2021年3月に芸術文化観光専門職大学が開学し、演劇関係者の移住など新たな変化が起こっている兵庫県豊岡市。全国からの注目度も高く、現在50人近くの地域おこし協力隊が活動する地域として有名です。そんな豊岡市で2016年から移住促進プロモーションの活動として続けられているのが、市民ライターによるWebメディア「飛んでるローカル豊岡」です。
以前、SMOUT移住研究所でも「まちを、人を、どれだけリアルに伝えることができるか。コウノトリのまち・兵庫県豊岡市にみる、移住相談窓口のつくりかた」でご紹介しましたが、その後サイトのアップデートを実施。ローカルメディアのつくりかたや地域が発信することについて、副編集長の飯田勇太郎さん、市民ライターの加藤丈太郎さんと齊藤栄理香さんに伺いました。
市民ライターが活躍する「飛んでるローカル豊岡」
飯田勇太郎さん
豊岡市生まれ。大学進学で神戸に出たのち、2010年に地元の神鍋高原(日高町)にUターン。旅行会社に就職後、30歳を機に家業の民宿「志ん屋(しんや)」の4代目となる。編集部には初期からライターとして参加し、多数の記事を執筆。現在は宿経営の傍ら、副編集長として記事の執筆や編集部の運営にも携わっている。音楽好き。https://4n8.jp/
2021年から副編集長を務める飯田勇太郎さんは「飛んでるローカル豊岡」についてこう語ります。
飯田さん「『飛んでるローカル豊岡』の特徴は、豊岡市役所の移住担当課と市民が共同で編集部を運営し、自営業者や会社員、主婦、学生、地域おこし協力隊など幅広いまちの人がライターとして参加している点です。まちの良さも課題も包み隠さず伝え、『メリットとデメリットを知った上で豊岡市を選んでほしい』との思いで発信を行っています。市民ライターの素直な気持ちや気づきを重視している運営方針は、開始当初からずっと同じです。」
2016年から始まったこのメディアは、アップデートされながら現在に至ります。サイトの構成は、市民ライター記事、住まい、仕事、子育て・教育の4本柱をメインとし、トップページにカテゴリを配置しました。
住まいの情報は地域の不動産業者が管理している空き家情報をまとめたページへ、仕事情報は市の企業情報サイト「ジョブナビ豊岡」へ、子育て・教育は市が取り組む教育についてまとめたオリジナルページへ、と移住前に気になる情報を余すところなく確認することができます。
また、4本柱を支える情報として、「移住サポート」や「関連リンク」のパートも設けました。
「移住サポート」では、移住前から移住後に受けられる支援制度や民間の移住相談窓口、各種プロジェクトが掲載されたSMOUT、デジタル版の移住関連冊子を紹介しています。
さらに「関連リンク」では、豊岡への移住を考える際に役立つサイトをご紹介しています。カバン業界全体で行う「かばんIターンプロジェクト」や竹野町のNPO法人が運営する「たけのうみねこ便」、「豊岡市継業バンク」など、豊岡市の移住関連情報が一元化されています。
飯田さん「以前は新着順に並んでいただけの市民ライターの記事も、季節にちなんだ特集をつくったり、連続した記事を連載にまとめたりと、新たなカテゴリからも楽しめるようにしました。こうすることで昔の記事を再び見てもらうきっかけにもなり、メディアに動きが出るんじゃないかなと。」
また、「飛んでるローカル豊岡」の要である市民ライターにも新たな仲間が増え、さらに多様な視点から豊岡を伝えられるようになっています。当初からの“ライターの視点で自由に”のモットーを大切にしつつ、新たな仲間のアイデアも取り入れながら試行錯誤を続けているのだとか。そんな飯田さんとともに活躍する、市民ライターのお二人にもお話を伺いました。
高校生の視点で伝える「豊岡市ならではの地域授業や活動」
加藤丈太郎さんは、出石地区の出石高校に通う2年生。「MUSICIAN IN RESIDENCE 豊岡(以下 MIR豊岡)」という、高校生とプロのミュージシャンが交流を行い様々なコンテンツ作りや企画を行うプロジェクトのスタッフとして「飛んでるローカル豊岡」に寄稿したことが参加のきっかけでした。
加藤丈太郎さん
豊岡市生まれ。出石高校に通う高校2年生。「MIR豊岡」でレーベル担当として記事を執筆したことをきっかけに市民ライターとして参加する。記事ではコミュニケーション力とパソコンを駆使し、“高校生の視点”から豊岡市や地元出石のよさを紹介。地元の青少年健全育成大会でプレゼンしたり、文化祭で行う演劇の脚本を執筆したりと大忙しの毎日を過ごす。学校をよりよく変えていくために、次期生徒会長に就任。
