地域の人、必見!どう発信すれば、次に訪れる候補地にしてもらえるのか。現役のツアーガイドに聞く、オンラインでのまちの魅力の伝えかた

地域の人、必見!どう発信すれば、次に訪れる候補地にしてもらえるのか。現役のツアーガイドに聞く、オンラインでのまちの魅力の伝えかた

コロナ禍以降、地域へ遊びに来てほしいと気軽に伝えることすら難しい状況が続いていますが、少し視点を変えると、オンラインで地域情報を発信し、関係人口を捕まえる手法に可能性やニーズがあるとも考えられるのではないでしょうか。ただ、オンラインでまちをプロモーションするポイントや伝え方を知る機会は、現状ではなかなかありません。

そこでSMOUT移住研究所では、旅行企画・古民家移築会社のM&Companyのツアー企画やプロモーション動画に注目してみました。地域やテーマに着目したバーチャルツアー「JAPONISME(ジャポニスム)」のほか、自治体の依頼に基づいた地域プロモーションなども多く手がける同社。プロガイドの知識や視点に基づく内容は、土地の魅力を存分に引き出すとして高い評価を受けています。この制作手法はどのような考え方や経験から生まれ、どう実際の制作物へと落とし込まれているのでしょうか。企画とガイドを担当する白石実果さんに伺いました。

まちの魅力を、どう伝えるか?

DSCF5693長野県出身でプロガイド(全国通訳案内士)の白石実果さん。旅好きで公私ともに国内外を訪れる一方、20代を過ごした東京での暮らしに違和感を感じていたという。「気軽に夕ごはんでもと言い合える、距離が近いコミュニティに暮らしたかった」と、結婚を機にパートナーが暮らす岐阜県へ2012年に移住。現在は飛騨市古川町を拠点として、世界に向けたツアー企画やプロモーション活動を行っている。

まずは、M&Companyが提供するサービスの内容から紹介していきましょう。オンラインでのバーチャルツアー「JAPONISME」のコンセプトは、世界中どこからでも旅ができるという「Voyage from anywhere」。現時点では、岐阜県の飛彈高山地方や京都など地域に着目したツアーと「浮世絵アートトリップ」や「高山の名建築をバーチャルに訪れる」などのテーマを知るツアーがあります。どちらの内容も、ゲストは家にいながらにして気軽に楽しむことができます。

白石「オンラインで世界中の人に日本を旅してもらおうというバーチャルツアーの構想は、実はコロナ禍になる以前からありました。旅行は楽しいものですが、一方で高齢や病気療養中、子育て中でロングフライトが難しいからと諦める方も多く、その傾向は世界中同じです。でも、新しい人に出会い、初めての文化を知るという旅行の楽しみは、オンラインでも十分体験できるはず。そんな思いがあり、2020年春にJAPONISMEを立ち上げる準備を始めました。」

スクリーンショット 2021-09-28 12.31.52JAPONISMEのWebサイト。世界中の人が楽しめるようツアーやWebサイトは全編英語で展開されている。だがゲストの4割を占めるなど日本からの参加も多く、英語を勉強したい人にも楽しめる内容が理由とも。

海外観光者に人気のプロガイドとして国内を飛びまわっていた白石さんも、コロナ禍の影響のため向こう2年の仕事が一気にキャンセルに。しかしその結果、忙しさのためにアイデア段階で留まっていたバーチャルツアーの構想が本格的に動き出すことになりました。つまり、このアイデアが生まれたのは言うなればインバウンド花盛りの時期。黙っていても日々引く手あまたの状態ではあったものの、考えるところも多かったと言います。その中で最初の核になったのが、パートナーとの会話を通じて“旅行の喜びとは何か”を見つめ直したこと。その結果が「人と知り合うことや文化を知る」ことであり、「現地に行かなくてもできる楽しみを諦めるのはもったいない」という思いでした。

白石「プロガイドは入念な事前調査をし、それらをエンターテインメントとして提供する技術を持っています。その視点で旅の本質を見極め、新たなツールに合う形にして普段使っているトークや説明の技術を活かせば、ツアーはもちろんガイドの可能性も広がるんじゃないかと思ったのです。」

