“地域と繋がる”ことを本業とする、おそらく唯一の職業だから。佐賀が県をあげて「地域おこし協力隊」をサポートする理由

“地域と繋がる”ことを本業とする、おそらく唯一の職業だから。佐賀が県をあげて「地域おこし協力隊」をサポートする理由

全国各地で活躍されている「地域おこし協力隊」ですが、最大3年間という任期の途中でリタイアしてしまう人も多く、隊員と地域のために隊員のサポート体制を充実させることが求められています。実際、地域おこし協力隊のマネージャー制度の創設が先日、総務省から発表されました。

そんな中、すでに地域おこし協力隊に手厚いサポートを行っている自治体もあります。その一つが佐賀県。佐賀県の山口祥義知事が総務省出身で地域おこし協力隊の制度に関わっていたこともあり、地域おこし協力隊の活躍にとても期待を寄せられています。

佐賀県は、全国的に有名な有田焼の産地であるなど、豊かな地域資源があります。農産物では玉ねぎ、アスパラガス、レンコン、柑橘類のせとか、すだちなどの生産量で全国2位もしくは3位。海産物では呼子のイカ、佐賀海苔をはじめ、玄界灘と有明海からの豊富な漁獲量があります。

その佐賀県に昨年11月に設立されたのが一般社団法人「佐賀県地域おこし協力隊ネットワーク(通称SCN)」、県内の地域おこし協力隊をサポートするための団体です。

設立の目的は「地域おこし協力隊に関わるすべての人がチームとなり、地域おこし協力隊の受入・育成・定着を進めていくことで、佐賀県全体の地域力を向上させることに寄与すること」。佐賀県内で地域おこし協力隊として活動していたOB&OGがその活動を担っています。

今回は、その創設メンバーである佐々木元康さん、門脇恵さん、橋本高志さんに話をうかがいました。

佐賀が県をあげて地域おこし協力隊をサポートするわけ

SCNが生まれた背景には、佐賀県の地域おこし協力隊に対するサポートの手厚さがあります。佐々木さん、門脇さん、橋本さんは3人とも地域おこし協力隊のOB&OGですが、佐賀県のサポートのおかげで、現役時代にすでに顔見知りだったといいます。

左から門脇恵さん、佐々木元康さん、橋本高志さん

門脇さん「佐賀県は全国に先駆けて県内すべての協力隊を集めた研修会を年に何回もやっていて、私たちもそこで顔見知りになりました。」

佐賀県では、現役の地域おこし協力隊に向けた研修会や交流会を行っており、令和元年度には計5回行っています。

そして、佐賀県では県独自の視察や研修の予算を組み、協力隊員のスキルアップをサポートしています。地域おこし協力隊の予算にはもともと活動予算が含まれているのですが、佐賀県の場合、その予算を使い切ったあとでも独自の予算で視察に行ったり研修会に講師を呼んだりすることができるのです。

佐々木さんも、3年間を総括する活動報告会にゲストを呼ぶ費用にこの予算を活用、門脇さんもこの予算のおかげで充実した活動ができたといいます。

さらに、地域おこし協力隊員専用の相談窓口も設けており、SCNがこの窓口業務を担っています。この開設のときにも佐賀県の協力隊への熱意を感じさせるできごとがあったといいます。

門脇さん「協力隊員の方のための相談窓口を始めようというときに、県から24時間対応にしてくれないかって言われたんです。さすがに24時間は厳しいので断ったんですが、食い下がられて「電話がかかってきたらいつでも対応しますから」と言って許してもらいました(笑)。それくらい協力隊員を支えたいという思いがあるんです。」

佐賀県では地域おこし協力隊が地域づくりの重要なプレイヤーだと認識しているからこそ、直接のサポートも手厚くし、かつSCNのような組織もつくり、万全の体制を整えているのでしょう。

佐々木さん、門脇さん、橋本さんが協力隊卒業後も地域に残り活動を続けることにしたのもサポートがあったからこそ。ただ、初めからそううまくいっていたわけではないようです。

自治体と地域おこし協力隊のミスマッチを防ぎたい

佐々木さんが地域おこし協力隊員になったのは2015年、有田町に赴任しました。佐々木さんは有田町出身なのでUターンですが、生まれ育ったのは合併前の別のまちだったそうです。

 

佐々木さん「ミッションは、空き家の活用推進、移住定住促進、まちの情報発信、内山地区の活性化でした。内山地区は有田焼のまちで伝統的建造物保存地区に指定されています。空き家や移住についても素人ですし、有田町出身でUターンではあるんですが合併前は別のまちだったので、じつはまちのこともよくわからない状態でした。」

業務があまりに多岐にわたり、最初は何をやればいいかわからなかったという佐々木さん。地域おこし協力隊にいろいろな仕事をしてほしい自治体の意向からこのようなケースはよくあるそうで、それが協力隊のなり手がいなかったり、途中でリタイアしてしまう原因にもなりうるといいます。

 

