地震や台風に加え、火山噴火、豪雨、大雪……。私たちは日々、さまざまな自然災害にさらされているともいえます。いつ起きるかわからない災害に対策を講じておくことは、自治体の大きな業務のひとつです。
移住者や関係人口との接点を担う地域の移住担当者は、防災に対してどんなサポートができるのか、どんな支援のかたちがあるのか。移住スカウトサービスSMOUTの登録地域ユーザーで構成される「どすこい!地域部屋」の「公開ぶつかり稽古」として、Clubhouseイベントとして話してみることに。
SMOUTカスタマーサクセスの高垣陽子、秋吉直樹、加藤朝彦、吉野里実、SMOUT移住研究所編集長の増村江利子に加え、視聴いただいたみなさんの中から愛媛県松山市「えひめ暮らしネットワーク」で移住相談員をされている本多正彦さん(愛媛県伊予市双海町在住)と、宮崎県宮崎市で移住コンシェルジュをされている黒木麻莉恵さんにも参加いただきました。
いざというときに助け合う、地域コミュニティの重要性
高垣(神奈川県鎌倉市在住):「どすこい!地域部屋」を運営しているスタッフの会議で、各地でまた大きな地震が増えているけど、私たちができること、サポートできることは何か、どんな支援のかたちがあるのかなという話が挙がったんですよね。
秋吉(香川県高松市在住):ひとくちに防災といっても、取り組みは地域によって全然違うと思うんですね。そのあたりをみんなで共有できたら、移住や関係人口づくりのヒントにもなるのではと思っています。
高垣:神奈川県鎌倉市に移住をする前は、津波が心配だったんです。親に、ハザードマップはもちろん、いろいろと調べろと言われて。移住をして思うのは、鎌倉の人は、何か起きた時にどう対処したらいいのか、日頃から話している気がします。
吉野(神奈川県鎌倉市在住):東日本大震災がきっかけかもしれないですね。子どもが入園するタイミングだったんですが、入園してすぐに、「大きな地震があっても幼稚園に絶対に迎えに来ないでください」って言われたんです。誰かのお母さんがきちゃうと、自分のお母さんがきてくれるのを子どもが待って、周りに影響を及ぼして逃げ遅れてしまうからと。海の近くに住んでいるんだなと痛感しましたね。
高垣:子どもたちは日頃から、避難訓練をするんですよね。
吉野:子どもが通っていた幼稚園は、避難経路がしっかりと考えられていました。保護者も試しにその経路を歩いたし、市が指定する場所まで子どもの足ではたどり着けないからと、幼稚園のすぐ近くの4階建ての銀行に園長先生が話をつけてくれて、そこまで子どもたちを連れて何分で4階まで登れるか、毎年訓練していました。
加藤(北海道喜茂別町在住):震災後、すぐに対策を練って行動に起こせるってすごいですね。
高垣:学校はもちろん、鎌倉市ではNPO法人や第三セクターが津波対策の活動をしていますよね。意識を持っておくことって非常に大事だなと思っていて。以前は川崎市に住んでいたんですけど、全く意識していなかったんですね。鎌倉市に移住をしたことで、意識レベルがアジャストされてきた感じがします。
加藤:それはありますね。僕のいるところは海がなくて地盤がしっかりしているので、道内で大きな地震があっても、あまり揺れなかったんです。もちろん自治体は対策をしていますが、そこまで強く日々意識はしていなくて。どこに住んでいるかによって意識は変わりそうですね。
高垣:そうですよね。秋吉さんはどうですか?
秋吉(香川県高松市在住):5年前くらいに神奈川県小田原市から香川県高松市に移住しましたけど、防災情報とか、それまでは気にしたこともなくて。実際に住んでみると、香川県って災害が少ないんだなと気づきました。小田原は海岸沿いのまちですが、ハザードマップを見るのも後回しになっていましたね。
高垣:ハザードマップが見にくいという問題もあるかもしれない。
秋吉:生まれ育ったまちだと、そこにいるのが当たり前すぎて。地域を移動しようかなって思った時が、防災に関する感度が上がるポイントなのかもしれませんね。実際に普段、移住相談を受けている愛媛の本多さんは、いかがですか?
