AIやテクノロジーが人間をより人間らしくする。AIによって変わる私たちの暮らしの未来とは?(「SHARE WEEK2023」より)

AIやテクノロジーが人間をより人間らしくする。AIによって変わる私たちの暮らしの未来とは?(「SHARE WEEK2023」より)

昨年11月10日から17日まで開催された「SHARE WEEK 2023」では、シェアリングエコノミーを起点に持続可能な共生社会に向けた様々な取り組みが行われました。15日から3日間行われたオンライントークイベントでは、変化の激しいAI・デジタル時代の共生社会、サステナブルビジネスの新潮流、地方創生のその先にある分散型社会などをテーマに、社会のリーダー達が議論を深めました。

その中の1セッションとして行われたのが、「ライフスタイル・トランスフォーメーション〜AI時代、日常はどう変わる?〜」。AIが社会に実装される時代において、働き方や暮らし方はどう変化していくのかについて議論がかわされました。今回は、その内容をお届けします。

登壇者は、モデレーターで、三井不動産レジデンシャルで多拠点居住の新事業を推進する櫻井公平さん、部屋に帰らない日は家賃がかからないサービス「リレント(Re-rent)」を展開するUnito代表近藤佑太朗さん、面白法人カヤックで「SMOUT」やコミュニティ通貨「まちのコイン」などを運営する中島みき、『暮しの手帖』元編集長で、様々な活動やエッセイを通じて暮らしの在り方を提案する松浦弥太郎さんです。

近藤さん「株式会社Unito代表取締役CEOの近藤と申します。Unitoは家賃を住んだ分だけ払う日本初の変動型家賃をユーザーに届けています。全国に5,000部屋以上あり、デジタルノマドや多拠点居住者の方、出張が多いサラリーマンに留守の日は家賃かからない家を提供しています。」

中島「面白法人カヤックで地域資本主義事業部の事業部長をやっています。会社の経営理念“つくる人を増やす”の通り、私たちと関わったみなさんが、どんどんつくり手になっていくような社会がつくれたらいいなと常に思っております。地域資本主義事業部は、地域で人と人のつながりをつくることで、環境や文化を大切にするようになり、地域に愛着を持つようになるという仮説に基づいて地域の方々と一緒に活動しています。特にこの中で、中心となっているのが移住と関係人口のマッチングサービス『SMOUT』と、地域の人たちの関わりを生む『まちのコイン』というプロジェクトです。」

松浦さん「『暮らしの手帳』の編集長を9年ほど務めてから、IT業界に転職しまして、現在は「おいしい健康」という、レシピと献立提案のアプリサービスのスタートアップで役員をしながら、様々な企業のアドバイザーをしています。とはいえ、本業はエッセイストで、最近もこれからの時代の新しい生き方と価値観を示した『エッセイストのように生きる』という新刊を出しました。」

AIによる暮らしの変化

櫻井さん「コロナ禍を経て、どこでも働ける時代がきている今、移住や多拠点居住への関心が非常に高まってきています。そして、2023年はAI元年とも言われています。働き方、暮らし方が変わりつつある中で、AIはどのような影響を与えるのでしょうか。」

近藤さん「私は、AIやテクノロジーの発展によって、人々が検索することがどんどん少なくなり、サービス側がユーザーデータを分析してレコメンドする動きが気になっています。どのサービスもそうなっていくことで、ユーザー側がどんどん考えずに、サービス側の思惑で利用するようになっていくと大局観としては思っています。」

中島「確かにAIの普及によって、例えば検索も長い文章を使うなど多様な方法が生まれ、答えも多様になってきていて、情報の量も網羅性も高まっていると思います。それはライフスタイルの変化のタイミングにある人にとっても情報を得やすくなっていることを意味します。でも、しっくりこないことも増えるのではないでしょうか。

そしてこの「しっくりこない」は、AIやテクノロジーが理由であるというよりは、自分への問いかけだと私は思っています。「しっくりこない」という感覚は、改めて自分が何者なのかを考えるスタートラインになったりもします。そこから、それを仲間と話したりする社会になっていくと、AIやテクノロジーとお互いにアップデートし合っていけるような関係性ができてくるのではないでしょうか。そういう意味で、AIやテクノロジーは面白い局面に来ていると思っています。」

松浦さん「現在、ChatGPTをはじめ、いろいろなものが取りざたされていますが、現状ではまだ、どうやって使ったらいいかわからない人がほとんどだと思うんです。これからはAIを使いこさないと生きていけないとか、仕事を失うみたいなメッセージが聞こえてきますが、本当にそうなのかなと僕は思っています。

使いこなせる人に仕事が集まるとも言われていますが、使いこなせない人の社会もちゃんとつくっていかないといけないのではないでしょうか。テクノロジーの領域で注意しなければいけないのは孤立です。人と話さなくてもいいとか、自分に好ましいものばかりの生活になってしまうと個人が孤立していく。でも、ノイズみたいなものって、人間の成長や学びには必要ですよね。それも含めて、自分がAIをどう使っていくかを考える必要があって、それは、先ほど中島さんおっしゃっていたように、改めて自分はどうしたらいいのかに答えを出すことでもあって、それを考えるべきタイミングが来るのでしょう。

ただ、一人の生活者としては、今年はまだAIを実感しているとは言えなくて、あと2〜3年かかるのかなという気がしています。」

AI時代の時間の使い方

櫻井さん「今後、AIやテクノロジーが発展していく中で、改めて自分の生き方を問い直す必要があるということですが、AIを上手に取り入れながら生活を変えていくには何が必要なのでしょうか。」