門脇さん「協力隊の募集って、ミッションが複雑になればなるほど難しくなってしまいます。例えば、空き家対策といっても、情報を集める仕事もあればリノベーションをする仕事もある。自治体は両方やりたいとしても、両方やってくれる人を募集するのって、キムチ屋さんとパンケーキ屋さんの両方をやってくれる人を募集しますっていうのと同じ。どっちかだったら世の中にやりたいと手を挙げてくれる人がいると思うんです。でも、キムチとパンケーキという別の方向のものを同時に要求するから、結局誰も手を挙げられない。

私たちの時代は、役場もどのように協力隊と協業したらいいか試行錯誤で、曖昧なミッションが多かったんです。それで途中でリタイアする仲間も見てきました。」

佐々木さんは、どうやってこの難しいミッションに挑戦していったのでしょうか。

佐々木さん「まずはひたすら街歩きをして、自分で見つけた面白いものを写真に撮って毎日発信することを始めたんです。やっているうちに、まちの人がここにも面白いところがあるよというように関わってくれるようになって、それを積み重ねて、だんだんと空き家など、自分のミッションに関わる情報が入ってくるようになりました。」

地域の人の信頼を勝ち取ることで地域に溶け込み、活動がしやすくなる。これは地域おこし協力隊がまちに定着するための有力な道筋だろうと思います。多くの自治体も、このような姿を望んでいるのではないでしょうか。ただ、橋本さんの場合は少し違ったようです。

 

橋本さん「僕は基山町という福岡県に隣接したまちに赴任しました。仕事は、産業振興課で特産品のPRをしたり、ゆるキャラの着ぐるみを着たりしていました。広島球場でダンスしたり。基本的には地元の業者さんの手伝いで、物販について行ったりする仕事でした。

労働力として必要とされているのはわかって、それも協力隊の一つのカタチではあるし、僕自身も都会暮らしも捨てられないけど協力隊もやりたいということで、いわゆる田舎ではない場所を選んだので、納得していました。」

橋本さんの仕事は、自治体の職員として基山町の魅力を外に向けてアピールすること。佐々木さんのように地域に溶け込んで何かするという仕事ではありません。橋本さんの場合、ミッションにミスマッチはありませんでしたが、卒業後には不安があったといいます。佐々木さんのように地域に足場を築けなかった橋本さんは、自分で地域とのつながりや仕事をつくらなければならなかったのです。

橋本さん「卒業後も地域で暮らすなら、その後は自分でどうにかしないといけないと感じました。僕はずっと接客業でホテルにも勤めていたので、基山町で宿をやろうと考えました。そのために、協力隊の任期中から地域のつながりを築いて、空き家を紹介してもらったりしました。それで、協力隊を卒業して半年後にゲストハウスをオープンできました。」

佐々木さんの場合は着任後すぐ、橋本さんの場合は卒業後に活動を続けていくためにかなり苦労を経験したようです。県のサポートはこのような経験を教訓に、これからの協力隊員がスムーズに活動できるようにするものなのです。

協力隊の活動からつながったSCNへの道

佐賀県は、協力隊の活動をサポートするため、OBやOGを起用しようと考えます。そこで声がかかったのが佐々木さんと門脇さんで、ふたりは昨年度の研修の企画とサポートを担うことになりました。

佐々木さん「自分はもともとやっていた協力隊のミッションを引き継ぎつつ、NPO法人を立ち上げて移住定住支援をしているんですが、その中で協力隊も移住定住者だと考えると、佐賀に残りたいと望んでもなかなかできないときに、元協力隊の立場からサポートができるんじゃないかなと考えていました。そこに、協力隊の研修のサポートの仕事の話をいただいて、門脇さんと受けることにしたんです。」

門脇さん「協力隊は一般的な移住者よりも地域と深く関わることができるし、地域と役場の間でつなぎ役になることができる。でも、協力隊の中には続けたいと思いながらリタイアしてしまったり、卒業後に定住したいと思ってもできなかったりした人もいます。自分たちは苦労しながらも地域に残ることができました。私たちが苦労した部分は、経験をいかして改善し、次の人たちにはもっと別のことで苦労したり頑張ったりして欲しいと思っています。」

現役生に自分たちの苦労を伝えることで活動しやすくなるようにと企画した研修で、門脇さんは自治体と隊員とのギャップを埋めることの重要性を再認識したといいます。

門脇さん「研修の企画をして思ったのは、導入部分のギャップを埋めることの重要性です。入り口の部分で間違えてしまうと、協力隊の人も行政も地域も、お互いにこんなはずじゃなかったと思ってしまう。そうならないようにすり合わせをできないかと思うようになりました。」

研修も大切ですが、個々の悩みを聞いたり、そもそもの入り口の部分を整備することの重要性を認識したというのです。そのときに県からSCNの立ち上げの話があり、二つ返事でOKしたそう。

そして、この入り口部分をうまく整備することができれば、隊員たちが活躍し、ネットワークがつくられることで仲間ができ、県全体が盛り上がっていく。それがSCNのミッションとなったのです。

