「関係人口」って何?定義や実例をくわしく知りたい!

「関係人口」って何?定義や実例をくわしく知りたい!

地域や地域づくりに関わっていると、よく「関係人口」という言葉を耳にします。けれど、つまるところ関係人口ってどのようなものでしょう?定義がはっきりしているようで、いざ「説明して」と言われたら言葉に詰まってしまう人も多いと思います。

昨今では総務省が関係人口のポータルサイトをオープンしました。関係人口をつくり出すようなWebサービスも増えています。世間からの注目が高まっている今だからこそ、改めて「関係人口」という言葉の定義や意義を掘り下げてみたいと思います。

つまるところ「関係人口」ってどういう意味?

そもそも関係人口という言葉はいつ、どこで生まれたものなのでしょう。考えてみれば、2000年代前半には耳にしたこともなかったし、教科書にも載っていなかったと思います。

由来を調べてみると、雑誌「ソトコト」編集長の指出一正さんが生み出したもの、という説が一般的。それを明治大学農学部教授の小田切徳美先生が拾い上げ、総務省が使い始めた、という経緯を経ているようです。その定義はどのようなものか、総務省のサイトから引用してみましょう。

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出展:https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。
地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。

私たちは基本的に一定の場所に定住していますが、様々な人と関わり合いながら生活しています。毎日顔を合わせる人もいれば、年に数回、場合によっては数年に1回ということもありますが、お互いに関心を持っていれば、緩やかにつながっていると言えます。

地域に関係している状況とは、「ある地方に年に数回顔を合わせる人がいて、ふとした瞬間に『あの人、今どうしているかな?』と思い出し、その人が何か行動する時には応援したくなること」と言えないでしょうか。あなたにはそんな人がいますか?もしそうであれば、あなたも特定地域の関係人口に含まれているのかもしれません。

一方で「関係人口」という言葉は、総務省のポータルサイトはありながら、定義がまだ曖昧である、というのが現状の様子。まだ生まれたばかりの言葉なので、定義や意義はこれからも社会に合わせて変化していくのでしょう。

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3つのキーワードから関係人口が注目される理由を読み解く

さて、関係人口の意味をおさらいしてみましたが、そもそもなぜ関係人口は地域づくりにおいて注目されているのでしょうか。この段落では関係人口の持つ意義について掘り下げてみましょう。

ここで参考にするのは、SMOUT移住研究所に掲載した、明治大学農学部の小田切徳美先生へのインタビューです。小田切先生は関係人口という言葉を拾い上げ、世に広めた方。彼は関係人口の意義についてこう述べています。

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1点目は、移住プロセスの多段階性を示す言葉です。無関係人口から移住者の間にある移住へのプロセスや個々で異なる立場をカテゴリ化したものです。(中略)
2点目は、「移住枯渇論」への反論です。移住すべき人はもう移住済みだという考え方は、移住という現象だけ見ると確かに正しいかもしれません。しかし、移住プロセスを総合して見ると可能性はあるのに、表面だけで枯渇と言っていいのかと指摘する意義ですね。
3点目は、人口の取り合いの解決策。地方創生や移住の話になると地域は対立しがちですが、関係人口論で言えば、人は1.2人前の働きができる。その関わり方が1.2人に換算できれば、地域間でも前向きな意味に考えられるという意義があります。

学術的な用語が出てきたので、少し補足すると、

1. 移住プロセスの多段階性:移住へのプロセスは、【地域に関心を持ち→ 実際に地域に出かけ→ 地元との関係性を築き→ 移住を検討して→ 移住する】という段階を踏みます。関係人口という概念が生まれたことで、どの段階の人にどうアプローチすれば良いのか細分化がしやすくなりました。

2. 移住枯渇論への反論:従来は「移住すべき人はもう移住しているのでは?」という考え方がありました。そこに「関係人口」を持ち出すことで、「移住候補者の母数を増やすことができるのでは?」という議論が行いやすくなります。

3. 人口の取り合いの解決策:従来では、移住候補者がある地域に移ってしまうと、他の地域には関われない、という考え方がありました。つまり、限られた人材の奪い合いになり、地域間の対立が発生してしまうこともあったのです。関係人口の考え方を用いると、ある土地に移住した人も緩やかに他の地域と関わり、複数地域の盛り上げに協力することができます。結果として、他地域への移住を前向きに捉えることができます。

小田切先生はこの3点に加え、「関係人口の概念は、都市農村共生社会を導く」と指摘しています。都市と地方(特に限界集落)は対立したものとして比較されがちですが、関係人口の考え方を用いれば、都市に住んでいる人も地域づくりに参加することができます。「都市と農村がゆるやかにつながっている」と考えることで、より効果的な施策が生まれる可能性があるのです。

