ゲストハウスはどうして増えているの? 地域のゲストハウスがもつ役割とは 〜いま注目のゲストハウス7選〜

ゲストハウスはどうして増えているの? 地域のゲストハウスがもつ役割とは 〜いま注目のゲストハウス7選〜

地域のまちづくりに一役買っているといえそうな、ゲストハウス。この数年で、急速に増えているようです。どうして増えているのか、地域でどんな役割を果たしているのか。日本全国の個性的なゲストハウスを紹介するフリーペーパー「ゲストハウスプレス」編集長の西村祐子さんに聞きました。

西村 祐子(にしむら ゆうこ)さん
ゲストハウスプレス編集長・ワンダラーズライフデザイン代表。
「日本の旅をリノベーションする」を合言葉に、従来の物見遊山的な観光旅行ではなく、暮らしに寄り添う体験・体感型の旅の楽しさを企画・発信。自身の小売業店長、Webディレクター、ボディセラピストなど豊富な職業経験から「新たな視点を得、生き方を見つめ直す」ツールとして旅の効果を再認識し、2013年フリーペーパー&Webメディア「ゲストハウスプレス」を創刊した。最近の興味はアジアや欧米のゲストハウスや旅のトレンド動向。

ゲストハウスが急速に増えている理由

特に観光地において、「簡易宿所」に分類されるような、いわゆる民宿は、以前から多く存在していました。その民宿に代わって、近年、新たな増加(※1)を示しているのが、個人客をターゲットとしたドミトリー形式(相部屋)や、設備を共用する「ゲストハウス」や「ホステル」と呼ばれる宿です。

古民家や町屋をリノベーションしたゲストハウス、あるいは、オフィスビルを1棟まるごとコンバージョンしたホステル。どうしてこんなに続々とオープンしているのでしょうか。

※1 厚生労働省 衛生行政報告例より

西村さん「さまざまな要因があるとは思いますが、特に都市部でゲストハウスが増えている直接的な理由は、外国人観光客の爆発的増加です。この5年で4倍近くになっていますね。背景には、ビザの緩和で1ヶ月以内の観光ならビザなしで来日できるようになったこと、台湾、韓国、中国など近隣諸国から地方空港への直行便が増えたことやLCC(ローコストキャリア)と呼ばれる格安航空の就航が大きいですね。日本食ブームも手伝って、香港では、訪日2回目以上が87.4%、10回以上のリピーターが26.4%もいるんですよ。(※2)」。

※2 観光庁 訪日外国人の消費動向 2018年7-9月期(速報)報告書より

日本食といっても、私たちがイメージするような和食、懐石料理ではありません。ラーメンやカレーライス、炉端焼き。いわゆるB級グルメが、日本食ブームを牽引しているのだそう。

西村さん「もうひとつ、大きな流れがあります。それは、東日本大震災によるマインドの変化です。震災前からゲストハウスを開業する人が増えつつあったけど、震災が起きたことで、自分の暮らしの足元を見つめ直したり、実際に地方へ移住する人も増えた。そして、その移住者たちが、地域のなかで暮らすこと、自然のなかで暮らすことを発信したりして、価値観の変化が起こりましたよね。“ローカル”のあたたかさに触れたい、自分もそのコミュニティの一員になりたい。いまのゲストハウスブームを支えているのは、こうしたマインドだと思います」。

もう少しさかのぼると、京都と沖縄には、バックパッカーが泊まるような格安宿が多くありましたが、特に沖縄では、空いている部屋を宿にするなど、誰でも簡単にできることから、あっという間に価格破壊に。安易に開業した格安宿はどんどん淘汰されていきました。その流れとは別に、ポリシーのある、おしゃれでこぎれいなゲストハウスが2008年〜2010年頃に全国各地に同時多発的に発生しはじめた。そうした流れの上に震災が起こった、と西村さんは振り返ります。

西村さん「それから、ゲストハウスが増えたことと切り離せないのが、地域おこし協力隊の増加です。まちづくりに関わりたいというだけでなく、起業マインドのある人材は一定数いると思うんです。そういう人たちが、地域おこし協力隊の卒業を迎えるにあたって、その地域でゲストハウスを開業したりする。Uターンをした人や移住者、それから地域おこし協力隊、彼らがまちのキーパーソンとなって、カフェやゲストハウスでまちを盛り上げていく、そんな事例ですね」。

地域おこし協力隊の人数は、平成30年度には5,359人(※3)。迎え入れる地域の目線で見ると、かなりインパクトのある数字です。外から地域に入ってきた人が、同じく外から入ってくる人のための「地域のハブ」的存在になる。ゲストハウスには、そんな一面もありそうです。

