地域課題を“もったいない”に言い換えて、オンラインで地域おこし協力隊採用の“0年目”を実現する。岩手県花巻市「花巻JAM SESSION」に学ぶ、地域へのつなぎかた

地域課題を“もったいない”に言い換えて、オンラインで地域おこし協力隊採用の“0年目”を実現する。岩手県花巻市「花巻JAM SESSION」に学ぶ、地域へのつなぎかた

二刀流採用」プロジェクトの公開など、地域おこし協力隊募集事業においてカヤックとのコラボ企画を以前から行ってきた岩手県花巻市。その第3弾となる「花巻JAM SESSION」(以下、花JAM)が、2020年7月から2021年1月まで行われました。

自治体には珍しい、オンラインサロンを活用した地域おこし協力隊採用活動の意義や課題に基づくコンテンツづくりのポイントや、参加者や地元民に与えた影響について。2月10日(水)に音声SNSサービス「Clubhouse」上で、担当者である花巻市役所定住推進課課長補佐の高橋信一郎さんとカヤックの中村圭二郎に行われた公開インタビュー「なぜ花巻市はオンラインサロンを使って地域おこし協力隊を募集したのか」から一部をお届けします。

オンラインサロンで地域おこし協力隊の課題を解消する

—— 本日は「なぜ花巻市はオンラインサロンを使って地域おこし協力隊を募集したのか」というテーマでお話を伺います。2020年はコロナウイルスの影響がさまざまな形で出た年でしたよね。花巻市のオンラインサロン活用はその対策として始まったのですか?

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写真下が花巻市役所定住推進課課長補佐の高橋信一郎さん、写真上がカヤックの中村圭二郎

高橋:いえ、オンラインサロンをやりたいというご相談はそれ以前からしていました。岩手のように都心から距離がある地域だとコミュニケーションを深める方法としてありだよねと。その後にコロナ問題が起こったので、本格的に活用しようということになりました。

中村:春先からコロナ問題が広がり、大半の自治体さんがお手上げ状態にも関わらず、高橋さんはまったく動じておられなかったですよね。「今何ができるか」という前向きなお話ばかりだった記憶があります。以前からオンラインやライブ配信で地域おこし協力隊募集をされていたからかもしれませんが、本当の所はどうでした?

高橋:でも僕は逆に面白いことができる、他の場所と違いを見せるいいチャンスだと思っていましたね。今こそ協力隊の希望者に響く何かを考えたいって感じでした。 

—— 他の自治体さんとは全然違う状況だったんですね。

高橋:でも、パニックになるほうが普通ですよ。だって、都内で募集イベントをして地元に来てもらい、一泊してもらって地域の人と触れて面接する、今までの地域おこし協力隊募集の方法がまったくゼロになる状況でしたから。その頃はまだ「オンラインってどうなの?」レベルでもありましたし。ただ花巻市はオンライン配信にもだいぶ慣れてきて、次はどう活用しようか、何か面白いことをやりたいよねという段階だったのはあると思います。

中村:移住者向けの情報発信や協力隊募集で短期的なオンラインイベントを始める自治体は増えていたんです。高橋さんが違うのは、より中長期的な関係を築くためにオンラインサロンに注目されていたところ。うまくいくかどうかもわからないのに、一歩も二歩も先に行こうとされるんです。

—— 中村さんにはどんなオンラインサロンにしたいとご相談されたんですか?

