地方創生にクリエイティブがどう活きるか。リアルSMOUT「ローカルPR動画の夜明け」イベントから考える、地域ブランディングの仕掛けかた

地方創生にクリエイティブがどう活きるか。リアルSMOUT「ローカルPR動画の夜明け」イベントから考える、地域ブランディングの仕掛けかた

10月20日、神保町のLAB&Kitchenにて「リアルSMOUT Vol.01 ローカルPR動画の夜明け」が行われました。移住スカウトサービス「SMOUT」を運営するカヤックLivingの初の主催イベントで地域のひとがやってきて地域に関心のある人をスカウトする企画です。今回のテーマは「五感で味わう」。ローカルPR動画にまつわるトークセッションと、地方の特産物を活かした料理や飲み物を楽しみました。

地域ブランディングや移住促進、シビックプライド醸成など地方PR動画の制作において、どうすれば正解を導けるかを考えようという内容です。当日のセッションから「地方創生とクリエイティブ」について考えてみたいと思います。

地元出身だから、バズる移住促進動画がつくれた

 

発表を熱心に聞く参加者。

 

今回のトークセッションには、、最前線で活躍するクリエイター陣が登場。各自の専門分野から、作品を事例にあげながら地域PR動画に活かせる手法や考え方を紹介しました。Dentsu Lab Tokyoの越智一仁さんは宮崎県小林市のPR動画制作の経験に基づく「地方創生にクリエイティビティがどう活きるか」、資生堂の吉田聖子さんは、企業ブランディングを行う立場で見た「今の地方にはないが活かせる企業の考え方」、カヤック平野俊介さんはバズ動画のトレンドや実現のさせ方など、クリエイターが地域に関わる上での可能性も広く取り上げられました。

写真右:越智一仁さん(Dentsu Lab Tokyo)
コミュニケーションプランナーとして、デジタル施策やソリューション開発に従事。小林市PR動画、ネピア「Tissue Animals」、グリコ「Crisp Concert」など。

写真右から2番目:吉田聖子さん(資生堂)
クリエイティブディレクター。「エリクシール」のリブランディングやメイクアップエンターテインメント動画「The Party Bus」などを手がける。

写真左から2番目:平野俊介さん(カヤック)
プランナー・映像ディレクター。バズ動画制作のスペシャリストとして、キリンビバレッジ「プラズマ乳酸菌『SPECIAL STUDENT』」、SMRJ:独立行政法人中小企業基盤整備機構「社畜ミュージアム」など

写真左:モデレーター:刀田聡子さん(宣伝会議 月刊『ブレーン』)
月刊『ブレーン』編集のほか、地域PRのムック制作や地域活性化プロジェクト「地域×デザイン」展運営などを行う。

スタートは越智さん。小林市PR動画の制作経緯が説明されました。相談を受けた時点で、総務省から年4本の動画制作と1本目を「移住促進を目的にしたもの」と決まっていたとか。

宮崎県小林市の移住促進ムービー『ンダモシタン小林』

越智さん「ですが、動画で移住の直接効果を見込むのは難しいと素直に伝えました。担当者に100本のPR動画を見てもらって感想を聞くと、どれも景色・笑顔・食材で5分。確かに見るのはキツいとの判断になり、新たにどうすれば記憶に残すべき物が残せるかを皆で必死に考えました。その結果が、地元民と地元出身者へのアピールでした」。

直接の移住促進は難しくても、地元民の理解促進や市外在住者との交流強化には効果がある。PR動画をシビックプライドの醸成や地元出身者の認知ツールと捉えたわけです。また、仕事がなければ移住促進には繋がりません。そこで将来的に仕事をつくるため、都心で活躍する出身者からの情報提供や、地元での職業教育の強化をおこないたいと考えました。そこで2本目の制作は、動画ではなく高校生のキャリア教育に視点を当てたものづくりイベントを開催。さらに地元のアーティストと曲をつくる「日々のうたごえプロジェクト」ではWebや新聞広告、文化祭やCD制作まで体験してもらい、それを記録動画として公開しました。

越智さん「動画制作にはゴール設定が重要です。また動画には、動画だけで簡潔する場合と、周辺を巻き込む必要がある場合があります。私が市民を巻き込んだワークショップを行ったのは、『小林市というまちの面白さ』を伝えるためのファクトが必要だったからです。ワークショップ動画により、小林市は教育視点でものづくりをする、との印象を県内外に与えられるのです」。

250万回と驚異の視聴数ながら、実際の結果は一長一短。認知度向上によるふるさと納税額のアップの一方で、全国各地で安易に地域ブランディングのためにPR動画をつくろうという依頼が増えてしまったそうです。

越智さん「この結果は予測していたものではありません。地域ブランディングは特に特殊で、縁もゆかりもない人ではうまく行かないと思うんです。僕がうまくやれたのは、Wikipediaには乗らないような感覚値がある地元出身者だったから。成功のためにチームに入れるべきは地元出身のプランナーだと思います」。

面白さとバズは比例しない。どうすればシェアをしたくなるか

一方、社内クリエイターとして制作に従事する吉田さん。地元出身のクリエイターがつくる地方PR動画と、その企業をよく知る社内クリエイターがつくる広告には、類似点があるとも言えます。しかし入札後に目的を立てる自治体と目的から手段を考える企業、仕事の始まり方は大きく異なります。