また、現地を訪れるツアーでは、物理的に一日一組が限界。毎日寄せられる依頼を断ってしまうのは、ゲストに楽しんでもらう機会を失うことになります。ですが、グループツアーなら何百人でも案内することが可能です。さらに、徒歩10分かかる移動もWebなら0.1秒。移動時間もかからず見所を凝縮して伝えることができるという利点があります。

DSCF7634スタジオの様子。画面越しだからこそゲストとのコミュニケーションもゆったりと行うことができる。

白石「バーチャルだからこそ、ですよね。それにこの形は、未来の来訪に繋がる布石にもなると思うんです。実際に、紹介した地域を次の旅で訪れる場所の候補に入れてくださる方もおられます。現地でしかできない経験や体験ももちろんあるので、それを体験したい人には私が担当できますよって宣伝にもなるかな、と。一度見たからもういいやではなく、『こんなに面白い場所があるならまた行きたい』という気持ちになってもらえればと思っています。」

またこの時、自らプロガイドという仕事の本質を見つめ直す段階にあったのも大きかったとのこと。オリンピックに向けた法改正により、通訳案内士の有資格者以外でも仕事としてガイドができるようになったのです。

白石「正直なところ、法改正には不安がありました。でも、資格に頼らなくても選ばれるガイドになるために、自分ならではの価値提供に本気で取り組む機会と考え直しました。すでに、スマホの情報と戦わなければいけない状況ではあったんです。スマホを見れば情報はWikipediaに全部書いてあるし、無料で説明してくれるボランティアガイドさんもいます。それでもガイドに何万円も払ってもらえる価値とは何なのか。それに対して私は『ストーリーをつくることと、相手のニーズに応えること』だと思いました。言いたいことを言うのではなく、相手が聞きたいことを言えるプロガイドになろう。その考えから今のJAPONISMEのツアーの形ができたのです。」

スクリーンショット 2021-09-28 12.59.11スクリーンショット 2021-09-28 12.59.27飛彈高山は、古くから湧き水が豊富で、冬の寒さが厳しい地域。「昔は町内に56軒も酒蔵があったそうで、美しい湧き水と飛彈の風土がつくるお酒がこの土地の文化をつくってきたことを楽しめる内容になっています。」

スタートから約1年半。現在では、ツアー企画だけでなく、自治体からの地域プロモーションや企業プロモーションなどの依頼も増えています。「飛騨高山 7蔵のん兵衛まつり」に付随した酒蔵の映像とオーディオガイドでは、高山地域に江戸時代から続く7つの酒蔵それぞれの製造工程に密着。つくり手の思いを風景に重ねることで、飛騨の日本酒を楽しみつつ、地域で培われた酒蔵の文化や歴史を感じることができます。高山市と姉妹都市アメリカ・デンバー市が行った2020年の「高山・デンバー姉妹都市提携60周年オンライン記念式典」の映像制作、JR東日本のびゅうトラベルに岩手県二戸市の酒蔵ツアーを提案するなど、さまざまな形での企画や制作を行っています。二戸市の酒蔵ツアーには実に世界から300人以上が参加し、大成功を収めることができました。

ストーリーづくりとツアーの軸になる視点

白石さんが価値の最大要素として意識するストーリーづくりは、過去の経験を軸とした「地元の人は見逃しがちだけど地域の外の人には受ける要素を抽出する」作業から始まります。と言っても、自治体や観光案内所の方の伝えたい部分と白石さんの抽出するポイントが違うこともよくあります。

白石「双方の要素をすり合わせた後で、先方のご要望で欠かせない要素があればゲストの興味を惹くような伝え方や言葉づかいにアレンジしていきます。例えば、海外の人に1772年の建築を紹介する時は、フランス革命前後の日本ではこの建物が建てられた、と東西の歴史を並べるなど、相手の立場になって説明したり、興味を持てるような言い回しに変えたりと技術を駆使するわけです。」

DSC_7698神仏習合の火防(ひよけ)・火伏せの神として信仰される秋葉神社。飛彈地方には秋葉神社が多く、地域ごとに装飾、台紋や提灯、屋台曳きの装束などの個性溢れる屋台が祀られている。祭り時期にはこうした屋台が集まり、華やかな様相を見せる。写真は古川弐之町中組の金亀台(きんきたい)。