高橋:まず、地域おこし協力隊と地域との関係性をつくりやすくするために、オンラインサロンで面接を兼ねた0年目的な場をつくれないかというご相談しました。協力隊が地域になじむのってすごく大変で、任期3年のうち1年はかかってしまう課題をなんとかしたいなと。

次に、自治体からを活動テーマや働き方を提示する協力隊の仕組みを変えたいということでした。協力隊の募集テーマって「○○を売る手伝いをしてください」とか、かなり一方的な部分があると感じていました。その人とテーマが合わない時もあるのに、とこの仕組みにはずっと不安を感じていて。それよりもオンラインサロンで自分たちが地域の人々と課題を考え、こんな活動をします、こんな働き方をしますと決めていくほうが協力隊の定着率も上がるんじゃないかと思ったんです。

中村:僕自身、オンラインサロンにはやや懐疑的だったんです。多くの人を惹きつけるアイデアに溢れる“カリスマ”が不可欠だと思っていたので。でも、高橋さんにオーダーはいただいたけど花巻市にはカリスマがいなかった。その状態でどう集客するかやどう続けるのか、そもそも成果を残せるのかと考えたら、これってすごく難しいお題じゃないかと頭を抱えました。

—— 企画を考える際は花巻市の協力隊への取り組み方や独自性なども意識されたと思いますけど、これまでのお仕事を通じて感じられてきたことはありますか。

中村:協力隊の募集テーマはたいてい、地域の課題解決を担っていただく内容です。でも、それってすごく難しいことなんですよ。呼ぶ地域の側も、それが地域への投資なのか、地域の現状維持をしたいのかを明確に意識できていなければなりませんしね。それで見ると、花巻市は地域の投資場所を探されているという印象があります。地域の衰退区域や斜陽産業を奇跡的なアイデアで復活させてほしいといったハードル設定の高い自治体が多い中では、この方向性はかなり珍しいと思います。

また、一般的に重視されている課題は本来最も表面的であり、考えるべきことはもっと深い所にあるんだ、と考えさせてくれる自治体さんでもあります。花巻市の上田東一市長の方針が基礎にあるからだと思いますが、高橋さんはいつも「花巻に来た協力隊の方々には幸せになってほしい」と仰って募集や移住サポートなどの活動をされています。深いところから協力隊に寄り添う姿勢があり、課題解決を超えた所から要件や人を探そうとされている。そこが花巻市ならではだと思います。

—— そういった花巻市の状況も含めて企画の骨子を建てていかれたんですね

中村:そうですね。カリスマがいないなら人でなく魅力的なテーマで関わる人を増やせればうまくいくのでは、花巻市に合う人と出会えるのでは、と考えていきました。課題で協力隊を呼ぼうとしても、課題を魅力的に見せるって難しいでしょう。そこで、地域にあふれる「もったいない」資産に注目しました。移住するかどうかは一旦置いておき、まずは花巻市のもったいないものを「自分ならこう活用できる」と議論するコンテンツにすれば、市外の方にも反応してもらえるのではと。

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参加者が、花巻市の「もったいない」施設を見学しているところ

高橋:まさに、花巻市では協力隊のみなさんが幸せになることが大前提にあります。その上で、僕もみんなもわくわくできる企画がいいと思うんですよね。中村さんからご提案を頂いた時、確かに「もったいない」ってすごく簡単だけどすごく大切な言葉だと思いました。僕らは気づかないけど外から見ればもったいないものは多いだろうなと。そこで、もったいないを解決する手段として協力隊を置くのはどうですか、と提案しました。今回のゴールはあくまで協力隊の募集だけど、関係人口的な形も含め他にもさまざまな関わり方があります。なので、幅広く関わってもらえるよう仕組みを練っていきました。

中村:難しかったのが人集めです。花巻市側のニーズと都市部の人の面白がれるニーズが合う部分を探らなければなりません。高橋さんは数より質、つまり花巻市に合った人と出会いたいと考えておられます。インターネットを活用したPRやイベントって、量には強いけれど質の面では反映させるのが難しい部分があるので、そこは仮説を立てながら進めさせていただきました。 

高橋:あくまで個人的な考えですが、市長の「幸せになってほしい」という言葉には、生活や働き方を変えてまで花巻に来てくれる方々の人生を一時でも預かる責任感があると思うんです。人生に寄り添う出会いを見つけるには簡単な面接だと難しいし、会って話をしてからのほうがずっといいですよね。オンラインならコロナ禍だって顔が見えるでしょう。いつでも、人の人生を変えることに責任を取れるパッケージにしなければという気持ちがあるんです。

課題を“もったいない”に言い換えて地域の余白を見える化する

—— 人柄が見えてくるようなコンテンツづくりも大変だったのでは?

