移住交流、距離はどこまで超えられるか? アスノオト代表・信岡良亮さんと考える、地域の可能性

移住交流、距離はどこまで超えられるか? アスノオト代表・信岡良亮さんと考える、地域の可能性

2019年4月4日、東京・神田の食べられるミュージアム「風土はfoodから」にて、島根県海士町のイベント「島の大使館 トークセッション!」が開催されました。2回目となる今回は、株式会社カヤックLiving代表の松原佳代さんがゲスト。

「移住交流、距離はどこまで超えられるか」がテーマということで、移住交流の現状や今後について考えるヒントがありそうだとSMOUT移住研究所も参加してきました。

海士町の有志「ないものはないラボ」が都心で開く「島の大使館」

まずイベントの概要説明から。「島の大使館」とは、島根県隠岐郡海士町で地域活性活動に関わる有志が、都内在住の海士町ファン向けに月1〜2回開いている交流の場です。

運営は「ないものはないラボ」。島外の海士町ファン、いわゆる第2町民を民間主導で増やそうということから生まれた委員会です。会員が資金を出し合って島の伝統行事や企画を補助し、活性化に繋げるのがおもな活動。資金があれば、行政に頼り切らずとも島の未来を自分たちで変えていけるはず、という信念があります。

信岡さん「諸外国のよさを伝えるために大使館が存在するように、海士町のよさを伝えながら、集まった人々が地域での暮らしやこれからのことを気軽に話し合える場にしたい。今日のイベントも、僕らの計画に同意くださった会員さんたちのおかげでできています」。

そう語るのは、主宰のひとりでありこの日のモデレーターを務める、アスノオト代表の信岡良亮さんです。

 

アスノオト代表/風と土と非常勤取締役 信岡良亮さん。1982年生まれ。同志社大学卒業後、東京のITベンチャー企業を経て、島根県隠岐郡海士町に移住。2008年に株式会社巡の環を仲間と起業。6年半の島生活でさまざまなプロジェクトを行ったのち、2014年より拠点を東京に移し、2015年にアスノオト創業。都市と農村の新しい関係を創るべく活動をしている。

 

信岡さん「友だちくらいの狭さで、日本の未来をつくる仲間としてディープな話をしたいなと。都会と田舎が親戚付き合いで繋がっていた頃のように、これからはインターネットで繋がった日本全体が親戚のように仲良くなれる関係性が必要じゃないかと。なのでこれはイベントというよりは、超ハイクオリティなホームパーティです」。

確かに、会場はスクリーンすら仰々しく見える車座。全員の顔が見える距離は、まさにホームパーティのそれです。またホームパーティには欠かせないのがおいしい料理。会場の「風土はfoodから」料理長の石丸敬将さんからは、海士町の伝統調味料「こじょうゆ味噌」と現代の醤を合わせたという「“島の大使館”ならではのメニュー」全6品の解説もありました。

 

料理の説明をする石丸敬将さん(写真右)。

 

 

こじょうゆ味噌と醤につけた豚ロース焼き、炊き込みごはんの焼きおにぎり、こじょうゆ味噌を味わえる新鮮な野菜(手毬カットが美しい)、干し野菜入り春雨サラダのこじょうゆ味噌入り肉味噌添え、鶏もも肉グリルのこじょうゆ味噌入りホワイトクリーム和え、いかとピーマンと菜の花で炒め物。彩り鮮やかな6品に、海士町の日本酒。ちなみに「こじょうゆ味噌」とは醤油と豆を合わせて発酵させた海士町地方に伝わる伝統調味料。醤油がなかった時代から使われ、現代の醤に近い。

 

移住交流の距離を超えるアイデア

海士町は、人口減少対策や地域おこし活動の先駆者的存在として有名なまちです。その活動が成功した現在は、人口約2,300人の離島ながら町内で3〜40種類のプロジェクトが進行するほどに。10年前は120人程度だった移住者は600人に増加し、その約半数が定住した結果、人口の約15%が移住者という状況です。それでも、“都心からは遠い”ことは紛れもない事実。一度会った人と再会しにくい、距離を超えにくい、海士町を好きになってくれる都心の人はいてもその力を活かしにくいという問題が、常について回ります。

そこで、関心をもって訪れる人が増えてきた今、その距離を超えるにはどうすれば解決できるのか? 他地域の事情はどうか、関係づくりに使える価格や時間はどれくらいなのかを考えたい。地域移住と人の移動を客観視できるプロとともに解決方法を考えたいということが、今回のテーマ「移住交流、距離はどこまで超えられるのか最前線トーク」に繋がったのだとか。

引き続き参加者の自己紹介を経て本題へ……と行きたいところが、自己紹介だけでたっぷり一時間半。まさに普段のイベントにはない展開です。参加者は、半数が海士町関係者とラボ会員、残りが単身参加者とカヤックLiving関係者。職種はさまざまながら、地域や所属などのコミュニティ、働く場や活動場所などについて一箇所に限定しない行動や考え方に可能性や見出そうと考える人が多い印象でした。

