人口3,000人のまち、山口県阿武町。若者が次々と移住する理由とは?

人口3,000人のまち、山口県阿武町。若者が次々と移住する理由とは?

山陰地方の豊かな森里海に抱かれた阿武町。はるか大昔の火山活動でできた起伏に富んだ大地は、大きな開発をうけることなく今に至り、漁業や農業、畜産業などの一次産業が長年営まれてきました。しかし、高度経済成長期に都市部への人口集中が進むと、まちの人口は減少の一途をたどり、現在は3,000人台をかろうじてキープしている状態です。しかし、一方で阿武町には毎年10人ほどの移住者があり、その多くが若者世代だといいます。そんな若者に選ばれるまち、阿武町が地方再生の切り札としてつくった施設が今年3月12日にオープンした「ABUキャンプフィールド」です。

キャンプ場ABUキャンプフィールド(提供写真)

2022_0423_192道の駅阿武町

アウトドアメーカー、スノーピーク地方創生コンサルティングが監修したABUキャンプフィールドは、フレッシュな地元産品を多数販売する道の駅に隣接し、漁港や集落にも近い立地。「おうちの中に入る前にちょっと腰掛けてゆっくりできる場所」として、「まちの縁側」としての機能を持つそう。その詳細は、こちら(「食」という圧倒的な地域資源を軸に。山口県阿武町にオープンした「ABUキャンプフィールド」にみる地方創生)に書いた通りです。ここでは、ABUキャンプフィールドでマネージャーとして働く集落支援員の矢田英和さんと阿武町役場のまちづくり推進課の岡村未莉さんの現場トークを中心に、まちづくりに携わる地域おこし協力隊の方々のお話をうかがいました。

キャンプ場の「遊び」を通してお試し移住ができる

北海道、ニセコでスノーボードのインストラクターを務め、妻の実家がある愛知県を経由して、子育てをきっかけに阿武町に夫婦で移住した矢田英和さん。持ち前のフットワークの軽さを生かして漁師や林業を経験したのち、阿武町のまちづくりに加わるようになりました。

2022_0423_349ABUキャンプフィールドのマネージャー、矢田英和さん

矢田さん「嫁さんが阿武町の『21世紀の暮らし方研究所』に入って、みんなで古民家を改修するとか、おもしろそうなことをやっていたんですよ。そこに僕もときどき参加するうちに、なぜかキャンプ場のマネージャーになっていて。おかしいなあ、ほんまは漁師になりたかったはずやのに(笑)。」

岡村さん「矢田さんは、自然の中で遊ぶのが上手ですよね。オフの日はサップに乗って釣りを楽しまれたり、漁師にもご自身がなりたいからなった。そういう『楽しむ』という感覚が我々や地元の人にはなくて、後継者不足という課題に対して必死さしかないんです。キャンプという遊びと組み合わせて収入を増やすという考えも『遊ぶ』のが上手だからこそ。ですから、矢田さんにマネージャーをお願いしたのは、その遊び力に期待しているんです(笑)。」

2022_0423_341阿武町役場まちづくり推進課の岡村未莉さん

矢田さん「いやぁ、阿武町ってすごく魅力的なフィールドなんですよ。だって、サップでちょっと釣りに行こうかなって思ったら、30分後には海の上にいることができますからね。愛知で暮らしていたときも、ニセコにいたときもそうですけど、きれいな海って車をけっこう走らないとないんです。ここなら思い立ってすぐに行けるし、仕事終わりに子どもを連れて山にタラの芽を取りにいくことも気軽にできるじゃないですか。フィールドがすごい近いから。」

のっけから阿武町ライフについて語る矢田さん。海にも山にも近い暮らしの豊かさが一気に伝わってきます。そんな阿武町にできたABUキャンプフィールドは、アウトドアを楽しむキャンプ場であると同時に地方創生関係交付金でつくられたまちづくりの施設でもあります。