加藤さん「『初めて書いた記事がすごくいいからやってみない?』と声をかけていただきました。思いや考えを伝えることに興味があってMIR豊岡に参加したのですが、いろんな人とコミュニケーションを取りながら取材をしたり、プロジェクトや参加者の魅力をどう伝えるかを考えたりするうちに、記事を書くことの楽しさに気づいたんです。なので、今後もたくさん取材をして記事を書いてみたいですね。」
これまでに、17年間住んできた豊岡市、特に出石地区のよさや、自身の通う出石高校独自の探究授業などの紹介記事を書いてきました。同じように市内の高校の特色ある授業や部活動、まちづくり活動などを通じて魅力を紹介したいと語ります。
豊岡市には県下唯一の陶芸館がある出石高校や、地域貢献活動を行うインターアクトクラブがある豊岡総合高校をはじめ7つの高校があります。また、「MIR豊岡」や「まちの卒業アルバム企画」のような高校を横断したプロジェクトなど、高校生が地域と関わる活動が行われています。様々な活動に積極的に取り組む加藤さん独自のつながりを活かした記事になっていきそうです。
加藤さん「僕の記事を読めばいろんな高校の様子がわかる、という感じになればうれしいです。もし突然転校してきたら不安だろうし、ここでやっていけるかなって心配もあると思います。なので、高校の授業や活動、学生たちの雰囲気とかが伝われば、移住された方も不安が和らぐんじゃないかと。先生方にも『きみたちはまだ頭が柔らかいから、きみたちなりの考え方ができるよ』とよく言われます。高校生ならではの視点や言葉で、大人の記事とは一味違う記事を書けるようがんばりたいです。」
豊岡市で自分のやりたいことを実現した人の想いを伝えたい
もう一人の市民ライターは、豊岡市で生まれ、神戸や東京での勤務を経て2019年にUターンした齊藤栄理香(えりか)さんです。長年都会で働いていましたが、数年前に体調を崩して退職。地元にUターンすることになりました。
齊藤栄理香さん
豊岡市生まれ。神戸や大阪、東京での人材企業や企業人事を経て2019年に豊岡市にUターン。2021年に豊岡市農業スクール生となり、但東町でコウノトリ育む農法を行う夫妻の稲作を手伝う。現在は市民ライターと稲作を行いながら、地元に自生する植物について研究中。
齊藤さん「本当は、帰りたくて帰ってきたわけではなかったんですよね。でも、静養中に故郷の自然にとても癒されました。そのパワーに興味が沸いて調べるうちに、地元の農家さんが進める『コウノトリ育む農法』と出会いました。農薬に頼らない、生きものや環境にやさしい農法なんですが、私を健康に戻してくれた自然はこの町の人々がずっと守ってくれていたのでは、と気がついたんです。自然は人が生きるために大切なんだって本当に実感しましたし、この美しい自然をより豊かな状態で未来を生きる子どもたちにバトンタッチしたいと思うようになりました。」
都会に出たからこそ豊岡の良さを見直せた、と語る齊藤さん。でも「たまたま豊岡に生まれただけ」だから、厳しい冬の寒さや都会まで2時間もかかる距離感は、今でもやっぱり慣れないといいます。そんな齊藤さんの視点からすると、「飛んでるローカル豊岡」の記事はメリットや魅力を伝える内容が多いと感じていたそう。
齊藤さん「地元民として、もっとリアルな豊岡を伝えたいと思いました。記事にも書きましたが、例えば、虫のいない環境で育ってきた人が憧れの古民家暮らしをしたとしても、絶対に『思ってたのと違う!』ってなると思います。だからこそ生活に関わるしんどさは、何度でも、きちんと記さなければと思うんです。他にも、豊岡でやりたいことを実現した面白い人たちをどんどん紹介していきたいですね。目の前の人の特性や個性、魅力を深堀りすることが大好きなんです。豊岡には自由な発想と信念を持って人生を送っている人がたくさんいる。『こんなふうに生きていいんだ』って心を和ませられる記事を書きたいです。」
コウノトリ育む農法を行うお米農家さんのお手伝いや、市民ライターの取材活動を通じ、新たな分野での面白い人にもたくさん出会ったのだそう。
齊藤さん「生きものの命が循環することを意識して稲作をされている農家さんがこの地域にはたくさんおられます。でも、農家のみなさんは日常の作業で忙しくされていて、この素敵な取り組みが外に伝わっていないなと。そこで『飛んでるローカル豊岡』で発信面でのお手伝いができたらと思っています。」
