人、場、仕組み……。面白法人カヤック ちいき資本主義事業部 事業部長・中島みきに聞く、「関係人口」づくりに必要なこと

人、場、仕組み……。面白法人カヤック ちいき資本主義事業部 事業部長・中島みきに聞く、「関係人口」づくりに必要なこと

この3月、国土交通省による「地域との関わりについてのアンケート」の結果が発表されました。生活圏や通勤圏ではない地域に、観光や帰省以外で定期的に訪れる層を示す「関係人口」。これまで明確な類型化はされてきませんでしたが、今回の調査により動機や行動内容などさまざまなデータが明らかになったのです。

その詳細は過去の記事(全国の「関係人口」は、1,800万人超!国交省「地域との関わりについてのアンケート」調査結果から見えること)や国土交通省のWebサイトを参照いただくとして、本記事では、データ内で注目すべき点や関係人口を増やす上で必要なこと、可能性などについて、株式会社カヤックちいき資本主義事業部事業部長の中島みきに聞きました。

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中島みき
大阪市生まれ。長野・千葉・東京など様々な地域で暮らす。広告代理店を経て、2006年オーバーチュア株式会社、2008年よりヤフー株式会社に入社。
2013年より同社営業推進本部長、2018年4月よりPayPay株式会社の立ち上げに参画、「100億円あげちゃうキャンペーン」を企画運営。2019年7月カヤックLiving 代表取締役。現在、面白法人カヤック ちいき資本主義事業部 事業部長として、移住スカウトサービス「SMOUT」、使えば使うほど仲良くなるお金「まちのコイン」を運営。現在、鎌倉市と熱海市と都内の3拠点生活を開始。

調査データが明らかにした「関係人口」の実態

SMOUT移住研究所では、これまでにも「『関係人口』の先にあるのは、にぎやかな過疎がつくる都市農村共生社会。明治大学・小田切徳美先生に聞く、関係人口と未来の地域のありかた」や「必要なのは『観光』案内所ではなく、『関係』案内所。ソトコト編集長・指出一正さんに聞く「関係人口」のゆくえ」で言葉の定義や地域における価値など、関係人口に関する情報を取り上げてきました。こうした記事で語られた関係人口の傾向や影響の内容が、数値や回答で具体的に示されたのが今回の調査結果です。お話を伺った中島さんは、2020年から約10カ月間、関係人口と地域の関係を考えてきた「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会」の一員として、結果の総合分析も行っています。

中島「“関係人口”は、言葉も存在も国主導でありながら住民票ベースの“移住”と較べると曖昧な位置づけですし、このこと自体は非常にすばらしいことなんです。帳票のあるなしが定義に影響されないというのは、生活者が信頼され、行動を委ねられているからですしね。そんな定義の存在自体が今っぽくていいなと。ただ、数を増やそうと考えるとその曖昧さを明確にすることも必要です。ですから、今回の調査は関係人口の動向や傾向を数値で表したという意味で価値があったと言えます。」

確かに「全国の18歳以上の居住者(約10,615万人)のうち、約2割弱(約1,827万人:推計値)が特定の地域を訪問」という結果は、関係人口がかなりの存在感を持っていると実感させられます。

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(出典)「地域との関わりについてのアンケート」(国土交通省、令和元年9月実施)(三大都市圏の関係人口、人数ベース)回答者総数:28,466人

中島「関係人口がどんな人々であり、どんな関わり方をしているのかも具体的になりました。関係人口の定義だと地縁血縁関係を含めていないので、この約2割弱は純粋に地域で新しい関係をつくろうと動いている層と言えます。また、訪問系*の関係人口には、直接寄与型や現地勤務型、イベント参加・交流型、テレワークなどの就労型、サーフィンやキャンプのような趣味型などが分類できることがわかったのです。」

中でも地域との関係が強い直接寄与型については、地域での詳しい過ごし方も調査されました。上位は“地域のまちおこし等のプロジェクトの企画・運営又は協力・支援”や“地域でのボランティアや共助活動への参加”、そして地域イベントへの参加や交流活動、趣味・消費活動など。地域への思いと自身の興味を満たしながら積極的に関わりを持っているのです。

一方、関係人口によくも悪くも影響を与えたのが2020年以降の新型コロナウイルス問題です。従来のような地域プロモーションや地域おこし協力隊募集が難しくなり、担当者の頭を悩ませることとなりました。

中島「ですが、コロナ禍の中で訪問型だけではない地域との関わり方、調査内ではオンライン関係人口と呼んでいますが、その動きが顕在化したことは大きな発見でした。ふるさと納税やクラウドファンディングなどでの商品購入、寄付も含め、オンラインによって新たな関係が始まり、『行けないからこそ』オンラインで繋がり続ける関係性が生まれました。重要なポイントは、オンラインが移動の代わりではなくコミュニケーションとして確立され、新たな関係人口の増加に繋がったという点です。」

