小林市は宮崎県南西部に位置し、人口は約4万3千人、市の7割を森林が占め畜産が盛んな地域でもあります。この小林市が2015年に発表した移住促進PRムービー「ンダモシタン小林」は、見たことがある人も多いかもしれません。
小林市は、事業者同士の交流を生むため「コワーキングスペースTENOSSE(テノッセ)」を創設。地域の人たちが自由に集まれるフリー空間「TENAMU交流スペース」もつくられるなど、小林市を知ってもらい、来てもらい、そして、体験してもらうという施策がうまく回っているというイメージがありますが、最近は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあって関係人口を増やすことにも注力しているようです。
昨年11月から3回に渡って、Facebook Liveを利用したオンラインmeetupを開催、それを発展させる形で、今年の3月から「こばやし Mottainai SALON」を開始します。
小林市にとって関係人口とはどのような意味があるものなのか、そして、今回のプロジェクトによってどんな未来をつくろうとしているのか、小林市役所の吉丸典宏さんと、移住者である青野雄介さん、池上翔さん、上岡裕さんに話を聞きました。
役場ではなく、小林市の面白い市民がつなぎ役になること
今回のプロジェクトについて聞く前に、3回に渡って開催したオンラインmeetupで何が話されたのか振り返ってみましょう。
1回目は、昨年11月5日、池上さんをゲストに「それでは聴いてください『自分の好きな事で地域に関わる生き方♪』」が開催されました。
SMOUT掲載プロジェクト「それでは聴いてください「自分の好きな事で地域に関わる生き方♪」」メイン画像
池上さんは、小林市にUターンし、地域おこし協力隊をしながら「ニシモロを楽しむメディア『ピ』」というメディアを運営したり、映像制作を行ったりしています。池上さんが方言でつくったオリジナル曲がネット上で人気になり、そこから小林市の魅力を伝える様々な映像を発信するようになったそうで、外部にその魅力を伝えるとともに、地元の人に向けて地域で頑張っている人たちのことを知らせることも狙いとしてあったのだとか。
池上さんはこの動画を半分趣味、半分地域おこし協力隊の仕事としているそうですが、池上さんは協力隊の任期終了後に向けて「投げ銭シェアハウス」も計画。詳しくは「これが私のアナザーセカイ!」にありますが、空き家をみんなでDIYで改装し、自分らしい暮らしを考える場をつくりたいのだとか。
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2回目は、今年の1月27日に、池上さんと青野さんをゲストに「見つけて活かす!『Kobayashi Mottainai Meeting』」を開催しました。
SMOUT掲載プロジェクト「地域のもったいないを見つけて活かす!「Kobayashi Mottainai Meeting」」メイン画像
青野さんは千葉県出身で4年前にIターン、地域おこし協力隊を経て起業し、現在は「TENAMU交流スペース」、コワーキングスペース「TENOSSE」、飲食店、ゲストハウスなどの運営をしています。
「TENOSSE」でのイベントの様子
テーマは「もったいない」。吉丸さんが、小林市では当たり前だけれど生かされていないもったいないことがあるんじゃないかと考えたことからこのテーマを設定し、参加者と何がもったいないかを話し合いました。
まず、吉丸さんがあげたのが「高校生」。小林市には高校生と一緒にまちづくりを考えるシムシティ課というものがあり、実際に高校生が考えたアイデアの中で優秀賞に輝いた生駒高原の展望台計画は、クラウドファンディングで実現されたんだとか。これだけのことができる高校生の力を使わないのはもったいないというのが吉丸さんの提案でした。
池上さんは「かるかや」という宿を紹介。それ自体が古民家で魅力があり、周辺は非現実とも言える田舎の風景が広がる素晴らしい場所なのに、あまり知られていないのがもったいないとして、かるかやが目的地になるような、当たり前のものに軽く味付けするアクティビティがあるといいと提案しました。
青野さんがもったいないと挙げたのは「食の多様性」。ただ美味しいだけではなく、バリエーションが豊富な小林市の食がもっと知られるべきだと提案しました。宮崎牛や野菜、ハーブだけでなく、果物も宮崎名産のマンゴーから最南端のりんごまでバリエーションが豊富で、さらに、養殖キャビアや世界的に評価されたチーズなどもあるといいます。青野さんはさらに「地域内にいると気づけないような価値がもったいない」とも言っていて、ここから地域外の人に助けてもらうオンラインサロンを発想、実施することにしたそうです。
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3回目は2月17日に、上岡さんと奥さまの唯子さんをゲストに、「 U・Iターン夫婦の移住で色んなものが「うまれ」ました」を開催しました。
SMOUT掲載プロジェクト「U・Iターン夫婦の移住で色んなものが「うまれ」ました」メイン画像
