地域への移住の足がかりとして、近年よく耳にする「地域おこし協力隊」。これは地方自治体が都市からの移住者を受け入れ、地域活動の担い手として採用する制度です。
制度は開始から10年が経ち、知名度は上がりましたが、隊員の具体的な活動や地域へのメリットは意外と知られていません。そこで改めて、この制度の意義や「地域おこし協力隊」のなり方、隊員に求められることなどをご紹介します。
「地域おこし協力隊」とは? 過疎問題から生まれた制度の意義
この制度が生まれたのは2009年のこと。背景には地方の過疎化や高齢化がありました。以前は家業を継ぐなど、生まれた土地で一生を終える人が一定数いましたが、現代では就職先や就学先を求めて都市部に移動する人が増えています。
地方から都市部への人口流出が進みすぎた結果生まれたのが、「限界集落」と呼ばれる過疎地域です。限界集落の人口は50%以上が65歳の高齢者で、山林の保護や道路の清掃など、集落の維持に必要な人手が確保できません。
国土交通省の調べでは、限界集落の数は1万箇所を超え、消滅してしまった集落は100箇所以上。過疎化は深刻な状況です。この状況を解決するために政府は「地方創生」を発案。地域おこし協力隊をはじめとして、さまざまな地域振興政策を打ち出しました。
本記事で取り扱う地域おこし協力隊は、都市部から地方への若い人材の流入を目的としています。隊員が担うのは地域の主産業である農業・漁業への従事、地域の魅力のPR、お祭りやイベントの運営など、多様なな地域活動です。限界集落に関わらず、地域おこし協力隊を地域に招いて外からの視点を取り入れるなど、募集する自治体によって隊員の活動は異なり、ある程度隊員の自発性に任せている地域もあります。
隊員の任期は1〜3年で、月に15〜18万円程度の報酬(※1)が与えられます。住居は地域から提供されることが多く、水道光熱費は隊員が支払う形が一般的。隊員の報酬は国が出しています。
開始から10年が経った地域おこし協力隊。初期は隊員数もまばらでしたが、現在では隊員層が厚くなり、平成30年度には1,061自治体で5,000人以上が活動するようになりました。地域おこし協力隊のOB・OGには地域に根付く人が現れ、地域振興を牽引しているようです。
※1 出典:地域おこし協力隊ポータルサイトの募集情報より
協力隊になるにはどうすればいい? 着任までの4ステップ
次に、地域おこし協力隊の隊員が着任するまでの流れを見ていきましょう。ステップは4段階。隊員になりたい人は要チェックです。
01. 赴任する地域を選ぶ
はじめに赴任したい地域と職務内容を決めます。隊員を募集している地方自治体は地域おこし協力隊のポータルサイトにまとめられています。気になる地域をクリックし、条件や求められる役割を把握しましょう。また、各自治体はチェックリストをもとに募集要項を作成しています。自治体側が何を求めているかがが網羅されているので、リストに目を通してみてもいいかもしれません。
ちなみに、当サイトを運営する移住スカウトサービス「SMOUT」でも地域おこし協力隊の募集ページを設置しています。ポータルサイトに比べて地域の雰囲気や思いが分かりやすく、着任するまで、あるいは着任後にお世話になる部署や人とのフランクなやりとりが可能なので、こちらも確認してみましょう。
02. 募集に応募する
「ここに住みたい」「こんな職種に就いてみたい」と思える地域があれば、募集期間と必要な書類を確認し、就職活動のようにエントリーを行います。不明点があれば地域おこし協力隊のサポートデスクもありますので、問い合わせをしてみましょう。
時間と費用に余裕があれば現地へ視察に行き、自治体の担当者との面談をお勧めします。一度隊員として派遣されれば数年はその地域に住むことになります。集落がどのような雰囲気で、生活に関わるスポットはどこにあるのかを把握し、同じ地域おこし協力隊として一緒に仕事をすることになる仲間や地域の人と事前につながっておくと、安心して着任ができるでしょう。
03. 面接
エントリー後に自治体から返事が来れば、次は面接に進みます。面接の準備として自身の経歴やできること、地域でやりたいことを整理しておきましょう。募集には複数人が応募しています。自治体にしっかりとPRができれば採用の確率も高まるはず。
04. 活動開始と人間関係づくり
無事採用が決まったら、採用先の自治体に住民票を移し、担当者から指示をうけて活動を始めます。任期の間は、自治体担当者に報告しながら、同じ地域おこし協力隊のメンバーと一緒に活動していきます。自治体は隊員の雇用主であり、共に地域を盛り上げるパートナーでもあります。彼らが何を求めているのか把握し、いい人間関係を心がけましょう。
着任後の働き方、地域の人とのつながりを増やして貢献する
ここまで着任の方法を解説してきましたが、着任後はどのような活動を行えばよいのでしょうか。
ここで思い出したいのが地域おこし協力隊の意義です。この制度は、地域の活性化を目的に設立された制度。つまり、活動内容は地域に役立つことを意識しなければいけません。
