SMOUTは、2025年4月にロゴデザインとサービス名表記を「スマウト」と改め、あらたにタグラインを「地域とつながるプラットフォーム」に変更しました。「スマウト」のこれまでと、これからについて、メンバー4人で対談をおこないました。
お聞きしたのは、面白法人カヤック執行役員(ちいき資本主義事業担当)の中島みきさん、ちいき資本主義事業部長・スマウト事業責任者の宮本早織さん、ちいき資本主義事業部ディクレターの中村圭二郎さん、スマウトディレクターの宮部誠二郎さんです。聞き手は、「スマウト」の立ち上げから伴走してきた編集担当の増村江利子です。
地域の人が、自らの言葉で発信する
ーー地域とつながるプラットフォーム「スマウト」のリリースは、2018年のこと。東日本大震災以降は、地方への移住者は増えつつありましたが、移住を促すサービスはまだなかった時期に、当時のタグラインである「移住スカウトサービス」として立ち上げた背景には、どのような思いがあったのでしょうか。
面白法人カヤック執行役員(ちいき資本主義事業担当)の中島みきさん
中島さん「スマウトは、2018年にカヤック代表の柳澤が『鎌倉資本主義』を出版して、それと同時並行で始まったと認識しています。スマウトの根本にある思いは、カヤックのモットーでもある、“同じ価値観を持つ人たちと、同じ地域に住んで、一緒に仕事をすること”。
ここからは諸説あるんですが、私の説では、その考えをベースに、さまざまな地域の人たちが地域の魅力や大事にしていることを発信したり、地域に来てくれる人とオンラインを通じてつながることができれば、地域側は自分たちの強みや誇りを再認識でき、地域へ足を運ぶ人は、地域を知るとともに改めて自分を知るきっかけを得られる。そんな相互作用を生み出せるプラットフォームとしてスマウトが生まれたと考えています。」
ーー諸説あるのですね。みなさんの説もぜひお聞きしたいです。
ちいき資本主義事業部長・スマウト事業責任者の宮本早織さん
宮本さん「私のお気に入りの説は、東日本大震災をきっかけに移住する人が増えるという社会的な背景がある中で、当時の代表が、増村さんから『その地域に3人の知り合いができれば移住できる』と聞いて、そういうつながりや、きっかけとなる場として生まれた、というものです。」
ちいき資本主義事業部ディレクターの中村圭二郎さん
中村さん「当時、“好きに暮らそう”をテーマに、家をつくりたい人と建築家をマッチングする「SuMiKa」というサービスを展開していたのですが、空き家というハードに対して、ソフトから地方創生に関わる事はできないかということで、人にフォーカスしたサービスを立ち上げることになったんです。
移住先を選ぶ理由として、知り合いができて勧められたからというのが多かったので、移住したい人と地域の人をマッチングするサービスに可能性があると考えて立ち上げたというのが、僕の説です。」
ーーどの説も素敵ですね。サービスの立ち上げ時から関わらせていただきましたが、開設時の議論で印象に残っているのは、誰が発信するかについてです。社内の制作チームが地域の記事をつくるのではなく、地域の人それぞれが記事をつくるのがいいのでは、と。誰が発信するかについて、どんなふうに考えていますか?
中島さん「スマウトの大きなチャレンジは、書くことに自信がない地域の人でも、書けるようになるプラットフォームをつくることです。そのために管理画面を工夫したり、同じような内容の記事を参照しやすくしたり、反応を見てリバイスできるようにしました。地域の人に、当初はよく『書くスキルがありません』と言われましたが、やってみるとだんだんと書けることがわかってきて、その繰り返しでうまく回りだしたように思います。AIを活用する現在においても、書くこと自体はAIが生成してくれるようになっていきますが、何を書くのか?の部分においてはスマウトが壁打ち的な役割を担っていくだろうと思います。」
中村さん「当時の移住施策って、どの地域も、空気がきれい、自然が豊か、人が優しい、食べ物がおいしい、補助金もたくさんありますって、同じことが書いてあって。だからスマウトでは、自治体職員さん自身の言葉で発信することが大事だと伝えてきました。あなたのまちの本当の魅力を一緒に考えましょうと。
その中での大きな気づきは、強みではなく、弱点がコミュニケーションのきっかけになることです。例えば、この部分に人が足りないという弱みを発信することで、それならできそう、手伝いたいという移住希望者とつながることもある。そうした発信をしてみようと思ってくれた地域が、初期のヘビーユーザーになりました。」
スマウトディレクターの宮部誠二郎さん
宮部さん「最初は自信がなくても、自分が書いた記事に反応が出てくるとやっぱり喜んでくださるし、それによってつながれるという感覚を持った地域は多かったと思います。他のまちの事例を見て“自治体職員でもここまでできるんだ”と思って、励まされたり、刺激になったりするのは、スマウトならではですよね。」
コロナ禍で拡がったオンラインの可能性