佐々木さん「行政や地域が求めるものと隊員のマッチングをしっかりしさえすれば、それぞれの地域が盛り上がっていきます。だから、私たちがやるのは、そういったまちを一つ一つ増やしていくこと。その中で、協力隊がその盛り上がりのプレイヤーになって、そのプレイヤー同士がSCNを通じてつながって、SCNが地域を盛り上げる旗振り役になっていくことを目指してやっていきたいと思っています。」

門脇さん「地域で協力隊として活動をしていく中で、佐賀全体に意識を向けると、有田町には佐々木さんが、基山町には橋本さんいてくれるのが心強いなと。それが20市町に一人ずついてほしい、欲を言えば2人、3人といてほしい。そんなふうに私自身ももっと仲間がほしいと思ったんです。」

後からSCNに加わった橋本さんも、自分が苦労したからこそ後に続く人たちには同じ苦労を味わってほしくないという思いがありました。

橋本さん「協力隊としての3年の活動を終えて振り返ってみたら、次の隊員も来ているのに、僕の経験が生かされていないなと。これではまちのためにも、次の隊員のためにもならないと感じていたところに、佐々木さんと門脇さんの活動を知って自分も参加したいと思ったんです。」

有田町内山地区の"まちづくり"の拠点、「まちのオフィス・春陽堂」

有田町にて、地域おこし協力隊の採用計画をつくるワークショップの様子

まちづくりはまちの未来のためであり、自分のためでもある

こうして佐賀県は、SCNが県と協力隊をつなぐ役割を担うことで、県内の協力隊とOB・OGが一体となって盛り上がる体制が築かれようとしています。佐々木さん、門脇さん、橋本さんはそれぞれ個人としてどのような未来を求めてこの活動をしているのでしょうか。

佐々木さん「僕はおそらく、子どもにかっこ悪い背中を見せたくないからだと思うんです。自分が考える地域おこしって、この先もずっとここに住む人たちが未来のことを考えること。大人たちが面白いことや悪巧みをやっているのを子どもたちが見て、子どもは入ってくるなって言われるけど、楽しそうでいいなと思って、そうすると子どもたちが大人になったときに地域に残ったり、帰ってくるという選択肢が子どもたちの中にちゃんと残る。そういった状況をつくり続けることができるようにやり続けたいなと思ってます。」

門脇さんと橋本さんは、地元でもない佐賀になぜ残ることに決めたのでしょうか。門脇さんは、外から来たからこそできることがあるといいます。

門脇さん「佐賀の人は佐賀のことがみんな好きだけど、好きって言えない県民性があって、私たちみたいなよそもののほうが佐賀のよさを伝えられるかもしれないなと。前向きにこんな楽しいことがあるよね、佐賀ってこんな面白いことができるよねって投げかけられたらいいなと思っています。

だから、外から来た協力隊には挑戦してもらいたいなと思います。協力隊のメリットは、挑戦できること。しかも、佐賀はブルーオーシャンで何をやるにしてもライバルが少ない、だから挑戦しやすい。それを生かしてもらえたらと思います。」

橋本さんは、一番大事にするべきなのは自分自身で、何でもまちのためにやる必要はないといいます。

橋本さん「僕は、自分のことを大切にしてほしいと思ってます。それが佐賀のためになろうがならなかろうが、その人にとっていい3年間が送れることが大事だと思うし、そのためだったら何をしてもいい。3年後に佐賀からいなくなったとしても、あなたのためになるなら心から応援するよって思いますね。」

地域おこしというと、どうしても地域に身を捧げるようなイメージもありますが、まず自分のために行動し、それが地域のためにならなければ長続きはしません。

これは、入り口のミスマッチの話とも通じる、外から来た人と地域との齟齬により生じるもので、そのような事態に陥らないためには、地域おこし協力隊員それぞれが、自分ごととしてやりたいことをサポートすることが何よりも重要なのかもしれません。

最後に、SCNの活動をサポートする県庁職員の平塚久紗子さんにも話を聞きました。

平塚さん「そもそも佐賀に足を踏み入れてくれたことにも、佐賀を好きになって盛り上げてくれていることにも感謝しかありません。私はこの方たちとどうしても仕事がしたいと思って、念願かなって今一緒に仕事ができているので、自分ができることをできる限りやりたいです。山口知事も協力隊が大好きで、協力隊のみんなと何かやりたいとずっと言われているんです。今後も県と協力隊が一緒にできるように頑張りたいと思います。」

 

佐賀県とSCNは、これまでの経験からそうした個々のやりたいことを大切にサポートをする大切さに気づき、未来を見据えたサポート体制をつくっているのです。佐賀県の取り組みとこれからの成果は、全国の地域おこし協力隊制度を考える上でも大いに参考になるのではないでしょうか。

 

ちなみに現在は、SCNが導入支援をし、一緒に企画を練った2件の地域おこし協力隊の募集があります。嬉野市の「空き家×ネットラジオ」と神埼市の「高取山公園コーディネーター」、どちらも魅力的な企画です。地域おこし協力隊になることを考えているなら、サポート体制が充実している佐賀県での着任を検討してみてはいかがでしょうか?

嬉野市のプロジェクト >>

神埼市のプロジェクト >>

※この記事は、佐賀県のご協力により制作しています。

文 石村研二
写真 野田尚之

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