新たな関係人口の動向の発見という意味では、関係人口と移住の関係や地域内関係人口など、これまでになかった要素に基づく調査が挙げられます。

中島「関係人口と移住の関係は、私自身、これこそが次に繋がるデータなのではと思っています。関係人口のゴールは移住ではないので、これまではそこにどんな相関関係があるのかわかりませんでした。ですが今回、関係人口の訪問回数が多い地域ほど三大都市圏からの転入も多いという結果が出たのです。その傾向が自治体名とともに公開されたので、次をめざす地域の方々は参考にしやすくなったと思います。地域や規模、都心からの距離などで判断できますから。」

11-1(出典)「地域との関わりについてのアンケート」(国土交通省、令和2年9月実施)、訪問地域数ベース 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告(H24~H31)」

転入超過回数が高い地域は観光地も目立つものの、訪問系の人口数と転入超過回数が高い位置で重なる地域には、SMOUTでもおなじみの自治体があがっています。中と外の人が関わりやすい場づくりをされてきた結果が、転入超過回数に反映されているのではないか、とのこと。

中島「地域に欠かせないことには税収アップがあるので住民税は無視できない部分ですよね。今回の調査では、移住も大事ですが、同じように関係人口を伸ばすことも持続可能な地域社会をつくる上で重要だと再確認できました。」

また、懇談会で出たという指出さんのお話を元に、自治体や国、地域のための定義と捉えられがちな関係人口が、実はより良い生き方や暮らしをつくる基礎になっていると語る中島さん。

中島「関係人口には『よりよく生きるための方法、地域のためだけでなく人の人生が豊かになる方法』という考え方が前提にある。だからこそ周りの人に薦めたいし、そう考えることが地域や住む人、自然や社会にいいことに繋がっていくと仰っていました。地方創生の文脈は人口減少や税金の問題が先に来がちですが、人にいいものでないと続きません。さまざまな事例が、人としてよい生き方や人生を送る一つの方法だと確認できたのは、私にとっても重要なことでした。」

ちなみに、この兆候は以前からのものか、ここ数年の社会変化の影響を受けた時代的なものかという質問をしてみたところ、「今だからなのかも」という回答が。つまり、生き方や暮らし方の多様性に人々が気づき始め、コロナウイルスという影響がその行動に拍車をかけた結果が、行動として今回の結果に反映されたということなのでしょう。

調査結果から考える「関係人口」

次は、中島さんの注目点を軸に、関係人口の影響や新たな可能性について聞いてみました。まずは「関係人口」という言葉の定義と浸透度について。小田切先生が解説されていた「移住の階段」や「風の人」などの定義が、一般の人々の暮らしや動きと繋がって数値化されたと言えるのではないでしょうか。

中島「関係人口という言葉自体は、一般の方々にはまだまだ遠いものだと思います。ただ、言葉は使っていないけど関係人口とされる生き方や暮らし方をしている人はSNS界隈でもかなり見られるようになってきました。リモートワークやテレワーク、ワーケーションはそうですし、メディアでも二拠点居住や多拠点居住として取り上げられることも増えましたよね。ただ、そこで誰も「関係人口」と言っていないのが現実かなと。」

では、関係人口として意識的に活動する人と、自然と関係人口的な行動をしていた人。そもそも曖昧な存在だった関係人口を類型化できるようになった今、積極的に増加させていこうとする側としては、どちらが増えていく状況がよいのでしょうか。

中島「関係人口という言葉は、人口という言葉の定義であって状態は示していないので、具体的な話をする時に少し使いにくい部分もありそうです。例えば、いろんな地域に友達をたくさん増やしたい、いろんな地域で働けるようにしたい、とは言うけれど、それは『関係人口になりたい』という意味とは少し違います。移住は移り住む状態なので『移住したい』と言うけど『関係人口になりたい』とは言わない、その違いでしょう。なので、私は今後は言葉より動き方や暮らし方を増やす方向性になるんじゃないかと思います。」

関係人口は、行動する人が増えることで都市部と地域双方に可能性を開く存在です。都市部の人々には、場所を変えることで生き方の多様性や人生への気づき、コミュニケーション量を増やす中で日常を捉え直す機会をつくり、彩りや幅広さを与える機会を広げる機会となります。一方、地域の人々には、都市の人々との関わりから得る新たな気づきや移住や関係人口による税収増、地元の魅力を感じる機会を生みます。この理想的な関係性をつくり出すために、受け入れ側は改めてどのような意識を持ち、どんな形で活動することが必要なのでしょう。

