今、都市部を中心とした生活者は、地方移住に対してどう考えているのでしょうか。移住検討者の真の姿を知りたいという思いから、SMOUT移住研究所では『みんなでつくる移住白書2020』をまとめることになりました。
コロナウイルス感染症の感染拡大が起こり緊急事態宣言が発令された今年の春、これからのafterコロナ/withコロナの時代に「移住」はどこへ向かうのか、アンケート調査に加えインタビュー調査から、今私たちは、「移住3.0」というべき地点にいるのではないかということに気づいたのです。
今回は、「移住3.0」のこれからについて、『みんなでつくる移住白書2020』から、宮崎大学 地域資源創成学部 講師の土屋有による考察を引用し、紹介します。
「移住3.0」のこれから
本調査が明らかにしたことのもう一つに、移住者・検討者にとって“移住”の意味が大きく変化しているという点があるのではないだろうか。
「過去の移住=人口移動」を振り返ってみると、わが国では戦後の経済成長に伴い人口の大都市圏の集中という移住がおきている。「移住1.0」とも言えるこの現象は戦後、とくに1940年代後半からの戦後復興期の需要拡大による地方からの都市圏への大量の人口移動である。その後、国土交通省のデータ(※1)によると高度経済成長期となる1962年には東京圏の転入超過数は年間39万人となり、地方圏から東京圏・名古屋圏・大阪圏の三大都市圏への移住が一般的なものとなっていた。第一次・第二次石油ショックによる転入数の減少、1980年代のバブル期の再度の都市圏への移住などを捉えると、「移住1.0」とは移住者たちが経済的豊かさを求めて“移住”という選択をしてきたと読み取れる。
その後、1991年のバブル崩壊から都市圏への流入減少が続いていたが、1995年の阪神淡路大震災により都市圏から地方圏への移住が発生した。これは、2011年の東日本大震災においても同様に、生活環境及び経済基盤確保という安心を求めた人口移動であり、経済的豊かさではなく安心を求めた「移住2.0」であったのではないだろうか。
そして2010年代後半からの移住は、過去日本において移住者が目的としてきたものと大きく形・意味が変わってきていることが今回の調査で見えてきた。首都圏からの地方移住への関心の中身が、経済的な豊かさや災害を理由とした安心を求めたのものではなく、自らの暮らし方を求めた移住動機であり「移住3.0」とも言える段階に入ったと考えることができる。
「移住3.0」は、経済成長期であった物質的な豊かさを求めた「移住1.0」、そして、回避困難であり突発的な事象がきっかけとなり生活の安心を求めた「移住2.0」を経た上での新たな生き方・暮らし方の変化の結果である。
地方圏から都市圏への移住による地方の過疎問題、大都市圏集中による諸問題に対して政府及び自治体は、転出・流入抑制への取り組みを続けてきたが、大きな結果を生み出したとは言い難い。しかし、現在の「移住3.0」はICTインフラの普及、企業における働き方改革に後押しされ都市圏の生活者が多様な暮らし方を求める移住であり、都市圏から地方圏への人の流れの端緒となっている。
しかし、「移住3.0」はまだ始まったばかりであり、2020年の新型コロナウイルス感染拡大に伴う社会生活全般への影響は「移住2.0」にある動機をも取り込もうとしているように見える。これから「移住3.0」世代は、さらに新たな自らの暮らし方を探し、つくり方を広げ、深めていく段階へと進化していくと考えられる。
※1 「新たな国土のグランドデザイン」,国土交通省,2014,P16
株式会社カヤックLiving 代表取締役
宮崎大学 地域資源創成学部 講師〈マーケティング論:関係人口創出〉
土屋 有
ちなみに、『みんなでつくる移住白書2020』は2020年6月4日よりこちらにて予約受付をスタート!日本のあらゆる地方の未来を考えるみなさんに、ぜひ手に取ってみてほしいと願っています。