松浦さん「プラスに考えれば、いろんなことが便利になって、時間が節約できて時間が余ると思うんです。僕らはこれまで、便利なものを手に入れたことで、さらに忙しくなってさらに疲弊していました。でもこれからAIやテクノロジーによって使える時間が増えるのであれば、その時間を何に使うかが生き方において非常に重要になると思います。ぼんやりするとか、非生産的なことに時間を使うことも実は人間には必要で、非生産的な時間から生産的なものが生まれたりする。だから、AIやテクノロジーが暮らしに入り込んできたときの時間の使い方が大きな課題になるのではないかと思います。」

近藤さん「僕もまさにそう思っていて、可処分時間がどんどん増えていくわけですよね。今、僕たちは昭和の時代の3分の1ぐらいの時間で同じことができるようになっています。でも、そうしてできた時間で昭和の人はまったくやっていなかったことをやっていて、暇にはなっていない。これからは、増えた時間に新しいタスクをやるのではなくて、ある程度暇になる勇気を持つことが大事だと思います。」

中島「私は暇になっていくにはリスクもあると思っています。急激に暇になったときに何も考えないでいると、結果的に孤独になっていく可能性が高く、すでにある社会的孤立の問題が加速するおそれがあるのではないかと考えます。急激な変化が起きないようにするためには、いろんな場所で暮らしたり、いろんな人と繋がりを持ったりすることがすごく重要なのではないか、とも思います。そして実はテクノロジーの進化によって、複数の自分がいるような状況がつくれるようになって来ているようにも思っています。」

松浦さん「おっしゃる通りだと思います。時間がたくさんできましたという時に、所属場所がたくさんあればあるほど、豊かだったり楽しかったりすることに使える。これもテクノロジーやAIが進化すればするほど、幸せとはなんだ、豊かさとはなんだみたいなことを自ずと考えざるを得なくなることの一つだと思います。だから、テクノロジーやAIが進化することによって、僕らのライフスタイルが変わっていくとしたら、それは人間がさらに人間的になっていくポジティブな変化だと考えたいなと僕は思っているんです。」

テクノロジーで生活は豊かになるか

櫻井さん「テクノロジーの進化によって可処分時間が増えていく見通しがある中で、パネラーのみなさんはどんなことに取り組み、どんな未来を目指しているのでしょうか。」

中島「『まちのコイン』というサービスがあって、私たちは“コミュニティ通貨”と呼んでいるのですが、お金に変えられない通貨を使って、お金で買えない体験、お金で買えない幸せを追求しています。2020年に導入して、地域内のつながりや関係人口の強化、地域活性化、商店街の活性化という文脈で使われることが多いのですが、事例を見ていると、地域共生社会をつくったり、孤独や孤立の解消にも可能性があることがデータから見えてきました。『まちのコイン』は例えばいつも行くお店にチェックインするという使い方ができます。いきなり知らない人に声をかけるのは難しいけど、何度もチェックインしているうちにお店の人やお客さんと顔見知りになって、イベントに参加するようになってつながっていくような事例があります。これはまさにテクノロジーが人と人とが関わるきっかけをつくった例だと思います。こういう取り組みを新しいテクノロジーを活用していきながら広げていくことで、社会にもっとつながりをもたらすことができればいいなと思っています。

そうやってみんなが繋がることで、共創が生まれたらきっと楽しいし、それをテクノロジーと一緒に実現していくことによって、つくり手になる楽しさがもっと広がっていくといいなと思っています。」

近藤さん「僕たちUnitoは“暮らしの最適化の追求”というビジョンを掲げているのですが、2段階に分けていて、まずは家を多く留守にする人に対してのソリューションを提供しています。それはスタートアップの性質上、マイナスをゼロにする課題解決をした方が、世の中に浸透しやすいからです。将来的に地元をたくさん持つことが大事になってくると思うので、1つの拠点で家賃を減らすことからはじめて、たくさんの地元を作ることができる世界を目指してやっています。

もっと大きく言うと、日本の新しい暮らし方をつくっていきたいです。働き方が多様化し、暮らし方もどんどん自由になっていくタイミングだからこそ、新しい暮らし方をつくることが未来をつくることにつながると思っています。日本という国は、自分のライフスタイルを選択できる国だよと言えるように頑張っていきたいと思っています。」

松浦さん「AIやテクノロジーは一言でいうと、非常に親切な技術だと思うんです。テクノロジーの進歩は、生身の人間に対していかに親切をしていくかの追求なんです。その親切を受け取った僕らはいろんなことを失っていくのではなくて、人が人に思う親切とか、知恵とか工夫、思いやりみたいなことを忘れてはいけない。改めて思うのは、ものづくりの手の感触とか、考えのプロセスみたいな、見えないようなものは、これから先、なかなか人が関心を持てなくなってくるのではないかということです。

なので、どんなものにも人間らしさが出てこないと表現が成立しないと思うし、美意識や感覚から個性が立ち上がって来るのが本来だと思います。その個性が他人と差別化できてシェアされたり、繋がったり、商品になったりすることで僕らはいい形で人間らしい暮らしを手に入れるべきじゃないでしょうか。そして、AIやテクノロジーはそのためにあると僕は信じています。」

(トークセッションここまで)

2023年はAI元年と言われますが、松浦さんの言うように一生活者の立場からは、まだまだAIが生活に浸透している感覚はありません。その中でも、近い将来、AIやテクノロジーの進歩によって私たちの生活はより便利になり、使える時間が増えていくだろうと予想されるという話でした。

そして、私たちはその利便性や余った時間をより人間らしい暮らしをするために使うべきだという考え方で一致しているように思えました。AIという人間性と対極にあるように見えるようなものによって私たちが人間らしさを取り戻せるなんて、なんだか楽しい未来になりそうです。

その時のためにより豊かな暮らしのバックボーンをつくっておくことが今必要なのかもしれません。

文:石村研二