これからはもっと、自由に生きたほうがいい。「SHARE SUMMIT 2020 分散型の暮らし方セッション」から見えたこと

これからはもっと、自由に生きたほうがいい。「SHARE SUMMIT 2020 分散型の暮らし方セッション」から見えたこと

11月16日にオンラインで開催された「SHARE SUMMIT 2020」。「分断を乗り越えて、共生による持続可能な社会を創る」をテーマにさまざまなセッションが行われました。

今回はその中から、「分散型の暮らし方~大都市から地方分散へのパラダイムシフト~」のセッションレポートをお届けします。

登壇者は、モデレーターとして株式会社アドレス代表取締役社長の佐別当隆志さん、スピーカーとして、移住スカウトサービス「SMOUT」を運営する株式会社カヤック ちいき資本主義事業部 事業部長の中島みき、一平ホールディングス代表取締役の村岡浩司さん(宮崎からオンラインで登壇)、株式会社LIFULL地方創生推進部Living Anywhere Commons事業責任者の小池克典さんです。まずは自己紹介から始まりました。

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画面左上から佐別当隆志さん、右上が小池克典さん、左下が村岡浩司さん、右下が中島みき

佐別当さん「『ADDress(アドレス)』は、月額4万円で約100ヶ所の拠点に住み放題というサービスです。コロナ以降、都心から地方への移住者が増えていることもあって、会員数の伸びも3倍〜4倍になっています。実際に東京から5,000人以上が人口流出したというデータもあり、企業の側も優秀な人材を確保するためには地方でのテレワークをOKとする必要があるという、かつてない時代が来たと感じています。私自身も多拠点生活を経験して、地域に行く時間が日常の中にある暮らしが本当に豊かだと感じています。」

中島「最近、東京の自宅とは別に熱海にも拠点を持ちまして、今日も熱海から来ました。『SMOUT』は関係人口と移住のマッチングサービスで2万人の会員と、539地域が登録しています。コロナの影響で登録数も伸びていて、地域に興味のある方が増えている実感はあります。ネット関係人口スコアを出したり、『まちのコイン』というサービスで外から地域に人を連れていき、それぞれの地域の社会資本が高まっていくことを目指しています。カヤックの考え方として『地域資本主義』があり、社会資本をしっかりと伸ばしていくことが、最終的に経済発展にも、幸せにもつながっていくんじゃないかと考えています。」

村岡さん「一平ホールディングスは、世界が憧れる九州をつくるという理念の会社です。九州のいろいろな資源、農作物、ものづくりの伝統的な技術、ユニークな人などをつなげて九州の面白さをつくっています。メインはものづくりで、九州の一次産業にひもづいたものづくりに挑戦しています。代表的なものが『九州パンケーキ』で、九州7県から雑穀原料を集めて、現状で年間100トンを生産し海外にも輸出している他、国内外にカフェもあります。最近始めたのが『九州アイランドワーク』で、九州のコワーキングスペースをネットワークして、アプリ一つでどこでも使えるようなシステムをつくっています。」

小池さん「LIFULLのメインのサービスは不動産仲介のホームズですが、ビジネスを通じて社会課題を解決することをセンターに置き、さまざまな新規事業も手掛けています。特に空き家問題には5年ほど前からチャレンジしています。『Living Anywhere Commons』は2017年に始めたサービスで、月25,000円で10拠点をいつでも使えるサブスクリプション型です。拠点は廃校や保養所といった場所を使っていて、全国に6,000以上あると言われる廃校をどう活用できるかもテーマになっています。ICTを活用すれば場に縛られない暮らしができるし、そのほうが豊かなのではないかという考えのもとやっています。」

都会と地域をつなぐ

セッションの最初のテーマは「都会と地域の関係」。関係人口を入り口に、都会と地方の分断を乗り越えて、Co-societyをつくるためには何が必要か議論しました。

佐別当さん「中島さんにお聞きしたいのですが、SMOUTの関係人口スコアでは、聞いたことのない自治体も出てきますね。関係人口という視点で人気のあるエリアは、どのようなポイントで人気が出ているのでしょうか。」

中島「ネット関係人口スコアの1位、2位は順位の入れ替わりはあるものの、ずっと北海道下川町と宮崎県椎葉村で、3位に最近伸びてきた兵庫県豊岡市がランクインしている、といった状況です。スコアの算出は公式SNSのフォロワー数やSMOUTでの活動実績からしていて、いろいろなコミュニケーションチャネルを活用して、チャネルにあったメッセージを発信しているとスコアが伸びる仕組みです。

