どこでもいいし、何をして生きてもいい。「軽トラサウナ」をDIYする谷山嘉奈美さんが、それでも北海道・下川町を選んだ理由

どこでもいいし、何をして生きてもいい。「軽トラサウナ」をDIYする谷山嘉奈美さんが、それでも北海道・下川町を選んだ理由

森づくりに関する先進的な取り組みや積極的な移住誘致で知られ、「2018年度SMOUTアワード」も受賞した北海道・下川町。人口3,300人の小さなまちに、2021年4月に名古屋から移住したのが谷山嘉奈美さんです。移住のきっかけとなったのが、SMOUTが2019年11~12月に募集した「ミステリーチケット」に当選したことでした。

「ミステリーチケット」は、当選者に居住地に近い空港から見知らぬ地域の最寄りの空港までの航空券がプレゼントされるという企画です。さらに、その地域の案内人が見知らぬ地域との縁をつないでくれるSMOUTならではの特典付き。ただし、行きたい地域は選べず、どこに行けるのかはわかりません。

このキャンペーンで、中部国際空港から旭川空港までのチケットを手に入れ、下川町との縁がつながったのが谷山さんでした。「移住する気はなかった」という谷山さんが、不思議な縁で下川町で暮らすようになったストーリーを伺いました。

ジビエに対する関心からSMOUTユーザーに

DSC_1052谷山嘉奈美さん。「かなりあつい(@kanari_atsui)」というツイッターアカウントで下川町での日々やサウナの情報を発信中

谷山さんは、名古屋では保健師として働いていました。一方で、料理が趣味だったこともあり、レストランで食べたものを自宅でもつくりたいと、ジビエに興味をもち、家庭でもつくれるジビエレシピを考えたり、ジビエを食べる会を主催したりしていたのだそう。

谷山さん「そうするとやっぱり、どこからその肉がやってくるのかが気になるんですね。ジビエに関して、どういう地域でどんな活動をしているのかが知りたくて、SMOUTを見るようになりました。」

つまり、移住したかったというよりは、ジビエに取り組む地域について勉強するためにSMOUTを活用していたのです。

そんなときに「ミステリーチケット」のキャンペーンに気軽な気持ちで応募したところ、当選。下川町の担当者とつなげてもらうと、どんなことをしたいか、どんなところに行きたいかといった、旅についてのリクエストを聞かれました。

谷山さん「『まちの保健師さんと話したいです』とか『ジビエに興味があるから関係するところを紹介してほしいです』とか。それを全部調整してくださって。」

そして3日間、普通の旅なら出会わないような人々と出会い、行きたい場所に行きました。

谷山さん「下川町で会った人が、本当にみんな親切だったんですよね。最初は、ひょっとして移住してほしくて親切にしているのかなと思ったんですけど、どうやらそういうことでもないんです。それと、私はペーパードライバーなので車がないと生活できない地方で暮らすのは無理だなと思っていました。でも実際に訪問したら、下川町は中心部の1キロ圏内に必要なお店や施設が全部揃っていて、最悪、車がなくても生きていけることがわかったんです。それなら移住してもいいかもとちょっとだけ思いました。」

もうひとつ心が動かされたのが、下川町の大自然でした。じつは谷山さんは、4年ほど前からサウナにハマり、フィンランドやトルコまで足を運んでいるほどのサウナマニアです。下川町を訪れたのは2月。マイナス30度まで気温が下がる中、早朝に山まで連れ出された谷山さんは、その光景に息を飲みました。

雪原

寝転ぶ

谷山さん「あー今ここにサウナがあったらいいのに、と思いました。いつか自分がサウナをもつことがあったら、こういうところにもちたいなと思いながら帰ったんです。」

下川町にサウナをつくるために移住

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谷山さん「でもまだ移住する気は全然なくて。心の故郷ができたなーみたいな感じでした。」

ところが1年近くが経ったある日、突然、下川町でお世話になった担当者から連絡が入ります。

谷山さん「下川町にサウナをつくる企画が立ち上がったんですけど、いったいどういうサウナがいいのかがよくわからなかったみたいなんです。それで、サウナが好きな私のことを思い出して、声をかけてくれたんですね。最初はただ話をしていただけなんですけど、そのうち「もう一緒にやりませんか」ってなって。「あ、いいですよ」って言いました(笑)。」

思い立ったらすぐ行動する谷山さん。翌週には、修行のため、長野県の野尻湖畔にある「TheSauna」というサウナ施設にヘルパーとして入りました。3ヶ月間働き、準備期間を経て2021年4月に下川町へ移住。サウナ小屋を建てる場所探しを始めたそう。いつかサウナを持ちたいと思ったまちで、実際にサウナを建てることになったのです。