本多さん(愛媛県伊予市在住):移住相談においては、防災的な観点を最重要項目に挙げている人はそんなにいなくて。東日本大震災のあと、3〜5年くらいは、首都圏から西日本へ移住する人が多かったと思うんです。実際に、放射能の影響から逃れたいという相談も多かったです。今年は新型コロナウイルス感染症が拡大しているので、また都市部から逃れたいという相談がすごく増えています。
例えば、伊予市双海町は、伊方(いかた)原発から40kmくらいで、町内でも西側は30km圏内に入っているんですが、きれいな海や自然豊かな写真を見ると、住みたいと言うんですね。でも話を聞くと、放射能の影響がある東京から逃れたいと。東京は福島原発から200kmも離れているのに。
秋吉:感度の高い人でも、具体的な数字感覚が備わっている人と、漠然とした恐怖や不安と対峙している人と、いろいろいそうですね。
本多さん:原発が近くにあっても、「なんちゃ、そんな時はそんな時よ」くらいの感覚なんですよね、多くのじいちゃん、ばあちゃんたちは。そもそも愛媛は災害が少ない地域かもしれません。2年前に西日本豪雨があった時に、このまちでも災害は受けるんやって感じでしたからね。それくらい実感がないところなので、余計なのかもしれないですね。
高垣:宮崎はどうですか?麻莉恵さん。
麻莉恵さん(宮崎県宮崎市在住):宮崎市は洪水ハザードマップがこの間刷新されたばかりなんです。それをfacebookで発信したら、すぐにハザードマップを送ってくださいとメッセージをいただきました。エリアごとに6冊あるんですけど。
秋吉:それって地域の人ではなく、地域外の人?
麻莉恵さん:地域外の人です。移住したいという人からお問い合わせがあって、意識がすごく高いんだなと感じていました。
高垣:どんな冊子に変わったんですか?
麻莉恵さん:津波のハザードマップは平成25年から変わっていないんですが、洪水ハザードマップは川の状況によって更新されます。サーフィンのために移住をする人も多いのですが、そうすると海の近くのちょっと高台をおすすめしたり。移住者さん同士で、ここは危ないよとか、情報交換をしている感じがありますね。
高垣:そういったコミュニケーションが生まれる関係性は素晴らしいですね。
麻莉恵さん:サーファー同士で、自然とつながっている感じです。
秋吉:北海道はどうですか?
加藤:雪害が多いので、雪で動けなくなったときにどうしたらいいのかとか、寒い冬に震災があってライフラインが止まったときにどうするのか、防災対策は必要ですね。移住のときには考えていなくても、移住後にしっかりと考えておくことが大事なのかなと思いますね。
高垣:移住後に地域のコミュニティに入れるか、情報共有ができる関係性にあるか。どのようにして防災情報にアクセスすればいいのかってありますよね。
加藤:スーパーの食料が尽きても、周囲の農家さんが野菜をつくってるし、湧水もあるし、命の危険っていう意味では、東日本大震災のときに東京にいたんですが、そのときのほうが怖かったですね。
高垣:コンビニの陳列棚が空っぽになっていたのは、怖かったですね。
吉野:私の祖父も同じようなことを言ってました。8年くらい前に東京で大雪があったと思うんですけど、山梨が陸の孤島になっちゃって。スーパーはものがないけど、自分はお米も野菜も漬物もあるからとりあえず大丈夫、なければ隣の家に行けばあると。むしろ都会は大丈夫なのかと心配されて。地域と都会は生きる力が違うとすごく思いました。
高垣:去年、宮崎県椎葉村に1週間滞在していたんですけど、椎葉村って土砂崩れが起きたらすぐにライフラインが止まってしまうような場所で。ライフラインが1ヶ月くらい止まったとしても、自分たちで生きていける状態を常につくっているから別に大丈夫だと話されていました。食料も水もあるし、住民同士のコミュニケーションが密だから、お互いに助け合える。
加藤:逆にそのコミュニティに入れていなかったら厳しいですよね。
