北海道内各地に累計2万人以上。ロックフェスから生まれた団体が若者を巻き込んで、北海道の関係人口創出のホープになるまで

北海道内各地に累計2万人以上。ロックフェスから生まれた団体が若者を巻き込んで、北海道の関係人口創出のホープになるまで

北海道札幌市に拠点を置くNPO法人ezorockの活動は、石狩埠頭で毎年夏に開催されているRISING SUN ROCK FESTIVAL(RSR)の環境対策活動から始まりました。

それから20年以上が経ち、北海道内各地の市町村との関係人口創出を担い、道内各地に累計2万人以上の若者を送り込むまでに至ります。ロックフェスティバルから生まれた環境団体が、なぜ北海道の関係人口を創出する団体にまで成長したのでしょうか。

ezorockが関係人口づくりのモデル地区として活動拠点にしている浜益ベースを訪ね、代表の草野竹史さんと水谷あゆみさんにお話を聞きました。

ロックフェス、被災地支援を経て関係人口を創出する団体へ

ezorockの始まりは、日本各地で大規模なロックフェスが開催され始めた2000年に遡ります。気持ちの良い屋外にステージをつくり、オールスタンディングで自由に音楽を楽しむ文化は、それまでの日本にあまりなく、その自由な空気が若者たちを魅了し、多くの若者が山や海や郊外のフェス会場をめざすようになりました。そして同じ頃、当時大学生だった草野竹史さんもまた、開催2年目のRSRにゴミ分別サポートを行うボランティアとして参加し、ロックフェスの世界観に大いに影響を受けたのでした。

2023_0508_202ezorock代表の草野竹史さん。後ろの壁にはRSR2022のフラッグが

草野さん「フェスはみんなでつくり上げるもの、という参加型の精神に大きなパワーを感じました。これは社会を変える一歩になるかもしれないって。その勢いにのって、翌年の2001年に仲間11人で、RSRの愛称だったエゾロックをそのまま使わせてもらう形でezorockを発足したんです。」

以来、ezorock ではRSRの開催に合わせて、毎年200名規模のボランティア募集を行い、フェス史上最強のゴミの13分別の実施や、会場で出た生ゴミを堆肥化して育てた野菜を配布する活動、未利用材の薪割り体験と販売、アースデイEZOの実行委員会事務局などの環境を軸にした活動を多数行ってきました。しかし、近年その活動は道内各地の地域づくりに及ぶようになります。扱うテーマが環境問題から関係人口創出へと広がったきっかけは、2011年3月に起こった東日本大震災でした。

草野さん「東日本大震災のときに、自分たちのできることとして募金集めをしようと思っていたら、北海道で長年自然学校や環境活動に関わってきた業界の先輩方から、『お前のところで若者を集められるんだから、今その力を動かさなくてどうする!』と叱咤激励されたんですよ。そうか、と思って、他の団体と連携して岩手県釜石の復興支援活動にボランティアスタッフを派遣したり、札幌の高校生を中心に、現地の高校生に向けた支援物資を集めて送るという活動をしました。

ただ、大きな転機になったのは、坂本龍一さんや西田敏行さんらが賛同人となった『ふくしまキッズ』の支援活動でした。これは、放射能の影響で外で自由に遊べなくなった福島県の子どもたちに北海道で過ごしてもらおうという取り組みです。道内のいくつかの自治体が受け入れ先に決まったんですが、それらの地域に子どもたちの衣食住の面倒をみる人がいないという問題が浮上して、フェスのボランティア募集の実績を持つ僕たちに声がかかったんです。それからは全道の大学を回って説明会をし、ボランティアを研修して各地に送り込むということを5年間やり続けました。それが、今でいう関係人口を創出するプロジェクトにつながっていくんですね。」

350384019_828347228711605_8143528155342116977_n『ふくしまキッズ』の支援活動の様子(写真提供:NPO法人ezorock)

地域の課題解決を通して成長していく若者たち

北海道が抱える深刻な問題は人口減少。死亡数が出生数を上回る「自然減」は全国でも最多。女性が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は東京に次いで低く、税収も少ないため長年地域経済が低迷し、札幌への一極集中が進んでいます。