矢田さん「ここは、普通にキャンプ目的で来ても、『よしキャンプだ!食材全部買って行くぞ!』っていう、肩に力の入るキャンプ場ではないんです。隣に道の駅も温泉もあるし、おしゃれなカフェもある。夏場暑くなったらカフェで涼みながら、冷たいドリンクでも飲んで、『じゃあテント戻る?』くらいの過ごし方ができます。スノーピークが監修しているから道具も揃っているし、水回りもトイレもきれいだし。なので、キャンプをしたことのない移住希望の方でもすごく来やすいと思うな。」

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キャンプ場併設のSUNbashi CAFÉ(サンバシカフェ)(提供写真)

岡村さん「阿武町を知らないで飛び込んでくる移住者の方もけっこういらっしゃいますね。空き家バンクだけを見て、その家が気に入ったから移住しますという方も。ただ、そうなると、地域の受け入れ側としては不安な部分があるんですよ。阿武町は早めに空き家バンクをつくって移住政策に取り組んできたので、毎年移住件数はそれなりにあるんですけど、『やっぱり想像と違ったから』といって転出していく人が出てしまうのは申し訳ないというか。できる限り定住につなげたいので、キャンプ場を通して阿武町を知ってもらえたら。」

ABUキャンプフィールドがオープンして、3ヶ月ほど。初めて利用したお客さんからは、魚のおいしさや日本海に沈む夕陽の美しさに感動する声が聞こえてくるそう。そして、そこからもう一歩、まちの暮らしに踏み込んで、移住・定住へとつなげるために、ABUキャンプフィールドでは、まちの生業である一次産業を体験できるプログラムがオプションで用意されています。阿武町では、それが地域おこし協力隊のおもな任務になっており、どの協力隊もなんらかの形でこのキャンプ場にかかわるようになっているのだとか。そこで、現在ABUキャンプフィールドで体験プログラムを担う地域おこし協力隊の古金竜弥さんと藤尾凜太郎さん、さらに協力隊を退任した宮川直子さんにお話をうかがいました。

林業を生かすキャンプ場というアウトプット

古金竜弥さんは、一昨年の12月に埼玉県から林業をするために阿武町に夫婦で移住。もともとキャニオニング(渓流下り)のインストラクターをしていた古金さんは、林業経験はゼロでしたが、自伐型林業の経験者からやり方を教えてもらい、今では小型の重機を操縦し、山に必要最小限の道をつけて木材を搬出する間伐作業を行っています。

2022_0423_240古金竜弥さん

古金さん「最初は、もっと力仕事がメインだと思っていたんですけど、自伐型林業は意外と頭を使う仕事。単に道をつけて木を搬出するわけではなくて、どこに道をつければ壊れにくいかを考えるんです。谷につけると水が流れ込んで道が壊れるし、岩があったら通れない。木を倒すときも間伐だと周りに木が生えている中で切るので、どういうふうに倒すか考えます。そこにおもしろ味がありますね。」

自伐型林業は、山を整えながら山の資源を利用する仕事。山肌をきれいにするため、雨水が山に蓄えられ水質の浄化にもつながるのだとか。古金さんは「環境を整えているという自己満足感は常にあります」と笑います。そんな古金さんがABUキャンプフィールドで担当しているプログラムが、「チェーンソーでスウェーデントーチ作り体験!」です。

古金さん「実際に僕らが作業している山に入ってもらい、山を感じてもらいながら、チェーンソーを使って丸太を切り、切り込みを入れてキャンプ場で使うトーチをつくるという体験コンテンツです。林業に興味のある方向けに、生えている木を切る伐倒体験も今後つくりたいと考えております。まずは、山に興味を持ってもらえればいいなと思っています。」

ya_abu_2205スウェーデントーチをつくる古金さん(中央)(提供写真)

「清々しく気持ちがいい仕事ですよ」と古金さんは言いますが、気になるのは林業で食べていけるのかどうか。その辺りはどうなのでしょう?