中島関係人口が移住と大きく違うのは、地域側がすべきことの幅広さとゴール設定です。移住のゴールは住民票の移動なので『招くために努力する』し結果も簡潔ですが、関係人口はゴールがひとつではない分、どこまで、何をしたらいいかがわかりにくいものです。また、移住だと『お客様と迎える側』の関係になっていても成立しますが、関係人口はその関係性だと続けるのが辛くなります。だからこそ、いかに持続可能な仕組みづくりをするか考えることが大事なのです。

まず重要なのは、地域側の人たちが関係人口や近い体験をしたことがあるかどうかだと思います。例えば、都市部から来た関係人口が移住後に関係案内人をされている地域もありますが、そんな方のように、都市からこの場所に来てくれたらいいなと自らが思えるか。関係人口を増やす行動に繋がるのは、自分がやってよかったことを他の人にもお裾分けするという気持ちです。ちなみにカヤックがある鎌倉には移住者や関係人口が多いんですが、そんな考えの人が多いからじゃないかなと。みんな、鎌倉においでよってすぐ誘うんですよね。」

中島さんも熱海、そしてもう一つの拠点として鎌倉への移住組。自分たちの住むまちが大好きで、まちに関わる人を増やしたらもっと面白くなりそうだから、自分が楽しいからと誘う、そんなふうに面白いと思っている人に呼ばれると、来た人もやっぱり面白く感じる。その一連の流れを実際に経験しているだけに、言葉にも納得させる力があります。だからこそ、逆に自分がそう思えていないと相手には響かない。そのことがわかっている場所ほど、関係人口づくりがうまくいっていると言えそうです。

中島転入超過回数が増えている地域は、そういう取り組みを続けている地域なのでは。誰かのためだけでなく自分のためにもやる。そんな行動が今後は求められると思います」。

12-1(出典)「地域との関わりについてのアンケート」(国土交通省、令和2年9月実施)、訪問地域数ベース 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告(H24~H31)」

未来の関係人口づくりに必要なステップ

関係人口を増やしたいと考える地域の中には、これまでの認識や行動を変えたり、広げたりする必要の生まれる場合もあるでしょう。受け入れ側としては具体的に、まずどんなことに取り組むべきなのでしょうか。

中島「住む人の日常の意識です。みんなが住むまちやコミュニティ、住む人同士の関係性、自然や環境面、歴史などに興味を持って積極的に関与することがすごく大事です。最も大きな問題は、住民税を払っている人がその土地に無関心であること。そういうまちの人ほど「うちには何もない」と仰ると聞きますが、住む人が楽しそうじゃないまちにわざわざ行こうとは思わないですよね。ただ住むのではなく、自分たちのことに関心を持つこと。そうすれば自分たちを大事にしますし、自分たちを大事にすると周りも大事にできるようになります。関係人口を集めるまちの人は、自分の住むまちが大好きです。『ここが最高』と胸を張れるのも、外の人を誘えるのも、それだけ関心を持って関わっているから。物件や土地の価値、都市部までの距離といった従来の尺度ではなく地域の魅力を表せるよう、自分たちのまちを見直す機会を持つこと。それが最初のステップだと思います。」

近年、中学や高校では地域学習の時間も増えています。子どもたちの方がより積極的に地域に入り込んだり、その魅力を敏感に発見していたりする可能性もあるでしょう。大人が若い世代から教えられる機会もあるかもしれません。

調査で初めて記載された「地域内関係人口」は、このステップに取り組む上でも重要なデータとなりそうです。地域内関係人口とは、都市の雇用圏内から各都市の雇用圏内を動く関係人口のこと。都市部と近郊地域をブロック化し、その人の動きから関係性を測ったものです。実際には、東京、大阪、名古屋の三大都市圏の大都市雇用圏ほど関係人口(訪問系)における地域内関係人口の比率が高く、それ以外の大都市雇用圏や小都市雇用圏では自らの都市雇用圏以外への関わりが高いなどの結果が出ています。

中島「これまで関係人口は都市と地域という関係性で考えてこられましたが、地域内関係人口にこそその基礎があると感じました。うまく進められている地域とはどういう場所かという検証の中から発見されてきた要素だけに、都市部周辺の関係人口は、自分の住む地域や住む人に興味を持ち無関心から脱却するために必要な視点だと感じました。」