上岡さんは、UターンしてWebサイトとアプリを開発する会社を起業、唯子さんIターン後、現在はカフェを運営しています。裕さんの会社は東京など都市からの仕事と地元企業からの依頼が半々くらい、唯子さんのカフェは県外からもわざわざお客さんが訪れるほど人気なのだとか。
唯子さんが運営するカフェ「musumi_」(Instagramより)
そして、お二人は現在、ゲストハウス「loop」を計画中。これも、外から遊びに来る友だちが宿泊する場所が少ないという理由でつくろうと思い立ち、その友だちたちとDIYでリフォームをして、まもなくオープン予定だそうです。
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さて、どうしてこの3組にmeetupに登壇してもらったのかを吉丸さんに聞きました。
吉丸さん「声を掛けやすかったというのもあるんですが、真面目に話すと、自分に持ってないものを持っている人です。池上さんを紹介したら外の人が面白がってくれるだろうし、青野さんは地域を変えるくらいの力を持ったすごい人、上岡さんはUIターンでお子さんがいる世帯で、小林市でどのような仕事や暮らしをされているのかが具体的にイメーできることに意味があると思いました。」
3回のイベントを通じて吉丸さんは、これまでの移住施策とは異なる反応があったといいます。
吉丸さん「今回のイベントで、小林市には自分も知らないことがたくさんあることがわかりました。登壇いただいた3人も含め、小林市にはすごいものを持っているのに、持っていると思っていない人がたくさんいるんじゃないか、その人たちが外の人とつながることで、よい関係がたくさん生まれるのではないかと感じました。
そしてこれまでは行政に反応が来ていたんですが、今回は、池上さんや青野さんたちに直接反応が来たそうです。今回わかったことの一つは、イベントの規模が小さくても、人を立てることには意味があること、もう一つは行政がオンラインを当たり前に使えるようになったことで、双方向のコミュニケーションの可能性が広がったということです。伝え方はいろいろあるんだなと。」
5〜6人の関係人口をつくる「個人」が地域の中に増えることで、関係人口が増えていく
では、出演者として関わった3人はどのような感想を持ったのでしょうか。関係人口に関する気づきを3人に聞きました。
青野さん「今回気づいた一番大きなことは、観光と移住をそれぞれ切り取ってやってしまっていたということでした。移住施策と観光って、じつはどちらも地域のコンテンツが外に触れる機会だから同じ枠組みで捉えることができて、違いはどこに引っかかるかでしかない。景勝地など場所や物という浅い部分に触れる観光から、一番深いところまで関わる移住まであって、その間にはめちゃくちゃいろいろなものがある。
その中で深い関わりをつくるためには、あの人に会いたいとかあの人と話したいという「人」の要素が強いんだと思いました。人との関わりは、ずっと残っていくもの。だから、それをどう発信していくかを考えることが重要なんだろうと思いました。」
つまり、人を立てていくということが、関係人口をつくるために重要だということ。では、実際にはどうやればいいのでしょうか。
青野さん「移住施策の場合、移住担当者が行政の中にいて、住まいから暮らしまでサポートするといった具合だと思うんですが、関係人口をつくることが目的となると、つながる数が多いので一人では無理だと今回感じました。人と人との関係性をつくるってそんなに軽いものではない。一人でつくれる関係って、5〜6人くらいなのかなと。
なので、関係人口をつくる際に重要になってくるのは、僕とか上岡さんや池上さんのような、5〜6人の関係人口をつくる人が地域の中にたくさんいて、結果として増えていくといった形なのではないかなと思うんです。」
上岡さん「そうですね。受け入れ側の負担が分散するような関係性とかプラットフォームができるとすごくいいですね。先日、宮崎県内でゲストハウスとコワーキングスペースされている方に、そこに誰かが遊びにくるとなったら、メンバーに一斉配信されるメーリングリストがあると聞きました。そうやって一対一ではなく多対多の関係がつくれたら私たちも対応しやすいなと。
青野さんが運営するTENOSSEがそういう場所になっていて、IT関係の人が小林市にいらしてくれた時には、青野さんが「会ってみませんか」と連絡をくれるんです。それがプラットフォームとしてあったらすごくいいなと思います。」
池上さん「僕の場合、リアルでも、コンテンツを見せるだけではなくて、こちらから関わりに行った方がいいと思っています。例えば、上岡さんが挙げたまちのゲストハウスに足を運んで、そこのインターンの人たちに「こんなことやってるんだ」とか「こんなふうにしたいんだ」って話をしたんです。そうすると、実際に小林市に来てくれる人が出てきます。オンラインでも、反応をくれた人にこちらから話しかけたりもして。
そのときに大事なのは、自分や小林市に興味ある人のところに行くだけじゃなくて、もっと対象を広く捉えること。例えば東京で、地方のカフェ巡りをしたい人たち向けのイベントを企画して、上岡さんたちがカフェ巡りをしたい人と交流したら、きっと一回行きますってなるし、それを主催してるのが小林市だってなったら、小林市って素敵なカフェをやってる夫婦を応援してるのかなって興味を持ってもらえるんじゃないかと思う。」