古金さん「今はウッドショックといって木材の価格が上がっていますが、価格が落ちてしまうと心配な部分もあるんですよ。ただ、阿武町にキャンプ場ができたので、木材を薪にしたり、丸太をトーチ用に加工したり、価値の低い木材に手を加えることで、価値を上げて販売することができます。価値をどうあげられるかが、自伐型林業の肝みたいなところ。そういう意味で、キャンプ場というアウトプットがあるのは、非常に強みだと思います。」

品種と土地の個性を価値に。無角和種とのこれからをつくる仕事

もう一人の地域おこし協力隊は、神奈川県から移住してきた藤尾凜太郎さんです。横浜の大学で国際教養学を学ぶうちに国内のことを知りたくなり、以来日本各地を旅していた藤尾さん。地方の魅力を発信したいと考え、大学卒業後すぐに地域おこし協力隊の募集のある移住先を探し、住みたい条件をあげて絞り込んでいった先に阿武町が浮上したそう。

藤尾さん「まず日本海側がよかったんですよ。冬は荒れるのに夏はすごく穏やかな海で、大学時代に日本海側をよく旅しているうちに、どんどん日本海側が好きになって。あと、釣りが趣味なので魚種が豊富なことや、漁業が産業として成り立っている場所とか、いろんな条件を出していって、最後に人口5,000人未満のまちを探していったら、阿武町に。実際に暮らしてみると、やはり住民との距離感が近いので、仕事もやりやすい。距離が近いと嫌だという人もいるかもしれないけど、僕はひとりで移住してきたので、人口3,000人の阿武町がちょうどよかったです。」

DSC_4294藤尾凜太郎さん(提供写真)

現在藤尾さんは地方創生推進交付金を活用した「無角和種との出会い創出プロジェクト」を担当しています。ミッションは、和牛4品種のうち最も希少な1品種で、阿武町が約7割を保持する「無角和種」を町内外に広く周知し価値に気づいてもらい、応援環境をつくり、頭数の増加につなげること。しかし、しばらくして藤尾さんはこの牛肉と町民との距離に気がつきます。

藤尾さん「町民の方々は無角の存在は知っているけど食べる機会がなく、食べたとしても薄切りにした焼き肉として食べているので、赤身が特徴の無角は、薄切りだと固くなってしまいます。『固い』ことをこちらでは『シワい』と言うんですけど、町民に『無角はシワくて美味しくない』という印象があったんですね。そこで、町民の方向けの料理教室で塊のまま調理するローストビーフや厚切りステーキをつくって食べてもらったら、おいしさをわかっていただけました。早速、道の駅でブロック肉を買い『ローストビーフをつくってお客さんに出したよ』と言ってくれる方もいて、手応えを感じました。そうやって町民それぞれの言葉で無角のおいしさを伝えられるようになればいいなと思っています。」

DSC_3749無角和種振興公社の牛舎で無角和種を可愛がる藤尾さん(提供写真)

赤身の無角和種をおいしく味わってもらうために、協力隊一年目はさまざまな牛肉を食べて味の違いを学び、東京のシェフに話を聞く機会をもらい、塊肉の焼き方を学んだという藤尾さん。「シェフによってそれぞれの牛肉の焼き方、哲学があるので、いろんな人の話を聞きながら、自分の中でどう解釈するか。今も悩みながらやっているところ」と言いますが、牛肉が好きな人にはたまらない仕事といえそうです。

飼育頭数としては和牛4品種のうち0.01%という希少な牛である無角和種。デパ地下でも買えないレアな牛肉にキャンプ場の利用客が出会えるよう、藤尾さんは肉焼き講座と無角和種の飼育現場を見に行くツアーがセットになった「無角和種堪能ツアー」を開催しています。お客さんの前で説明する内容は、藤尾さん自身が牛舎に1ヶ月間通い、実際に飼育してみた実感がベースに。

藤尾さん「無角は、もともと農耕牛なので、穀物飼料だけではなく草でも育ちます。母牛は放牧をしていることや、牛舎で出た糞や尿を堆肥化して農家に供給し、農家から稲などの飼料作物を購入する地域内経済循環を昔からやってきています。これからは育て方も少しずつ変えていき、より環境にやさしい健康的な牛を目指していることをちゃんと説明していきたいですね。」

魚のエキスパートによる指導で食堂をオープン

3人目は、同じ山口県内の宇部市から祖父母のいる阿武町に移住してきたという宮川直子さん。漁師をしている祖父にあこがれて、水産振興の地域おこし協力隊に志願したのが5年前のこと。

