「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」にみる、地域と人との“関係性の構築”の必要性

「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」にみる、地域と人との“関係性の構築”の必要性

2019年11月11日から12月6日までの約1か月間、紀伊半島移住プロモーション事業実行委員会からの委託により、移住マッチングサービス「SMOUT」とビジネスニュースサイト「Business Insider Japan」との共同企画で「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」を開催。三重県尾鷲市、奈良県下北山村、和歌山県田辺市の3つの地域で、参加者が2泊3日以上滞在し、現地の人との交流や、仕事の体験を通じて、紀伊半島での暮らしの可能性を探ってもらう試みです。

そのプロジェクトが終了して約3か月。現地で得た知見やこのプロジェクトの意義を改めて振り返ろうということで、都市部からの参加者を地域へつなぎこむ役割を担当したカヤックLivingの名取良樹と木曽高康に話を聞きました。また各県担当者の方々にも感想や気付きなどを伺いました。

「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」の狙い

「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」のダイジェストムービー

プロジェクトの狙いは、「働く」と「暮らす」をキーワードに、紀伊半島の人や暮らしに触れることで都市と地域の新たな関わり方を見つけること、具体的には二拠点居住や副業を含めた「関係人口」から移住への可能性を探ることです。

また、そこには都市と地域とメディアがともに活動することで、プロジェクト終了後も継続的に紀伊半島に人を呼び込めるようなコミュニケーションのサイクルをつくる目的もありました。

今回は参加者を、地域への移住、関係づくりに興味関心が高い「SMOUT」ユーザーと、ワーケーションのようなビジネス領域での地域への興味が強い「BUSINESS INSIDER」読者、興味はあるけどきっかけがないといった層を想定した「ランサーズ」ユーザーから募集しました。このように、関心度に濃淡がありながらも、紀伊半島につながりのなかった層を呼び込んで予想外の経験と気づきを持ち帰ってもらうため、「働く」面では普段の仕事を持ち込んだり、現地ならではの仕事を体験したりするなどの幅を保たせ、「暮らす」面では地域住民や先輩移住者と交流する機会づくりを意識。

最終的に地域で暮らすこと、紀伊半島で暮らすことの検討材料として、また地域で活躍したい学生や地域での起業、まちづくりに携わりたい人のきっかけになる企画づくりを意識しました。

kii_02

写真は三重県尾鷲市「シェアスペース土井見世」にて

全体のスケジュールとしては、2019年10月にキックオフイベント、11〜12月に現地滞在、12月に報告イベントという流れ。キックオフイベントでは、「Business Insider Japan」のテレワーク実証実験の説明のほか、各県担当者と現地コーディネーターが地域や現地プロジェクトの内容を紹介しました。こちらは後日動画で配信し、潜在的な参加検討者の掘り起こしへと繋げています。

滞在日程は、三重県尾鷲市「紀伊半島の課題を地域の人と探る!」が11月11日〜20日、奈良県下北山村「地域で『暮らしをつくる』体験をする!」が11月19日〜28日、和歌山県田辺市「南紀白浜に近い地でワーケーションについて考える!」が11月27日〜12月6日と、それぞれ約10日間の実施となりました。

期間中は、各県に「働く」の検証拠点となるコワーキングスペースと連携。それぞれ現地プロジェクトの概要は「移住に人気の紀伊半島で、新しい働き方や暮らし方の実証実験の参加者募集!」、内容の詳細は下記の現地レポートをご覧ください。

《三重県尾鷲市》
紀伊半島の関係人口づくりから考える、これから「起きるかもしれないこと」を起こす方法とは?