ゲストの関心事にも注目します。民族性や精神性への関心が高いと言われる欧米のゲストであれば、宗教や民俗学にまつわる土着文化など説明を取り入れることも。高山ツアーでは、仏教と神道の違いを紹介しながら町内に点在する秋葉様に着目。火除けの神様が美しい木造の建物を守ってくれるという日本人の信仰心や、神様の存在を大事にする精神性も伝えています。背景を知ってから見る建物は、きっと地域の人や暮らしに根ざした存在へと印象を変えていくのでしょう。

白石「精神性や民族性を入口として、建物の意義や価値、それらをつくった職人技の素晴らしさ。さまざまなポイントを繋げてストーリーをつくっていきます。そうすることで、単なる綺麗な建物や風景が、飛騨の1300年の歴史が育んだ匠の技を実感する地域の空間になるわけです。」

DSCF7762オンラインキッチンと題して、参加者と一緒に料理や日本酒のペアリングを行う企画も。

見慣れた風景も、深く掘り下げればゲストの感性を刺激し印象に残る場所になる。そんなツアーづくりの視点と技は、地域プロモーションの分野でも大きな力になっています。前述のようにストーリーづくりや紹介方法の段階から自治体担当者とキャッチボールを繰り返して進めるため、制作は少し複雑な形になります。二戸市の酒蔵ツアーでは、先方の紹介したい要素をすべて受け入れた後で改めてアイデアを検討。日本酒や畜産品、雑穀といった名産品の紹介を、酒蔵ツアー内で行うペアリングと組み合わせる提案を行いました。最終的に、さまざまな味わいのある日本酒に地元の素材を使ったおつまみを添え、おいしさだけでなくその素材が二戸の地域内ですべて賄われている地産地消の文化を織り込んだ内容へと昇華させたのです。

白石「事実の羅列になってしまっては、私たちプロガイドの関わる意味がありません。単なるプレゼンテーションではなくエンターテインメントになるよういつも意識します。」

その土地の魅力を見つけ、点から線、線から面へと繋げていく作業を続ける白石さん。では彼女が初めての土地を訪れたとしたら、まず惹かれるポイント、その視点を留める要素とはどんなものなのでしょうか。

白石「初めての場所はいつも地元の方に案内していただきますが、その案内の中での何気ない言葉尻に興味を持つことが多いかもしれません。最近お仕事をお請けした秋田でも、ある作業を通常とは反対の言葉で表現されていてすごく驚いたんですよね。なぜその言葉を使うのですか、由来は何ですか、と知らず知らずのうちに、たくさんの質問をしていました。幼い頃から自分と違う土地で生きる人の暮らしに興味がありましたし、環境と方言の関係のように会話中の言葉選びが気になる質だったからだと思います。」

自身の旅でも、家の窓から漏れる灯りや食卓を囲む影、外でのランチの様子など、暮らしの風景から見える各土地の“当たり前”に目が行くと言います。慣習や文化、言葉をもとに人々の考え方や関係性を推測することも楽しみの一つ。ちなみに、体感覚・聴覚・視覚・論理と脳のどの処理能力を使っているかがわかるテストでは、白石さんは体感覚と聴覚がずば抜けて高かったそうで、このエピソードにも納得が行きます。

白石「飛騨古川にも私の好きな言い方があるんですよ。『仲間する』って、何かを半分こしたり共有したりする時に使う言葉です。コミュニティの結束の強さにも繋がっている言葉だなあと。こんなふうに言葉と文化に強い結びつきを感じるのって、やっぱり言葉から何かを受け取る力が強いんでしょうね。」

先方との意見に新たな視点や魅力を加えてよりよいものにする、そのための応用力や表現力も強みです。事前の情報収集や勉強はもとより、翻訳の段階での発見を加える時もあります。

白石「二戸市は海外プロモーションの担当でもあるのでWebサイトの翻訳もしたのですが、ものすごく発見がありました。『葉っぱで包んだお餅』というシンプルな一文でも、二戸市は山背が吹くから米が取れない麦作地域なので小麦餅である、といった背景がわかりました。葉を使える季節や理由と機能などの意味も補いましたし、さらにおいしそうに感じさせる表現方法も考えなくてはなりませんでした。」