 

移住スカウトサービス「SMOUT」を運営する株式会社カヤックLIVING代表の松原佳代さん。SMOUTのサービス立ち上げに際し、地域移住について話を聞きたいと弟子入りする思いでコンタクトを取ったことが信岡さんとの出会い。

 

ゲストの松原さん曰く、SMOUTには現在約150の市区町村と約5,000人のユーザーが登録していますが、サービスの基本となっている地方の未来における関係人口の重要性を確信したのは、信岡さんとの会話がきっかけだったそう。日常生活で距離に対峙しつつも都心で距離を縮める活動をしている海士町と、各地域と対峙しオンラインで距離を縮めるサービスを提供するSMOUT。ある種共通の課題が存在する二組が、距離の問題を話すと面白いのではないかと語ります。

心理的な「距離」と物理的な「距離」を考える

最初の質問は「心理的な距離と物理的な距離、ここからは遠いと感じるポイントは?」

松原さん「心理的距離はオンラインで縮められた気がします。今は優れたオンラインチャットツールもあるから、そこで話していれば『初めて会った気がしない』と思えるようになりましたね。物理的な距離はまだまだ遠いけど」。

リモートワーク社員を積極的に採用しているIT企業なのに、当初は地方ではおなじみのオンラインチャットツール、Zoomを知らなかったというエピソードも。信岡さんから、距離を縮める上で都市在住者のITリテラシーの低さが課題ではというツッコミとともに盛り上がりましたが、距離を超える工夫や問題は、日常生活に必要なものがすぐ揃う都心部ではなかなか気付けない部分。病気や出産のために島外に出かけることが普通の海士町とは、普段の認識にも大きな差があるでしょう。

松原さん「そういった距離に対峙する姿勢や問題意識を都市在住者にも伝えていくことが、これからの移住や地域活性化の問題には大事ですよね。SMOUTとしても考えていくべき必要があると思っています」。

従来の都市と地方を繋ぐものが親戚だったことは冒頭にありましたが、海士町ではこの関係が血縁のみならず島の関係者すべてを含むといいます。海士町では、地域活性を学んだのち今は他県で活躍する人たちもほぼ親戚のようなもの。信岡さんは「海士町は地域活性界のリクルート的存在だと思っているんです。普通は囲い込もうとするけど、海士町は循環しているのがよさ」だと語ります。

次の質問は「どれくらいの距離から遠く感じるのか」。地方に向かう上で“遠い”と感じる心理は何が原因かという問いかけに、乗り継ぎの多さ、移動経路がわからない不安といった原因、一方でそれらを克服するVR活用のアイデアなど幅広い解決のヒントが出されました。また「日本人は異文化への移動距離が少ないことが影響していると思う。外国人だと移動が日常にあるので時間的な余白もあるが、日本人は駅をひとつ乗り過ごしただけで変化を感じて疲れてしまうので」という指摘も。

松原さん「都会の人が地方で疲れるのはそれが大きな理由ですよね。システマチックな都会と違って、毎日違うことが起こるイレギュラーさや余白の多さに馴染むのに時間がかかるのだと思う。都会と地域では余白の在り方はもちろんですが、人同士の距離の濃度が違いますよね。すごく近い、少し離れている、すごく遠い。いろいろな地域があると思いますが、その中から最適な距離感を見つけることも、居心地のよいコミュニティを見つける鍵だと思います」。

3つ目の質問は「もう一度行きたい地域とそうでないない地域の差は?」です。長時間の移動を楽しむスキルの弱体化や、友人との旅行の減少や車を持たない若者の増加、SNSによるコミュニケーションの変化などライフスタイルの変化と移動時間に着目したトークが展開。ある参加者が発した「距離とは覚悟の差」という発言には全員が納得する一方で、もう一度行きたい場所と距離の関連は個々で大きく異なるためか、具体的なアイデアというよりも各自の意見を提案しあう形になりました。その中で「もう一度行きたいと思う場所は『誰かが待っている場所』」と明確な回答をしたのが松原さん。

松原さん「知人の存在って距離を縮める上ですごく重要だと思うんですよ。だから、こういう場をつくって相手の顔が見える状況をつくることは、地域の人が距離感を縮めるいいきっかけになると思います。私自身、地方の距離がどんどん近く感じるようになってきているけど、それは知人が増えているからですし」。

信岡さん「なるほど。僕の場合、知人1人なら移動に1時間って感じで、行き先に会いたい人が2人いれば移動に2時間かかっても気にならないんです。逆に5時間かけて行くなら少なくとも5人には会いたい。1人ならオンラインでいいけど、会いたい人が複数いたり、僕が紹介したい人がいると直接行きたくなりますね」 。