中村:今思い返してみても、何が正解だったのかはよくわかりません。まず頭にあったのは、高橋さんがおっしゃった、多くの自治体で協力隊がマイナススタートにある状況でした。なので、とにかくそうならないような仕組みを考えました。事前にオンラインでコミュニケーションを取っておいて知り合いができれば、現地に遊びに行きたくなる確率や移住したくなる確率は高くなり、移住後の定着率も高くなるという想定はあったので。

高橋:そうでしたね。 

中村:次に募集テーマと課題の関係性です。移住者を獲得したい自治体の多くは地域のプラス面、魅力を発信されていますよね。こんな仕事や美しい自然があって、とか。だから今までの協力隊のみなさんはプラス面、条件のよさで移住を決めていました。一方で花巻市の“もったいない”は地域のマイナス面、つまり不足した部分なわけです。そんなマイナスを発信して人を集め、出会いやコミュニケーションを生み出したのは今回独自のアプローチだったと思います。マイナス面って通常は課題として発信するのでマイナスの印象のままですが、“もったいない”というキーワードを使ったことで、花巻市の余白として受け止めてもらえた気がします。

高橋:僕もPRには宮沢賢治と温泉は使わないんですよね。先人も自然も温泉も、だいたいどの自治体にもある。だから余白と聞いた時にムズムズしたというか、僕らが見えない部分を一緒に考えていきましょうという方向性にはワクワクしました。世代やジェンダーも含めていろんな目線がありますよね。以前の取材で、縄文土器の前と後ろで見え方が違うといった目線を変える話をしましたが、市外の人が花巻市を見ればやはり違った見え方になるんだろうと。今回のオンラインサロンはその流れを整理していただけた気がしました。 

中村:ただ、地域が余白を見せるって難しいでしょう。上のほうから「そんな恥ずかしい部分を見せるなよ」とありがたい御助言が飛んでくるとも聞きますし。ただ、魅力は完成されたものだけに余白がなく、自分の活躍できる所を見つけにくい。逆にもったいないだと課題と違って「残したいけどうまく活用できない」といった愛情のあるものが見えてきます。そこに対して自分の持つ経験や知識を活かしたいと考える方が集まってくださった。これこそが新しい地域プロモーションであり、余白の見える化のポイントだった気がします。

僕、余白の見える化を考えていた時に『安心社会から信頼社会へ』(山岸俊男著、中央公論社)という本を読んだんです。信頼関係をつくる時には情報開示と正直さが重要だと書いてあったのですが、自治体の方ってこの二つが苦手じゃないですか?

高橋:ザワザワしますね。小さい自治体であるほど役所の仕事は町の中心ごとになるので難しくなりがちです。でも、いろんな立場や世代、考え方の人がいる中でいかに正直になれるかは重要ですよね。

中村:それは協力隊の面接にも言えることで、小1時間にお互いが正直に情報を見せるのは相当難しいことです。さらに人となりを見て地域に合う人を選べる人なんて、大企業のベテラン人事さんでもそれができる人は少ないですよ。人事経験のあまりない行政の方なら尚更。だからこそ数カ月間のコミュニケーションが長い面接となり、今までの面接の仕組みを補填する場になれたのかなってと思います。

目的と手段を意識しながら、あっと驚く仕掛けを潜ませる

—— ファシリテーターとして参加者を飽きさせない工夫は何かされていましたか。

中村:高橋さんの覚悟のお陰でできたことで、一般の行政の方だと難しいかもと思う仕掛けが一つあります。それは、約半年間もの運用をするにも関わらず、最初は移住の要素を出さなかった点です。企画の主旨は、約半年かけて花巻市が求める地域おこし協力隊の応募者を探すことでしたが、協力隊募集の話を出したのは中盤に入ってからでした。 