吉田さん「どういう人と何のために、何をわかち合いたいのかというコミュニケーションの軸がわからないと、本来は動画にすべきかどうかも見えないんですよね。でも地域ブランディングも企業の動画と同じで、誰と何をわかち合いたいのかを深掘りすることが重要です。また魅力を伝えるならやっぱり地域の人が一番だと思います」。

そもそも、PRの上ではどんな場合に動画が効果的なのでしょう。越智さん曰く、目的ごとに動画の内容を変える「Googleの3H戦略(Hero・Hub・Help)」(※)で考えるのが一般的。この場合、地域PR動画はあるメッセージを閲覧した人に拡散してもらうHero動画に位置づけられます。商品であれば、直接購買に繋がらずとも特徴をまとめた詳細サイトには誘導できる、という位置づけです。

また自治体では一般的な、動画の手法先行のプロジェクトに課題を落とし込んで企画化する場合は、具体的にどうすればいいのでしょうか。「バズ動画をお願いします」という依頼から始まるプランナー平野さんの事例です。

※ Googleは、YouTubeの視聴傾向を分析し、YouTube視聴者が好む動画の種類を分類し、企業・ブランドにとって役に立つであろう3つの方向性に整理した。Heroは、多くの人が持つ、人間の普遍的な欲求を刺激するもの。Hubは、ブランドが対象とするターゲットが身近に感じる世界観や価値観を意識したもの。Helpは、消費者の顕在化したニーズに応えるもの。

平野さん「バズらせたいという依頼の場合、もう最終手段だというクライアントさんが多いです。例えばプラズマ乳酸菌は、商品認知も低い、広告費も限られ、コミュニケーション方法もわからないなど課題が多く、一発逆転を狙いたいとの依頼でした。死ぬほどアイデアを考えたのですが、その一つがWeb動画でユーザーを味方につけ、広めてもらうことで予算不足を補う形でした。さらにバズ動画を研究し、面白さとバズは比例しないことを発見したので『どうすれば見た後にツイートやシェアしたくなるのか』と考えました」。

またバズ動画には2タイプあり、地域PR動画なら、『シンフロ』のようにタイトルやサムネの段階で見なくてもすでに面白いと分かるもの、『小林市』のように最後まで見て面白いと感じてもらうものに分けられる、との分析も。後者が多いお二人からは「起承転結関係なく全編大サビになるよう意識する」、「ヘッダの文言やタイトルで引っ張った」といった離脱を避ける工夫のお話もありました。

【おんせん県】「シンフロ」篇 フルバージョン

セッション中盤、吉田さんから「中小機構や自治体にコンテはどう理解してもらうのか。ジャッジ側に理解する能力が必要だと思うがどう成功させているのか」との質問が。越智さんからは「クライアントとの関係構築」、「見ないと伝わらない案は必ずプロトタイプをつくる」、平野さんからは、入札制コンペでは他と被らない案を選び「信頼してもらうために動画の面白さのほか、どのように話題になっていくか、人に伝わっていくかなど、理由と結果も提示する」という裏側が明かされました。仕事を通じて担当者に流行や動向を随時レクチャーすることで次の企画を理解してもらいやすくなるなどの解説もありました。

地域ブランディングで必要なものと、クリエイターができること

セッションの最後は、「地域ブランディングで必要なものと、クリエイターができること」についてです。

吉田さん「クリエイターと依頼者の信頼関係が大事。担当者が『こうしたい』という熱さを持ち、課題を一緒に考えてくれるクリエイターと組むこと。『この人となら未来が開ける』と希望が持てる信頼関係を構築できれば、地方自治体の前例主義を壊すこともできます」。

越智さん「クリエイティビティは形がないものです。行政においてはまだまだその価値を理解してもらうのは難しいですが、デザインを変えるだけで行動が変わる例もあります。行政は仕組み設計を含めたデザインを学ぶ必要があり、クリエイターは行政に伝えながらその活動が生む価値を学ぶ必要があると思います。一つの学問として、クリエイティブへの理解を進める下地になるといいですね」。

平野さん「僕は小林市の動画を通じて小林市にアンテナが立ち、何かのたびに気を向けるようになりました。知られていない地域は認知度をあげることでコミュニケーションしやすくなったり経済効果も出るので、動画を一つの手段として活用されるといいと思います」。

モデレーターの刀田さんは、みなさんのお話を次のように総括。

刀田さん「関係性が重要ということですね。ただ動画をつくって採用、では次の展開は生まれません。自分の町はどうなるとよいのかと相談できる関係性があることで、クリエイターとよりよい仕事ができるのではないでしょうか。ものづくりはもちろんアイデアも豊富な方々ですから、その側面を活かしながら問題解決をできることがポイントだと思います」。

クリエイターに協力してもらうことで、課題が解決できたり、新しい道が開けることもある。地域PR動画の活用はもちろん、クリエイターと地域担当者の信頼があることこそがよいまちづくりに繋がるのかもしれません。

 

休憩中は、4地域の食材を活かした料理やドリンクを楽しみます。

 

 

ボリュームたっぷりの「宮崎のお肉大集合丼」。メインからデザート、おつまみ、ドリンクまでさまざまなメニューが並んでいました。

 

 

ドリンクコーナー。久米島町の泡盛や小林市の水など。

 

 

文 木村早苗