※3 総務省の「地域おこし協力隊推進要綱」に基づく隊員数

地域でゲストハウスが成功する要因

都市部や観光地のゲストハウスと、地域のゲストハウス。求められるものは異なりそうですが、地域のゲストハウスが成功するには「タイミングが大切」と西村さんは話します。

西村さん「ゲストハウスの特徴は、素泊まりで水回りが共同であること。素泊まり、つまり晩ごはんがつかないんですね。朝ごはんはついたり、つかなかったりですけど。ゲストハウスって、歩いていける範囲に、食べるところが複数ほしいんです。連泊をすると、毎日同じものを食べるのは避けたいから、できれば2軒以上。それから、ちょっといい感じのカフェ。ゲストハウスがオープンするときには、まちにそうした食事処がすでにあると、開業後に成功しやすいですね」。

歩いていける範囲に、というのもポイントで、「外国人や若い人は車なしで行動する人が多いので」とのこと。食べるところが歩いていける範囲にないような場所にあるゲストハウスでは、夕食材料付きの料金で夜はみんなでつくる「シェアごはん」を採用している宿もあります。

西村さん「もちろんそうした条件にプラスして、そのまちへ行く理由がないと。自然環境でもいいし、人でも、イベントでもいい。何かきっかけがあって、夜ごはんを食べれる場所があって、はじめてそのゲストハウスに泊まりたい、ってなると思っていて。だからゲストハウスができるちょうどいいタイミングって、移住してきた若い人がカフェをオープンしたりして、それも2〜3軒密集しはじめて、ここに泊まれる場所があったらいいのにね、ってみんなが言い始める頃だと思うんです。ゲストハウスひとつでは完結しない、というのがポイントですね」。

考えてみると、これまでの一般的なホテルは、ホテルの中ですべて完結していました。レストランやカフェが複数あるのはもちろん、温泉の大浴場もあったり、カラオケルームもあって、ホテルから1歩も出なくても完結するビジネスモデルともいえそうです。

西村さん「ゲストハウスは真逆なんですね。ゲストハウスはコンシェルジュ的要素が強くて、お客さんが近くの美味しいお店をスタッフに聞いたりするじゃないですか。その人にあったバラエティに富んだ提案が必要になるので、必然的にまちのことをよく知らないといけないですよね。だからその地域のハブになりえるんです」。

ゲストハウスがムーブメントになる理由

ゲストハウスが急速に増えている原因や、成功する要因が見えてきました。でも、大きなムーブメントになりつつあるのは、どうしてなのでしょうか。西村さんは、ゲストハウスを「特に若者が異文化に触れる最初の場所」と言います。

西村さん「いま、多様な生き方ができる時代になりつつありますよね。でもその価値観に気づかなければ、就職して、企業人としての成長を続けていくことになると思うんです。でも、職場以外で人と合わなかったりして、人間関係がどんどん小さくなっていく。一方で、ゲストハウスには、さまざまな年齢の、さまざまな職業の人たちがいて、何かしらの交流が生まれていくのが面白いと思っていて。さっきの話で言うと、近所のおいしいお店をスタッフに聞けば、そのやりとりを聞いている人が、「そこ美味しいよ」と会話に入ってくることもある。知らない人に話しかけてもいい場所って、日本にはあまりないと思っていて」。

いろんな生き方をしている人に触れることで、自分にももっと可能性があるんじゃないかと考えるきっかけになります。西村さんは、自分が会ったことのないような人と話して、あらたな視点や気づきを得られるゲストハウスという場所を紹介することで、たくさんの人生が変わったらいいと考えて「ゲストハウスプレス」を創刊したのだそう。

西村さん「さらに言うと、ゲストハウスのオーナーって、新しいライフスタイルというか生き方のモデルになりうると思っています。地域に入って、たくさんの関係性をつくって、そのあたたかい輪の中で生きていく。憧れますよね、地域で起業するという意味合いにおいても。自分のやりたいことってこういうことかもしれない、という見本になりやすいと思うんです」。

学生が就職を考える時期や、転職を考えてふらりと旅をするなど、20〜30代の人生を再考するタイミングで、どんな出会いをするか。地域に足を運んで、ゲストハウスで地域のよさ、人のよさに触れて、そこで自由に生きていく。そんなモデルを見つけてしまったら、確かに考え方も変わりそうです。

西村さん「評判がよくて、移住者が増えていく要因になりそうなゲストハウスのオーナーは、だいたいUターンした人か移住者ですね。だから、移住者のよきモデルにもなる。カフェ以外に、地域でいけそうだと考えるビジネルモデルがゲストハウスなんじゃないかと。クリエイターのようにどこでも活かせるスキルがあれば別ですが、移住後にどうやって生きていくかを考えるとき、まず思いつくのがゲストハウスなんだと思います」。