本多さん:そのコミュニティが、めちゃめちゃ大事だと思うんです。2年前の西日本豪雨のときに、僕の住んでいる地域も半孤立状態になったんですが、そういう中で、集落の人が集会所に集まって、災害時の声がけマップをみんなでつくったんですね。住宅地図を大きくコピーして、どの家は今何人住んでいて、名前も全部書き出して、子どもは色分けして。もちろんみんな知っていますけどね、要介助者とか、足の悪い人も含めて、地図で「見える化」して公民館に貼ってあるんです。プライバシーはゼロですけど、その家の子どもさんは卒業してまちに出ておるから、今は何人しかおらんのよとか。そういう確認と、移住してきた人はその輪に入ったことで、心強い部分があっただろうなと。そういうコミュニティに入れている、入れていないの差は大きいと思います。
高垣:移住サポートの一環として、ニーズはありそうですね。
吉野:自治体にもよると思いますけど、子どもがいると、年に一度、小学校で避難訓練をするんです。大きな地図を貼って、「何年何組の誰です、(家の場所を指差して)家にはお姉ちゃんとおじいちゃんと一緒に住んでいます」と子どもが言えるようにする。学校はここで、家はここで、津波避難ビルはここだから、ここまで帰ってきていたらこのビルに逃げるのがいいけど、ここまで行っていないんだったら学校に戻ったほうがいいとか。そうするとお互いに顔も覚えるし、子どももどこに逃げればいいのかと認識する。
高垣:そういうアプリがあったらいいなあ。子どもだとそういう機会はありそうですけど、大人もそういう教育をされたいですね。
加藤:防災っていう切り口で関係人口づくりやコミュニティづくりって、いいですよね。
秋吉:確かに。その切り口はコミュニティをつくりやすいのか。
防災、減災は、自治体の最重要タスクでもある
増村(長野県諏訪郡在住):自治体の単位と、災害時における単位って、微妙に異なる気がしますね。公民館や学校が指定避難場所になると思うんですけど、その場所で何が起きた時は、避難場所はここだけど、むしろここへ避難するのがいいとか、もっと細かなシミュレーションも必要ですよね。
麻莉恵さん:宮崎市は地区や避難場所が多岐に渡っているので、相談があったらその都度調べてお伝えしています。
加藤:万が一のときにどこに問い合わせをして、どこに情報があるのかがわからないっていうのはありますね。
高垣:ありますね。自治体ごとに違うんですよね。本当に大事な情報なのに、Webサイトの奥深くにあるがゆえに、いざというときって焦っているから情報に辿り着けないかもしれない。
増村:自治体で防災課、減災課っていう部署がつくられているまちって多いですよね。よくよく考えてみたら、自治体の一番大きな仕事のような気もするんですよね。
一同:うんうん。
高垣:いやー、ほんとそうですね。
秋吉:移住者向けに、こんな移住者のコミュニティがありますとうたっている自治体もいますけど、そのコミュニティの一番大事な機能って、いざというときにどうするかなんじゃないかという気がしました。多拠点生活プラットフォームのインターンをしている宮嶋さんにも聞きたいなと。
宮嶋(東京都杉並区在住):東京都江東区って、洪水が起きたら1ヶ月くらい水に浸かってしまうと聞いたことがあるんですが、川をベースに自治体が連携して防災計画をつくっているのかなと思いました。流域や広域で結んでいたりしますよね。
秋吉:流域という考え方は、人間の生態系としても自然ですね。あと、全国どこにいても災害は起きうるという中で、対応策として移動するという選択肢として多拠点生活をしている人もいるんでしょうか。
宮嶋:いるかもしれませんね。アドレスホッパー、車中泊をする人たちの中には、自分の持ちものを減らして、場所を固定するリスクを取らないようにしている人も一定数はいるだろうなと。もともとアメリカでアドレスホッパーの文化が始まった背景にはリーマンショックやハリケーンがあります。これは専修大の教授が言っていたんですけど、企業が、万が一の災害が起きたときにどう生産ラインを保つか、そのためにワーケーションをしておこうって考え方もあるみたいで。
高垣:製造業の工場が地域に分散化されているのもそれが根本にはありますよね。人ベースでワーケーションを推進するという考えは面白いですね。
秋吉:ミニマリストってキーワードが出ましたけど、実際にミニマリストの増村さんはどうですか?