関係人口は移住より意思が多様で、そうすると地域側の窓口にも多様性が必要になってくるんですが、地域の人たちがその関係人口になる方とのコミュニケーションのハブになっている地域のスコアが高い傾向にあります。」

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佐別当さん「例えば、椎葉村に実際に行っている人はどのような人ですか?」

中島「本当に秘境なので、本当に自分がしたい暮らしをそこで見つけた方。例えばあらたにつくられる図書館の司書をするために行くとか、まちの伝統である神楽に村の人と一緒に携わるとか、やりたいことがあって、それができる仲間がそこにいたという方が多いようです。他の地域を見ても、明らかにきっかけは『人』だなというのは感じています。」

佐別当さん「関係人口という視点で人気のエリアは、地域の人たちに魅力があって、人が活躍できる土壌が豊かな土地なんですね。『Living Anywhere Commons』はどういう視点で地域を選ばれているんですか?」

小池さん「場所を選定するときに考えるのは、ロケーションとハードとソフトの掛け算です。その中でもソフトが一番重要で、地域が主人公になって何かおもしろいことをやってるのはすごく大事だと思います。そのうえで、ウェルカム感と寛容さがあって、そこでしか得られないものが得られる場所ですね。人気の地域でよく出るワードが「巻き込まれる」というものです。行くまでに考えていたことと、行ったあとにやっていることが違う地域のほうが人気が出るんです。」

佐別当さん「いまのは都会の側から見た魅力的な地域の話でしたが、地方側から見た場合はどうなんでしょうか。村岡さんは都市部と九州の関係をどう見ていますか?」

村岡さん「僕の構想の原点にあるのは、九州は単純にリソースが豊かだということです。産物はもちろん1,300万人も住んでいるので、人というリソースも豊か。内需があるあるし、足元でテストマーケットができるし、掛け算がすごくやりやすいんです。だから、九州の豊かさを凝縮した商品やサービスを生み出すことが大事で、都会や地方というのはあまり考えてない。九州のよさを楽しんでもらうのは、都会の人でも田舎の人でも海外の人でもいいんです。」

佐別当さん「では、そもそもどうして九州という大きな括りで考えるようになったのでしょうか。もともと飲食店を経営されていたということで、近隣が競合だという発想になりそうな気もするんですが。」

村岡さん「限られたリソースを奪い合うような取り組みは、もはや続きません。ものづくりでも、つくれば売れる時代は終わっていて、利益を削りながら量を追うというのはサステナブルではないんです。だから、大きく組んで世界に通用するものをつくって新しいマーケットに出ていくことも重要なんだと考えて、九州の豊かなリソースを活かそうと考えたんです。」

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佐別当さん「今の話には今回のテーマである『分断からco-sosciety』の大きなヒントがあった気がします。僕らも競争や競合などを意識していなくて、逆に増えるほうが地域にとってプラスになるし都市の人も行きやすいはず。それは『Living Anywhere Commons』も同じだと思います。それに僕らには、廃校などは難しくて扱えないので、そういう場所があるのは僕らの会員さんにもメリットがあります。そういった地域での共創をネットワーク化したり広域で統合したりして、それをインターネットやアプリを使いながらやるというのは、これからの時代の地域と都会とのシェアリングのヒントになるんじゃないでしょうか。」

Co-societyというテーマのとおり、都会と地域がともに社会をつくっていくことが重要という話で、その実現には人が大事になってくるという結論のようです。登壇者のみなさんはそのような社会へ向かっていくために必要な仕組みをつくっている方々で、別々のサービスを運営されていますが同じ方向を向いているという印象でした。

これからの働き方と分散型の暮らし

続くテーマは、働き方です。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で明らかに働き方が変化する中、都会、特に東京都心に暮らす必要性は薄れ、地方への移住、あるいは多拠点居住が多くの人にとって現実的な選択肢になってきました。その先には、どのような未来が見えてくるのでしょうか。

佐別当さん「小池さんにお聞きしたいのですが、コロナ以降、法人会員が増えているそうですが、どういった法人が利用されているんですか?」

小池さん「これまではフリーランスの登録会員が多かったんですが、コロナ以降、明らかに法人会員が増えています。ただ、法人の8割くらいは会社の施策としての登録ではなく、企業に勤めながら、テレワークが解禁になったから個人ベースで使いたいというパターンです。」