《奈良県下北山村》
地域との関わりしろは、“美味しい” と “楽しい” から生まれる。奈良県下北山村に学ぶ、関係人口のつくりかた

《和歌山県田辺市》
東京を離れたら、何が見えるか。和歌山県田辺市でのワーケーションから考える、これからの働きかた、暮らしかた

首都圏での報告イベントはプロジェクト終了の約2週間後に実施し、現地コーディネーターと参加者によるチームにより、実施報告や今後取り組みたいアイデアの提案などが行われました。

また、このアイデアを実際に進めることになった場合や協力者が必要となった場合、「SMOUT」を介して人を呼び込むことが可能なことも一つの特徴です。地域で活動する人たちの状況や課題も知ってもらい、その解決につながるような人のつながりをつくるなど、新たな活動を見据えた種まきの重要性や、地域・都市部・オンラインプラットフォームが連携する強みを再認識してもらえる場となりました。

地域に行くだけでは、関係性は始まらない

プロジェクト後には、参加者へのアンケートも行いました。参加者数は、三重県が計18名、奈良県が計11名、和歌山県が計15名。また参加者の居住地は一都三県が35%、職業は経営者を含む会社員が56%の結果となっています。

参加理由は、尾鷲市で最も多かった「現地でのプログラムが面白そうだったから」(65%)をはじめ、他の2県でも「その土地に行ってみたかった」「その土地でリモートワークをしてみたかった」など地域への興味に関わる理由が上位を占めました。現地プログラムにも参加者の大半が参加しており「満足」、「やや満足」と評価。また「魚さばきの川上さんが本当に素敵で、もう一度必ず尾鷲に行きたい」(尾鷲市)、「現地の人たちの暮らしを体験できたこと・話を聞くことができた」(下北山村)、「都内で聞くトークセッションと異なり和歌山の方とのQ&Aでその場に住むからこその新しい視点を伺えて、場を移す大切さを感じた」(田辺市)など、感想も前向きな内容が大半でした。

こうしたアンケート結果も含め、プロジェクト運営を担当したカヤックLivingの名取良樹は次のように話します。

DSC_0031

株式会社カヤックLivingの名取良樹

名取「『行きやすさ』よりも、地域と参加者との『関係性』をどう構築するかを意識しました。それと、関係性のスタート地点を揃えるために、参加者の交通費は自己負担にしてもらったんです。自己負担である意味“覚悟”を持ってもらうことで、しっかりと地域の魅力を伝えることができたと思います。

さらに、移住者を招き入れたい地域側の思いに近づけるため、移住よりは多拠点居住やワーケーションなどに関心がある層の期待をほんの少しずらすというか、現地で突然生まれた思いがけない体験や交流が生み出せたことで、参加者の期待をいい方向に裏切りつつ、ギャップをつくることができのではないかと。また、報告イベントで出た今後に向けたアイデアが「SMOUT」で新たにプロジェクト化する可能性もありますし、地域の次の活動のきっかけも生み出せたのではと感じます」。

プロジェクト終了後、起業家なども多いであろう参加者の中から積極的な地域への働きかけ、例えば、課題解決に関わる新規ビジネスの売り込みや地域情報の拡散といった新たな動きへとつながる期待をしていたそうですが、実際に、すでに尾鷲市では参加者の再訪が続いているとのこと。そうした結果をもたらした理由は、前述の「参加者の期待と目的をずらす」ことにあったのではと語ります。

名取「そもそも移住や地域に興味がある層よりも、まだ気持ちに揺らぎのある新規層にリーチして、地域への期待感を感じてもらったり、新鮮さを提供できないかと考えました。なのでプロジェクトの参加者の募集は、「SMOUT」の他、地域での体験に新鮮さを感じてもらえるような層の掘り起こしを意識しました。興味がある人には通り一遍の体験では満足度はそれほど高くならないという見立てもあり、僕らのような都市部の人を地域へつなぎ込む“仲人”的な要員が加わることで、『この地域に行けばこんな日常が体験できるかも』という想像以上のことが起こる要素を提供することができるんです。