ーーコロナ禍によってさらに移住者が増え、スマウトの他にも移住プラットフォームが立ち上がる中で、それらとスマウトとの違いは何だったのでしょうか。また、スマウトは現在、1,080を超える地域の方々に利用していただいていますが、そこに至るまでに、どのような転換点がありましたか。
中島さん「コロナ禍以前から、スマウトではオンライン移住相談をやっていましたが、コロナ禍で移住希望者と直接会うことが難しくなったことで、自治体からの利用相談が大きく増えました。」
中村さん「協力隊の募集イベントをオンラインでやったのは、おそらくスマウトが初めてでしたよね。それまで有楽町の交通会館でリアルイベントがされていましたが、それに対するカウンター施策だったと思います。」
ーーコロナ禍には、オンラインによる24時間配信もされていましたね。
宮部さん「ずいぶんと話題になって、翌年は48時間に拡張されました。」
中島さん「そうやってオンラインでの学びというか遊び、みたいなことが知見になって、相談をいただくきっかけにもなりましたね。オンラインでも関係人口はつくれる、地域と移住希望者がつながるきっかけはつくれる、と示すことができた。」
宮部さん「まだなかったものに、いろいろとチャレンジしましたね。移住・定住に関するサービス・メディアを『地域系サービス・メディアカオスマップ』としてまとめたり、インターネット上で地域に関心を寄せる人を『ネット関係人口』と定義して、独自のアルゴリズムで「SMOUTネット関係人口スコア」を算出してみたり。」
ーースマウトが発信した最初のプレスリリースは、「SMOUTネット関係人口スコア」でしたね。まだ定義がぼんやりとしていた「関係人口」を指標化したことで、中央省庁からも問い合わせが来るようになったと聞きました。
宮部さん「少しずつ事例が積み上がっていく中でコロナ禍に直面して、オンライン施策が一気に広がって。コロナ禍以降、圧倒的にスマウトのご案内もしやすくなりました。」
中村さん「コロナ前は会わないと信用できない人が多かったのに、コロナ以降は、まずは会ってから、という人が僕の感覚ではゼロになりました。移住を考えるうえでは、信頼関係をどうつくるかが大事ですが、スマウトはオンライン上でも信頼関係をつくることにチャレンジしてきたことで、コロナをきっかけに波に乗れたんだと思います。
そして、多くの移住プラットフォームは、効率や分かりやすさを重視した設計になっていると思うんですが、スマウトは非効率なコンテンツの可能性にずっと掛けてきたところがある。それが信頼関係をつくることにつながっている気がします。」
非効率だからこそ、人はつながる
ーー地域のデータを比較できる「効率のいいコンテンツ」よりも、オンラインであってもその向こうにいる人の体温を感じることができる「非効率なコンテンツ」だからこそ、コミュニケーションが生まれていったり、その上に信頼関係まで構築されていくのかもしれませんね。
中島さん「一般的なマッチングサイトでは、何人移住したか、何人が関係人口になったかといった目指す数字を管理画面上でわかるようにしがちですが、スマウトでは数字だけがゴールではなく、多様な生き方を尊重することをサービスの根幹と考えています。だから、必要でない数字は明らかにしてこなかったんです。営業の人たちにはすごく難しい仕事をしてもらうことになってしまうけれど、わかりやすさや効率を追求しないことは、実はずっと大事にしてきました。」
宮本さん「ページビュー数を公表するかしないか、よく議論になるんです。スマウトは出していないんですけれど、出さない美学をもつことの大事さをメンバーから学びました。」
ーー何人が閲覧したかということではなく、地域の人がどんな人とつながることができたのかを大切にしたい、ということですよね。
宮本さん「はい。さらに、その地域にあったいい人が行くことが大事だという議論をよくします。合わない人が100人行くよりも、本当に必要な、いい人が1人行く方が価値があると思うんです。実際に、スマウトから地域に行った人は、「いい人が来た」と言われることが多いんです。意図してそうなったわけではないのですが、ここまで話してきたような、サービスの設計や営業のスタイルが落とし込まれて、結果的になぜかいい人が地域に行くことが評価につながっている。とても面白いなと思っています。」
中村さん「非効率が苦手な人はスマウトを使うとイライラするかもしれないけれど、そういう人は時間軸が違う地方に行ってもイライラして、いろんな人とぶつかってしまうと思うんです。地域の人たちは、非効率が好きなわけではなくて、非効率の中でもがいてる。なので、その中に効率ばかり求める人が入ってもうまくいかないんです。効率化するのではなく、非効率の中で何かを見出そうとする人がその地域にとってのいい人です。スマウトはそれをフィルターしていているから、逆に言えば、そういう人しかスマウトを使って移住しないのかもしれない、と思いました。」
