「地域が持つ資本」って何? 島根県・海士町と神奈川県・鎌倉から見えてくる、地方の魅力とまちづくりの可能性

「地域が持つ資本」って何? 島根県・海士町と神奈川県・鎌倉から見えてくる、地方の魅力とまちづくりの可能性

いま「地域資本主義」に注目が集まっています。都市に暮らす人が移住したり、多拠点生活などで地方に拠点を持つことが当たり前になりつつある中で、地域の経済循環はどう変わっていくべきなのかが考えられているのです。

昔ながらの生活のままでもなく、都市化でもない、その地域独自の経済循環をつくる「地域資本主義」とはどのようなものなのか、島根県隠岐諸島にある海士町に移住し、地域事業に取り組む阿部裕志さん(株式会社風と土と代表)と、会社の拠点を鎌倉に移し、『鎌倉資本主義』を著した柳澤大輔さん(面白法人カヤック代表)が参加者と「地域資本主義」について議論しました。今回は、カヤックLiving & 風と土と 共催イベント「海士町資本主義 × 鎌倉資本主義」の模様の一部をお届けします。

阿部 裕志さん
1978年愛媛県生まれ。2008年海士町に移住、起業。島の魅力を高める地域づくり事業、島外の企業や自治体、大学の研修を海士町で行う人材育成事業、島産品の販売や海士町の魅力を発信するメディア事業を行う。田んぼ、素潜り漁、神楽などローカルな活動を実践しつつ、イギリス・シューマッハカレッジやドラッカースクール・セルフマネジメントなどのエッセンスを活用した研修プログラムづくり、JICAと提携し海士町とブータンとの交流づくりなど、グローバルな視点も取り入れながら、持続可能な未来を切り拓いている。著書「僕たちは島で、未来を見ることにした」(木楽舎)

柳澤 大輔さん
1974年生まれ。1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。オリジナリティあるWebサイト、アプリ等のコンテンツを発信する。また、「面白法人」というキャッチコピーのもと、ユニークな人事制度(サイコロ給、スマイル給、ぜんいん人事部)を発信。2014年に上場。地域活動として、2013年よりITの力で鎌倉を支援する「カマコン」をスタート。2017年より「鎌倉資本主義」を提唱する。

関係資本を増やすことで、地域資本主義のタグボートになる

地域活性化、地方創生の文脈で必ずといっていいほど名前が挙がるまち、島根県隠岐郡海士町。まずは阿部さんに、海士町について説明してもらいました。

阿部さん海士町がある隠岐諸島は大陸の玄関口、日本の表でした。海士町は隠岐諸島の4つの市町村のうちの一つで、人口2,300人、そのうち移住者は約300人。私は11年前に移住しました。仲間と「巡の環」という会社をつくり、地域事業や人材を排出する人材育成事業をやってきました。

昨年、社名を「風と土と」に変更したのですが、この名前には、風の人と土の人がともに風土をつくるという意味が込められています。地元の人だけでなく移住者やファンも一緒にまちをつくっているという思いが強くなったんです」。

阿部さん「海士町の地域資本主義を語る上で欠かせない言葉に「ないものはない」というものがあります。2011年に”海士らしさ”を表現するキーワードとして採用され、ポスターがあちこちに貼られていたり、職員の名刺にも書かれています。

この言葉には2つの意味があります。1つ目は「ないものはない」と言い切って、ないことを積極的に受け入れること。2つ目は、人が生きていくために大事なものは全てあるということです。最近3つ目の意味に気づきました。それは、「なければつくればいい」ということです。

海士町を資本主義の観点から見ると、経済指標では全国でも最後尾の方にいます。でも、関係資本や環境資本は豊かです。つまり経済からみれば「ない」まちですが、関係資本や環境資本を使えば「ある」まちにできるのです。そしてつくることで仲間ができ、関係資本はさらに増えます」。

阿部さんは海士町について、『鎌倉資本主義』の中にもある3つの資本の概念を使って説明しています。「ないものはない」の1つ目の意味は「経済資本がない」ということ、2つ目の意味は「環境資本は豊か」だということ、3つ目の意味は「関係資本を活かせばつくれる」ということなのだと思いました。続きを聞いてみましょう。

阿部さん「地域資本主義は思想です。僕らは海士町でその思想の実践者を増やし、現実世界で目に見えるものにすることにチャレンジしています。それで海士町が関係資本や環境資本が重要視される社会に向かうタグボートになって、他の地域に広がっていけばいいと思ってるんです。