例えば、尾鷲市なら「港町の雰囲気を感じつつコワーキングスペースで仕事をして帰る」といった想像をするとして、でも実際には、その人の興味に応じて、あるいはその時の気分に合わせて、やっぱりこれがやってみたい、行ってみたい、あるいはその土地で暮らす人たちとの“つながり”をつくってあげることができる。こうしたプロジェクトの説明文から推測される以上のことが起こる要素を提供することが、地域の魅力に自発的に気づいてもらうためには重要だろうと。そのため、プロジェクト内容の調整など、ブラッシュアップする過程では特に“よくあるものではない”体験となるよう心がけました」。

今回の参加者は、前述のとおり「SMOUT」のほかは「Business Insider Japan」と「ランサーズ」のユーザーですが、地域に関する関心度はそれぞれ異なります。前者から順に、「現地プログラムへの参加意図がはっきりとした」層、「ワーケーションなどビジネス関連に関心がある」層、「地域を訪れるきっかけにしたい」層というようにカヤックLiving側は捉えていました。この関心度の違いがあったため、現地では参加者の興味深い動きを見る機会も多かったのだそうです。

木曽「参加予定のないプロジェクトに、現地で突然参加をする光景がかなり見られたんです。参加者は3つのサービスから集まったので年齢も職業もバラバラでしたが、全体的に高い満足度につながったのは、気の赴くままに過ごすといった、参加者も予想しなかった地域での経験ができたからだと思います」。

名取「申込段階では現地プログラムへの参加意図が曖昧な方も多かったので、直前まで締め切らず現地でも参加できるようにしたのが大きかったのでしょうね。地域と人との関係性の構築を行く前からつくることを意識しましたが、それでも最初に全てを決めてしまうと余白が生まれにくい。地域に行くだけでは、関係性は始まらないんです。その関係性づくりはお手伝いをするけれど、その時の気分に合わせて自分自身で選択をする、現地に来て目の前でプログラムがあれば参加してもいいと、なるべく柔軟に対応することにしたんです。それが結果的に、参加者の“新鮮な体験”につなげられた理由だと思っています」。

いい意味で『土足で入り込む』ことがもたらす効果

行動の柔軟性も担保する一方、参加者間での連帯感をつくりだしながら現地での暮らし体験を提供できたことも、今回の一つの発見です。

DSC_0068

株式会社カヤックLivingの木曽高康

木曽「現地ではいくつかのグループができていました。それは参加者同士で自然にできたり、僕らが声をかけたりと始まりはいろいろでしたけど、そのコミュニケーションを生む拠点としてコワーキングスペースが大きな役割を果たしていた実感があります。まちの規模感やその影響もあるとは思いますが、拠点が一カ所だった尾鷲市と下北山村ではこの傾向が強かったなと。その場にみんながいるので『○○に一緒に行かない?』と参加者同士をつなぐことはもちろん、地域と参加者の関係をつくるなど次につながるような手応えがありました」。

また個人参加も多かったため、現地プログラムに自然に入り込んでもらうための工夫もしていたと言います。

木曽「食事の時間がかなり重要でした。インフォーマルな部分ですが、着いたら全員で食事に行くという流れは意図的にやっていたんです。参加者を一人にしないというか。到着してすぐに現地プログラムではなく、軽く参加者同士の関係性をつくる時間にあてたことで、みなさん比較的スムーズに馴染んでいたと思います」。

また、現地コーディネーターである尾鷲市の豊田宙也さん、下北山村の仲奈央子さん、田辺市の森脇碌さんは、全員が都市圏からの移住者。都心と地域双方の感覚がわかる存在だったことも、スムーズに馴染んでいった一つの理由だったと言えそうです。プログラム構成はもちろん、地域資源や地域の人をつなぐ役割を担った、ある意味地域のキーパーソンである彼らとはどのような関係性で進めていったのでしょうか。

名取「3人は、地域での関係案内人という感じですね。参加者を都市部から地域に連れてくる、地域へのつなぎ込みをするのが僕らカヤックLivingで、現地コーディネーターの彼らが地域資産や地域の人をつないでくれる。とはいえ短期間で関係をつくる必要があるため、なるべく両者が歩み寄るような形で取り組むのがいいと感じました」。