住む地域への関心を高めた後は、その想いを外に伝えていくことが必要です。その段階での注意点も伺いました。

中島「問題になるのが、大きな役割を務める中間支援組織や仲介の方に負担がかかって起こる『交流疲れ』です。委員会でも議題に上がっていたのですが、今後はつながりを生む存在や組織の育成と多様化が各地域で必要かなと。山村地域など自然との関わりが強い地域だと季節で活動が制限されたり、子育てなどで時間が取れなかったりする方もおられます。ですから、さまざまな属性の方が所属して作業分担できるチームづくりができれば、一つのまちでもAさんとBさんでは教えてもらえる魅力が違うといった豊かさにも繋がりますよね。最初に人との出会いがあり、その後で地域を知るのは移住のプロセスと同じです。その土地でどれだけさまざまな人と出会えるか、どれだけいろいろな面を用意しておけるかなんです。」

「あの地域と言えば○○さん」という特別な存在から、多様な強みを持つ中間支援の仲間を増やして拡大させていくこと。そして、集まることで彼らが新しい力を発揮できる仕組みを考えていくことは、直近の重要な課題になりそうです。

行政担当者にしかできないこととオンラインの可能性

今後の活動に必要なことを見直していくと、行政担当者にしかできない役割も見えてきます。例えば、中間支援者のバックアップや場づくり、各種資源の調達など、行政でしかできない業務はたくさんあると言えます。

中島改めて、自治体担当者の役割の再定義が必要だと思います。自治体の方が中間支援組織的な役割を担われる場合もありますが、3年区切りの異動や他業務との兼務もあって非常に苦労されている印象があります。移住促進だけでも大変なのに、関係人口の対応まで受け持たれるとさらに大変です。何にどう資金を使うかという方針を決め、どんな人を集めてどれだけの費用でどんな物をつくりたいか考える。方向性やお金の使い道を決めることは自治体の方にしかできませんから、うまく分担できるといいなといつも思っています。」

SMOUTを使われている自治体の中には、地域おこし協力隊の方にその窓口を任せている所もあるそうです。その他に、担当者が企画を考えて民間企業とチームを組む所もあれば、民間の企業が行う活動と共存する所もあり、分担やチーム編成の考え方はさまざまです。どちらにしても、結果を出している自治体では適切な役割分担が行われています。今一度、それぞれの役割を見直してみるのもいいかもしれません。

中島「やりたいけど手一杯で、できる人がうちにはいなくて……というお悩みはよく聞きますので、実際にその段階で止まっている自治体さんも多い気もしますね。ただ、チームづくりはすぐにはできるものではなく何年かかけて行うものです。体制づくりの際や民間企業に依頼される場合は、そうした認識で進めていただきつつ、私たちや既に実践されている方へのヒアリングなどをおすすめしたいです。」

またチーム編成にも関わる要素として考えられるのが、Webやオンラインの活用です。地域からの発信や交流において欠かせないものとなり、コロナ禍で現れたオンライン関係人口は新しい層として認識されています。こうした動きも含め、関係人口におけるオンラインの可能性を中島さんはどう見ているのでしょう。

中島「オンラインと関係人口における可能性といえば、宮城県気仙沼市岩手県花巻市の事例でしょうか。まず気仙沼市では、市の移住・定住センターMINATOでワーケーション実験を行った際、東日本大震災の復興ボランティアを通じて『気仙沼が大好きになったけど仕事がなくて移住に至らなかった』関係人口の方が実験にいち早く参加してくださったそうです。長年オンラインで繋がり続けていた方だけに、お客様ではなく本音での意見をいただくことができそうです。花巻市は、オンラインで行った地域おこし協力隊募集の事例です。コロナ禍で物理的に動けない状況を逆に活用し、オンラインを協力隊募集の0年目と定義して、地元の方とゆっくりと知り合っていく場にされていたんです。この2つにはオンラインならではの可能性を感じさせてもらえましたね。」

興味深い結果や見出せた可能性も多い一方で、今後の関係人口の活動については思案していることもあるのだとか。

中島「2021年度の地方創生テレワーク交付金事業が始まるので、この1年の間に各地域でテレワーク施設がたくさんできることが予想されます。せっかく参考になる結果や知見がここまで蓄積されてきたわけですから、関係人口に関わってこられた方々が新たな事業にも知見を発揮していただける状況になればいいなと。もちろん、私たちも連続性を持って関わっていかなければと思っています。」

施設も関係人口と同じで、まずは地域の人が率先して使う場にすること。ヨソモノだけの施設にしてしまうと、その人たちが来ないと閉め続けることになり、結果的にただの空間になってしまうのです。自分たちが関心を持って施設を使えば空間が動き始め、都市の人々もそこで生まれた心地よさに惹かれていくはず。事業費を無駄なものにしないためには、関係人口の基本を見直すことが大切です。

大規模調査の結果から考える関係人口の状況と受け入れ側の動き方、そして新たな層をつかまえていくために必要なこと。コロナ禍という状況を乗り越えて積極的に活動していくためにも、過去の記事とともに参考にしてみてください。

文 木村早苗

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