高橋:確かに。もったいないリストができる回くらいまでは言わなかったですね。 

中村:これは、高橋さんが移住を前提にしないオンラインコミュニティがつくる地域との繋がりの価値をご存知だからできたことだと思います。移住しない人々との関係にも意味を理解して、企画を通してくださった。だから途中で「本当は移住者を探していました」と種明かしをしても嘘をつくことにはならなかったんです。そこに到るまでのご自身の意識や流れづくりも重要なポイントだったと思いますが、いかがですか?

高橋:おっしゃる通りです。3回目ぐらいまではもったいないブレスト中心で、その解決手段には地域おこし協力隊もあるからやっちゃえば、というスタンスでしたね。その後、突然SMOUTで「実は地域おこし協力隊の募集でした」と種明かしをしたと。中村さんもお話くださったように、ゴールは協力隊募集だけど、花巻市に関わる手段はたくさんあると考えています。今でも応募された以外の参加者さんとも連絡を取ったりしていますしね。とはいえ、僕の仕事は協力隊として花巻で活躍してくれる人を探すことなので、ゴールに対する目的と手段は間違えないようにといつも意識していました。ゴールを隠しつつ進めたことで安心して参加してくださったのかもしれませんが、一方で花JAMに参加していないからと協力隊への応募を諦められた方もおられました。なので、次回はそういった面でのバージョンアップも考えられるかなと思います。

中村:手段と目的ってとても重要ですよね。先ほど、地域の課題をそのまま協力隊の募集要件にするとうまく行きにくい話をしましたが、花巻市さんは地域おこし協力隊に化学反応を望まれている印象が以前からありますね。実際は、地域の課題やニーズとやりたいことが相容れなくて辞める協力隊の方も多いですよ。募集した内容はこれだから今やりたいことより優先して、と言われたりして。

高橋:それ、協力隊あるあるですね。

中村:そう考えると、今回は募集内容もすごく緩やかでしたよね。表現が正しいかわかりませんが、“曖昧”な形で人を集めて、地域のもったいないものを見える化して、もったいないものから自分のやりたいことを探し、知見が活かせる環境があるかもしれないと想像していただく。その過程でやりたいことやニーズが合致して新しい方向性が見つかって化学反応が起こっていくというか……。僕は高橋さんはそこを演出するプロデューサー的存在だと思うんですが、当事者以外には動きがすごくわかりにくいんですよね。だから予算をどうやって通してくださったのか、上司をどう説得されたのかが本当に不思議で。 

高橋:なんとなくです(笑)。でも、今だから言いますが、何人来てくれるか、何人協力隊になってくれるかという不安はずっとありましたよ。最終的に二人の方が来てくださることになったのでよかったですけどね。しかも花巻に知り合いがいて、過去の協力隊が1年目を費やしてきた味方づくりも終わっているわけなので。

中村:ちなみに僕、不安から抜け出せた瞬間が2回あるんです。ひとつ目が、割と序盤である女性がFacebookに熱意あるコメントをくださった時。もったいないリストをつくっていて「使ってないキャンプ場がある」と提案があったんですが、よくあるものだし花巻市の住民側として参加していた方々もそういやそうだねくらいの反応だったのに、その方はすごい熱量で「キャンプ場で何かやりたかったんです!」と。使われていないものを外の人が評価くださったことで中の人の価値観や意識が少し変化した瞬間だったと思うし、「これはうまくいくかも」と思えました。ふたつ目が、花JAMのSlackでやりとりしていた時に、ある方が花巻行きを話した途端、私も僕もと手が上がって旅行の予定が決まった時。「オンラインでコミュニケーションをすると現地に会いに行きたくなる」という仮説は立てていたけど本当に動機になるんだ、と実感できたんです。

高橋:僕も地域側でありました。地域の方々が「花JAM次はいつやるの?」って聞いてくれるようになった時です。ある温泉の地域にいるおじいちゃんが参加したいと話してくれたり、刺激になったと言っていただけたり。地域ではすごいことなんですよ。花巻に彼らが来ると伝えたら「いつ来るの?」という会話も出て、すごくうれしい変化が起こっていると感じました。

コミュニケーションを活性化させる地域側の工夫とキーパーソン

—— 味方といえば、参加された地域側の方々は高橋さんの人選ですか?