草野さん「北海道の人口530万人のうちの、半数近くが札幌やその近郊に住んでいるんですね。人口5000人以下の小規模自治体が圧倒的に多くて、地元の高校を卒業した若者が札幌に集まる構図があるので、地域で18歳以上の働き手が不足ししているし、高齢化も進んでいます。

一方で、ボランティアを志望する若者たちは、どちらかというと人間関係をつくるのがそんなに上手じゃないし、過去に不登校を経験していたり、自分探しの途中だったり、あるいは問題意識を持って参加してくる人もいます。ezorockはそんな若者たちが自分にできることは何かないかと、役割を求めて参加してくるサードプレイスみたいな場になっているので、そんな若者たちを現場に連れていくと、もみくちゃにされながらも課題に取り組んでいく姿を見るようになりました。それって成長につながる大事な経験ですよね。」

一次産業のリアルな現場が多い地域の課題解決に関わることが、若者の自己成長につながるのではないか。そんな思いを胸に2014年に都市部に住む若者が道内各地の環境問題や課題を地域の方と一緒に解決するプロジェクト「ボラ旅北海道」(以下、ボラ旅)が、2016年には石狩市を中心に子どもに自然体験の機会を提供する「石狩体験キッズ『チポロ』」がスタートしました。さらに2018年に起こった北海道胆振東部地震の支援活動を経て、関係人口という言葉が囁かれるようになった2020年にボラ旅北海道改め、関係人口創出プロジェクトの「179リレーションズ」発足へと至りました。

350362349_559309403075067_5054602177377909121_n若者が道内で活動している様子(写真提供:NPO法人ezorock)

関係性があると、いざという時の力になる

179リレーションズを担当している水谷あゆみさんは、野生動物や環境問題について学んでいた学生時代に薪割りボランティアにハマったひとり。当時は「どうしたら人と自然は共生していけるのか」と悩んでいた時期でもあり、薪割りのようなシンプルな体験が若い世代と自然との距離感を縮めてくれることに興味を持ちました。その後ezorockに就職。その半年後に起こった北海道胆振東部地震の支援活動を通して、関係人口をつくる意義を知ったと言います。

2023_0508_183179リレーションズ担当者の水谷あゆみさん

水谷さん「震災発生2日後から現地に入ったのですが、ふくしまキッズの活動に参加していたメンバーやOBの人たちが駆けつけてくれたんですね。そういう関係性があると、災害やいざという時の力になると思ったし、人のつながりが持続的な地域をつくるのだと実感できました。

ボラ旅を担当するようになってからは、道内各地の人手の足りない地域にボランティアの若者を連れて行く活動をしていました。でも地域にもまちづくりをしている若者がいるんですよね。一方的に都市部からボランティアを送るのはどうなのか。都市部と地域の人同士、もっと対等な関係になればと思い、北海道の179ある市町村同士でつながり合うような意味を込めて、プロジェクト名を179リレーションズに変えたんです。」

179リレーションズの活動報告書2020-2022によると、北海道内の13地域で活動した若者の数は述べ2254人。広大な面積の北海道ではボランティアをしに行くにも交通費や宿泊費がかかると思いますが、そこは、ezorockの方で予算化しているため、参加者は年会費以外の大きな負担はありません。そのように、旅費の負担がないことがボランティアに申し込む若者の心理的ハードルを下げ、参加率を高めています。

まちづくりが手つかずの地域は、「関わりしろ」だらけ

179リレーションズが重点的に関わる地域のひとつに石狩市浜益区があります。2005年に隣接する厚田村とともに石狩市に編入合併した浜益区は、札幌市から車で1時間ほどの距離にありながら、高齢化とともに急速に人口減少が進んでいる地域。ezorockでは、市の空き住宅を借り受けてボランティアとともに改築した「浜益ベース」を拠点にさまざまな活動をしています。