松原さんの“行きたい場所”理論に信岡さんの会いたい人と移動時間の基準が、直接的ではないにせよ繋がった場面も。個人的に興味深く感じました。

松原さん「でも、人との距離を縮めたいなら物理的な距離を超えてでも自分から会いに行くことは大事ですね。リモートで働く社員もビジネスパートナーも、たまに心が離れたなと感じる時があります。その心の距離は、物理的な距離を縮めることでしか解決できないという気がします」 。

ITの活用で広がる地域活動とこれからの企業の在り方

また、地域活性に欠かせないインターネットを始めとしたテクノロジーとそれらがもたらす心理的距離の短縮についてや、ビジネスと地域の活動の関係性についても語られました。古くからITを活用してきた経験から「都心在住者はリアルで会う時間を重要視していないのでは」と厳しい信岡さん。距離が近いが故にメリハリがなく、一回一回の出会いを大切にできていない気がするとも指摘します。

松原さん「確かにそれはあるかも。でも1年前と比べると地域の方がオンライン打ち合わせを打診すると快諾してくださることが増えたような気がします。もちろん会う必要があれば現地に伺いますけどね。打ち合わせで必ず会う必要があるというビジネスの認識も、これからITやネットを介して少しずつ変わっていくとは思います。都心に地域移住や二拠点居住に関心を持つ人が増えているのは、やはりネットの進歩によるものでしょうから」。

信岡さん「都心への一極集中を続けるか、ITリテラシーを高めて地域分散するか。都市化社会と地域分散社会どちらに進むかは、2030年頃に不可逆的に決まるという理論があるんですよ。でもこういった問題に対して、都会在住者の危機感が薄いことが気になっています」。

佐賀県庁のペーパーレス化から考える都心在住者のITリテラシー向上と変化力や柔軟性の必要性と、その柔軟性を弱める原因となっている都心型行政システムの問題点など、トークはさまざまな方向へ。また、株式会社アスノオトが導入したオンライン自習室によるゆるやかな繋がりの効果や、クラウドサービスがもたらす企業の働き方の多様化などの例から、柔軟な人をつくる企業の在り方や仕組みづくりにも展開しました。

信岡さん「大企業は人材を抱え込みすぎて硬直化していると思う。もっと流動的な構造をつくってもいいと思いますね」。

松原さん「柔軟な人を育てるには、これからの企業が人の余白を活かせるような柔軟な組織形態でなくてはならないと思います。多くの人が、最も長い時間を過ごす場所だから」。

同社のリモートメンバーの例から、変化を自主的に取り入れた人の発言や行動は企業への刺激になるという指摘も。さらに、採用するために組織の制度まで変え、既存のメンバーがオンラインで一致団結できる仕組みまで整えたというカヤックLivingの裏話には、そこまでできるのかと参加者全員が驚きに包まれました。

しかし、異質な存在こそ企業を変える力になるものであり、この考え方は地域活性にも当てはまるはず、と松原さんは話します。復興支援を申し出た優秀なエンジニアを手放さないために休職制度を整えたNECや地方活動を認めるため企業内地方ベンチャー制度を作った電通など、「いい人を手放したくない」というモチベーションが企業を変えた例も上がり、地方と企業の組織の在り方が距離を縮める鍵のひとつにもなりうるという気づきもありました。

松原さん「個人と企業の関係が変化して今は個が強くなっています。個人と法人で比べると法人は変化しにくい立場ですが、個人が求める変化にあわせられないと選ばれない時代が来ている気がします」。

また海外メンバーもいるSMOUTは、「この人と一緒に仕事をしたいから」をモチベーションに、距離の次は時差を超えたいと地道に取り組んでいるそうです。

信岡さんが主宰する「地域共創カレッジ」でも、基礎授業は動画で先に個々人が学び、ディスカッションをオンライン空間にLIVEで集まって行うという反転授業の手法を導入。オンラインチャットツールの動画配信機能などITによって距離や時間の制限を解消し、人を惹きつけるコンテンツをつくるノウハウを蓄積している最中とのこと。質の高いコンテンツを自分時間で選べる時代の人々が求める「その瞬間にしか味わえない体験や付加価値のあるコンテンツ」とはなんなのか。距離を縮めるための地域活性イベントづくりを考えるヒントにもなりそうだ、と盛り上がりました。

地域への物理的な移動時間や心理的距離の原因、人と会いたくなる理由など距離と地域の話を基点に、テクノロジー活用による地域の可能性やこれからの企業組織の在り方まで、ミクロとマクロを往復するかのような形で繰り広げられた「第2回 島の大使館」。雑談であるかのようでいてただの雑談ではない会話に、さまざまな思考の種が潜んでいた気がします。終わる頃には初対面の人が集まるホームパーティを超え、まちの寄り合い感覚すら覚えたなんとも不思議で興味深い3時間でした。

そんな信岡さんの次なる取り組みとして地域を旅する大学「さとのば大学」構想もスタートしています。地域と都市の新しい関係がどんどん育まれる今後の動きが楽しみです。

文 木村 早苗

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