また、先輩移住者で県外からの視点で関係人口づくりや移住希望者の対応を担った現地コーディネーターの活動を改めて見ることで、地域との関係のあり方や都市部の人が担う役割などについて気づくことも多かったと言います。

名取「移住者とはいえ、現地コーディネーターのみなさんは、もう地域に入り込んでいるんですよね。だから都市部の感覚を持ちつつも、地域側の立場で地域活性やまちづくりに関わっている。それだけに、地域の人を前にして自由に動くことは結構難しいんだろうなという印象がありました。でもだからこそ、地域に何か新しい動きや流れを起こしたいと考えている自分たちカヤックLivingのように、いい意味でその土地にある常識や人間関係、固定観念などを持っていない外の存在が介在することで、彼らのやりたいことを広げる力になれるんじゃないかと」。

地元民なら敬遠するような地域の課題や関係性も、外部者のひとつの言動で変わることもある。今回のプロジェクトでもそんな機会があったそうです。

名取「どんなに外から人を呼ぼうと活動しても、地域内がバラバラだと活動が定着していきません。もし関係性に課題があるなら、関係性をつなぎ直すきっかけにもなりますから、外の人間ならではの『空気が読めない』、『空気を読まない』、いい意味で『土足で入り込む』ことがもたらす効果はやっぱり大きいと思うんですよ。

それは県や市など自治体間での連携でも同じだと思います。今回のプロジェクトの振り返りをフィードバックした際に、地域の担当者から『気づきが多かった』と仰ってくださるケースも多くて。外側からの視点で『気づいていたけど実行できていなかった』課題が見え、指摘をされることで地域の人にリアルな自覚が生まれるので、改善に向けた次の活動へとつながるのではないかと思います」。

では、今回得ることができたような、人を呼ぶ施策の経験や考え方は他の地域にも応用できるものなのでしょうか。

DSC_0059

 

名取「できると思いますし、さらに面白くできると思います。プロジェクトのコアの部分はどの地域にも応用が利くので、今回の事例をベースにさらにもう一段階進んだ、より意図や地域で暮らすことのリアルさを伝えられる内容にもできると思います」。

木曽「ただ、受け入れ側となる地域の経験による差異は出るでしょうね。今回は地域活動に興味がある人がよく訪れる地域だったので比較的やりやすかったですが、移住者や外から人が来る経験が少ない地域で同じことができるかというと難しい気がします。やり方や難易度は、やはり地域ごとに変わると思います」 。

名取「確かにそれはありますね。今回の「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」では、仕事と暮らしが交差する拠点の有無が結果に大きくつながるとわかったので、次もあるとしたら拠点は必ずつくろうと思います。また、掛け合わせる地域コンテンツが多いほど効果が上がることも実感できたので、その点は今後も活かしていきたいですね」。

紀伊半島の受け入れ3県がプロジェクトから得た影響

os_13

写真は、左から三重県 地域連携部 地域支援課 移住促進班 主査(班長代理) 西尾桂さん、奈良県 地域振興部 奥大和移住・交流推進室 交流推進係 多田亜衣さん、奈良県 地域振興部 奥大和移住・交流推進室 係長 堀内亮介さん、和歌山県 企画部地域振興局 移住定住推進課 副課長 野見真洋さん(写真:池田礼)

以前は首都圏で行っていたプロモーションを現地に移し、移住や関係人口につながる関係づくりを目指してきた紀伊半島の3県。各県では現地で地域や人を知ってもらうことに加え、どのような狙いや目標を持って進めてきたのでしょうか。また今回のプロジェクトではどのような結果が出たのか、各県の担当者に聞きました。