歴史や時代を説明する作業が多いにも関わらず、学生時代は歴史や文化が苦手だったのだとか。『鎌倉時代に武士が東へ下った』という歴史も、教科書ではその背景が書かれていないので「なぜ東か」でひっかかっていたと苦笑い。翻訳を始めてから背景を調べるようになり、徐々に理解できるようになっていきました。情報をなぞるだけでは心にも残りづらいもの。ストーリーへのこだわりは、そんな経験やいくつもの理由に裏付けられていたのです。

次に訪れる候補に繋げるための工夫

ツアーはおもに、現地映像パートとディスカッションなどのスタジオパート、インタラクティブガイドで構成されています。映像のディレクションはM&Company代表の白石達史さんが担当。企画や魅力の要素抽出や見せ方、シナリオ制作までを実果さんが担当し、必要な映像素材の準備やディレクションは達史さんが進める分業体制です。バーチャルツアーの醍醐味でもある映像とガイドの関連性についてはどう考えているのでしょうか。

白石「映像には非常に気を使います。私自身、YouTubeの映像コンテンツって気が散ってすぐ飽きちゃうんです。画面を通じて伝える情報は、当人が本気で見ようと思わないと見続けてもらえません。1時間集中してもらうためには、目を離したら何かを逃すかもしれないという緊張感はもちろん、映像とスタジオのパートを往復して飽きさせない絵づくりにすることも大事です。動画の尺を短いものから徐々に長くしたり、伝えたい内容を後半に回したりと、『あっという間の1時間だった』と感じてもらうためにも綿密に計算しています。」

飽きさせないという意味では、プロガイドに直接質問できるインタラクティブ性もポイントです。YouTubeでも翻訳者に字幕を頼んでアップロードすれば説明はできるけれど、プロとしてお客さんとコミュニケーションがしたかった、と語ります。

DSCF9992ガイド中の白石さん。先述の現地ガイド映像とシームレスに繋げながら、スタジオで参加者の質問に随時応えていく。

白石「言語と質問を理解できる知識があり、相手のニーズを瞬時に判断してプラスアルファを加えた回答を提供できるのがプロです。ゲストに合わせたベストな情報を提供したいと思えば、同じツアーでも内容が大きく変わることもあるくらいです。ですからガイド中は、ゲストのどんな質問にも知識を活かして瞬時に対応できるよう意識しています。」

ガイドの様子に現地の動画をぴったり合わせることで理解を深めてもらい、さらに次の動画で畳みかける構成など、説明されて初めて気づくような細部にまで理解させ、集中させる工夫が凝らされています。こうした丁寧かつ工夫に満ちたこだわりが評価され、バーチャルツアーサービスが増えた今も自治体や企業からの依頼は増えています。

白石「プロモーション映像やバーチャルツアーによって、次に訪れる候補地にしていただけるのが一番うれしいです。人ってどこかに行こうと思った時に、行き先が思いつかないことが多いんです。その時に効果的な方法が、露出を増やして頭に浮かぶ候補にしてもらうこと。旅を考えた瞬間に人々の頭に浮かぶようなきっかけになってほしいです。」

現地に足を運ばせる後押しになる情報はもちろんのこと、地域プロモーションの場合は、今後は移住検討者に現地でのコンタクト先などさらに深い地域情報を提供することも必要だと思案中。また、この秋からスタートする予定のツアーは日本語での展開が決まっています。

白石「日本語のツアーになると企業も多いし差別化が難しい分野ですが、これまでと変わらず、自治体や地元の方ときちんとツアーをデザインしていければと。それを続ければ、実際にその土地に足を運び、その土地のことをもっと知りたいと思う人を増やすことに繋がると思っています。」

旅ができない人のための旅であり、旅をしたい人のプレ旅にしていきたいと笑う白石さん。土地の魅力を引き出し、忘れられないストーリーにして伝える同社の手法や視点は、Webプロモーションを地域に活かす上でも参考になるに違いありません。ご興味のある方は、ぜひこちらで一度体験してみてください。

文 木村早苗

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