佐別当さん「人事担当とかではなく、あくまで個人なんですね。僕らのサービスでもテレワーク対応は課題になっていて、大きな企業だと自宅以外のテレワークが労災などの問題で認められてない場合が多いですよね。そのあたりの変化はありますか?」

小池さん「LIFULL自体も『Living Anywhere Commons』の拠点を勤務地として認める人事制度に変えました。ロジックとしては多様な人に触れてその価値を社内に還元すること自体が仕事だという立て付けです。企業としてのスタンスの問題になってしまうと思うんですが、個人で実際に体験をした人が、情熱を持ってリーダー的に会社を巻き込んでルールを変えるということが起こっています。

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佐別当さん「個人起点で社内のルールを変えられる時代になったんですね。勇気をもらえます。」

小池さん「変わるためには、そもそもどういう働き方がいいのかという問いから始めるといいと思うんですよ。自宅に缶詰になるのがいい働き方なのか。そうやって個人の働き方から考えることで、意思決定もトップダウンではなく働く人たちが中心という考え方になっていくんじゃないでしょうか。」

佐別当さん「カヤックは、会社自体が鎌倉にありますが、働き方としては変化がありましたか?」

中島「カヤックでは、以前から『職住接近』を社員に推奨していて、鎌倉の近辺に住むと住宅手当がつきます。家と仕事場が近くて、一緒に働く人も近くに住んでいると、仕事と暮らしがフラットになって暮らしていて楽しいんです。今回のコロナで逆に時代が来たなって感じになっていますね。」

佐別当さん「住まいを考える上で仕事って重要だと思いますが、地域の側からすると、どういう仕事を生み出せば人が来てくれるなど、あるのでしょうか。」

中島「仕事に関してはすごく多様で、例えば熱海市は複業のしごとを積極的につくられていて、地元の商店のマーケティング業務で週一日稼働とか、和歌山県では炭焼職人の募集があったりと、地域で続いてきた仕事を継ぐ、そうしたことに興味を持って参加される方も増えています。いろいろな種類の仕事、関わり方があっていいと思います。」

佐別当さん「多拠点生活をする人は増えてますが、東京の仕事を地方でするだけで、地域で仕事をするのは、まだまだ進んでいない気がします。地域での人と仕事のマッチングは進んでいくんでしょうか?」

中島「複業を認める企業が増えてきているので、可能性は高まっていると思います。都市部の人が地域で副業をすると、自分にはこんな価値があるんだって気づいて勇気をもらえることがあります。そういう出会いが多く生まれるといいですね。」

佐別当さん「村岡さんも九州アイランドワークを始めたばかりだと思うんですが、どんなビジョンをもって始められたんですか?」

村岡さん「『九州アイランドワーク』は九州全域で旅するように働くことができる会員制サービスで、今年ローンチしたばかりで改善しながらつくってるところですが、ワーケーションの文脈での問い合わせが増えています。宮崎はワーケーションのポテンシャルが高いと言われるから、地元の観光協会やホテルがワーケーションしたいと。でも、そもそもワーケーションという言葉の定義が定まらないし、自治体に専門部署があるわけでもないので、バケーション文脈で都会から人を呼び込む形になります。そこでワークの部分を担いましょうというのが、今やっていることの一つですね。将来的には、拠点を300箇所くらいに増やして、サブスクリプションでどこでも使えるようにしつつ、場所ごとにドロップインを受け入れる形にしたいと思っています。」

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佐別当さん「個人的には、ワーケーションという言葉の使われ方はよくないんじゃないかと考えていて。非日常的な仕事のしかたが続くわけがないので、一回行っておしまいになってしまうんじゃないかと思うんです。」

小池さん「僕らもワーケーションってラベリングされることが結構あるんですが、でも個人的には、企業がワークプラスバケーションにそれほどリソースを割くとは思えないんです。結局保養みたいになってしまうんじゃないかと。だから、ワーケーションをアップデートしたいと思っていて、ワークプラスコラボレーションとか、ワークプラスコクリエーションとか。違う場所で違う人と一緒に何かをつくっていく、それがワーケーションの進化なんじゃないかと思っています。」