病気が判明。治療を終えて下川町に再移住

DSC_1709のコピー

しかし、人生は順風満帆にはいかないもの。その直後、思いも寄らない出来事が谷山さんを襲いました。6月ごろ、とある病気が判明し、手術を受けなくてはならなくなったのです。しかも術後しばらくは通院の必要があったことから、やむなく治療が終わるまで名古屋に戻ることになりました。

谷山さん「通院は下川でできたらよかったんですけど、運転ができないので病院に通うのは難しいだろうということになりました。でもずっと『帰りたいなぁ!』と思っていましたね。」

結局、治療が終わったのが、年が明けた2022年2月。なんとその間に、関わるはずだったサウナの企画は頓挫していました。移住後、わずか数ヶ月で入院・手術となり、企画もなくなる。ある意味で、下川町に戻る理由はなくなった状況です。体調のことを考えれば、そのまま名古屋に残るという選択肢もあったのではないでしょうか。しかし谷山さんは「下川町に戻る」という決断をしました。

谷山さん「戻りましたね(笑)。下川が好きだったし、人の企画じゃなくて自分の企画でサウナをやってもいいと思いました。というか、どこでもいいし、何をして生きてもいいなと思ったんですよね。我慢してつらい仕事をするよりかは、大変でも自分がやりたいことをやったほうがいい。駄目だったら駄目だったときに考えればいいし、とりあえず下川ならなんとかなるだろうと思って。」

移住する気がなかったのにすぐ移住を決断したり、企画がなくなっても迷わず戻ったり。たった1回、3日間訪れただけで信頼を寄せた下川町の魅力とはなんなのでしょうか。

谷山さん「みんな親切にするのが上手だし、親切にされるのも上手な人が多いんですよね。『お金をください』っていうのはさすがにできないけど、『今日食べれないからご飯分けて』っていうことは全然頼める。家もあるし、ご飯は何とかなるから死ぬことはない。ペイフォワードじゃないですけど、この人に親切にしたからこの人から親切にしてもらおう、じゃなくて、この人に親切にしてもらったから、何かの折に誰かにできる親切をしようと、自然と思える空気感があるんです。」

自力で「軽トラサウナ」をつくる!

DSC_1117のコピー「森ジャム」イベント会場にて。サウナチケットとヴィヒタを販売する谷山さん

下川町ならなんとかなる。そう思って戻ってきた谷山さんは、理想のサウナを自力でつくることを決意します。最初は物件探しもしたそうですが、自費でつくるしかなくなった状況で、あまりお金はかけられません。そこで以前、ほかの人がやっていていいなと思った「軽トラサウナ」をつくることにしました。

谷山さん「川とか雪原とか、下川にはいいロケーションがいっぱいあるから、どこにでも行けるように軽トラの荷台に小屋を乗せて、それをサウナにしようと思いました。」

軽トラは思いきって購入。ペーパードライバーを卒業するため、目下、マニュアル運転を練習中です。サウナ小屋は自分で設計し、DIYでつくる予定。軽トラサウナのように狭い小屋だとどうしても熱が直接当たるため、ストーブのサイズはなるべく小さくするそうです。そしてその分、石をしっかりと焼き、石に水をかけた際に蒸気が優しく降ってくるよう、アール天井をつくるのだとか。

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谷山さん「まずは無理のない範囲でやっていこうと思っています。軽トラサウナだったら、うまくいかなくても自分で楽しめるし、なんなら物置にすればいい(笑)。一応、自分でつくりますけど、たぶんひとりではできないから、最近は『ちょっと困ってます』ってことを言いふらしてますね(笑)。そうすると、下川ではみんなが助けてくれるんです。」

まずは自分でやってみる。でも困ったら誰かが助けてくれる。その安心感が下川町にはあります。たとえば、小屋づくりの費用を捻出するため、事前にサウナのチケットを購入してもらうクラウドファンディングを実施していますが、これからつくるという段階でも、多くの人がチケットを買ってくれているそう。

谷山さん「顔の見えるクラウドファンディングですね。みんなにいつできるんですかって聞かれるんです。もうチケットを売っちゃったから、ちゃんと頑張ってつくらないとやばいですね(笑)。」

DSC_1110クラウドファンディングのサウナチケットはなんと紙ではなく、木材の端材に絵を描いてつくっています。1枚1枚、絵柄が違うので、気に入ったものを選ぶのも楽しい

下川町の森の白樺でヴィヒタをつくる

DSC_1116ヴィヒタ。まるで花束のよう

そしてもうひとつ、谷山さんが手掛けているのが、下川町の森で採れた白樺の葉を使ったヴィヒタの販売です。ヴィヒタとは、白樺の若い枝葉を束ねた物。サウナ室内で香りを楽しんだり、ウィスキングといって肌の調子を整えるために全身を叩くようにして使用するもので、サウナの本場・フィンランドでは欠かせないアイテムです。