まずは「地域おこし協力隊や中間団体が多く、地域おこし活動が盛ん」として尾鷲市を選んだ三重県。県内外へのトップリーダーの活動発信、地域と中間団体の連携強化を掲げた今回は、市の存在と地域の魅力を伝えられただけでなく、地域の人にも非常に喜んでもらえたと語ります。

西尾さん「現時点で今回の参加者が2組ほど頻繁に再訪されるなど、関係づくりに大きな成果がありました。『最初は地域おこし活動に関わりたいと参加したが、地域で活動する人の存在を知り、今後は彼らと都会をつなげる活動をしたいと思った』という参加者の言葉が印象深いです。やはり地域内での活動を発信することが重要だと実感できました」。

奈良県は、村役場の職員や地域住民の人柄のよさ、村外からの受け入れ経験の豊富さから受け入れ地を下北山村に決定したと説明。

堀内さん「参加者数は他県と較べてやや少なかったものの、その分、小さくて濃いコミュニティができました。下北山村が東京でおこなった物産展に応援に来てくださる方もいらして、さまざまな形でいい関係人口へとつなげられた手応えがあります」。

そうしたコミュニティをつくる結果となったのは、現地コーディネーターを務めた東京出身の仲さんや、大阪出身の田中那津美さんのような移住者の視点をいかした関係づくりが大きかったのではと語ります。

堀内さん「地域でのキーマン、つまり関係案内人が関係人口を増やすきっかけになるという『人』の大事さも実感しました。また地元の日常の出来事も都市部の方には新鮮であり、一緒に経験することでつながりが深くなるというサプライズ効果の高さも発見でした。スケジュールの自由度がゆっくり、おっとりとした下北山村の住民性とマッチして、いい効果を出せたのかなと」。

和歌山県では、自然や歴史資源に富み移住促進に最も力を入れている市町村の一つで、ワーケーション推進に取り組む田辺市を選定。都市部の若年層との関係強化を目指し、アーティストの多い龍神村での交流を通じて地域の魅力を感じてもらおうと考えたと語ります。

野見さん「プログラムづくりで、現地コーディネーターの森脇さんにご協力いただいたことで、移住希望者の体験内容が充実するとともに、地域の連帯感が強まりました。ワーケーションについて自身も経験がある、「Business Insider Japan」元統括編集長の浜田敬子さんやユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社の島田由香さんのトークセッションが本県で開催されたことは大きな意義がありましたし、リモートワーカーを経て移住された森脇さんのお話は、移住を検討する方や我々行政にとっても有意義だったと思います」。

“関係案内所”となる拠点の必要性と「暮らし」体験の難しさ

前述のように、今回はコミュニティ醸成を担う場としての“拠点”に注目が集まりました。コワーキングスペースとして提供された三重県尾鷲市の「シェアスペース土井見世」、奈良県下北山村の「コワーキングスペースBIYORI」、和歌山県田辺市のコミュニティースペース「シリコンバー」はそれぞれ、働くと暮らすを交差させる空間として力を発揮したことは間違いありません。ただ、その一方で「暮らす」体験づくりへの評価は、各県で少し異なる結論になりました。

os_6

三重県 地域連携部 地域支援課 移住促進班 主査(班長代理) 西尾桂さん(写真:池田礼)

西尾さん「シェアスペース土井見世を活用いただくことで働き方の大枠は掴んでいただけたと思いますが、一方で『暮らす』体験は、難しさを感じました。土地の空気を感じたり魚捌き体験などを楽しんだりしていただけたものの、地域でのリアルな暮らしを短期間で伝えるって難しいなと。次の機会があれば、より暮らしに密着したプログラムづくりが課題だと思っています」。

os_4

左から、奈良県 地域振興部 奥大和移住・交流推進室 係長 堀内亮介さん、奈良県 地域振興部 奥大和移住・交流推進室 交流推進係 多田亜衣さん(写真:池田礼)