中島さん「そうですね。私自身がそうなんですが、いろいろな地域へ足を運んだり、お話しているうちに、経験値が上がっていくんです。それはスマウト上でいろんなプロジェクトを見て、こういうの好きだなと思ったりするだけでも言えることで、徐々にレベルアップして、じゃあ行ってみようとか、話してみようという行動につながっていくんだと思います。こんなふうに経験値を積むことで、その地域にとってのいい人に、だんだん近づいていくのではないでしょうか。
最近、スマウトの回遊率が上がるよう改修したのも、スマウトというトンネルに何の意図もなく入ってもらって経験値を積んで、トンネルから出ていく時にはちょっと違う自分になっていたらいいなという意図が込められています。」
移住だけではない地域との関わり方を提供していく
ーー今回のリニューアルで、先述のとおりタグラインが「移住スカウトサービス」から「地域とつながるプラットフォーム」へと変わりましたが、今後、スマウトはどのように変わっていくのでしょうか。
宮本さん「タグラインの変更には、移住だけではなく、関係人口として関わったり、ちょっとお手伝いしに行ったりと、さまざまな地域との関わり方を提供価値として明確にもちたいという意図が込められています。
その中で今、自治体から民間企業に広げる取り組みを進めています。3月には副業サービス「JOINS」と提携し、宿泊施設や製造業など地域の企業とユーザーのマッチングに加え、採用もサポートも始めました。地域の仕事と暮らしを合わせて紹介するという切り口が好評で、採用できましたという声が出始めています。」
宮部さん「先ほどの話ともつながるのですが、民間企業はやはり効率を求めるので、非効率の先にある「いい人を取る」という価値観を、今度は民間企業の経営者さんや採用担当者さんにどう伝えていくのか、そこを試行錯誤しているところです。現時点では、非効率という方針に乗ってくれる民間企業は、本当に素敵なマッチングができている。ユーザーにとっても、民間の求人情報もあると選択肢が増えていくので、いかにいい求人情報を集めてこれるかが鍵だと思っています。」
ーー最後に、これから挑戦したいことをそれぞれ教えてください。
中村さん「地域のプロジェクト以外の部分で、地域に興味を持ってもらうコンテンツってなんだろうとずっと考え続けています。僕が今興味を持っているのは、その地域を感じることができる時間軸なんです。たとえば、車社会の地域と、公共交通機関で移動できる地域、平地で自転車があれば移動できる地域、歩いて回れる地域。それぞれで時間軸が全然変わってくるはずなんです。その時間軸から地域を感じることができれば、遊びに行ったり、誰かに会いに行ったりするきっかけが生まれるんじゃないかと。そうしたことを発信するお手伝いや、何かしら面白い指標にできないかなと考えています。」
宮部さん「僕はずっと、人とまちをつなぐことにやりがいを感じています。人口減少が進み、一人の人が与えるインパクトが大きくなっていくと思うので、スマウトを通して新しく出会いや新しい暮らしが生まれる場をこれからもどんどん増やしていきたいと思っています。スマウトからいい人が来て、まちが良くなったり、暮らしが豊かになったり。その人がまたスマウトを通して「いい人」を呼ぶサイクルが生まれ、加速していくことで、より素敵な地域になっていくと思います。」
宮本さん「都市部に住んでいると、普通に暮らしているだけで世の中は勝手に回っていて、それが手触り感のなさにつながっている人が多いと思うんです。そこから脱却するには、こうでなくてはいけないという人生のレールを外れて、自分の人生をDIYする必要がありますよね。そのために地域はとても大きな要素になると思っているんです。スマウトを通してさまざまな地域に触れて意識が変わり、自分の人生を切り開く人が増える、そんな未来を加速させていきたいです。」
ーースマウトによって地域はもちろん、ユーザーにとっての人生もいい方向へと変わっていくといいですよね。
中島さん「そうですね。形を変えながらサービスを継続して、世の中が変わっても、暮らしを良い形に持っていけるような変わらない場所でありつづけたいと思います。そのために大事なのは、スマウトに関わっている人たちみんながスマウト的な行動や思いを共有していること。それは、事業として継続することに責任を持ちながら、私たち自身もサービスを使う側の視線を持ち続けて、こうあってほしいという思いをあきらめずに、自信を持って使ってもらえるようにすることだと思います。新しいフェーズに踏み切れたのも、今スマウトを運営してくれているみんなが、そういう方向に持っていってくれると信じられるからです。」
ーー日々、スマウトは何を大事にしたいのか、どんな人の、どんな幸せを願うのか、そしてあきらめずにサービスに向き合い続けることが、スマウトという風景をつくっているんだなと感じました。
これからもスマウトというトンネルに、ふらりと足を踏み入れてみてもらえたらと思います。好きな場所で、好きなように暮らすこと。どこかの地域のお誘いに、耳を傾けて、何か感じるものがあれば、そこからきっと、新しい未来がつくられていくはずです。
文 石村研二
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