2022_0423_279宮川直子さん

宮川さん「祖父がずっとマグロ漁船にのっていて、楽しかった話をたくさん聞いて育ったので、どういう世界なのか興味がありました。水産振興の協力隊になってから2年間は、定置網漁船に乗り込んで漁師として働きました。定置網漁船は、網をあげる技術がいるし、天気によって動き方も変わるし、何より体を使います。けっこう毎日トレーニングしているみたいで、私は好きでした。ここの漁師さんは年はとっているけど、みなさんウェルカムな感じで、漁師さんとのやりとりも楽しかったですね。」

IMG-64漁師時代の宮川さん(提供写真)

水産振興のミッションは、町内で漁業の仕事をつくることと漁師さんの手取り向上。しかし、ほぼ素人の協力隊がどのように漁師さんの売り上げを上げることができるのか。そこには強力な助っ人の存在がありました。それは、『魚の伝道師』として知られるウエカツ水産の上田勝彦さん。今回のプロジェクトで阿武町の漁業指導に外部の専門家としてかかわっており、エキスパートの上田さんに教えてもらえることが、水産振興の協力隊の大きな魅力になっています。

宮川さん「上田さんから、神経締めや魚の冷やし込み方、いろんな魚の知識を教えていただきました。漁師さんたちの手取りを上げるのがミッションなので、そのためには、都市部の料亭やお寿司屋さんに選ばれる魚として卸せるかどうか。魚の下処理をきちんとして、価値をつけて売る。上田さんは、いろんな経験をさせてくれるので、魚の扱いが上達しました。」

2022_0423_148うぉっちゃ食堂の「ブリのりゅうきゅうめし」

その後、宮川さんは、協力隊の退任と同時に、道の駅の敷地内に店舗を持ち、阿武町の魚を使った料理を提供する「うぉっちゃ食堂」を立ち上げました。その際にも上田さんにメニュー開発から魚のさばき方から全部教えてもらうことができたそう。「おかげさまで、仕事創出につながりました」と笑います。ちなみに、この日の昼食に「うぉっちゃ食堂」でいただいたのは、阿武町でとれたブリをつかった「ブリのりゅうきゅうめし」。宮川さんが上田さん直伝のレシピでつくった大分の漁師メシで、ぷりっとした刺身の歯応えが忘れられない味わいでした。

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今後、阿武町民による体験プログラムも

矢田さん「いずれね、地元の人がキャンプ場で体験プログラムの主催者になって、阿武町の魅力を伝えつつ、お金を稼げるようになればいい。そうすると、キャンプ場にすごく意味が出てくるなと思っているんですよ。僕も外から来た人間だし、地元から『じゃあ俺もやってみようかな!』っていう人が増えてきてくれたらええなぁって。そこが今のところの目標です。」

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岡村さん「今、阿武町では、あぶナビ(阿武町観光ナビ協議会の略)というDMOのような民間組織が立ち上がって、そこには農家の方や漁師さんも参加しているんです。昨日お話を聞いたら、キャンプ場のお客さんに自分たちが焼いた魚介類を売りたいという漁師さんがいたり、農家の方からビアガーデンをやりたいという、すごく前向きな意見もあって、『じゃあ、まずやってみるか!』みたいな話になっています。町民がキャンプ場でイベントをすることで、キャンプ客と町民が両方参加できるようになれば交流にもなるんじゃないかとか、それを自分たちでやろうという動きが少しずつ出始めています。」

これからキャンプシーズンを迎える、ABUキャンプフィールド。新鮮な食、行き届いた設備、目の前に広がる大海原での釣り体験と、キャンプ場に求める要素は十分すぎるほどですが、ここが備えている機能はそれだけではありませんでした。この先、町民を巻き込んで交流が深められたとき、阿武町のまちづくりがどう変化するのか、楽しみでなりません。

現在、阿武町では体験プログラムをやりながら、ABUキャンプフィールドの運営に携わってくれる地域おこし協力隊を絶賛募集中!(詳細はこちら)。求める人材は、矢田さん曰く「とにかくなんでも楽しめる人!」だそう。キャンプ場でまちづくりをする阿武町の挑戦を一緒に楽しみたい方は、是非この機会に応募してくださいね!

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文 草刈朋子
写真 廣川慶明

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