佐別当さん「確かに、地域とのつながりをつくらないと続いていきませんよね。『Living Anywhere Commons』では、地域とのつながりは生まれていますか?」

小池さん「そうですね。静岡県・下田では利用者が起業した法人が3つ生まれています。企業が社員からそういったプレイヤーを排出したいと思ったら投資するメリットがあるんじゃないかと思っています。」

村岡さん「私はイノベーションって偶発性だと思っていて、偶発的な出会いをどれだけデザインできるかが重要なんじゃないかと。地方だと、どんなプレイヤーがいるかわかっているから、そのデザインがしやすいというのはあると思います。」

多拠点であれ、移住であれ、その地域で働くなら、地域の人たちと何らかの形で関わっていくほうが関係性が続いていくのかもしれません。それは東京集中から地域分散へと変化していく意義の一つで、都会と地方の人が混ざることでイノベーションが生まれ、それが地域の資本となって地域が豊かになっていく、そんな未来が見えるような気がしました。

住まいの自由は、生き方の自由

最後のテーマは、住まい。どこでも働けるようになったことで、どこに住まうかの選択肢が広がるなかで、何を基準に住む場所を選ぶのか。その選択からその人の生き方までが見えてきます。

佐別当さん「中島さんは、なぜ熱海を選んだんですか?」

中島「都内に家があるんですが、私も夫も会社に行かなくてよくなって、ずっとここで暮らしていくのか?と考えるようになったんです。その中で、『SMOUT』でずっと地域の人として活動をしてきた熱海の人に、夫婦でピンときたんです。まちや歴史も好きなんですが、熱海の人たちの考え方、例えば移住もお試しでいいですよって発信しているところとか、そういった考え方もすごく好きで。

熱海で暮らしてまだ3週間くらいですが、その間に自分は東京のこういうところが好きだったんだ、ってこともわかってきました。だから分散型の暮らしを続けていって、そのことを発信もしていきたいと思っています。」

佐別当さん「村岡さん、コロナ以降東京からの移住者は増えてますが、九州のような東京から離れた地域では、どんな変化がありますか?」

村岡さん「コロナ以前からテーマ性を持ったユニークなまちづくりをしている場所は、より注目を集めている気がしますね。可能性を感じて人が来るんだと思います。」

佐別当さん「これから、一人あたり3箇所から5箇所くらいの居場所を選ぶ時代に突入すると私は思っているんですが、そのときに3から5の場所に入れる地域と入れない地域の間に格差が生じるとも考えています。そのあたりはどうでしょうか。」

村岡さん「私はリージョン(Region:領域、範囲)の考え方が大事だと思っています。これまでは、好きになったまちを点でつないで多拠点するイメージだったと思うんですが、地域との関わり方を考えると、拠点を面で見る人が増えてくるんじゃないでしょうか。」

小池さん「今日よく出てきた「好き」っていうワードがすごく大切なのかなって感覚があります。これまでは「しなきゃいけない」がベースになっていました。都心の会社に行かなきゃいけないから都内に住まなきゃいけない。そうするとリビングコストが高くなる。でもこれからその「しなきゃいけない」がなくなってリビングコストが下がったら、「しなきゃいけない」ことの時間よりしたいことの時間が増える。そういう「好き」を大切にする生き方に頭を切り替えることが重要なんだと思います。わかりやすく言うと、自由に生きたほうがいいってことですかね。」

佐別当さん「まさか最後の一言が「好き」と「自由」だとは思いませんでした。今の話で、これからは生活コストを抑えながら自由と好きのための時間を得られるような暮らし方が選ばれると実感しました。」

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このセッションで一貫して重要とされていたのは「人」でした。地域の関係人口を増やすのも、地域が豊かになるのも重要なのは人であり、働き方を変えるのも人です。そしてそのような「人」とは自由な個人であり、それぞれが自由であることこそが持続可能な社会をつくる上で何よりも重要なことなのではないでしょうか。社会を考える上で大切なのは、「自分自身の自由や好きを大事にすること」なのかもしれませんね。

また、「SHARE SUMMIT 2020」の内容は、こちらのアーカイブ動画より、全セッションをご覧いただけます。ポストコロナの消費、テレワーク時代のオフィス、SDGs2030年の社会、観光レジリエンス、ポストコロナの移動革命など、気になるテーマが盛りだくさんのセッションを、ぜひ視聴してみてくださいね。

文 石村 研二