増村:リーマンショック、ハリケーンといった、身を揺るがすような災害が起きると、持ち物を少なく、移動できるようにして、自分の安全を確保する、みたいなところが人間の本能なんだと思うんですよね。おそらく今、多くの人はものを持ちすぎている。
今の日本で起きている多拠点生活の文脈は、仕事をどうつくるか、地域での複業をつくるという部分も大きいとも思いますが、リスクを減らすという観点で捉えることもできますね。
移住とは、防災でありレジリエンスである
秋吉:まとめを試みると、どんな場所にいても災害は起きうる。じゃあどう災害に向き合うのかというなかで、前半に出ていたのはコミュニティとか共同体で、災害が起きても助け合える共同体を持っておくという考え方。それが地域単位であり、流域単位かもしれないし、会社単位かもしれないって話ですね。
もう一つは固定のリスクを減らすというか。災害が起きたときにすぐに移動できるようにしておくとか、起きにくい場所、巻き込まれにくい場所にそもそも移動しちゃうとか。そういう回避のしかたがあるかもしれないという話ですね。
増村:最近、「レジリエンス」っていう言葉をよく見かけませんか?防災においては、レジリエンスという考え方がすごく大切だなと思っていて。レジリエンスという言葉をもう一度調べてみたら、6つの要素があって、1つは自分の軸。2つめにしなやかな思考。3つめに対応力。4つめに人とのつながり。5つめはセルフコントロール。6つめがライフスタイルなんですって。
高垣:本当に必要な要素ですね。
増村:この6つの要素って、防災に限らず、地域間をまたがって活動するとか、これから地域と関係を持つとか、いろんな場面で、今の自分がいる居場所をちょっと飛び越えて何か活動をしようとするときに必要になるんじゃないかなと思っていて。
高垣:すごくいいなこれ。
秋吉:面白い。
高垣:今画像みているんですけど、わかりやすいですね。今、在宅勤務のストレス対応としてレジリエンスに注目が集まっていると言いますよね。これ、移住にめちゃめちゃ大事なんじゃないでしょうか。
秋吉:本多さんや麻莉恵さん、地域という現場で、日々移住相談を受けているおふたりはどんな感想を持ちましたか?
麻莉恵さん:来年度は防災を切り口にコミュニティづくりとか、地域に入りにくい人や入りたくない人も、防災をきっかけにつながりを持つ機会をつくっていければいいなと。レジリエンスの6つのバランスのいい人たちは、充実して自分の送りたいライフスタイルが送れているんじゃないかと思いました。
本多さん:誰もが関心を寄せてくれるのって、防災と健康やと思うんですよ。防災は置いていきがちなテーマだと思うんですけど、そもそも生き物である以上、生きるというのが一番の命題で、そう考えると防災って最重要項目になるのかなって思えたり。僕は移住者を地域のコミュニティとつなぐことばかりやっているんですけどね。俯瞰的に考えるいい機会になりました。
秋吉:面白い発見だったし、実は原点というか。すごく大事な要素だったなと思いましたね。
吉野:流域思考をみてて、自治体って人間が勝手に決めた単位というか区切りだけど、本当はこういう単位で見ていかないとだめなんだなって、新しい切り口で面白かったです。
加藤:移住者といっても、地域と関わりたい人もいれば関わりたくない人もいるって話がありましたが、関わりたくない人たちも含めて、どういう情報を、どういうかたちで届けてあげるのか。防災は地域へと関わらざるをえないテーマなのかなと思いました。
秋吉:今後もいろんなテーマで「公開ぶつかり稽古」をやっていきたいと思いますので、こういうことが話したいというトピックスなど、いただければと思います!ありがとうございました。
文 SMOUT移住研究所 編集部