2023_0508_171ezorockの活動拠点となる「浜益ベース」

2023_0507_033石狩市浜益支所地域振興課の柿崎惠一さん。草野さんいわく「浜益での活動がスムーズにできるようになったのは、この人のおかげ」

草野さん「もともと僕らはこの地区にある果樹園で、子どもたちの自然体験を行なっていました。その縁で浜益区の地域振興課の柿崎惠一さんと出会い、使われていない建物を活用させてもらえることになったんです。」

拠点を持ち、みんなで地元の食材を食べて、暮らす感覚で地域に関わるようになると、さらに腰を据えた長期の活動がしやすくなるもの。2021年には、水谷さんの出身地の京都南丹市で活動するNPO法人テダスが考案した「集落の教科書」の浜益版をつくることになりました。ボランティアが主体となって地域住民への聞き取り調査を行い、80ページほどの冊子にまとめたことで、地域資源の掘り起こしとなると同時に、制作に関わったスタッフが地域に深く関わるようになりました。

350369914_3471198059835741_4451747526301103629_n「集落の教科書」の浜益版(写真提供:NPO法人ezorock)

草野さん「この地域の持っているポテンシャルがどんどん見えてきて、それがさらに僕たちを魅了しています。たとえば、浜益は1970年に国道が開通するまでは、船でしか通ってこれなかった陸の孤島のような場所で、地域の暮らしには自給自足をし、物々交換をするような文化がまだ残っているとか。それは僕たちからすると、持続可能な暮らしの原点みたいなもの。関わりたい理由は実はそこも大きいです。」

2023_0508_109浜益地区にある樹齢1500年の巨木、黄金山のイチイ

草野さん「山に近いのに平地があって、水も豊かだからお米も美味しいし、海の文化がある。それと、黄金山というアイヌの聖地の山があり、そこに樹齢1500年のイチイの巨木があって。そうしたら、たまたまボランティアで関わっている大学生の中に樹木医の資格を取った若者がいて、彼がその巨木の担当医になっちゃった。浜益のようなまちづくりが手つかずの地域は、ある意味『関わりしろ』だらけなんです。」

2023_0508_207音楽好きの母の影響で幼少期からRSRに親しんでいたというボランティアスタッフの「のすけ」さん。この春から浜益区の地域おこし協力隊に

人口問題などの課題を抱えている地域は、自分の役割を探している若者にとって、できることが多い場所。それを証明するように、浜益でボランティアをするうちに、地域おこし協力隊になったメンバーがすでに二人いるそうです。

社会課題の解決にロックフェスの精神が必要な理由

ロックフェスのボランティア活動を入り口に関係人口創出の活動母体となったezorock。年間で300件の現場が動く団体となった今でもRSRが開かれる3日間だけは、基本的に他の活動は入れず、全員がフェスの現場に入るようにしています。

草野さん「RSRの現場は僕たちにはとても大事です。いろんな価値観の人が集まるし、そこには自律と共存が入り混じっていて、例えば酒に酔いつぶれているひとがいたらみんなで助けに行くし、人のあたたかさを感じて寛容な気持ちになります。フェスは僕たちにとって気持ちをひとつにしたり、整えたりできる場所でもあるんです。」

2023_0508_191ezorock20年の活動をまとめたリーフレットに並ぶ、ロックスピリットに満ちた発言集

草野さん「ロックは心が揺れることだと思っています。ボランティアで関わる若者たちに対しても、僕たちは心が揺れるきっかけはつくれるけど、どう感じるのかは相手次第。そこに相手の主体性が見え隠れするし、成長する部分でもある。だから、僕たち社会課題に取り組みながら、自分の人生を変化させていく。この両輪を大切に活動しています。ロック・ザ・ライフなんですよ。」

ちなみに、ezorockがフェスの精神から学び実践していることがもうひとつあります。それは主催者やアーティスト、オーディエンスと分けるのではなく、一人ひとりがフェスをつくる参加者という精神。それゆえに、ezorockでは全員がニックネームで呼び合う気兼ねのいらない関係性を築いており、代表の草野さんも基本は「タケシ」と呼び捨てです。このフェスの精神から生まれた対等な関係性が都市と地域の垣根を越えて、パワフルに関係人口を生み出していく秘訣なのかもしれません。

文:草刈朋子 写真:廣川慶明

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