「飛んでるローカル豊岡」では、市民ライターの執筆や取材活動そのものが、まちの人たちとつながる“関わりしろ”になってほしいという狙いもあります。実は、齊藤さんにもそんな出来事がありました。
齊藤さん「以前、ダンスを通じた教育の記事を書いたんですが、その企画をされている代表の方に『記事にしてもらったことで私たちの活動する意味や思いが通じた』とうれしい言葉をかけていただきました。そこからご縁をいただき、その団体の小さなお手伝いもするようになったんです。」
これからの豊岡市とこれからの「飛んでるローカル豊岡」
市民ライターによる記事作成会の様子。コロナ禍でもオンラインツールを使って定期的に行っている。年齢や肩書きを問わず、さまざまなまちのライターとのつながりが生まれる面白さもある
飯田さん「関わって5年ほど経ちますが、最近またいろいろな職種や立場の方が増えているので幅広い視点の記事が読めるようになっています。市内在住の方だけでなく、隣の市から豊岡市の勤務先に通っている方もいますし、情報の厚みは出てきているのではないでしょうか。」
その上で、メディアを運営するためには、社会の状況や実情も考えつつ記事をつくっていく必要があると考えているとのこと。そのために、ライターが集まって新しい記事や活動について話し合う記事作成会を定期的に行っています。最近ではこの会を市内の各地で開催し、普段あまり行かない地域を訪れるきっかけを作ることで、ライター個々の視点や感覚に刺激を与える試みも行っています。
飯田さん「取材に行くのも難しい時節なので、改めて個人の日常に焦点を当てて書いてもいいなと思っています。人や活動の紹介記事もとても面白いのですが、暮らしぶりやそこに見える社会情勢の影響などの記事ももっとあればいいかなと。その影響が地域特有のものであれば、より面白いと思います。そういう視点での記事が生まれるような工夫や仕掛けをしていきたいですね。」
ちなみに、地域の共同作業を記した飯田さんの「生活を支える“ひやく”」は、農村地域の文化や日常を知ることができる興味深い記事。消極的な層と積極的な層が混ざる若い世代、先頭に立つ40〜50代、一過言ある60〜70代のオヤジさんたちが混ざりあう様子がわかる、地域をつなぐ肝ともいえる日常の記録です。
豊岡市は古くからの農村地域。今でも田に水を通す時期になると、地域の人たちが総出で水路の整備作業を行います。農業を地域全体で支えようという意識が今も引き継がれているのです。米づくりを行う地域だとよく見る風景かもしれませんが、こうした慣習をメディアを通じてきちんと伝えている地域は珍しいのではないでしょうか。飯田さんのようなUターン者目線で描かれることで、より身近なものとして伝わります。
飯田さん「僕たちの日常が、都市部の移住検討者から見ると意外なこともありますからね。今後は移住者の声を届けることも含め、さらに暮らしの様子を伝える工夫ができたらと思います。また、移住後のサポートという点においてはもっとできることがあるのではと、交流イベントの企画なども考えています。」
こうしたメディアを筆頭に、以前から活発に移住定住に向けた活動が行われている豊岡市ですが、この度「飛んでるローカル豊岡」のサイト内に地域おこし協力隊のページが新たに開設されます。市広報紙やFacebookページで隊員の紹介はしてきましたが、これからは、協力隊を目指す人も、協力隊の活動が知りたい人も、豊岡市内の人も、このページを見れば隊員や活動内容について一目でわかるようになります。最終的には、協力隊募集の情報発信から応募、隊員の紹介まですべてこのページで完結する形を予定。応募者が市民ライターの関連記事も閲覧しやすい動線にもなるそうです。
「豊岡市地域おこし協力隊特設サイト」はこちら >>
豊岡に愛着を持ち、人と日常と文化を伝え、愛のあるツッコミを入れながら続く「飛んでるローカル豊岡」。面白い人と面白い活動に出会える、さらに便利な移住定住ポータルサイトとして運用は続きます。
豊岡市への移住や地域おこし協力隊を検討されている方はもちろん、豊岡市に興味を持たれた方はぜひ「飛んでるローカル豊岡」をご覧ください。
文 木村早苗
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