そのために必要なのは、海士の魅力を高めるために挑戦する人をどうやって増やすかですが、何かを変える前に何を守るかを考えなければいけません。海士らしさを守りながら魅力を高めなければいけないから。だから守るべき海士らしさとは何かは、ずっと議論しています。

僕たちは海士らしさとは何かを考えながら、持続可能な社会になるためにはどうしたらいいのか、それを地域から現実にするにはどうしたらいいのかを模索し続けています。その中で「島の人事部」のような新しい仕組みをつくろうとしたりもしていますが、まだまだ人も必要だし、関係資本を増やすことも必要です。

だから、みなさんぜひ一度海士町に「ござらっしゃい」!」。

”海士らしさ”を保ちながら関係資本を増やすことで、地域資本主義のタグボートになる。これが意味するのは、地域資本主義とは今までの経済から語られる資本主義とは違う視点から考える資本主義で、海士町は経済資本が「ない」からこそ、そのタグボートになりうるということなのだと思います。

続いて、経済資本もある鎌倉における地域資本主義について、柳澤さんに話してもらいました。

地域には、幸せになるための要素がすべて入っている

柳澤さん「鎌倉資本主義を発想したもとにあったのは、資本主義の限界です。カヤックが上場したときに、上場企業の役割とは何かを考えました。結論は、成長し続けることを求められる存在だということ。ただ、日本や先進国では成長し続けることにある程度限界が来ていて、それが資本主義の限界だと言われています。世界を見ればまだ成長の余地はあるので、グローバル企業になると話が変わってきますが、日本の国内企業に限れば成長の限界があります」。

では、その限界というのは何によってもたらされているのでしょうか。柳澤さんが示したのはこの3つでした。

これが意味するのは、GDPという指標においては単純にGDPを増やし続けることができないということで、その結果、経済資本を増やすためには金融資本主義にならざるを得ず、富の格差が拡大します。格差の拡大が意味するのは社会の分断であり、社会資本を損なう結果をもたらします。

もう一つは、地球資源の限界です。これ以上資源を収奪すると持続可能ではなくなってしまい、環境資本が損なわれてしまうのです。

つまり経済成長(経済資本の増加)を続けるためには、社会資本ないし環境資本を損なわなければいけないのが現状なのです。そうすると何が困るのでしょうか。

柳澤さん「上場企業にとっては、成長することがイコール幸せを意味します。だから成長できなければ幸せではなくなってしまう。なので、経済成長以外に成長を示す指標を見つけなければいけません。それが社会資本と環境資本です。

ただ、上場企業の最大のKPIは利益を追求することなので、それ以外は優先順位をつけにくいですよね。それなら会社の外で、社員が社会資本や環境資本を増やす仕組みを考えればいい。それがあるのが地域なんです」。

カヤックは面白く働くことがコンセプトの会社で、そのための方法を追求してきたと話す柳澤さん。面白く働くためには会社が自分ごと化していなければならず、そのために最適な方法が、ブレインストーミングであることに気づいたのだそう。

柳澤さん「地域で幸せになるためにも、地域を自分ごと化することが必要です。だから、ブレインストーミングをして住民がまちの課題を自分ごと化することを目指そうと「カマコン」を始めました。カマコンは、まちの人に集まってもらってみんなでブレインストーミングをするイベントです。回数を重ねるごとに精度が上がってきて、さまざまなアイデアから、昨年は「まちの社員食堂」が実現しました」。

柳澤さん「地域活動に取り組んで自分ごと化した結果、人生が3倍楽しくなりました。参加した経営者や社員もみんなそうだったので、地域には幸せになるための要素がすべて入っていると確信しました。

これをさらに進めて、社会資本や環境資本を増やせる地域資本主義にするために必要なのは、使い方を制限するお金の流通量を増やすことです。金融資本主義にお金が流れるのを防ぎ、地域内循環を可能にするお金をつくる。だから地域通貨が重要になるんです。

地域に根づく企業はダイレクトに地域内で調達するなどすればいいわけですが、根付いていない企業では難しい。そのときに、社員は地域に住んでいるわけだから、地域でしか使えないもので払ってくださいと社員側が求めていけばいいんです。そうするとその通貨を使うことが社会資本を増やすことになって幸せになれる。鎌倉資本主義の最大のポイントはお金の「いい使い方」を考えることなんです」。

阿部さんは地域から、柳澤さんから企業から、経済資本以外の資本を重視した資本主義に取り組もうとしていることがわかりました。中でも重要なのは社会資本で、私たち個人も社会資本に目を向ける必要があるのです。

