていこうとしているわけです。しかも、この計画づくりはアウトソーシングしたわけではなく、ちゃんと自分たちでつくっているし、10-3は第2期に向けて私たちが新たにつくったものです」。

この後は、塩尻へのインターンを経験した学生や、これから塩尻に行くという学生を交えての対談となりました。

大人は無理を言わないから、返事は”はい”か”YES”

インターン経験者の一人、たけちゃんは、山田さんの「それ俺にとって何がいいの?」と問い詰められ、大学生の人脈が豊富なことを生かして、自身のブログで山田さんだけでは届かない人たちに塩尻のことを伝えることになったといいます。それが「真面目な元ナンパ師公務員山田崇さんと過ごした128時間in塩尻市」という記事で、3,000人ほどに読まれたそう。

山田さん「インターンの学生に言う10か条というものがあって、その7番目は「返事は”はい”か”YES”」。大人は「ここから5分で富士山の山頂行って帰って来い」みたいな無理なことは言わない。必ずぎりぎりできるだろうってことをちゃんと言ってくるから、とりあえずやってみろってことです」。

山田さんがやりたいのは、あくまで学生たちを揺さぶり、自ら変わろうという気持ちを起こさせること。

山田さん「大学のゼミで講演をすると、最後に「質問ありますか」って言ってほぼ誰も手あげません。その時は「なくてもてあげろ」って言うんです。その時は本当に質問がなかったとしても、次の授業では最初から手をあげるつもりで聞くようになる。そうやって、創意を働かせる環境をつくる過程が好きなんです」。

そんな創意の一つとして山田さんがいつも持っているものがあるそうです。それは、新宿から塩尻までの乗車券と特急券。山田さんは本当に塩尻に来て欲しい人に、この切符を渡すのだそう。

山田さん「この切符は有効期限が3ヶ月なので、これを渡した人は絶対に3ヶ月以内に塩尻に来なきゃいけなくなるんです。学生じゃなくても行きたいって言った人で、本当に好きな人にはあげます。6,700円しますけど。これをあげた人が「いついつ行きます」って言ってくれたら、そこから仕事として、ちゃんと起案して決裁をとって準備をする。予算取れてから呼ぶのは遅いんですよ。だから本当に呼びたいなら、最初は自腹でも来てもらうきっかけをつくります」。

山田さんは「来たい」という学生にはまず、いつ来れるかを聞き、日程を具体化させてから動き出すそう。人を呼ぶために必要なのは、来たいと思える制度や魅力をつくり発信するだけでなく、具体的な一人または数人が、行かなければいけないきっかけをつくることだと感じました。

塩尻にたくさんの学生インターンが来るのは、山田さんがこれまでそのような環境を着実につくってきたから。人を呼ぶための創意を、山田さんはナンパで培って来たのだと腑に落ちました。

人を呼びたい地方自治体のみなさんも、まずはナンパからはじめてみませんか?
というのは冗談ですが、それぐらいの気持ちや覚悟が必要だということを山田さんの話を聞いて感じました。

文・写真 石村 研二

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