高橋:いえ、市役所を退職して地域活動をされている方にお願いしました。役所と連携して地域の調整などもされているだけに、いろんな方をご存じなんです。中の方々をまとめるのってすごく大変なので、その方にお手伝いいただけたことは地域側の成功の一因だったと思います。ご紹介いただいた第一次産業のおじいちゃんやおばあちゃんたちにはオンライン環境がない方も多かったので、iPadやスマホやwi-fiなどの貸し出しや整備、当日の参加なども市の職員がお手伝いに行きました。ちなみに、台温泉の長老も彼の紹介です。

中村:浅沼新一さんですね。浅沼さんには本当に助けていただきました。 

高橋:コメントが荒れてきた時に振ると、きちんとまとめてくださるんですね。人が集まるサロン活動にはそういう方の存在は大事なので、すごくありがたかったです。

—— オンラインサロンの運営には、地域をよくご存じの方を選んだり参加者の環境を整えたりと地域側にも工夫が必要だったということですね。 

高橋:はい。その上で、自分がもったいないと感じるものごとを言葉にできる方を選ぶことも重要でした。参加者の方に「野球場がもったいない」と提案されたがいらして、今も息子のために一人で草むらになった野球場を整備しているんだとおっしゃって。おもしろいですよね。それ以降、僕らは彼のことをケビン・コスナーって呼んでるんですが。

中村:「フィールド・オブ・ドリームス」を体現している人が花巻にいるというね。

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真ん中が「フィールド・オブ・ドリームス」を体現している花巻市のケビンコスナーこと藤原さん。背景は球場跡地

高橋:そういう方だからこそ言葉にできるわけで、そういう方が地域にいることってすごく大事なんだと実感しましたね。また対面だと距離が近すぎてできにくい話も、距離感があるけどないようなオンラインサロンだからうまくいったんじゃないですかね。地区会で集まったけど意見が出ないことってありますが、そういう状況は一度もなかったですから。 

中村:僕が一番ドキドキしたのが「温泉地の名前を変えよう」という提案があった時。現地の方が「それは無理でしょ」と仰ったんですけど、「いい所がたくさんあるのにもったいない」という花巻への愛情あっての提案だとわかるだけに、ヒヤヒヤしながらも微笑ましかったです。地域を盛り上げる時に外の人がスパイス的な立ち位置になるというか、常識や価値観を変えるきっかけになるんだなと見ていました。

新しいツールから地域プロモーション活動の可能性を導き出す

—— 思いがけない発言や影響による変化など、偶然性がちゃんと活かされていた。

中村:そうなんです。いつの回だったか、Live配信中に害獣駆除をされている猟師さんに出動命令が出た時に参加者から「興味があるんでまた話を聞かせてください」という会話が生まれた時があり、まさに今まで見えなかった役割やニーズが生まれた瞬間だったなと。そもそも「花巻JAMセッション」は偶然性を感じさせたくてつけた名前だったんです。偶然性のあるオンラインサロンって何? 音楽のジャムセッションみたいな感じ? ジャズ業界ではジャムと言うらしいけど「花巻JAM」だとりんごジャムと間違われそうだからセッションもつけようか、なんて感じで決まったんですが、これこそジャムセッションだな、って感動したんです。