堀内さん「コワーキングスペースBIYORIは人が仲良くなれる設えや話しやすい雰囲気もあり、空間に力がある場所だと思いました。働く、暮らすの比率で見ると暮らすが強い内容になったように感じています。宿泊は自由度の高い一軒家が多かったし、現地プログラムでも日常を濃く体験していただけたのではないかと思います」。

os_1

和歌山県 企画部地域振興局 移住定住推進課 副課長 野見真洋さん(写真:池田礼)

野見さん「今後はテレワークに限らず働き方を見直す時代が来るでしょうが、地域の有効活用が生産性の向上につながると言われています。企業や行政を問わず、楽しみながら働く社会をつくる中で、豊かな自然と文化のある紀伊半島の魅力的な働き方をどう発信するかが、東京などの都市部に在住する若い移住希望者を呼び込む鍵になると感じました」。

3県の分析を受け「じつは“働く”の比率は少なくていいと思っていた」と話す名取。休暇気分で来てもらい、“暮らす”を意識するほうが気づきも大きい可能性があるとの考えもあったといいます。たとえば、下北山村でのコミュニケーションづくりが成功したのは、暮らす重視のプログラムだったことが背景にあるのかもしれません。加えて、長期滞在者が多かったことも影響していたようです。

名取「平均で3泊4日という短期滞在の参加者に『暮らしを体感してもらう難しさ』はすごく感じました。参加者に調整してもらえる“働く”に対し、暮らしをどんな構成で組み込むかは今後の課題だと感じています」。

そして、地域の第一線で関係人口づくりや移住促進のためのコミュニケーションを生み出していくキーパーソン=地域での関係案内人との協力体制について、県ではどのように捉えているのでしょう。

西尾さん「尾鷲市には豊田さんほか地域活動をされている方が多くおられます。そのみなさんと市役所、市内7集落の地域おこし協力隊が連携することが重要です。その上で、自治体で完結せず、自治体の枠を越えて近隣、広域へとつながり広げつつ助け合える仕組みをつくっていきたいです」。

堀内さん「キーパーソンは増やそうとして増やせるわけではないし、その方の性格や接し方に依る部分も多いので、行政が頼るのはある種の賭けでもあります。それだけに、今の下北山村に仲さんや田中さんのような存在がいることを大事にして、小さくても濃いコミュニティを全国各地に増やせるよう仲良くやっていけたらと思います」。

野見さん「和歌山県では日頃からアンテナを掲げ地域のキーパーソンの情報を収集し、これらのキーパーソンの方々に移住希望者との交流イベントに参加してもらっています。この情報収集にあたっては、県内各市町村の窓口で移住希望者への相談対応を行なっているワンストップパーソンと連携して取り組んでいます」。

名取「『仲良くやっている』、『連携が取れている』というみなさんの言葉が状況を物語っている気がします。県や自治体や団体が一丸となっていないと、この状況はつくり出せないと思うんです。それができているからこそ、本質的な部分にまで踏み込んだ質の高い取り組みになり、今回でいうと参加者、関係人口への伝わり方も変わります。官民連携も同じですよね。もし今何らかの課題があったとしても、前向きに一緒に取り組んでいる、いい連携をつくろうとしている、そうした熱意は伝わると思います」。

kii_kayavliving

 

後半では、関係人口に対する各県の考え方とともに「地域づくりのコンセンサスが取れている地域はキーパーソン=関係案内人の動きも含めて外から見ても魅力的」、「自治体や県を問わず担当者の配慮がある地域はプロジェクトを進めやすい」など実感のこもったさまざまな意見が聞かれました。

「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」のような関係人口づくりは、個人や地域、県など地域全体の連携が不可欠な上、地域での関係案内人と、地域へと都市部の人との間のつなぎ手となる存在が重要です。今回の振り返りが、関係人口づくりにおける質の高い活動と効果を生むヒントとなれば幸いです。

※この記事は、三重県、奈良県、和歌山県のご協力により制作しています。

文 木村 早苗

Enter HTML Code

smout