地域のつなぎ役、「関係案内人」が増えている

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さらに、関係人口を増やす役割となる「関係案内人」が生まれています。関係案内人とは、ある地域に居住し、都市部と地域をつなぐ役割を担う人のこと。たとえるならば「地域のつなぎ役」と言い換えられるでしょう。

彼らは地域づくりにコミットし、SNSや活動を通して都市と地域の人の交流を生み出しています。場合によってはメディアや店舗を運営してコミュニティのまとめ役となり、地域の魅力を広く世に伝えているケースもあるようです。

最近では関係案内人に協力する形で、都市部の人が地域づくりに参加するケースも増えています。一例を挙げると、SMOUT研究所を運営するカヤックは、三重県尾鷹市・奈良県下北山村、和歌山県田辺市に2泊3日から参加できる移住プロモーション事業を開催しました。このような地域体験型プロジェクトを企画・運営する人材は、都市部の人を地域の関係案内人へと橋渡しする、「都市と地方の仲人」に例えられます。

地域づくりを進める時に、すぐに移住者が増えれば万々歳です。しかし、移住は暮らしそのものを変えること。仕事をはじめ、ご近所づきあいや育児など、人生を大きく変える選択なので、すぐに移住者を増やすことはできません。

「関係人口」や「関係案内人」という考え方を用いれば、移住者は増やせなくとも、地域の外に活性化を担う人々を増やすことができます。地域おこしとは、村や町の10〜20年後を考えて行うもの。数年では成果が出なくても、長期的な視点でファンを増やせば必ず地域にプラスの影響が現れてくるはずです。

地域で必要になるのは「関係案内所」

最後の段落では、「関係案内所」という考え方を紹介して締めくくりとしましょう。関係案内所とは、ゲストハウスや文化複合施設など、多様な要素を持つ人が相互に交流しながら集まる場所を指します。

この言葉は、SMOUT移住研究所を運営するカヤックLiving代表(当時)の松原佳代と、関係人口という言葉を生み出した『ソトコト』編集長の指出一正さんの対談で登場しています。

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対談では「よく地方には、その土地の魅力を伝える『観光』案内所がありますが、いま必要とされているのは『関係』案内所が必要では」と議論されました。

関係人口を増やす際には、人と人が出会う場が必要で、この役割を担うのが関係案内所です。しかし、単に出会うだけではゆるやかに、長くお付き合いできる関係性にはなれません。そのカギを担うのがキーマンの存在です。キーマンは関係案内所を運営するだけでなく、イベントやSNSを通して外部の人を呼び寄せ、地域との交流を促してくれます。先ほど紹介した関係案内人がこのポジションを担うことも多いようです。

関係案内所を立ち上げる際に考えたいのが場の雰囲気です。できれば場の雰囲気は、誰もが「何者でもない」というフラットな雰囲気を形作れるとよいでしょう。

私も地域のゲストハウスにはよく足を運びますが、そこで仲よくなった人たちとは長期的にやり取りできる友好的な関係性を築けています。不思議なことに、仕事や社会的な地位など、お互いの素性ははっきりと理解していません。けれど、気が合うし話していて面白い。おそらく利害関係がないからこそ、長く友人として付き合えるのでしょう。こうした場の雰囲気を形作るのも、キーマンの役割だと思います。

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余談にはなりますが、デンマークの首都、コペンハーゲン市では「市民が最大の観光資源である」と宣言しています。「観光客」のこともそう呼ばず、「一時的市民」、つまり関係人口として捉えているそうです。

なぜそのような宣言をしているかというと、「マスメディアでキャッチコピーを届けることより、市民ひとりひとりからストーリーが伝わっていくことが大切(コペンハーゲン市のDMOの宣言より)」だと考えているから。

その地域について熟知しているのはそこに住まう人です。それらの人々は、地産の美味しい食べ物や、魅力的な文化や景色を知っています。その土地で暮らしているからこそ、外の人では伝えられない言葉で土地の魅力を語ってくれるはずです。

一方で、暮らしているから見えづらくなってしまう魅力もあります。外から見たら「こんなに素晴らしいのに!」と言いたくなる地域資源も、中から見たら「こんなもの当たり前だよ」と言われてしまうことも。地域に関係する人々は、こうした意識の違いを翻訳し、外に伝えてくれるはずです。

関係人口の考え方を用いれば、移住者・非移住者という対立的な構造ではなく、グラデーション状につながった、現実的な移住の形を模索することができます。地域おこし施策の打ち出し方に悩んだ時は、関係人口を思い出してみると、効果的なアイデアが発見できるかもしれません。

文 鈴木 雅矩