高橋:あの時は僕も思いました。自治体のオンラインサロンはまだうちくらいですが、交流のためにはオンラインに場をつくることも大事だと思うんです。今日もClubhouseでの公開インタビューを提案したのは、Clubhouseの可能性もあると考えたから。活動手段はどんな形でもよいので、そこにどんなツールがハマるかを見極めつつ使うという思考を持たなければとつねに思っています。その意味で今回は非常にいい形になったと思いますね。

—— もし、この方法を他の自治体でも行いたいと考えられたとして、担当の方にはどんな意識が必要だと思いますか。 

高橋:僕はワクワクするかどうかで仕事してるところがあるんですが、そこですかね。この方法も僕はよかったと思うけれど、これがすべてだとも思いません。自治体ごとに取り組み方もあるでしょうし、地域に合う方法を取りつつこんなやり方もあるんだと知っていただけたら。あと、民間の会社さんと事業をされる時はやっぱり正直さが大事ですね。丸投げせず、行政のルールに基づいてできるできないの境をきちんとお伝えする、ビジネスとそれ以外を切り分けてお付き合いさせていただく、それが大事だと思います。

—— ちなみに今後はどんなバージョンアップの構想があるんですか。 

高橋:参加者の方たちが自発的にオンラインサロンをつくってくれないかなと。Zoomも使って知らないうちにできてました、とか、僕らが設定したオンラインサロンの中で「いつ来たの?」みたいな仕掛けができないかと思ってます。花JAMが協力隊募集の一環だと伝わってしまったので、次は最初から協力隊募集とともにそれ以外にも関わり方があることを伝えるつもりです。基本は、花巻のもったいないを一緒に考えた上で、移住したいけど地域での仕事がない、でももったいないに対してなら何かできるという思いをプレゼンしてもらえれば僕らも協力しますよという、手段としての協力隊募集ですけどね。

—— 最後に今回の感想をお願いします。

中村:もったいないと言えば、打ち合わせ段階で、ナイスなもったいないアイデアが出たら「MOTTAINAI」を提唱したワンガリ・マータイさんの名前をかけて「ワンガってる!」って言おうって考えていたんですよね。でも、あんまり使い所がなくて定着しなかったのは残念でした。

高橋:あそこが打ち合わせでは一番盛り上がったんですけどね。なんででしょうね。

中村:そこがちょっと心残りです。それはさておき、地域の方々から「次はいつ花JAMをやるの?」という声があったと伺えたのが嬉しいです。移住者を増やす時は、移住者に向けた情報発信だけじゃなく、地域のみなさんと一緒に何を発信するか、何を情報開示するか、が大事だと勉強させていただきました。

高橋:よく地方創生や関係人口って言いますが、行動や人を示す言葉がなくても独自に状況はつくり出せるんだと実感しました。参加者はみなさん関係人口だと思っていますし、新たなプレゼンの場がつくれたこともよかったです。時間さえあれば話せるオンラインツールは、地域と関わるハードルを下げてくれた気がします。カリスマクリエイティブデザイナーとかではなく、地域の普通の農家のおじいちゃんやおばあちゃんに参加していただけた。今まで積極的に参加しづらかった方々にもオンラインサロンを体験してもらえたという意味でも成功だったと思います。なので、たくさんの自治体さんにオンラインサロンが広がればいいですよね。僕は今後も新しいことをやろうと思うし、もはやそこが仕事のモチベーションにもなってます。

(対談ここまで)

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花巻市の「ゲストハウスmienn」にて

いかがでしたでしょうか。これまでの地域は、地域と関わりを持ってもらうための接点づくりがメインの自治体が大半でした。しかし、高橋さんの取り組みは、それだけはないのだと言われている気がしました。地域との関わりをどうつくるかではなく、地域をどう自分ごとにできるかが重要。そんな新たなテーマを得たようなインタビューでした。

地域をどうしたら自分ごとにできるのか。もう一度、その地域だからこそできることを考えてみませんか?

文 木村 早苗