ゲストハウスがまちを変えつつある、7つの事例

地域に滞在してまちの魅力を発見できるだけでなく、スタッフや他の宿泊者との交流から自分のライフスタイルや生き方を考えるきっかけにもなるゲストハウス。まちのハブ的存在として、地域に足を運んだ人だけでなく、地元の人たちにも愛されるゲストハウスは、まちの新しい顔となって人の流れを生み、まちの印象まで変えてくれそうです。

インタビューの最後に、まちの新しい潮流をつくり出しつつあるようなゲストハウスを西村さんに教えてもらいました。

マスヤゲストハウス(長野県諏訪郡)

長野県諏訪郡下諏訪町、明治時代の古地図にも載っている老舗の旅館「ますや旅館」の屋号を受け継ぎ、3ヶ月のリノベーションを経て完成したマスヤゲストハウス。古くからある食堂と新しいカフェが共存しつつ、近くに古材と古道具を販売する建築建材のリサイクルショップ「リビルディングセンター」もできたこと、オーナーの斉藤希生子さんの人柄も手伝って、全国から人が集まっています。

1166バックパッカーズ(長野市善光寺門前)

築80余年の建物をリノベーションした長野市善光寺門前にあるゲストハウス。年間600万人が訪れるという善光寺のある観光地で飯室織絵さんが開業した「1166バックパッカーズ」は、今年で9年目。徒歩圏内に小さなカフェやギャラリー、雑貨屋さん、本屋さんなど50店以上の魅力ある場所があり、地域の人と触れ、小さな商いや催しを楽しめる。長野市は、毎月開催される門前暮らし相談所/空き家見学会もあるためか、UターンやIターンなどの若い移住者が増えています。

SAMMIE'S(サミーズ)(福井県福井市)

福井を楽しむ起点となる、福井駅から徒歩5分のゲストハウス。Uターンし、セルフリノベーションを経て誕生した「SAMMIE’S」は、多くのゲストたちに愛される場所に。オーナーの森岡咲子さんがUターンしたきっかけは、書籍「Community Travel Guide 福井人」。福井はこれからきっと面白くなる!という予感からゲストハウスを開業。今では福井のランドマーク的存在となっています。

たけた駅前ホステルcue(大分県竹田市)

城下町竹田の築80年を越える古民家をリノベーションしたゲストハウス。竹田市に地域おこし協力隊として移住した堀場貴雄、さくらさん夫妻が開業。コンセプトは「旅の先に続く日々の暮らしに新しい世界のきっかけを」。cueという名前も「きっかけ=cue」から来ています。地域の人はもちろん、遠方からも人が訪れるイタリアンレストランOsteria e Bar RecaD(オステリア・エ・バール・リカド)とともに、地域の入り口としてリピーターも増えています。

ゲストハウス コケコッコー(北海道釧路市)

築65年の元旅館、おばあちゃんちのような佇まいのゲストハウス。オーナーのちひろさんは、釧路市出身のデザイナー。地域を盛り上げようと、釧路をクスッとさせる「クスろ」も手がけていて、まちづくりに関わっているうちに、結果的にゲストハウスを開業することになったというケースです。現在は冬ごもり中ですが、4/19(金)から営業が再開されます。

みなとやゲストハウス(長崎県壱岐島)

芦辺港近くの築約100年になる元遊郭の建物を利用した、釣り師と海女(大川漁志さん、香菜さん)が営むゲストハウス。香菜さんは、東日本大震災を機に長崎へ移住。壱岐市地域おこし協力隊の一員として海女修行をしたのち、壱岐の釣り師である漁志さんと結婚。夫婦で収獲した魚貝と島の野菜を使った夕食を楽しめることから、多くのリピーターで賑わっています。

ゲストハウスマルヤ(静岡県熱海市)

海沿いに温泉リゾートホテルが並び、かつては大勢の観光客で賑わっていた熱海。オーナーの市来広一郎さんは近年廃れつつあった地元に活気を取り戻そうと、築66年の倉庫をリノベーションしたゲストハウスを開業。名物は、観光メディアには載っていない場所を巡る週末の「まち歩きツアー」と、向かいにある老舗干物屋で好きな干物を調達して朝ごはんにする制度。ゲストとまちの人、まちの暮らしをつなぐ役割を果たす場所になっています。

行ってみたい!と思えるようなゲストハウスばかりですね。ふと思い立ったら、地域へ足を運んでみてはいかがですか?

ちなみに、西村さんが編集を手がけるフリーペーパー「ゲストハウスプレス」は、創刊から7年目。現地に必ず自費で宿泊し、西村さんがいい!と思った宿だけが紹介されています。この「ゲストハウスプレス」で、これまでに取り上げたゲストハウスがどう進化を遂げているのか、そのエリアの紹介や変容などをまとめ、この春には書籍『Guesthouse Press 2013-2018』が発売される予定だそう。近いうちにクラウドファンディングが始まるので、ぜひウォッチしてくださいね。

文 増村 江利子