谷山さん「白樺がいっぱい生えてるから、少し分けてもらえないかと思って相談したら、役場の知り合いがつないでくれて、町有林で採っていいことになったんです。」

下川町の町有林では、カラマツを植樹し育てています。白樺はその間からたくさん生えてきますが、そのままにしておくとカラマツが白樺に負けてしまうため、間伐する必要があるのだそうです。どうせ処分することになるため、譲渡許可証を書いた上で採ってもらう分には一向に構わないのだそう。まちが柔軟な対応をしてくれるからこそ、こうした小さなビジネスも生まれています。

DSC_1101逆さにして部屋に吊るしておくとインテリアにもなり、白樺の香りも楽しめる

谷山さん「うちのヴィヒタは、ブーケみたいにして飾ってかわいいようにつくっています。サウナに行きたくてもコロナで行けない状況が、ここ2〜3年ありますよね。だからしばらくはヴィヒタを部屋に飾っておいて『サウナ、いつ行けるかなぁ』みたいな感じで楽しみに待ってもらえたらいいなと思っています。」

夏至の日にはフレッシュ(生葉)のヴィヒタも販売。フレッシュのヴィヒタは輸入ができない上、国産であっても年に1度しかつくれないので、ヴィヒタの中の「ボジョレーヌーボー」のように貴重なものなのだそう。SNSで告知したところ、すぐに完売しました。

DSC_1151購入してくれたヴィヒタを入れる袋もあるもので手づくり。エコなのにとてもかわいい

これまでの自分が、今の自分を支えてくれている

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谷山さん「ヴィヒタを買ってくれるのは、サウナつながりの知り合いが多いです。以前、名古屋にいたときに、サウナに入ってジビエのバーベキューをする『ととのいジビエ』という最高のイベント(笑)をやっていたんですけど、それに参加した人がよく買ってくれています。」

いつのまにか、これまでやってきたことが谷山さんの今の暮らしと仕事を支えています。じつは手術で名古屋に帰っていたときも、こうしたイベントをやっていました。

谷山さん「手術後だけど、まぁできるだろうみたいな。だって、いつ動けなくなるかわからない。病気を経験したら、いつ何が起こるかわからないと思うようになって、時間を無駄にできなくなりました。やれるうちに、やりたいことはやっておかないとっていうふうに、すごい刹那的な考え方をするようになりましたね。あはは(笑)。」

病気になっても、前を見てポジティブに人生を楽しむ谷山さん。やりたいことはやろうという思いは、そのまま自力でサウナをつくるという決意につながり、下川町に戻るという理由にもつながっていました。

谷山さん「下川町は、自分のスキルにお金を払ってくれる人、自分を価値づけてくれる人が多いと思います。だから、自信をもって自分を出していこうと思える。サウナのこと以外でも、ちょこちょこ仕事をやらせてもらっているんですよ。」

たとえば、保健師のスキルと料理の腕を生かして、食べたもののカロリー計算を行い、栄養管理のアドバイスをしたり、体を絞りたいという友だちに材料費+αでつくり置きおかずをつくったり。

谷山さん「もうすぐやる予定なのは、ジビエの料理教室です。自家消費用の鹿肉は販売はできないけど、料理教室はできるのでやろうよという話になっているんです。」

自分のこれまでの経験すべてが今の暮らしの糧になる。それができるから、下川町では小さな経済圏で無理なく暮らすことができるのだろうと思いました。

消費する暮らしから、つくる暮らしへ

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谷山さん「下川で暮らすようになって変わったことでいうと、今はなんでもつくるようになりました。サウナだってチケットだって、前なら絶対つくってない(笑)。なんでも買えばいいじゃんと思っていたんですけど、周りもみんなそうだからか、今は『ないならつくるか』と自然となってるのが面白いなと思います。」

取材当日は「森ジャム」という大きなイベントの日でした。前日に大雨の予報が出て、建物内で規模を縮小して開催されましたが、チケットもヴィヒタもちゃくちゃくと売れていきました。

まだ移住歴1年ほどの谷山さんですが、すっかり地域に馴染み、地域に支えられています。それが下川町の良さでもあるのかもしれませんが、力強く、明るく生きる谷山さんの人としての魅力がそうさせている側面もあるのではないかと感じました。

世界をつくる半分は環境だけど、半分はきっと自分自身。自らの手で人生をつくる谷山さんが、下川町で軽トラサウナを走らせるその日が楽しみです。

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文 平川友紀

 

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