地域のためになることとは何でしょうか? もちろん、自治体から託されるミッションを遂行することが前提ではありますが、小さなところでは道路の掃除やご近所の高齢者の見守り役、御用聞き、地域の産業をサポートしてもいいと思います。
活動の一環として、地域に人を呼び込むことも忘れてはいけません。隊員が都市部や他地域から若い人材を集めれば、新たなプロジェクトが立ち上がるかも。同様に、ブログやSNSで地域の魅力を発信したり、地域で会社やお店を立ち上げてもいいでしょう。あなたのスキルと人柄を地域にどのように活かせるのかを考えれば、おのずと答えが出るはずです。
そのほかに、成功事例を学ぶために地域内だけでなく、他地域の隊員との連携も欠かさずに。特に就任初年は悩むことも多いと思います。そんな時に先輩隊員に相談すればきっと力になってくれるはず。
最後に、地域おこし協力隊の隊員は基本的には自治体の管轄下にあり、活動の際は担当職員との連携が必要不可欠です。何か行動を起こしたい場合は「〇〇をしてみたいのですが」と担当者に相談してみましょう。
地方では何をするにも人の信用が第一。イベント開催等で地域全体の協力が必要な時は、自治体や地域の有力者から話を通した方がスムーズに進むこともあります。着任後は積極的に地域へ出て、顔を広げておきましょう。
任期後(卒業)に向けてどう動くか、OB・OG のケーススタディから学ぶ
隊員の任期は最長3年と決まっています。任期満了後にその地域に住み続けるのならば、どこかに就職したり、自分で仕事をつくったりしなければいけません。
限界集落では家賃が数千〜数万円の家も多く、地域の人から差し入れをいただけることも多いので、都市部に比べてそれほどお金は必要ありません。しかし、車検代や車のガソリン代、税金や健康保険代をまかなうためには最低限の収入が必要です。
とはいえ、限界集落は都市と比べて産業や企業が多くありません。現実を鑑みると小さな起業も視野に入れておいた方がよいでしょう。ここでは、先輩隊員がどのように仕事を得て地域に根付いていこうとしているのか、SMOUT移住研究所に掲載したケーススタディをあらためて紹介します。
同じ道を辿る人のために、NPO法人や社団法人を立ち上げる
岡山県在住の藤井裕也さんは協力隊の卒業生で、「一般社団法人・岡山県地域おこし協力隊ネットワーク」の代表理事を務めています。
藤井さんはもともと銀行員でしたが、「地域振興を学びたい」と考え、2013年に安芸太田町の協力隊員に赴任しました。
任期を終えた現在は地域おこし協力隊の活動を底上げするため、隊員OB・OGを集めて自治体が経験した失敗やノウハウを蓄積。都道府県の垣根を超えて、自治体向けに研修会や勉強会を開いています。また、「NPO法人山村エンタープライズ」の設立も行い、視察受け入れや田舎体験合宿サービスも始めているそうです。
NPOや社団法人を立ち上げれば、自治体や企業との連携がしやすくなり、振興活動がスムーズに行えます。また、自治体から助成金を貰えることも利点。藤井さんのように法人格を立ち上げる隊員も多いようです。
藤井さんのインタビュー記事はこちら >>
ゲストハウスを開業する
大分県竹田市に移住した堀場さん夫婦は、千葉から移住した元隊員。協力隊3年目でゲストハウスづくりに着手し、2017年にはJR豊後竹田駅近くに「たけた駅前ホステルcue」をオープンしました。
1階はパン屋になっていて、地元住民の交流スペースになっています。今では外国人観光客が集まり、リピーターも増加。駅前の活性化に一役買っているようです。
隊員からは「地域をPRして人を集めても、宿泊先がない」という話をよく聞きます。ゲストハウスを運営すれば、外部の人が地域に遊びに行きやすくなる。そのような狙いから設立に踏み切る人も多いようです。
堀場さん夫妻が生活する竹田市のインタビューはこちら >>
地域産業の担い手になる
地域には土地それぞれに漁業や農業、伝統工芸などの産業が根付いています。しかし、高齢化のあおりをうけ、廃業する人が増えているようです。岩手県花巻市大迫町でも、長らくぶどうの生産が行われていましたが、担い手不足で廃業する農家が現れました。
ここに着任したのが佐藤真衣子さんと瀬川達矢さんの2名。佐藤さんは岩手県滝沢市に生まれ園芸職や酪農業に従事していましたが、2018年に父の出身地である大迫町へ赴任。瀬川さんは花巻市石鳥谷町出身でレントゲン技師として働いていましたが、2019年に大迫町へ赴任してきました。
赴任中は給金をもらい、ぶどう農家見習いとして働くおふたり。将来的には元ぶどう農家の農地を引き継ぐ予定です。
このケースでは農業を取り上げましたが、漁業や伝統工業の担い手も不足しています。協力隊の活動を通じて技術を学び、次の担い手になる選択肢も残されているのです。
佐藤さんと瀬川さんのインタビュー記事はこちら >>
地域おこし協力隊になることはさほど難しくはありません。むしろ赴任中や卒業後に、さまざまな創意工夫が求められます。しかしながら、工夫すればするだけ地域の人から信頼され、盛り上げに成功した時には大きなやりがいを感じられるはず。
地方移住を考えている方は、ぜひこの制度を活用してみましょう。
文 鈴木 雅矩