青野さん「オンラインの場合は、何か反応があったらこちらからアクションをして、例えば「ちょっと助けてくれませんか」とか、一緒に考えてもらうみたいなきっかけから関係をつくっていくのが一番自然なのかなと思っています。」
面白い人たちが「点」で活動をしても、外に魅力は伝わらない
関係人口はつくり方の話も重要ですが、フックとなるコンテンツも重要です。大事なのは「人」ということはわかりましたが、小林市はどんな「人」を表に立てようとしているのでしょうか。
池上さん「地域をつくっているのは、人とのつながりから生まれる関係性だと思っています。言い換えれば人との思い出がいっぱいある場所が自分の地域になる。だから、僕はその思い出をいっぱい自分の周りでつくれたらいいと思って、人が集まれる場をつくろうとしている。
それは、人の関心を引くために大切なのは価値観で、しかも何かしらの形に現れた価値観だと思うからです。その現れた形が、青野さんであればコワーキングスペースのTENOSSEであり、上岡さんだったらゲストハウスのloop。そうやって、価値観から生まれたコンテンツがたくさんあればよくて、僕の場合はそれが、人が集まれる場なんです。
さらに、そのベースとなる価値観にも違いがあることが重要です。小林市を味噌汁に例えると、青野さんは出汁みたいなひとで、ないと奥行きがなくなってしまう。上岡さんは味噌みたいな人。普通にそこで暮らしながらやりたいことを実現していて、まさに味噌汁の味を体現している。自分はちょっと足すネギぐらいな感じの、なくてもいいけど好きな人は好きよね、みたいなもの。
それぞれ個性は違うけど、でもそれぞれが重要でもあって、そうやって大小関係なく個人が価値感を示せるものを立てていく、そんなことが地域内で次々とおこっていれば、その地域は楽しいし思い出もいっぱいできるし、外から見ても魅力ある場所になるはずだと思うんです。
小林市には面白い人が山のようにいて、それぞれやってることに芯が通ってて、尖ったことやってる人もいるし、そこには価値観がある人もいる。ただ思うのは、点でやってる人も結構多くて、なかなか外には伝わらない。だから、その価値観とコンテンツを一緒に外に見せられると強いだろうなと思いますね。」
地域の「もったいない探し」を入り口に、関係をつくる
池上さんの言うように、小林市には独自の価値観から生まれた魅力的なコンテンツがたくさんあります。しかし、それがなかなか外に伝わっていない。ではどうしたらいいのか。そう考えたときに、青野さんが企画した「Mottainai SALON」が意味を持ってきます。
吉丸さん「もったいないって、じつはどこの自治体でも探していて、でも地元の人や行政職員の目線からでは見つけられない。だから、外の人に見つけてもらおうという発想です。」
青野さん「地域の中にいると気づけないような価値、それこそ池上さんが言うような点でやっている面白いことが「もったいない」と思うんです。ただ、その「もったいない」があぶり出されてきたときに課題になるのが人材で、そこをオンラインという形で地域外の方に助けていただけないかというのが今回のアイデアです。
なので、ただ外の人からアイデアをもらうだけでなく、地域外の人をサポーターと呼んで地域のプレイヤーと合同でプロジェクトをつくってもらって、プレイヤーはそれをすぐに実行、経過を共有してその先を検討するところまで一緒にやろうという計画です。」
吉丸さん「もったいないを探すところを入り口に、地域のプレイヤーと関わってもらうことで関係をつくって、関係人口構築という大きい目的に少しずつ進んでいくという目論見ですね。」
オンラインで地域外の人と「関わりしろ」をつくることで、地域のプレイヤーと外の人との関係性をつくっていくというアイデアですが、吉丸さんは他にも「人」を立てるアイデアがあるそうです。
吉丸さん「青野さんと、オンラインスナックをやりたいねって話していたんです。簡単に言うと、僕や青野さんが地域の人をゲストに呼んで、その人を紹介するだけの配信。ゆるく話をすると“隙き”が生まれて、「もうちょっとその話聞かせて」と入ってくる人がいるんじゃないかと。」
いかがでしたでしょうか。小林市の関係人口づくりは、少人数の関係人口をつくる「個人」を地域の中に増やすこと、関わりしろのある隙をつくっておくことにあるようです。
また、隙のある地域への“関わりしろ”は、行政だけで生み出すことは難しいですが、民間の魅力ある企画と連携したことが小林市の特徴でした。新しい関係人口づくりの形として、官民が手を取り合って余白のあるコンテンツをつくる。その点でも、小林市らしさを感じる好例だったと思います。
小林市に興味を持ったら、ぜひ小林市の「もったいない」を一緒に探し、考えるオンラインサロンに参加してみてはいかがでしょうか。
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文 石村 研二
※ この記事は、宮崎県小林市のご協力で制作しています。