海士町と鎌倉、それぞれの地域資本主義

社会資本をどう増やすかという課題がある中で、海士町と鎌倉が取り組む地域資本主義はどのようなもので、何を実現しようとしているのか、お二人に話してもらいました。

柳澤さん海士町と鎌倉では人口規模も100倍くらい違っているので、もちろん課題は違うと思うんですが、共通の要素もありそうですね。今日はそれが発見できたら面白いんじゃないかと思っています。

僕が鎌倉を選んだ理由は、山と海と文化的施設が歩いていける距離にあって、住みたい街として人気が高いのに、観光客が年間200万人もいる。そこに僕らが会社をつくったらカオス化してさらに面白くなるだろうと思ったからです。さまざまな要素が地域の中にあって、ある程度完結しているのが重要だと思ってるんですが、海士町もある程度自己完結してますよね」。

阿部さんそうですね、そこは共通ですね。後鳥羽上皇が海士にご配流になったりもしてきたわけですが、ここが流刑の島として選ばれたのは、当時の身分の高い方が餓死してしまっては祟られる。だから絶対に帰ってこれないけれど豊かに暮らせる場所に、という理由で海士だったと思うんです。だからある程度完結できる社会であるという自負もあるし、食うことに困っていないから、よその人が来たときに排他的にならないという文化もあります」。

柳澤さん観光客はどうですか?」。

阿部さん「観光客は年間2万人くらいですが、視察がたくさん来ますし、島に訪れてくれる人の質は高いと思っています。影響力のある人が来ると、地元の人が揺さぶられる。数は少ないけれど質が高いことで、新たなイノベーションが起きやすい種が蒔かれているんじゃないでしょうか。

それに、住んでいる人だけが島民だと考えなくてもいいと思っています。二拠点のような中間的な暮らし方、働き方もこれから大事になってくるでしょうし、それが社会資本に関係してくる気がしています」。

柳澤さん「自己完結できる要素があり、人が訪れるしくみがある。その2つが重要なんですね」。

海士町と鎌倉の共通点である「自己完結」と「人が訪れるしくみ」が意味するのは、環境資本と社会資本なのではないでしょうか。そして、それは地域資本主義の土台となります。それでは、実際に「自己完結」していて「人が訪れるしくみ」を実践していくためには何が必要なのでしょうか。

阿部さん「先ほどの柳澤さんのお話から、地域資本主義を企業に実装するときに、対経営層ではなく、社員ひとりひとりのボトムアップ型で考えたほうが結果的に経営者を変えることにもなるのだとわかりました。一方で、地域に実装する場合、成長が移住者数などの指標で評価される中で、社会資本や環境資本をどう測り、質へ展開していけるかが課題だと実感しました」。

柳澤さん僕は地域で3つすべてを増やしていくのはハードルが高いと思っています。発展途上国に経済成長の限界がないように、過疎や税収で苦しんでいる地方は、人口が増えたり黒字が出る事業を増やせれば幸せは増えていきます。他の資本に目を向けるのは、その過程で住民が地域を自分ごと化してからでないと難しいでしょう」。

阿部さんほかの地域がどうかはわかりませんが、僕らは株式会社海士町の社員で、教育に携わる人がいたり、福祉に携わる人がいたり、漁業に携わる人がいるにしても、みんな一つの会社の社員であるというアイデンティティがあります。だから当事者性を持っていて、自分ごと化できているんですね。

そうやってみんなが当事者性を持てるようになったのは、外から来た人の影響が大きいですね。地元の人ってシャイだし、当たり前にあるものに気づいていなかったりするので、移住してきた人たちに言われて気づいたところはあると思います。

田舎の人にとっては社会資本と関係資本はあって当たり前のもので、そのことを意識しないと、経済資本を増やすためにその当たり前を壊していってしまう。地域資本主義が地域にとって価値があると思うのは、都市が直面している課題が見えているので、解決への近道を取ることができます。あとはどうやって当事者性を持ってもらうかですね」。

社会資本や環境資本をもともと持っている”地方”に地域資本主義を実装するために必要なのは、当事者性や自分ごと化であることがよくわかりました。そしてほとんどの”地方”はその資本を持っていることに気づいていないのだろうということも。それはつまり、あらゆる場所で地域資本主義が可能だということです。

そして、鎌倉はその先進地域として課題解決のためのしくみとして「カマコン」をつくり、今度は仮想通貨をつくろうとしています。それを使ってあらゆる地域で地域資本主義に実装されていく未来が訪れれば、多くの人がより幸せになるという希望が持てるトークセッションでした。

文・写真 石村 研二